第115話 最深部の死霊と、元凶のオーブ
「おお? 隠し通路の先に、こんな巨大な空間が広がっていたなんてな。ここが第4地下墓地の真の最深部、大ボス部屋か」
「ちょっとナオト、あれを見て! 部屋の中央にある祭壇……あの上に浮いてる黒い水晶玉みたいなの、すっごく禍々しい瘴気を放ってるわよ!? 見ているだけで気分が悪くなってきそう」
「クレリックとしてのスキル判定が、あの異常なアーティファクトの正体を弾き出したぞ。あれはネクロポリス・コア……別名、死霊のオーブだ。間違いない」
「死霊のオーブ? なんだかヤバそうなアイテム名ね」
「ただのアイテムじゃない、あのオーブ自体がこの地下墓地をダンジョン化させている元凶だ。この墓地に埋葬された人々の遺体を触媒にして、半永久的に死霊やアンデッドを生成し、溢れさせている。あのオーブが稼働し続けている限り、この地下墓地のアンデッドは無限に湧き続ける」
「うわぁ、最悪。死んだ人たちを電池代わりにしてモンスターを作ってるってこと? 倫理観もへったくれもないわね。でも、なんでそんなヤバいものが聖都のすぐそばの地下墓地にあるのよ?」
「それが問題だ。こんな高度な呪物が自然発生するわけがない。誰かが意図的に、この聖法国の足元に|アンデッドの巨大な巣窟を作り出すために設置したとしか考えられない。俺たちがスパイ容疑をかけられた、魔族の陰謀ってやつが、あながちデタラメじゃなかったって証拠かもしれないな」
「それって、私たちがとんでもない国家規模の陰謀に巻き込まれてるってことじゃない。……って、ナオト。話は後よ! オーブの周りの空間が歪んでるわ!」
ミオの言葉と同時に祭壇の周囲の空間が歪み、半透明の不気味な霊体が無数に湧き出した。
「出たな、オーブを守護する親衛隊ってところか。レイスの大群だ。鎧を着こんでいた怨霊騎士と違って、純度100パーセントの幽霊だぞ」
「うわぁ、うじゃうじゃいるわね! 物理無効の敵が数十体も!」
「ああ、通常のパーティーなら魔法使いのMPが尽きた時点で全滅が確定する絶望的な構成だ。だが……」
「今の私たちなら、全然負ける気がしないわ! むしろ、この対アンデッド特化ビルドを試すには最高のシチュエーションすぎて、感動すら覚えるわよ! ねえナオト、早くアレ、やってちょうだい!」
「分かってる。これだけ数が多いと、俺の単体ヒールだけでお前のスタミナを支え切るのは非効率だ。攻撃は最大の防御。最初から最大火力のエンチャントで一掃するぞ!」
「ええ! 準備はバッチリよ!」
「大いなる光よ、我が祈りに応え、不浄を討ち払う破邪の刃をここに顕現させ給え!……聖光の武器付与!」
ナオトが教典を開き、神聖なる祈りの言葉を紡ぎ出す。すると極大の光が二人の武器を眩く包み込んだ。
「わあっ! 剣が、まるで光の柱みたいに輝いてる!」
「俺のメイスにも神聖属性のバフを乗せたぞ。レベル25の信仰心ステータスから算出された極大の神聖ダメージが物理攻撃に上乗せされる。これなら霊体特有の物理無効を貫通できるはずだ」
「さあ来なさい幽霊ども! まとめて成仏させてあげるわ! 神罰の標的!」
「ギイイイィィィィッ!!」
ミオの挑発スキルに引き寄せられ、レイスの大群が一斉に不快な金切り声を上げて襲いかかってきた。
「オラァァァッ! 光の大剣、薙ぎ払いよ!」
「ナイスだ、ミオ! 豆腐みたいにスパスパ切り裂いているぞ! 物理攻撃のヒット判定が正常に処理されてる!」
ミオの両手剣が宙を舞い、物理無効のはずのレイスたちを次々と切り裂いていく。光の刃に触れた端から、霊体は浄化の炎を上げて消滅した。
「あはははは! すごいすごい! 手応えが全然ないのに、剣を振るだけで敵がボロボロ消えていくわ! スケルトンやグールみたいに剣が骨肉に引っかからないから、いくらでも連続でスイングできるわよ!」
「調子に乗って突出しすぎるなよ。実体がない分、ヘイトのすり抜けも発生しやすい。横から漏れたタゲは俺がメイスで処理する。せやっ!」
「ナオトの方も絶好調じゃない! メイスで殴られたレイスの頭が、花火みたいに弾け飛んでたわよ!」
「打撃武器と神聖属性の相性の良さだな。おっと、まだ油断するなよ。群れの奥にいる一際大きなレイス……おそらくこの群れを統率するエルダー・レイスが、何か厄介な詠唱を始めているぞ」
「えっ? 何あれ? オーブから黒いモヤモヤを吸い上げて、すっごく不吉な魔法陣を展開してるわ。あれ、絶対にヤバいやつよ!」
「俺のスキルが警告を出している! あれは死の宣告……即死判定を要求されるレベルの極大呪詛魔法だ! 重装甲のお前の魔法耐性でも、抵抗に失敗すれば一撃でHPをゼロにされるぞ!」
「即死魔法!? パラディンってそういう状態異常に強いんじゃなかったの!?」
「確率の問題だ。ダイス運に見放された時は死ぬ。だが安心しろ。そういう厄介な魔法を無力化するのが、クレリックの役割だ」
レイスの群れが合体し、ミオに向けてどす黒い呪詛の塊を放とうとする。
「食らってたまるもんですか! ナオト、お願い!」
「任せろ! 神聖魔法をカウンター気味に割り込ませて、ルールブックの裁定をバグらせる! 迷える魂に浄化の鉄槌を! 完全浄化!!」
ナオトが教典を掲げ、浄化の光を叩きつける。
「ギャアアアアァァァァッ!!」
「よし! ピュリファイが呪詛魔法を相殺した! 魔法を破られた反動で、エルダー・レイスが無防備になっているぞ! ミオ、今だ! 一気にトドメを刺せ!」
「ナイスカバーよ、エセ神父! これでフィニッシュ! 神聖なる一撃!!」
呪いが相殺された隙を突き、ミオの渾身の一撃がエルダー・レイスを真っ二つに引き裂いた。
「ふぅ! やったわ! 大ボス撃破よ! 私とナオトの連携、完成の域に達したんじゃない!?」
「ああ、完璧な立ち回りだった。これでレイス群は排除したな。……残るはあの祭壇に浮かぶ、死霊のオーブだけだ」
「諸悪の根源ね! こんな気味の悪い玉、私がいの一番に叩き割ってやるわ! ふんっ!」
ミオが大剣を振り下ろすが、オーブの表面に展開された赤黒い結界に弾かれ、激しい火花が散った。
「きゃあっ!? 痛っ! 手がビリビリ痺れた! 何よこれ、すっごく硬い結界が張ってあるじゃない!」
「チッ……ただのアイテムのくせに、強固な物理防壁で守られているのか。パラディンの筋力ステータスと神聖なる一撃の威力をもってしても、傷一つつけられないとはな」
「どうするのよ、ナオト。大剣でダメなら、アンタのメイスでも絶対に割れないわよ?」
「いや、これは単なる物理的な硬さじゃない。純粋な呪力によって構成された防壁だ。だからこそ、物理攻撃の火力ではなく、神聖属性による浄化のプロセスが破壊の必須条件になっているんだ。……ここは本職の出番だな」
「本当? これをどうにかできるの?」
「俺のありったけのMPを注ぎ込んで、この呪いの防壁を中和する。慈悲深き光よ、不浄なる結界を打ち払え。完全浄化!」
ナオトがオーブの前に立ち、結界に向けて継続的に浄化の光を照射し続ける。赤黒い結界と純白の光が激しく衝突し、バチバチと火花を散らす。
「くぅっ! 凄まじい反発力だ! でも、結界の密度は確実に薄くなってる! ここで……メイスに聖光の武器付与を限界まで重ね掛けする」
「メイスがすごいことになってるわよ! 太陽みたいに光って直視できないくらい!」
「信仰心のすべてを、この一撃の破壊判定に乗せる! 死者の魂を弄ぶ悪趣味なアーティファクトめ……神聖なる鉄槌で粉々に砕け散れぇっ!」
ナオトが限界まで力を込めたメイスを高く振り上げた。
ドゴォォォォンッ!!
眩い閃光と共にオーブが砕け散り、地下墓地を満たしていたカビ臭い瘴気が一瞬にして浄化された。
「やった! オーブが粉々に砕け散ったわ! 黒いモヤモヤも全部消えて、なんだかすっごく空気が澄んできたみたい!」
「ああ。俺の索敵スキルからも、アンデッドの反応が完全に消失した。ダンジョン化していた第4地下墓地の呪いは、これで完全に断ち切られたってことだ」
「私たち、ただのチュートリアルのつもりで来たのに、まさかダンジョンの元凶まで破壊して完全クリアしちゃうなんてね! 底辺冒険者だったあの頃じゃ、絶対に考えられなかった大快挙よ!」
「違いない。女神の祝福の光が降り注ぐような、この清々しい浄化の達成感……悪くないな。最高のチュートリアルになった」
「ええ! 私たち、最強の神聖パーティーね!」
かつて爆発騒ぎを起こして逃げ出した因縁の地下墓地。その最深部で、すべての不浄を打ち払った聖戦士と神聖魔法使いは、満面の笑みで高らかにハイタッチを交わしたのだった。




