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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
大陸東部・無法地帯・再来編

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第89話 砂漠の暴君と、サボテン・ステーキ

 東の大陸・無法地帯に広がる果てしない砂の海。

 太陽が容赦なく照りつけ、陽炎が景色を歪ませている。


「暑い。本当に暑いわ。私のHPが1秒ごとに削られていく気がするんだけど」


「大げさな。温度管理の魔法をかけたマントを羽織っているだろう。文句を言うと余計に喉が渇くぞ」


「気分的な問題よ。見渡す限り砂と岩ばっかりで、緑が全くないじゃない。目に優しくないわ。ドライアイになっちゃう」


「緑ならあるぞ。前方、2時の方向を見てみろ」


「え? どこ? あ、本当だ! サボテンが生えてる。しかも結構大きいわね」


 砂丘の頂上付近に緑色の巨大な柱が数本そびえ立っていた。


「あんな大きなサボテン、初めて見たわ。中に水が溜まってるんでしょ。喉も渇いたし、ちょっと切り倒して水分補給しましょうよ」


「待て、ミオ。あれはただの植物じゃない。魔力反応がある」


 ナオトがゴーグルを装着し、解析を開始する。


「対象はサウザンド・ニードル。砂漠に生息する擬態型の肉食魔獣だ。迂闊に近づくと蜂の巣にされるぞ」


「肉食のサボテンか。趣味が悪いわね。でも、植物系の魔物なら火に弱いはずよね」


「あいにく、こいつは砂漠の熱と乾燥に耐えるため、表面が耐熱性の分厚い繊維で覆われている。中途半端な火炎魔法じゃ焦げ目をつけるのがやっとだ」


「面倒な仕様ね。じゃあ、私が直接叩き切るしかないわね」


 ミオが背中の大剣に手を伸ばす。


「気をつけて行けよ。奴の攻撃パターンは名前の通り、全身からの針の乱射だ。範囲攻撃だから、回避判定に失敗すると痛い目を見るぞ」


「分かってるわ。当たらなければどうということはないのよ」


 ミオが砂を蹴って駆け出す。

 その足音に反応し、巨大なサボテンがズズンと根を抜き、ゆっくりと動き始めた。


「キキキキキッ」


 サウザンド・ニードルの表面に生えた無数の針が、一斉にミオの方を向く。


「来るわね。針千本ってところかしら」


「千本どころじゃないぞ。全方位射撃だ。防御を固めろ」


 バシュバシュバシュッ。


 サボテンの体から、太さ数センチの鋭い針が雨あられと射出された。

 空気を切り裂く音が砂漠に響き渡る。


「甘いわね。弾幕が薄いわよ」


 ミオが大剣を盾のように構え、最小限の動きで針を弾き落としていく。

 ガキン、カキンという金属音が連続して鳴り響く。


「いい動きだ。無駄がない。以前より回避の精度が上がっているな」


「自分でも驚いてるわ。体がすごく軽く感じるの。この大剣も、前は少し重さを感じてたのに、今は木の枝みたいに振り回せるわ」


「レベルが上がった証拠だな。基礎ステータスが底上げされて、武器の重量ペナルティを完全に克服している。今なら、どんな重装備でもペナルティなしで扱えるはずだ」


「最高じゃない! さあ! 一気に懐に潜り込むわよ!」


 ミオがさらに加速する。

 針の雨をすり抜け、サウザンド・ニードルの足元へと肉薄した。


「キシャァァァッ」


 魔獣が太い腕のような枝を振り下ろしてくる。


「そんな大振り、当たるわけないでしょ! だまって切られなさい!」


 ミオが踏み込み、大剣を横薙ぎに一閃する。

 青白い軌跡が走り、巨大なサボテンの胴体を捉えた。


 ズバァッ。


 抵抗らしい抵抗もなく、サウザンド・ニードルの巨体が上下に分断された。

 ドスゥンという重い音を立てて、上半身が砂の上に崩れ落ちる。


「ふぅ。あっけないわね。手応えがなさすぎて拍子抜けしちゃったわ」


 ミオが大剣を肩に担ぎ、息一つ乱さずに振り返る。


「見事な一撃だ。オーバーキル気味だな。お前の筋力値なら、手加減しても十分倒せるぞ」


「力加減の練習も必要ね。で、ナオト。このサボテン、何かに使えるの?」


 ナオトがサボテンの断面に近づき、ナイフで表面を少し削り取る。


「針は矢の素材になるな。だが、本命はこっちだ」


 ナオトが切り出したのは、サボテンの内部にある肉厚な果肉だった。

 瑞々しく、薄い緑色をした半透明の果肉が太陽の光を透かして輝いている。


「わぁ、綺麗。アロエみたいね。これ、食べられるの?」


「毒の判定を行う。少し待て」


 ナオトがポーチから試薬を取り出し、果肉に数滴垂らす。色の変化はない。


「毒性はなしだ。むしろ、水分とミネラルが豊富に含まれている。砂漠のオアシスと呼ばれるだけあって、最高の水分補給源になるぞ」


「やった。喉が渇いて死にそうだったのよ。ちょっと食べてみていい?」


「ああ。そのまま生でいけるはずだ」


 ミオがナイフで果肉を一口大に切り取り、口に放り込む。


「んんっ。冷たくて美味しい。甘さ控えめのメロンみたいな味がするわ。それに、水分がたっぷりで喉が潤う」


「砂漠の過酷な環境で生き抜くために内部に極上の養分を蓄えているんだろう。天然のフルーツゼリーといったところだな」


「美味しいけど、こればっかりじゃお腹いっぱいにならないわね。私、お肉が食べたいな」


「贅沢な悩みだな。だが、お前のその食欲を満たす方法もあるぞ」


「本当? どうするの?」


「このサボテンの果肉は火を通すと性質が変わるそうだ。まるで肉のような食感になるらしい」


「サボテンがお肉になるの? 嘘でしょ。そんな都合のいい話があるわけないじゃない」


「俺の錬金スキルを甘く見るなよ。調理開始だ」


 ナオトが足元の影を開く。

 そこから取り出したのは平らな鉄板と携帯用の魔導コンロだった。


「鉄板焼きね! テンション上がってきたわ!」


「そして、味の決め手はこれだ」


 ナオトが影から取り出したのはドワーフの村で仕入れておいた特製の調味料セットだった。

 醤油の入った瓶と、黄色い塊。


「バターと醤油! 鉄板焼きの最強コンボじゃない!」


「ああ。この匂いだけでご飯が三杯は食える。さあ、焼くぞ」


 ナオトが魔導コンロに火を入れ、鉄板を熱する。

 そこにサボテンの分厚い果肉を乗せた。


 ジューッ。


 食欲をそそる音が砂漠に響く。

 果肉の表面が焼けるにつれて、透明だった緑色が次第にきつね色へと変わっていく。


「うわ、本当にお肉みたいになってきた。ステーキの匂いがするわ。植物なのに不思議ね」


「植物性タンパク質が熱で凝固して、肉に近い繊維質になるんだ。そこにバターを落とす」


 ナオトが鉄板の上にバターの塊を乗せる。

 熱で溶けたバターが果肉に染み込み、香ばしい香りが爆発的に広がる。


「たまらないわね。早く、早く醤油をかけて!」


「焦るな。仕上げのタイミングが肝心だ。よし、今だ」


 ナオトが醤油をサッと回しかける。


 ジュワァァァァッ。


 焦げた醤油とバターの香りが、砂漠の熱風に乗って広がっていく。


「完成だ。サウザンド・ニードルの果肉ステーキ、バター醤油仕立て」


「いただきます!」


 ミオが待ちきれない様子で、切り分けた果肉ステーキをフォークで刺して口に運ぶ。


「熱っ、はふっ。んんんっ」


 ミオが目を丸くして、口元を押さえる。


「どうだ? 味は?」


「これ、本当にお肉よ。外はカリッとしてるのに、噛むと中からジューシーな肉汁、じゃなくて果汁が溢れてくるわ。エリンギと鶏肉を足して二で割ったような、すごい弾力。そこにバター醤油のコクが絡んで、もう最高!」


「俺もいただこう」


 ナオトも一切れ口に入れる。

 確かに植物とは思えないほどのしっかりとした噛みごたえと深い旨味がある。


「美味いな。肉の代用品としては百点満点だ。しかも胃に優しい。これならいくらでも食べられそうだ。前回の脂ギッシュな魔獣と違って、お腹を下す心配もないだろうな」


「ちょっとナオト、食事中にその話を蒸し返さないでよ。あの時のあんた、本当に情けなかったんだから」


「悪かった。俺にとっても思い出したくないトラウマだ」


「きゅぅ」


 影の中からクロが顔を出し、鉄板の上のステーキをじっと見つめている。

 戦闘中は安全な影の中で寝ていたくせに、食べ物の匂いには敏感だ。


「あら、クロも食べるの? ほら、熱いから気をつけてね」


 ミオが小さく切ったステーキをクロの口に運ぶ。

 クロは嬉しそうにパクリと飲み込み、尻尾をパタパタと振った。


「きゅっきゅっ」


「クロも絶賛ね。ナオト、これ残りのサボテンも全部持って帰りましょうよ。影の倉庫(シャドウ・ポケット)なら鮮度も落ちないんでしょ」


「ああ。味もいいし、水分の補給にもなるし、一石二鳥だ。見つけたら手当たり次第に狩っていくか」


 二人は巨大なサボテンを解体し、使えそうな部分を次々と影の倉庫(シャドウ・ポケット)へと収納していった。

 砂漠という過酷な環境であっても、今の彼らにとっては巨大な食材庫に過ぎない。


「ふぅ、お腹いっぱい。大満足だわ」


 ミオがぽんぽんと、お腹を叩く。


「金は使えない無法地帯だが、自給自足のサバイバルとしてはかなり優雅な生活ができているな。これも影の倉庫(シャドウ・ポケット)と、お前のおかげだ」


「ふふん、もっと褒めていいわよ。さて、お腹も膨れたし、次の目的地へ向かいましょうよ」


「地図によれば、この先に古代の地下遺跡があるはずだ。何か有用なアーティファクトが見つかるといいんだがな」


「美味しいお宝なら大歓迎よ。行こう、ナオト」


 満腹になった二人は熱波の吹く砂漠を再び歩き始めた。

 その足取りは軽く、過酷な旅の悲壮感は微塵も感じられない。

 レベルアップによる力と、無限の収納空間。

 彼らの冒険は余裕と食欲に満ちたピクニックへと変わりつつあった。

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