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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
第11章 大陸東部・湿地帯・再来編

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第121話 はったり装備と、聖水の絨毯爆撃

「やっぱり、いつ来ても最悪の場所ね。あの気取った吸血鬼の趣味の悪さが、このむせ返るような鉄の匂いと赤黒い霧に全部表れてるわ」


「気を引き締めろ、ミオ。俺の索敵スキルが、とびきり邪悪で強大な魔力を捉えている。周囲の環境マナを完全に食い潰すような異常な存在感だ。間違いなく、あいつのテリトリーの中心に足を踏み入れたぞ」


「分かってるわ! いつでもいけるように剣の柄はしっかり握りしめてるんだから。さあ、どこからでもかかってきなさい!」


「ほう。この死の香りに満ちた鮮血の領域へ、足を踏み入れる者が現れたか。歓迎しよう客人たちよ」


 赤黒い濃霧が音もなく左右に割れ、そこから漆黒の軍服に身を包んだ男が優雅な足取りで姿を現した。背中に畳まれた蝙蝠のような皮膜の翼と、冷酷に輝く赤い瞳。魔将ヴァルドレッドだった。


「ずいぶんと重々しい金属音を響かせているものだから、頭の悪い泥人形でも彷徨い込んできたのかと思ったが……なるほど。極上の血の匂いだ。私の食卓を彩るにふさわしい人間だな」


「相変わらず、人間を飲み物か何かとしか思ってないムカつくセリフね。で? いつまで客人なんて言って、とぼけてるつもり?」


「ん? そのひどく粗野で聞き覚えのある声……まさか」


「ようやく気づいたか、吸血鬼。お前の大好きなメインディッシュのお帰りだぞ」


 ヴァルドレッドの優雅な微笑みが、わずかに引きつった。その赤い瞳が純白の法衣に身を包んだナオトと、輝くミスリル銀の重装甲(ホーリー・プレート)に身を固めたミオの姿を信じられないものを見るように見開かれる。


「馬鹿な! 君たちは間違いなくあの時、私の前で泥に這いつくばり、命を散らしたはずだ。なぜ生きている? いや、そもそもその姿は何だ? 錬金術師と戦士だったはずの君たちが、なぜそのような神聖な気配を纏っているのだ?」


「ふふん! 驚いた? 私たちは地獄の底から這い上がってきたのよ! あんたにこてんぱんにされた屈辱を晴らすために、最強の聖戦士(パラディン)と高位の神聖魔法使い(クレリック)に生まれ変わってね!」


「俺たちの執念と、この世界の抜け道を甘く見るなよ。はっきりと言ってやろう、ヴァルドレッド。お前にはもう、俺たちを倒すことなんて絶対にできないぜ」


「ふっ……ふはははははっ! 傑作だな! 死に損ないの果実どもが、どこかで拾ってきた古臭い法衣と、重いだけの金属鎧を着込んだからといって、この私を倒せると本気で思っているのかね?」


「強がりはよせ。お前の感覚なら、俺たちの装備からあふれ出ている強烈な神聖属性の気配に、本能的な嫌悪感と恐怖を抱いているはずだ」


「たかが知れている! 私を殺すための鍵である神聖な力とは、長年の過酷な修行と絶対的な信仰心によってのみ培われるもの! たった数日で得たような付け焼き刃のはったり装備で、私が動揺するとでも思ったか!」


「なら、その体で直接確かめてみなさいよ! 今の私たちがどれだけ強いか、骨の髄まで教えてあげるわ!」


「愚かしい。一度逃げ延びた命を自らドブに捨てるその滑稽な蛮勇……また、一滴残らずその血を啜り尽くしてやろう! 血の弾丸(ブラッド・バレット)! 貫け!」


 ヴァルドレッドが指先を弾く。

 極限まで圧縮された音速の血の弾丸が、ミオの眉間と心臓を正確に狙って連続で撃ち出された。かつては回避するだけで精一杯だった、恐るべき狙撃。


「遅い! 遅いわよ! そんな貧弱な弾、避けるまでもないわ! 神罰の標的ディヴァイン・ターゲット!!」


 ミオが大剣を天に掲げて叫ぶ。強烈な黄金色の波動が放たれ、ヴァルドレッドの意識と攻撃の軌道が、強制的にミオの分厚い装甲の一点へと誘導される。


「きゃはははっ! 効かないわよ! 私のミスリル銀の聖鎧(ホーリー・プレート)と、この大剣の分厚い刀身の前にひれ伏しなさい!」


 ガガガガガガッ!!


 凄まじい衝撃音が湿地帯に響き渡る。だが、ミオは一歩も後ろに下がらない。盾を持たずとも、大剣の広い刀身を斜めに構え、重装甲の圧倒的な防御力と神聖なオーラだけで、血の弾丸をすべて弾き返してみせたのだ。


「なっ!? 私の血魔術が、ただの金属の鎧に弾き飛ばされただと!? あれほどの重装甲で、なぜそのように素早く剣を構えられる!」


「パラディンの筋力を舐めないでよね! それに、この鎧にはアンデッドの魔術を減衰させる神聖力が付与されてるのよ! 蚊に刺されたほどの痛みもないわ!」


「ええい、生意気な! ならばこれはどうだ! 血の驟雨(ブラッド・レイン)! 降り注ぎ、溶けなさい!」


 ヴァルドレッドが苛立ちと共に両手を振り上げる。頭上の赤い霧が無数の針へと変貌し、かつて二人を死の淵まで追い詰めた広範囲の強酸の雨が、全方位から降り注いできた。


「ナオト、来るわよ! 私から絶対に離れないで!」


「分かっている! ミオ、そのままヘイトを稼ぎ続けろ! 迷える魂に浄化の鉄槌を! 完全浄化(ピュリファイ)!」


 ナオトが純白の法衣を翻し、メイスを高く掲げる。瞬間、二人の周囲を包み込むように強烈な純白の光のドームが展開された。


 ジュゥゥゥゥゥッ!


 酸の雨が光のドームに触れた途端、激しい蒸発音を立てて無害な白い煙へと変わっていく。ミオの鎧を叩く数発の血の針も、神聖なオーラによって威力を殺され、弾き落とされた。


「おのれ! 私の魔術が触れる端から浄化されている!? ただの付け焼き刃ではないというのか!」


「言っただろ、吸血鬼。俺たちのビルドは、お前という存在を完封するためだけに最適化されているんだよ。さあ、防御のターンは終わりだ。今度はこちらから極上のおもてなしをさせてもらおう」


「何をする気だ、人間! 貴様らの鈍重な攻撃など、私には決して当たらないと知っているはずだ!」


「ああ、お前の絶対回避は厄介だ。だから、避ける場所そのものを無くしてやることにした。……影の倉庫(シャドウ・ポケット)、上空展開処理を実行!」


 ナオトが意識をヴァルドレッドの頭上へと向ける。

 瞬間、魔将の頭上数十メートルの空中に巨大な漆黒の穴……影の倉庫(シャドウ・ポケット)のゲートが開いた。


「なんだ、あの空間の歪みは!?」


「開け、二千の祝福! 邪悪の頭上に降り注げ!」


 ナオトの冷酷な宣言と共に上空の異空間から、金貨五十枚をつぎ込んだ聖水……その二千本分の液体がヴァルドレッドの頭上へと一斉に降り注いだ。


「なっ!? これは、水!? いや、違う! この凝縮された光の魔力は……聖水だと!? これほどの量を一体どこから!?」


「避けてみろよ、吸血鬼! 自慢の回避能力で、この神聖な雨粒のすべてを躱せるものならな!」


 ザバァァァァァァァッ!


 逃げ場のない圧倒的な物量の暴力。戦場を覆い尽くす聖水の絨毯爆撃が、ヴァルドレッドの漆黒の軍服と、その青白い肌を呑み込んだ。


「ギャアアアアアアァァァァァッ!!」


 湿地帯に、これまで聞いたこともないような魔将の悲痛な絶叫が響き渡った。

 聖水に触れた端から、ヴァルドレッドの肉体が激しい浄化の炎を上げ、ジュウジュウと焼け焦げていく。


「あ、熱いぃぃっ! 私の体が! 私の血が焼かれるぅぅっ! 貴様らぁぁっ! どれほどの狂気を注ぎ込めば、これだけの聖水を用意できるというのだ!」


「ゲーマーの執念さ! 使えるリソースはすべて使う! お前の厄介な再生能力を継続ダメージで完全に上回ってやる!」


「あははははっ! いい気味ね! 私たちを果実だのワインだの言ってたクセに、自分は黄色いお水でビショビショになって溶けてるじゃない! すっごく無様よ!」


「おのれ……おのれぇぇぇっ! 下等な人間どもがぁっ! 私を誰だと思っている! 魔将ヴァルドレッドだぞ!」


 全身から浄化の白煙を上げ、かつての優雅さを微塵も残さずに泥の上をのたうち回るヴァルドレッド。

 二人の完璧な対策(メタ)が噛み合い、因縁の強敵は今、圧倒的な力の前に防戦一方へと追い込まれていた。

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― 新着の感想 ―
確かにこれは気持ちいい 思いっきりメタってボコボコにするの
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