第41話 魔導デパートと、最新鋭のサイバー装備
「デカい」
「高い」
「ねえナオト。ここ、デパート? それとも要塞?」
「両方だろ。ネクサス最大級の商業施設、バビロン・モール。地上50階、地下10階。売ってないのは愛と寿命だけらしいぞ」
「寿命はともかく、愛はお金で買えるって、昨日のホストクラブの看板に書いてあったわよ」
「夢のないことを言うな。ほら、行くぞ。入学祝いの爆買いだ。昨日の試験で痛感したろ? 俺たちの装備は、この街じゃ骨董品だ」
「ぐうの音も出ないわね。あのゴーレム、硬かったもの。よし、今日は予算の上限なしでいくわよ!」
「ああ。まずは15階、魔導アパレル・防具フロアだ」
ウィィィン。
「いらっしゃいませ。当フロアへようこそ。お客様のIDをスキャンします……」
「ッ!? こ、これは……王立学園の特待生ID!? それに、この桁外れの口座残高は!」
「騒ぐな。VIPルームへ案内しろ。一般人と同じ試着室は狭くてかなわん」
「は、はいぃぃっ! ただちに! 店長! 店長ーッ!」
◇ ◇ ◇
「ふふっ。VIPルーム、快適ね。高そうなドリンクまで出てきたわ」
「代金に含まれてるだけだ。おい店長、カタログはいい。実物を持ってこい。学園生活で舐められない、最高級の制服だ」
「は、はい! こちらなどいかがでしょう! 聖王ブランドの新作、シルクのような肌触りと、ミスリル級の防御力を兼ね備えた……」
「却下だ。デザインが古臭い。もっとこう、機能的で、かつ攻撃的なやつはないのか?」
「攻撃的、ですか? 制服に?」
「そう。たとえば、絡んできた貴族のボンボンを袖口一つで無力化できるような」
「お客様、失礼ですが、これから戦場へ?」
「似たようなもんだ。学園という名の戦場へな」
「なるほど。では、こちらはいかがでしょう。サイバー・ウィーバー社の最新モデル、可変式・ナノファイバー制服です」
「ほう? 可変式?」
「一見すると、学園指定のブレザーとスカートですが……このボタンを押すと」
シュッ! カシャン!
「うわっ!? 黒くなった! 生地が硬質化したわよ!」
「戦闘モードです。ナノ繊維が瞬時に硬化し、防刃・防弾・耐熱仕様のバトルスーツへと変形します。さらに、スカートの裾には重りとして超硬度セラミックが縫い込まれており……」
「回し蹴りで敵の顎を砕けるわけか。いいな」
「気に入ったわ! これにする! ねえ店長、これの色違いある? 黒と赤のツートンがいいんだけど!」
「カスタムオーダーになりますが……即日仕上げで対応します! オプションで自動修復機能と汚れ防止コーティングもつけますか?」
「全部つけて! あと、絶対領域が一番綺麗に見える丈に調整して!」
「かしこまりました! お連れ様はいかがなさいますか?」
「俺も同じシリーズの男子用を頼む。ただし、俺のはポケットの数を増やしてくれ。ガジェットを仕込むスペースが必要だ」
「承知いたしました。裏地の隠しポケットに、ナイフホルダーとハッキングツールの接続ポートを追加しておきますね」
「話が早くて助かる。さて、次は武器だ」
◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませー! 武器フロアへようこそー! 今日はどんな獲物をお探しでー?」
「剣だ。それも、ただの鉄塊じゃないやつな」
「おっと、お客さんお目が高い! 普通の魔鉄剣じゃ物足りないクチですか? なら、こいつはどうだい!」
ブォンッ!
「うわっ、眩しっ! なにこれ、ビームサーベル!?」
「プラズマ・ブレード付きの魔導剣だ! 柄に魔石をセットすれば、刀身に超高温のプラズマを纏わせることができる! 鉄でも岩でも、豆腐みたいにスパスパいけるぜ!」
「すごい。これなら、昨日の試験みたいなコーティング装甲も一撃ね……」
「ただし、燃費が悪いのが玉にキズでね。フルパワーだと1分で魔石が空になる」
「1分!? カップ麺も作れないじゃない!」
「そこは使い手の腕次第さ。お嬢ちゃん、魔力操作には自信あるかい?」
「あるわよ! 昨日の実技試験で満点取ったんだから!」
「大きく出たな。おいミオ、持ってみろ。重さはどうだ?」
「ん。意外と軽い。今までの剣より重心が手元にあるから、振り回しやすそう」
「よし。試し斬りだ。そこの的をやってみろ」
「オッケー! 起動! 出力最大!」
ギュイィィィン!!
「うわっ、音が凶悪! いくわよ! はあっ!」
ズンッ!!
「……あ」
「おい」
「切れちゃった。的だけじゃなくて、後ろの防壁まで」
「お客さーん!? 防壁はオリハルコン・コーティング済みなんですけど!? 弁償ですよ!?」
「買う。この剣と、防壁の修理代も込みでな」
「まいどありーッ! 太っ腹ァ!」
「ふふん! 気に入ったわ! 名前はクリムゾン・エッジにする!」
「中二病ネームだな。まあ、お前にはお似合いだ」
「うるさい! ナオトは何買うのよ! まさかまだあのボロボロのクロスボウ使う気?」
「いいや。あれは愛着があるが、速射性に難がある。学園内であんなデカい武器を持ち歩いてたら補導されるしな。もっとスマートな護身用具を探す」
「護身用具? スタンガンとか?」
「こっちだ。裏のコーナーへ行くぞ」
◇ ◇ ◇
「へぇ。デパートの奥に、こんな怪しい店があるなんてね」
「表向きは魔導文具店だが、裏メニューがあるんだよ。おい、店主。例のブツはあるか?」
「シッ。声が大きいですよ。こちらへ」
店主が棚を動かすと、隠し扉が現れた。
中は薄暗く、怪しげな電子音と魔力の光が点滅している。
「うわ、スパイ映画みたい」
「ここにあるのは軍の放出品や、違法改造されたガジェットだ。これを見せてもらおうか。多機能タクティカル・ゴーグル」
「お目が高い。最新式の軍用モデルです。暗視、望遠、熱源探知はもちろん、魔力回路の視覚化、さらには……」
「ハッキング・インターフェース内蔵、だろ?」
「ご存知でしたか。ええ、無線で周囲の電子機器や魔導ロックにアクセスできます。昨日の試験で使われた安物とは処理速度が桁違いですよ」
「最高だ。これがあれば、学園のセキュリティなんて紙切れ同然だな」
「ナオト、顔が悪いわよ。悪役の顔してる」
「必要経費だ。それと、この魔導拳銃もくれ」
「銃? ナオト、銃なんて撃てるの?」
「実弾じゃない。魔弾を撃ち出すタイプだ。クロスボウの矢を装填する手間が省けるし、何よりコンパクトだ。俺の微弱な魔力でも、カートリッジを使えばAランク魔法並みの威力を出せる」
「へぇ。要するに、課金アイテムってこと?」
「身も蓋もない言い方をするな。技術と言え。店主、弾薬も500発分つけてくれ」
「500発!? 戦争でも始める気ですか!?」
「備えあれば憂いなしだ。あと、この隠密用ステルス・マントと、自動追尾式・盗聴ドローン (虫型)も」
「ナオト。あんた、学園で何する気なの? スパイ活動?」
「情報収集だ。貴族の弱みを握るには、耳と目が必要だからな」
「やっぱり悪役じゃない」
「合計で……金貨50枚になりますが」
「高いな。だが、性能は保証するんだな?」
「もちろんです。初期不良は1週間以内なら交換しますよ」
「よし、買った。カードで」
ピピッ。
「ふぅ。これで装備は整ったな」
「ねえナオト。私の剣より、あんたの小物の方が高くついてない?」
「情報は暴力より高いんだよ。さあ、帰るぞ。明日からが本番だ」
◇ ◇ ◇
翌朝。
高級マンションのリビング。
「どう? ナオト。似合う?」
ミオがくるりと回ってみせた。
黒を基調とし、赤いラインが入ったブレザーと、膝上20センチのミニスカート。
生地には微かな光沢があり、見る角度によってサイバーな幾何学模様が浮かび上がる。
足元は強化繊維のオーバーニーソックスと、厚底のコンバットブーツ。
背中には小型化して変形させた剣、クリムゾン・エッジを背負っている。
「ああ。悪くない。特撮ヒロインみたいだ」
「褒め言葉として受け取っておくわ! ナオトの方は?」
「こんなもんだ」
ナオトも同じデザインの男子制服を着こなしている。
ただし、ジャケットの下にはホルスターを隠し持ち、腰にはハッキングツール入りのポーチ。
そして、顔には薄いブルーのレンズが入ったスマートグラスを装着している。
「うん。なんか、すごく仕事できそうな感じ。あるいは裏で糸引いてそうな参謀キャラね」
「これでも生徒だ。よし、装備チェック。メインウェポン?」
「魔剣『クリムゾン・エッジ』、出力安定!」
「サブウェポン?」
「強化ブーツによる回し蹴り! あと、可愛らしい笑顔!」
「最後のは武器になるか怪しいが、まあいい。俺の方も、システム・オールグリーン。弾薬装填よし。バッテリー残量よし」
「ねえナオト」
「ん?」
「私たち、これから学校に行くのよね? 戦場じゃないわよね?」
「この学園は階級社会という名の戦場だ。……舐められたら死ぬぞ。物理的にも、社会的にもな」
「了解。覚悟完了よ」
ミオがニヤリと笑い、拳を突き出した。ナオトも苦笑しながら、拳を合わせる。
「行くぞ。転校初日から伝説を作ってやる」
「ええ! まずは登校だけで度肝を抜いてやるわ!」
二人は玄関の扉を開け放った。
眩しい朝の光が、最新鋭のサイバー装備に身を包んだ二人を照らし出す。
「あ、そうだナオト。移動手段は?」
「公共交通機関? まさか」
ナオトが端末を操作すると、マンションのテラスに一台の流線型の乗り物が滑り込んできた。
昨日、デパートの乗り物フロアで衝動買いした、最新モデルの魔導エアバイクだ。
「買ったの? これ」
「経費だ。遅刻は厳禁だからな」
「最高! さあ、飛ばして! 学園までひとっ飛びよ!」
ブオォォォォン!!
エアバイクが空へと舞い上がる。
眼下にはネクサスの街並み。そして前方には、白亜の校舎が輝く王立魔導学園が見えてきた。
「見えたわ! あそこが私たちの新しい狩り場ね!」
「狩り場言うな。学び舎だ」
「何を学ぶの?」
「支配の仕方かな」
「ろくでもないわね! でも、ワクワクする!」
二人の乗ったバイクが青空を切り裂いて学園へと突っ込んでいく。
金と武力と技術で武装した、最強の転校生の殴り込みだ。
平穏な学園生活? そんなものは最初から期待していない。
さあ、授業開始のベルが鳴る。




