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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
第4章 魔導連邦ゼルト編

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第42話 学園のヒエラルキーと、貴族の洗礼

 キキーッ!


 王立魔導学園の正門前広場に最新鋭の魔導エアバイクが滑り込んだ。

 流線型のボディが朝日を反射し、周囲の視線を独り占めにする。


「到着。所要時間5分。快適な通学ね」


 後部座席から降りたミオが、さらりと髪をかき上げた。

 黒と赤のカスタム制服、絶対領域を強調するニーソックス、そして背中に背負った大剣 (変形状態)。どこからどう見ても、カタギの学生ではない。


「目立ちすぎだ。まあ、隠密行動をするつもりはないがな」


 運転席のナオトも、多機能ゴーグルを調整しながら降り立つ。

 周囲の生徒たちが遠巻きにヒソヒソと囁き合っているのが聞こえる。


「見ろよ、あれが噂の編入生か?」

「特待生枠で入った成金だってさ」

「ふん、所詮は平民だろ? 品がないな」


 ナオトのゴーグルに周囲の生徒たちの頭上に浮かぶ数値が表示された。


『市民ランク:B 資産:並 家柄:下級貴族』

『市民ランク:A 資産:多 家柄:伯爵家』


(……なるほど。AR (拡張現実)で相手のスペックが丸見えか。嫌な世の中だな)


「行くわよナオト! まずはクラスで一番偉い奴を〆るんでしょ?」


「ヤンキー漫画じゃないんだぞ。まずは挨拶だ」


 ◇ ◇ ◇


 1年Aクラス。

 そこは選ばれしエリートだけが集う特進クラスだった。

 教室に入った瞬間、空気が変わった。

 生徒たちの視線には好奇心よりも明確な敵意と蔑みが含まれている。


「席はあそこか」


 ナオトとミオの席は教室の一番後ろ、窓際だった。

 二人が座ろうとすると、前の席に座っていた金髪の少年が、わざとらしく足を投げ出して通路を塞いだ。


「おっと。失礼、足が滑ったよ」


 整った顔立ちだが目は笑っていない。

 胸元には生徒会執行部のバッジ。そして、取り巻きたちがニヤニヤと笑っている。


「どいてくれるか?」


「聞こえなかったかい? ここは神聖な学び舎だ。金で席を買ったようなドブネズミが通る道はないと言っているんだ」


 教室中からクスクスという笑い声が漏れる。典型的な洗礼だ。


「ねえナオト。この足、踏んでいい?」


 ミオが笑顔のまま、強化ブーツの踵をコツコツと鳴らす。


「やめとけ。床が汚れる」


 ナオトは溜息をつき、ポケットからコインを一枚取り出した。


 チャリン。金貨だ。


「通行料だ。拾ってどけろ」


 ナオトが指で弾いた金貨が少年の足元に落ちて転がる。


「なっ!?」


「足りないか? ならもう一枚」


 チャリン。


 教室が静まり返った。

 貴族に対して金を投げつける。それは最大の侮辱だ。


「き、貴様! 僕を誰だと思っている! アルベール伯爵家の次男、ランバートだぞ!」


「知らんな。おいミオ、道が空いたぞ」


「ええ。安っぽいプライドね」


 ランバートが顔を真っ赤にして足を引っ込める。二人は涼しい顔で席に着いた。


 ◇ ◇ ◇


 昼休み。

 学園の食堂、ロイヤル・カフェテリアは、まるで高級ホテルのラウンジのような豪華さだった。

 だが、そこにも明確な壁があった。


「ここから先はSランク会員専用エリアとなります」


 ナオトたちが奥のテラス席に行こうとすると、ウェイターに行く手を阻まれた。

 その向こうでは先ほどのランバートたちが優雅にランチを楽しんでいる。


「Aランクの特待生様でも、あちらの一般席でお願いします」


「はぁ。飯食う場所まで差別かよ」


「ムカつく! あっちの方が日当たりいいのに!」


 二人が仕方なく一般席に座ろうとした時、ランバートがわざわざグラスを持って近づいてきた。


「やあ、ドブネズミ君たち。一般席の味はどうだい?」


「用件はなんだ?」


「いやなに、君たちに学園のルールを教えてあげようと思ってね。……この学園では、下位の者は上位の者に奉仕する義務があるんだ」


 ランバートが取り巻きたちに目配せをする。


「ちょうどパンが切れてね。……おい、購買部で黄金クリームパンを買ってきてくれ。5個だ」


「は?」


「パシリ?」


 ミオが眉をひそめる。


「聞こえなかったかい? 買ってこいと言ったんだ。ああ、代金はもちろん君たち持ちでね。金だけはあるんだろう?」


 ギャハハハ! と取り巻きたちが笑う。


 ナオトは静かに(カトラリー)を置いた。


「断る」


「おや? 命令違反は校則違反だよ? 僕の父は理事会のメンバーでね。退学にすることもできるんだが?」


「退学?」


 その単語が出た瞬間、ナオトの目がスッと細められた。

 ゴーグルのディスプレイに高速で情報が流れる。


(検索。学園理事会……出資比率……アルベール家の持ち株……5%。ふん、大したことないな)


「ナオト?」


「いいだろう。パンだな? 買ってきてやるよ」


「ナオト!? あんたプライドないの!?」


 ミオが叫ぶ。


 ランバートは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「ははは! そうだ、それが賢い生き方だ! さあ行け! 5分以内だぞ!」


「ああ。5分で済ませてやる」


 ナオトは席を立ち、食堂の隅へ移動した。そして、懐から通信端末を取り出し、どこかへ連絡を入れる。


「(もしもし。ゴブリン銀行か? 俺だ。緊急融資とM&Aの依頼だ。ああ、金ならある。今すぐだ)」


 ◇ ◇ ◇


 5分後。

 ランバートたちは談笑しながらデザートを待っていた。


「遅いな、あの平民。迷子にでもなったか?」


「へへっ、泣きながら走ってるんじゃないですか?」


 その時、食堂の入り口が騒がしくなった。

 スーツを着た集団が大量の段ボール箱を抱えて雪崩れ込んできたのだ。


「お、おい! なんだ君たちは!」


「配送業者です! ご注文の品をお届けに上がりました!」


 業者はナオトのテーブルの周りに山のようなパンを積み上げ始めた。

 その数、100個、200個……。あっという間にパンの壁ができる。


「なんだこれは」


 ランバートが呆気にとられていると、ナオトがパンの山の中から顔を出した。


「よう。待たせたな。黄金クリームパンだ。好きなだけ食え」


「ご、5個と言ったはずだ! なんだこの量は!」


「ああ、悪い。個数指定で買うのが面倒だったんでな」


 ナオトは端末の画面をランバートに見せた。そこには、売買契約書の文字。


「黄金クリームパンを製造しているパン屋の本店、および工場。それと、学園内での独占販売権。全部、買収(バイアウト)しておいた」


「は?」


「つまり、今日から俺がオーナーだ。ちなみに、今ここに在庫を全部持ってきたから、購買部にはもう一つも残ってないぞ」


「ば、バカな! たかがパンのために店ごと買っただと!?」


「金ならあると言っただろ? で、どうする? 食うか? オーナー権限で、1個金貨1枚 (10万円)で売ってやるよ」


「ふ、ふざけるなァァッ!」


 ランバートが激昂してナオトの胸ぐらを掴もうとする。しかし、その手は空を切った。


 シュッ! パシィッ!


「暴力はいけないわね、お坊ちゃま」


 ミオが横からランバートの手首を掴み、締め上げていた。

 強化スーツのアシスト機能が作動し、万力のような力で固定する。


「い、痛い! 離せ! この野蛮人が!」


「あら、ごめんなさい。でも、うちのオーナーに指一本でも触れたら、その手首、ねじ切っちゃうわよ?」


 ミオがニッコリと笑う。そして、その目には本気の色が見える。

 ランバートは恐怖で顔を引きつらせ、腰を抜かしてへたり込んだ。


「ひ、ひぃぃ! 覚えてろ! 父上に言いつけてやる!」


「どうぞご自由に。ちなみに、お父上の会社の株も、今頃ウチのメインバンクが買い占めてる頃だと思うがな」


「ッ!? あ、悪魔だ!」


 ランバートたちは脱兎のごとく逃げ出した。

 残されたのは山積みのクリームパンと、呆然とする生徒たち。


「ふん。口ほどにもない」


「ナオト、やりすぎよ。このパン、どうすんの?」


「全校生徒に配れ。転校生からの挨拶代わりだってな」


「うわぁ。成金ムーブ極まれりね」


「これがヒエラルキーの崩壊音だ。さあ、食うぞミオ。俺たちの奢りだ」


 ナオトはパンを一つ手に取り、袋を破った。甘いクリームの香りが広がる。


「ん。悪くない味だ」


「どれどれ? うん! 美味しい! これなら毎日食べてもいいかも!」


 二人はパンをかじりながら、騒然とする食堂を見渡した。

 貴族たちの冷ややかな視線はいつの間にか恐怖と畏敬、そして少しの打算を含んだものに変わっていた。


 金と力。

 この学園で生き残るための二つの武器を彼らは初日にして完璧に見せつけたのだ。


「次はどうする? ナオト」


「そうだな。次は部活でも乗っ取るか?」


「ふふっ。退屈しなさそうね、この学園生活!」


 二人の狂騒曲はまだ始まったばかりだ。

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