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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
大陸西部・黄昏の尖塔編

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第51話 ミオの剛剣と、真のファンタジー装備

 カンッ、カンッ、カンッ。


「暑苦しいわね」


「武器屋だからな。炉の熱気と男の汗の匂い、そして鉄の焼ける匂い。これぞファンタジーの醍醐味だ」


「ナオト、あんた絶対楽しんでるでしょ」


「当然だ。男の子ってのはな、武器屋の壁にずらりと並んだ剣を見るだけでテンションが上がる生き物なんだよ。分かるか? このワクワク感が」


 ナオトとミオはポルト・ロッサの大通りから一本入った路地にある武具店、鉄の髭亭に来ていた。

 入り口にはドワーフ謹製の看板。

 中に入ると、所狭しと並べられた剣、槍、斧、そして鎧の数々が炉の火に照らされて鈍く光っている。


「いらっしゃい! 冷やかしなら火傷する前に帰んな!」


 カウンターの奥から樽のような体格の男が出てきた。

 長い髭、筋肉質の腕、そして煤けたエプロン。教科書通りのドワーフだ。


(うわ、本物のドワーフだ。TRPGの立ち絵そのままだな)


「おじさん、武器を見せて! 私に合うやつ!」


「ほう? 嬢ちゃんがか? ここは男の戦場だぜ。料理に使う包丁なら隣の雑貨屋に行きな」


「失礼ね! 魔物(モンスター)をぶった斬るための剣よ! 普通のロングソードじゃ、私の筋力に耐えられなくてすぐ折れちゃうの」


「ふん。口だけは一人前だな。なら、そこのクレイモアでも持ってみろ。一般兵が両手でやっと持ち上がる重さだ」


 店主が顎でしゃくった先には全長1.2メートルほどの両手剣が立てかけられていた。


「これ?」


 ヒョイッ。


 ミオが片手で、まるで小枝のように剣を持ち上げた。


「は?」


 店主が目を剥く。


「軽い。軽すぎるわ。重心も悪いし、これじゃ本気で振ったら刀身が曲がっちゃう」


 ブンッ!


 ミオが軽く手首を返すと、空気を切り裂く鋭い音が鳴った。剣身が風圧でしなっている。


「お、おい! 店の中で振り回すんじゃねえ! つーか、片手で軽々と……嬢ちゃん、何者だ?」


「ただの冒険者よ。ねえ、もっとマシなのはないの? 切れ味とかどうでもいいから、とにかく頑丈で重いやつ!」


(ミオのステータス、今回は敏捷性特化にしたはずだが、元々の筋力値も引き継いでるのか? ゴリラだな)


「ナオト、今失礼なこと考えたでしょ」


「まさか。頼もしいと思っただけだ。店主、彼女の言う通りだ。普通の鋼鉄の剣じゃ、彼女の膂力(りょりょく)には耐えられない。もっと密度が高くて、無茶な使い方をしても壊れない代物はないか?」


「密度、か」


 店主は髭を撫でながら、ミオを値踏みするように見た。


「金はあるのか? 変わり種は高いぞ」


「海賊から巻き上げ……いや、譲り受けた資金がある。金貨15枚までなら出せる」


「15枚か。悪くねえ。ちょっと待ってな。奥の倉庫からアレを出してきてやる」


 店主が奥へ引っ込み、しばらくすると、ズルズルと何かを引きずる音が聞こえてきた。金属が床を削る、重々しい音だ。


 ズズズ……ガコンッ!!


 店主がカウンターに置いたのは、剣というよりは、黒い鉄塊だった。


黒鉄(くろがね)の棒……いや、一応剣として作った失敗作だ」


「なにこれ。黒い」


 全長はちょうど1メートルほど。しかし、異常なのはその厚みだ。刃渡りの幅が広く、厚みも数センチはある。そして何より――。


「刃がないわね」


「ああ。素材に使った黒鉄鉱の純度が高すぎてな。硬すぎて、砥石が負けちまうんだ。いくら研いでも刃がつかねえ」


(モース硬度が高すぎるのか。加工不可の超硬度金属)


「重さは20キロってとこだ。普通の剣が1.5キロだから、その10倍以上ある。剣としてのバランスは最悪だ。切ることもできねえ、ただの鈍器だ」


「20キロ。米袋ふたつ分ね」


 ミオがその黒い鉄塊に手を伸ばす。

 柄の部分だけは革が巻かれており、辛うじて握れるようになっている。


「んッ!」


 ガシッ。

 

 ミオが片手で掴み、持ち上げる。


「おぉ」


 ズシッとした重量感。中身が詰まっている感覚。しかし、決して振り回せない重さではない。


「いい。すごくいい!」


 ミオの目が輝いた。


「この詰まってる感! これなら、ドラゴンの鱗だろうが、ゴーレムの岩肌だろうが、遠慮なく叩けるわ!」


「嬢ちゃん、それを片手で? 信じられん」


 ブンッ!!


 ミオが横薙ぎに振るう。空気を切る音ではない。空気を押し潰すような重低音が響く。


 ゴォォォォォッ!!


「凄い風圧だ」


「ねえナオト! これにする! 長さも1メートルくらいだし、これなら背負っても邪魔にならないし、狭い洞窟でも振り回せる!」


(なるほどな。20キロの鉄塊を高速で振り回せば、運動エネルギーは桁違いだ。切れ味なんて関係ない。当たれば骨ごと粉砕だ)


「気に入ったか? だが、そいつは斬れねえぞ?」


「いいのよ。私の剣技(スキル)とスピードがあれば、切断じゃなくて破砕で倒せるから!」


「豪快なこった。持ってけ。金貨8枚でいい。店の隅で埃をかぶってるより、あんたに使われた方がこいつも本望だろうよ」


「ありがとうおじさん! 大事にするわ! 名前は剛剣・ギガントにする!」


(ネーミングセンスは相変わらず中二病だな。だが、巨大(ギガント)というよりは(マス)って感じだが)」


「よし、武器は決まった。次は防具だ」


 ◇ ◇ ◇


 店の奥、防具コーナー。

 そこには革鎧からプレートメイルまで、様々な防具が並んでいた。


「ナオト、どうする? やっぱりフルプレート?」


「却下だ。20キロの剣を振り回すんだ。これ以上重いものを着たら、お前の最大の武器であるスピードが死ぬ。それに、この西大陸の暑さじゃ蒸し焼きになって熱中症でダウンだ」


「じゃあ、革鎧? 軽くて動きやすいけど」


「普通すぎる。防御力と機動力を両立させ、かつファンタジー世界の法則を最大限に利用した最強の装備。それは、これだ」


 ナオトが棚から取り出したのは面積の極端に少ない金属製の防具だった。

 胸部を覆うプレートと腰回りを守るアーマー。

 そして、手足を守るガントレットとグリーブ。

 繋ぎ目は鎖帷子(チェインメイル)ですらなく、革紐だけ。いわゆる――。


「ビキニアーマー?」


「そうだ」


「ナオト。真面目にやってる?」


 ミオがジト目で見る。ゴミを見るような目だ。


「大真面目だ。いいかミオ、よく聞け。ファンタジーRPGにおいて、高レベルの女戦士装備はどうなっている?」


「露出度が高い」


「正解だ。なぜだと思う?」


「製作者の趣味?」


「違う! 断じて違う! 魔力効率だ!」


 ナオトが力説する。まるでプレゼンをするSEのように熱弁を振るう。


「全身を金属で覆うと、体から発せられる気や魔力の流れが阻害される。だが肌を露出することで、大気中のマナを直接取り込み、皮膚の表面に見えない魔力装甲(マナ・スキン)を展開できるんだ!」


「ホントに? 聞いたことないけど」


(適当な理屈だが、この世界の法則ならあながち嘘じゃないはずだ。なにより、俺が見たい)


「それに、今回のステータス配分で回避と運を上げただろ? 当たらない前提なら、装甲は急所だけでいい。むしろ、軽さが命だ」


「なるほど。一理あるわね」


「さらに、俺の錬金術で、この肌の露出部分に硬化オイルを塗れば、防御力は鉄板並みになる。つまり、最強だ」


「へぇ。じゃあ、防御力と可愛さを両立できるってこと?」


「その通りだ。これを着こなせるのは、スタイルと実力を兼ね備えた一流の戦士だけだぞ? あのドワーフのオヤジを見返してやれ」


「ふふっ。ナオトったら、乗せ上手なんだから」


 ミオがニヤリと笑い、ビキニアーマーを受け取った。


「いいわ。着てあげる。その代わり、似合わなかったら承知しないからね!」


 ◇ ◇ ◇


 数分後。試着室のカーテンが開いた。


 シャッ!


「どう?」


(……ッ!!)


 ナオトは思わず息を呑んだ。

 そこには、戦いの女神(ヴァルキリー)が立っていた。


 銀色に輝くミスリル製のビキニアーマー。

 日差しに焼けた健康的な肌とのコントラストが眩しい。

 引き締まった腹筋、しなやかな手足、そして健康的な太もも。

 そして何より、背中に背負った無骨な黒い鉄塊『剛剣・ギガント』。


 露出度の高い華奢な体と凶悪な鈍器。

 そのアンバランスさが、逆に彼女の底知れぬ強さを演出していた。


「完璧だ」


「なんか、スースーするけど。動きやすいわね、これ」


 ミオが軽くジャンプしたり、シャドーボクシングの動作をする。金属音がチャリチャリと鳴り、肌が汗で輝く。


「物理防御は最低限だが、精神へのダメージは絶大だ。男なら目のやり場に困って隙だらけになる」


「あはは! 魅了(チャーム)スキル付きってことね!」


 店主のドワーフも、パイプを落として呆然としていた。


「たまげたな。あの鉄の棒を背負って、踊るように動きやがる。こりゃあ、伝説の女戦士(アマゾネス)の再来か?」


「店主、これも買う。残りの金貨で足りるか?」


「持ってけドロボウ! いいモン見せてもらった代金だ! 残りの金でメンテ用の油でも買っていきな!」


 ◇ ◇ ◇


 装備を整えた二人は店の外に出た。

 西日が差し込み、ミオの新しい鎧と背中の剛剣を照らす。


「ふふっ。なんか、やっと始まったって感じがするわね」


「ああ。前回のハイテク装備も良かったが、やっぱりファンタジーには剣と魔法が似合う」


 ナオト自身も、錬金術師のローブ (多機能ポケット付き)と強化ゴーグル (アナログレンズ)を購入していた。

 二人の姿はどこからどう見ても熟練の冒険者パーティーだ。


「さて、装備は整った。次は情報のあった『黄昏の尖塔トワイライト・スパイア』へ向かうぞ」


「了解! でもその前に」


「なんだ?」


「お腹空いた。さっきの海鮮丼、消化しちゃった」


「お前、あの20キロの鉄塊振り回したからな。燃費が悪すぎる」


「へへっ! 美味しいもの食べて、精力つけなきゃ!」


「しょうがないな。市場で干し肉と果物を買い込んで、そのまま出発だ。今日は野宿になるぞ」


「望むところよ! 星空の下でキャンプ! TRPGっぽくて最高!」


 ジャリッ。


 ミオが背中の剛剣を揺らしながら歩き出す。

 20キロの重量をものともせず、足取りは軽い。

 死の恐怖を乗り越え、最強の装備を手に入れた彼女の背中は頼もしく、そして美しかった。


(さて。俺も負けてられないな。移動中にポーション作成のレシピを頭に叩き込んでおくか)


 ナオトはローブのポケットから、羊皮紙のメモを取り出した。

 剣と魔法。力と知恵。 最強の布陣で挑む、二度目の冒険譚。


「行くぞ、ミオ! 日が暮れる前に街を出る!」


「オーケー! 待ってなさい、伝説の魔導書!」


 二人の影が長く伸び、西の荒野へと続いていく。

 その先には数々の試練と、世界を救うための鍵が待っているはずだ。

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