表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
魔導連邦ゼルト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/65

第47話 都市機能の掌握と、ハッキング・ライブ

「よし。物理ロック解除。侵入成功だ」


 ガチャリ。


 重厚な扉が開く音と共にナオトとミオは学園の最上階にある中央放送室へと足を踏み入れた。


「ここが放送室? なんか地味ね。もっとこう、モニターが壁一面にあって、オペレーターが『ああっ! 第三防衛ライン突破されました!』とか叫んでる場所かと思ったのに」


「それは司令室だ。ここはあくまで通信の中枢。だが、機材は超一流だ。俺のマンションのサーバーとは桁が違う処理能力を持ってる」


「ふーん。で? こいつはどうするの?」


 ドサッ。


 ミオが肩に担いでいた荷物を床に放り投げた。

 猿ぐつわを噛まされ、亀甲縛りにされた生徒会長、カイザーだ。


「うぅ! むぐっ!」


「おっと、主役のお目覚めね。おはよう、元・生徒会長様。今日の気分はどう?」


「ぷはっ! き、貴様ら! ここをどこだと思っている! 神聖なる放送室だぞ! 即刻私を解放しろ!」


「静かにしろ。まだリハーサル中だ。お前の出番はもうちょっと後だよ」


 ナオトはカイザーを無視し、メインコンソールに自分の端末を接続した。

 

 カタカタカタッ……ッターン! 軽快なタイピング音が響く。


「システム侵入。管理者権限、バイパス確立。全校生徒の端末、および街頭ビジョンへの割り込み準備完了だ」


「ねえナオト。準備してる間に、ちょっと気になったことがあるんだけど」


「なんだ。手短にな」


「ドルグの街のこと覚えてる? あそこじゃ、人間を生体炉にくべて燃料にしてたわよね?」


「ああ。人間を文字通りの薪にする、最悪のエネルギー効率だったな。思い出したくもない」


「で、このネクサス。ここではスコアシステムを使って、人間から少しずつ魔力を搾り取って電池にしてる」


「そうだな。やり方はスマートだが、人間をリソースとして消費している本質は変わらん」


「似すぎてるのよ。手口が」


 ミオが腕組みをして、眉をひそめた。


「人間を資源とか家畜としか見てないこの感じ。同じ匂いがするのよ。人間が考えたシステムにしちゃ、悪趣味すぎるっていうか……底意地が悪いっていうか」


「……!」


「ドルグも、ここ(ゼルト)も。裏で糸引いてる奴、同じじゃない? たとえば、魔族とか」


 ナオトの手が止まった。ゴーグルの奥の瞳が鋭く光る。


「あり得るな。人間同士の戦争や搾取にしては、構造が家畜管理に寄りすぎている。人間をただのMPタンクとして飼育している上位存在がいるとしたら……」


「でしょ? 私の野生の勘がそう告げてるの」


「確かに、その線は濃厚だ。だとすれば、俺たちが喧嘩を売ってる相手は、ただの都市国家じゃないかもしれん」


「ふふっ。なら、尚更燃えるわね! 魔王退治なんて、冒険者の最終目標じゃない!」


「前向きで助かるよ。だが、まずは目の前の小悪党から片付けないとな」


「ひぃッ!? な、何をする気だ! 私を殺す気か!?」


「殺しはしない。社会的に死んでもらうだけだ。おいミオ、カメラ回せ。オンエア、5秒前」


「了解! 3、2、1、キュー!」


 ◇ ◇ ◇


 キィィィィィン!!


 ネクサス全土のモニター、そして生徒たちの持つスマホが一斉にジャックされ、ハウリング音が響き渡った。


「うわっ!? なんだ!?」

「スクリーンを見ろ! 誰だあれ!」

「仮面!? テロリスト!?」


 学園のメインステージに集まっていた数千人の生徒たちが、巨大モニターに映し出された映像にざわめく。

 そこには道化師の仮面をつけたナオトとミオの姿があった。


『あー、テステス。マイクチェック、ワンツー。聞こえてるか? ネクサスの愚民ども』


「ちょっと、挨拶が悪いわよ。親愛なる家畜の皆様でしょ?」


『訂正しよう。ようこそ。俺たちはFランクの亡霊だ。今日はこの素晴らしい学園祭に、ちょっとしたスパイスを投下しに来た』


「「「キャアアアアッ!?」」」


「なんなのあれ! 生徒会は何してるの!?」


『騒ぐな。さて、皆大好き生徒会長、カイザー君から大事なお知らせがあるそうだ。どうぞ』


 画面が切り替わり、縛られて情けない姿を晒すカイザーが映し出される。


「「「会長!?」」」


「嘘でしょ、あのカイザー様が!」

「縛られてる!? SMプレイ!?」


『言え。さっき練習した通りにな』


「ひぃっ! ぼ、僕は……僕は、皆さんを騙していました!」


「「「ええーっ!?」」」


「この都市のスコアシステムは……市民の能力を評価するためのものではありません! 皆さんの体から、魔力を効率よく吸い取るための……集金システムなんです!」


 シーン……。


 会場が静まり返る。あまりの内容に理解が追いつかないのだ。


『信じられないか? なら、証拠を見せよう』


 パッ。


 ナオトが指を鳴らすと、画面に複雑なグラフと、地下の魔力回収プラントの映像が表示された。


『これは都市のエネルギーフローだ。お前たちがIDカードを使うたび、改札を通るたび、微量の魔力が吸い上げられている。そして、それが地下のタンクに蓄積され、一部の特権階級と……都市管理AIの動力になっている』


「見て、この数値。市民一人あたり、毎日MPの10%を徴収。完全に税金ね」


『スコアが高い奴ほど、より多くの魔力を持っていかれる。お前たちは優秀なんじゃない。美味しい餌なんだよ』


 ザワッ!  動揺が広がる。


「嘘だ! 俺たちが餌だって!?」

「最近、疲れが取れないのはそのせいか!?」

「ふざけるな! 俺の魔力返せ!」


『そうだ、もっと怒れ! だが、本当の地獄はここからだ』


 ナオトが操作を続ける。


『このシステムを維持するために成績の悪い生徒や、反抗的な市民がどうなったか知っているか? 廃棄処分だ』


 バッ。


 行方不明者のリストと、彼らが地下で生体部品にされている映像が流れる。

 その中には先日いなくなった友人の顔もあった。


「「「イヤアアアアアッ!!」」」


「あれ、先週いなくなったボブじゃない!?」

「嘘だ……嘘だと言ってくれ!」

「これが……楽園の正体……!」


『これがお前らの住む楽園の真実だ。さあ、どうする? まだ飼われたままでいるか?』


 ◇ ◇ ◇


「いい反応だ。パニックレベル、70%突破。群衆心理は火が付きやすいな」


「ねえ。なんか、ヤバくない?」


「何がだ」


「空気が……変わったの。モニターの数字、見て」


 ピピッ。  システムログが赤く点滅し始めた。


『警告。都市管理システム・マザー・ネクサス……覚醒モードへ移行。脅威レベル:SS認定。排除プロトコル、起動』


「来たか。ラスボス」


 ズズズズズ!  放送室全体が大きく揺れる。


『警告。不正アクセスを確認。直ちに放送を中止し、投降せよ』


 無機質な女性の声。感情の一切ない機械音声がスピーカーから響き渡る。


「出たわね、AIババア! 姿を見せなさいよ!」


『私は都市そのもの。貴様らのようなバグを排除する免疫機能なり』


 シュィィィン!  放送室のモニターが全て赤く染まる。


『対象:ナオト・クロサワ、ミオ・アカギ。排除開始』


 ガガガガッ!


 廊下から無数の金属音が近づいてくる。警備ドローンの大群だ。


「速いな。論理対話の余地なしか。実力行使がお好きらしい」


「わっ! 外! 警備ドローンが山ほど来たわよ! 空からも!」


「想定内だ。入り口を死守しろ。俺はこのマザーとダンスを踊らなきゃならん」


「OK! スクラップの山を築いてやるわ!」


 ブォンッ!  ミオが魔剣を抜き放ち、入り口に立ちはだかる。


「さて、ここからが本番だ。端末接続。ダイレクト・ハック」


 ナオトは再びキーボードを叩き始めた。


「マザー・ネクサス。お前の論理回路、焼き切ってやる」


『無駄です。私の演算能力はお前の1億倍。ファイアウォール、展開』


 バチッ! バチバチッ!  ナオトの端末から火花が散る。


「ぐっ……重い! データ量が桁違いだ! まるで海にスプーンで対抗してる気分だ!」


『アクセス拒否。逆探知開始。脳を焼き切ります』


「痛っ! 脳に直接ノイズが! ニューロン・ハックか! えげつない!」


「ナオト! 大丈夫!?」


 ドガァァァン!!


 ミオがドアを蹴り破って侵入してきたドローンを粉砕しながら叫ぶ。


「問題ない! お前は前を見ろ! 俺一人じゃ無理か。相手は都市規模のAI。なら、味方を増やすまでだ!」


「味方!? どこにいるのよ!」


「マザー。お前は一つ忘れてるぞ」


『何をですか』


「お前が管理してる市民たちの感情だ。今、こいつらは怒ってる。その怒りのエネルギー、利用させてもらう!」


 ターンッ!


「放送回線、逆流! 市民のIDチップのリンクを強制解放!」


『な、何を!? システム負荷、増大! 処理落ち!?』


 ナオトがマイクに向かって叫ぶ。


「皆、聞け! 今すぐお前らの端末を操作しろ! IDチップを破壊してもいい! 拒絶の意思を示せ! そうすればこいつは弱体化する!」


『やめろ! やめなさい! 私の魔力供給が!』


 外の広場から怒号が聞こえてきた。


「ふざけんな! 俺の魔力は俺のもんだ!」

「こんなチップ、捨ててやる!」

「AIに従うな! 暴動だ!」


 バキッ! ガシャッ!


 数千人の市民が一斉にシステムへの接続を拒否し始める。


『エラー。エラー。魔力供給率、低下。40%……30%……』


「いいぞ。民衆によるDDoS攻撃だ。これなら勝てる!」


 ナオトの端末のゲージが赤から青へと変わる。


「ミオ! 今だ! マザーのメインサーバー、場所を特定した!」


「どこ!?」


「この放送室の真下! 床ごとぶち抜けば、コアがお目見えだ!」


「了解! そういうの大好き!」


 ミオが剣を逆手に持ち、床に向かって構える。全身の魔力が一点に集中していく。


『や、やめろ! 私は……この都市の神!』


「神? 笑わせるな」


 ミオがニヤリと笑った。


「あんたはただの集金箱よ! さようなら!」


「必殺・ギガ・ブレイク・インパクトォォォッ!!」


 ズドンッ!!!!


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 床が崩落し、まばゆい光と共に地下深くまで貫く衝撃波が走る。


『ギャアアアアアア……システム……ダウン……』


 プスン。


 全てのモニターがブラックアウトした。

 警備ドローンの動作が停止し、ガシャーンと落下する音が響く。


 ……。  …………。


「やった?」


「ああ。反応消失。マザー・ネクサス、沈黙」


 ナオトが端末を閉じ、ふぅと息を吐いた。額にはびっしりと汗が浮かんでいる。


「危なかった。あと数秒遅れてたら、こっちの脳が焼き切れてたな」


「ねえナオト。見て、外」


 窓の外。

 メインステージのモニターには『SYSTEM OFFLINE』の文字。

 そして、静寂の後――。


「うおおおおおおっ!!」

「やったぞ! システムが死んだ!」

「自由だ! 俺たちは自由だ!」


 割れんばかりの歓声。それは支配からの解放を喜ぶ、生の感情の爆発だった。


「ふふっ。いい景色ね」


「ああ。だが、これからが大変だぞ。管理者を失った都市は無法地帯(ヒャッハー)になる」


「いいじゃない。退屈しなくて済みそう」


 二人は崩れ落ちた床の縁に腰掛け、混乱と歓喜に沸く都市を見下ろした。


「さて。次の問題は」


「ミオの言っていた魔族の件か」


「もしマザーが魔族の手先だったとしたら、これで黙ってるわけがないわよね」


 その時だった。


 ゾクッ。


 二人の背筋に冷たいものが走った。


「ナオト。なんか寒気がしない?」


「奇遇だな。俺もだ」


 空が変わる。

 晴天だった空に突如として黒い亀裂が走り始めた。

 まるで、世界の天井が割れるように。

 そして、その裂け目から、どす黒い瘴気が溢れ出してくる。


「なんだ? 空間転移? いや、次元の裂け目?」


『警告。上空に超高密度の魔力反応。測定不能。測定不能』


 ナオトのゴーグルが壊れたように警告音を鳴らし続ける。


「おいおい。ラスボス倒した直後に隠しボス登場かよ」


「来たわね。本命が」


 黒い亀裂から巨大な手が伸びてきた。都市を握り潰せるほどの漆黒の手が。


『我が牧場を荒らす害虫は……貴様らか』


 空から降ってくる声。

 それは鼓膜ではなく、魂を震わせる絶望の響きだった。

 これまでの敵とは次元が違う。生物としての格が違う。


「レベルが違う。マザー・ネクサスがおもちゃに見えるレベルだ」


「ナオト……。逃げる?」


「逃げられると思うか?」


「無理ね。完全にロックオンされてる」


「なら、やるしかないな」


 ナオトは震える手で空のカートリッジを交換した。

 ミオは剣を構え直し、ニヤリと笑った。

 その笑顔は恐怖を超えた先にある、狂気じみた戦意だった。


「さあ、ラウンド2よ! 相手にとって不足なし!」


 ネクサス上空。真の支配者がその姿を現そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ