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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
魔導連邦ゼルト編

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第39話 高級マンションと、家具選びの戦争

「お客様。エラーが出ておりますが」


「あ?」


「ですから、こちらのゲートは市民ランクC以上の方専用でして。IDをお持ちでない方は、あちらの貨物用リフトを……」


「これでもか?」


 ナオトは無言で、先ほど手に入れたばかりの漆黒のカードをカードリーダーにかざした。


 ピピッ。


 無機質な電子音が鳴り、ゲートのランプが瞬時に緑へと変わる。

 そして、空中にホログラムが表示された。


『認証完了。ようこそ、VIP会員様。上層階へのアクセスを許可します』


「はぇ?」


 警備員が口をあんぐりと開けて固まった。

 表示された残高の桁数を見て、腰を抜かしそうになっている。


「行こうぜ、ミオ。貨物用リフトは卒業だ」


「ええ。今の私たちは荷物じゃない。お客様だものね!」


 二人は警備員を尻目にガラス張りの魔導エレベーターへと乗り込んだ。


 ウィィィン。


 静かな駆動音と共にカプセルが上昇していく。

 足元に見えるスラム街のゴミゴミした景色が、みるみる小さくなっていく。


「見てナオト! 人がゴミのようよ!」


「ラピュタごっこはやめろ。だがまあ、悪くない景色だ」


 雲を突き抜け、中層エリアへ。

 そこは下層の薄暗さが嘘のような、光と緑に溢れた空中都市だった。

 整備された街路樹、空を飛ぶ魔導車、そして洗練されたファッションに身を包んだ人々。


「空気が……美味しい! 鉄錆の味がしない!」


「酸素濃度が調整されてるな。さて、まずは拠点(ベース)の確保だ」


 ◇ ◇ ◇


 中層エリアの一等地にある高級不動産屋、ロイヤル・エステート。

 大理石の床、クラシック音楽が流れる店内。

 そこへ、ボロボロの服を着た二人が入ってきた。


「い、いらっしゃいませ? 配送の方でしょうか?」


 受付の女性が明らかに不審者を見る目で声をかけてくる。


「客だ。一番いい部屋を見せてくれ」


「はぁ。あいにくですが、当店の物件は審査が厳しく」


 ナオトは黙ってカウンターにブラックカードを置いた。


 チャリン。


「審査なら、この数字で通るか?」


「……!?」


 女性が端末でカードをスキャンした瞬間、顔色がサッと変わった。そして、奥へ向かって叫んだ。


「て、店長ーーッ! 超太客(VIP)ですーッ! お茶とお菓子! 高いやつ持ってきて!」


 数分後。

 二人はふかふかのソファに座り、ペコペコと頭を下げる店長から物件の案内を受けていた。


「こちらなどいかがでしょう? クリスタル・タワー最上階、メゾネットタイプ。3LDK、広さ200平米。最新の魔導セキュリティ完備で、家賃は月額金貨50枚 (500万ガバス)ですが」


「安っ!」


 ミオが叫んだ。


「えっ、50枚でいいの!? 安すぎない!? 事故物件!?」


「い、いえ! 正規のお値段ですが」


「金銭感覚がバグってるぞミオ。まあ、予算内だ。即決で」


「ありがとうございます! では契約手続きを……保証人などは……」


「家賃1年分、先払いで」


「ひぇっ!? ろ、6000万ガバスを一括で!?」


「面倒な審査はパスしたいんだ。金ならある。文句はないな?」


「ございません! お客様は神様です!」


 こうして、二人はわずか10分で、ネクサスでも指折りの高級マンションの鍵を手に入れた。


 ◇ ◇ ◇


 ガチャリ。


 重厚な扉を開けると、そこには広大なリビングが広がっていた。

 壁一面の窓からはネクサスの美しい夜景が一望できる。

 床は大理石、天井にはシーリングファンが回っている。


「きゃあぁぁぁぁっ! 広ーーい! 綺麗ーー!」


 ミオが靴を脱ぎ捨て、リビングにダイブして転がり回る。


「冷たーい! スベスベしてるー! 砂利がないー!」


「はしゃぎすぎだ。まあ、悪くない環境だな」


 ナオトも部屋を見渡す。

 防音性能よし、通信環境 (魔導回線)よし、セキュリティよし。

 隠れ家としては満点だ。


「でもナオト。何もないわね」


「当たり前だ。新築なんだから」


「家具! 家具がないと生活できないわ! ベッドも椅子もない!」


「そうだな。よし、買い物に行くぞ。この街一番の魔導家具デパートへ」


「やった! ショッピング! 私、インテリアにはうるさいわよ!」


「嫌な予感がするな」


 ◇ ◇ ◇


 ネクサス最大級の家具店、マギ・インテリア。

 広大なフロアには魔法で動く便利家具から、貴族御用達の高級アンティークまで、あらゆる家具が並んでいる。


「さあ、戦争の時間だ」


 二人はカートを押し、売り場へと突撃した。


「ナオト! これ見て! 猫足バスタブ! しかも黄金の蛇口付き!」


 ミオが浴室コーナーで声を上げた。

 ロココ調の装飾が施された、無駄に豪華な浴槽だ。


「却下だ」


「なんでよ! 女の子の夢よ!?」


「掃除が面倒だ。それに、そんな無駄な曲線はスペースの無駄遣いだ。風呂ならこれにしろ。全自動洗浄・魔導ジャグジーユニット」


 ナオトが指差したのはカプセルホテルのような近未来的なユニットバスだった。


「乾燥機能とマッサージ機能付きだ。ボタン一つで体まで洗ってくれる」


「色気がない! 人間洗濯機じゃない!」


「効率的だろ。次は寝室だ」


 寝具コーナー。


「これにする! 天蓋付きキングサイズベッド・お姫様仕様!」


 ミオがフリフリのレースがついた巨大なベッドに飛び込む。


「却下。天井のファンにレースが絡まって窒息するぞ」


「するわけないでしょ! じゃあナオトは何がいいのよ!」


「これだ。高反発・魔導ジェルマットと遮光・防音カプセル」


「棺桶?」


「睡眠の質を極限まで高めるためのシェルターだ。外部の音を遮断し、最適な温度と湿度を保つ」


「絶対イヤ! 一緒に寝る時どうすんのよ!」


「は?」


「あ……」


 ミオが顔を赤くして口を押さえる。


「い、いや! なんでもない! 深い意味はないわよ! ただ、部屋の雰囲気が死体安置所みたいになるのが嫌なだけよ!」


「まあいい。ベッドは個室にそれぞれ置くことにしよう。リビングはどうする?」


「ソファよ! 革張りの、L字型の、ふっかふかのやつ!」


「それより先に買うべきものがある」


 ナオトが向かったのは、オフィス家具コーナーだった。


「これだ。最高級エルゴノミクス・ゲーミングチェア」


「椅子?」


「ただの椅子じゃない。腰への負担をゼロにするSEの神器だ。これと、マルチモニター対応・魔導サーバーラックをリビングの中央に置く」


「リビングにサーバー!? インテリアぶち壊しじゃない!」


「情報収集の拠点だぞ? 常に最新の相場とニュースをチェックできる環境が必要だ」


「じゃあ私も置く! 等身大・美少年執事ゴーレム!」


「はぁ!? なんだその不気味な人形は!」


「癒やしよ! イケメンに、お帰りなさいませお嬢様って言われたいの!」


「却下だ! 夜中に動いたらホラーだろ!」


「じゃあサーバーも却下! ファンの音がうるさい!」


「静音タイプだ!」


「執事も静音タイプよ!」


 売り場の真ん中で、金持ちのカップルが大声で喧嘩を始めたため、店員たちがオロオロと遠巻きに見守っている。


「分かった。妥協しよう」


 ナオトが額を押さえて言った。


「リビングは共有スペースだ。半分ずつエリアを分ける」


「ゾーニングね。いいわよ」


「俺は窓際の一角をコックピット (作業場)にする。そこには口出しするな」


「私は反対側をサロン (くつろぎ空間)にするわ。ピンクの絨毯敷いてやるんだから」


「勝手にしろ。……ただし、予算の上限はなしだ」


「ふふん、望むところよ! 店員さーん! ここからここまで全部持ってきて!」


 ◇ ◇ ◇


 数時間後。

 高級マンションのリビングはカオスな空間に変貌していた。


 右半分はアンティーク調の家具とフリルのついたクッション、そして謎の観葉植物 (食虫植物っぽい)で埋め尽くされた、ファンシーかつ毒々しい空間。

 左半分は黒で統一されたメタルラック、複数のモニターが光るデスク、そして配線が這い回る、サイバーパンクな秘密基地のような空間。


「ひどい有様だな」


「センスが喧嘩してるわね」


 二人は部屋の中央、境界線に立って、それぞれの領土を見渡した。


「でもまあ、住めば都か」


「そうね。少なくとも、コンテナよりはマシよ」


 ナオトはゲーミングチェアに深く腰掛け、リクライニングを倒した。

 完璧なフィット感。腰への負担が消える。


「あぁ、最高だ。これだよ、この包容力」


 ミオは向かい側の猫足ソファにダイブし、クッションを抱きしめた。


「ふかふか〜! 幸せ〜!」


 そして、テーブルの上にはデパ地下で買ってきた最高級のオードブルと、冷えたシャンパンが置かれている。


「乾杯するか」


「うん!」


 二人はグラスを手に取り、部屋の真ん中でカチンと合わせた。


「マイホーム (仮)に、乾杯」


「成金生活に、乾杯!」


 シャンパンを一口飲む。甘く、冷たく、そして高い味がした。


「ねえナオト」


「ん?」


「私、今、すっごく幸せ」


「奇遇だな。俺もだ」


「明日からは何するの? ずっとこの部屋でゴロゴロしてていい?」


「ダメだ。市民ランクを上げないと、上のエリア……上層の行政区には入れない。真の自由を手に入れるにはIDが必要だ」


「チェッ。まだ働くの?」


「働きはしない。学生になるんだ」


「学生?」


「ああ。上層にある王立魔導学園。あそこに入学すれば、自動的にAランク相当の市民権が得られる」


「私たちが? 今さら学校?」


「裏口入学だ。金とコネとハッキングでな」


 ナオトはモニターに表示された学園のデータを指差してニヤリと笑った。


「青春をやり直すぞ、ミオ。ただし、ハードモードでな」


「ふふっ。いいわね。学園のアイドルになって、イケメン貴族を侍らせてやるわ!」


 ネクサスの夜景を見下ろしながら、二人は新たな野望に胸を躍らせた。

 高級マンションのチグハグなリビングで、成金たちの夜は更けていく。

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