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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
第10章 聖法国ヴァルドリア・再来編

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第114話 デカい幽霊と、永久機関

「おお……見えてきたぞミオ。いよいよ第4地下墓地の最深部、ボス部屋の扉だ」


「すっごく重々しい石の扉ね。表面に彫られてるドクロのレリーフが、いかにも、ここから先は危険地帯ですって主張してるわ。中から、今までとは比べ物にならないくらい嫌な冷気が漏れ出てるのが分かるわよ」


「俺の索敵スキルも、扉の向こうに桁違いのアンデッドの魔力反応を捉えている。雑魚のスケルトンやグールとは格が違う。おそらく、この地下墓地を統べる中ボス格のモンスターだろうな。準備はいいか?」


「もちろんよ! 私のミスリル銀の聖鎧(ホーリー・プレイト)も白銀の断罪剣も、まだ準備運動が終わった程度なんだから。ナオトだって、さっきからグールの頭をカチ割りまくって、すっかり前衛の立ち回りに慣れたじゃない」


「まあな。だが、ボス戦となれば話は別だ。油断せずに行くぞ」


 ナオトとミオが重厚な石の扉を押し開けると、そこは広大なドーム状の石室だった。

 部屋の中央に青白い燐光を放つ巨大な影が佇んでいる。


「出たわね! ……って、何あいつ! 体が半透明の幽霊(レイス)なのに、実体のあるガチガチの金属鎧を着込んでるじゃない!」


幽体(レイス)と金属鎧の混成ボス……怨霊騎士(レイス・ナイト)か。一番厄介な組み合わせを引き当てちまったな。レイス特有の物理耐性で通常の斬撃や打撃を無効化しつつ、実体の金属鎧で魔法攻撃に対する防御力まで備えている。システム的にも嫌らしいステータス構成のボスだぞ」


「うわぁ、前職の錬金術師と戦士のままだったら、絶対に手も足も出なかったわね。物理無効の幽霊には私の剣が通らないし、ナオトの爆弾の炎属性ダメージも、あの分厚い金属鎧で減衰させられちゃうもの」


「ああ、紙装甲だったお前が、あの巨大な大剣で一刀両断されて、あえなくTPK (全滅)ってオチだっただろうな。だが、今の俺たちは違う。対アンデッドに特化した神聖パーティーだ」


「ふふん、任せなさい! 幽霊だろうが鎧だろうが、私の神聖属性が乗った両手剣なら関係なくぶった斬れるわ! いくわよ、挑発スキル発動! こっちよデカブツ! あんたのそのカビ臭い鎧、スクラップにしてあげるわ!」


 ミオの挑発スキルが発動した瞬間、レイス・ナイトの兜の奥で二つの赤い眼光が鋭く光った。


「ゴォォォォォッ!!」


「うわっ、図体に似合わずすっごく速い。滑るようにこっちに向かってきたわよ。しかもあの大剣、私の両手剣より一回りもデカいじゃない」


「ミオ、避けるな! 受け止めろ!」


「言われなくても! 私は動く要塞よ! ふんっ!」


 ガギィィィィィンッ!!


 レイス・ナイトが振り下ろした漆黒の大剣をミオは両手剣の刀身を斜めに構えて正面から受け止めた。火花が散り、強烈な衝撃が石室の床を放射状にひび割らせる。


「くぅぅっ! さすがに重い! グールみたいに弾き飛ばせないわ! でも、ステータス補正のおかげで押し負けてはない! ダメージもゼロよ!」


「よし、最高のブロックだ! ボスの猛攻を完封できてるぞ! そのまま押し返して反撃しろ!」


「オラァァァッ! お返しよ!」


 ミオはレイス・ナイトの大剣を強引に弾き返し、すぐさま剣を横薙ぎに振り抜いた。

 だが、刃が届く直前、レイス・ナイトはふわりと後方へ滑るようにステップを踏み、ミオの渾身の一撃を躱してのけた。


「あっ! 避けられた! ただの力任せのモンスターじゃないわ、あいつ、ちゃんと剣技の型を持ってる」


「腐っても騎士(ナイト)ってことか。戦闘ルーチンが雑魚とは根本的に違う。大振りの攻撃は簡単に見切られるぞ! これじゃ俺がメイスを持って前に出ても、足手まといになるだけだな」


「えっ!? ちょっとナオト、二人で一緒に殴るんじゃなかったの!? なんでメイス下ろしてるのよ!」


「冷静に状況を分析した結果だ。あのボスの洗練された剣技とステップを見てみろ。俺の筋力と素早さじゃ、どう足掻いたってメイスを当てることはできない。無駄に前に出てカウンターを食らうくらいなら、後方に引っ込んだ方がマシだ」


「そんなぁ! さっきまでメイス振り回してヤル気満々だったのに、結局サポートに戻るの!?」


「これも戦術だ! 方針を変更する。この戦いではお前の前衛としての実力を極限まで伸ばすことに特化する。ミオ、これからはスタミナの残量を一切気にするな。お前の好きなように思い切り両手剣を振り回せ」


「え!? でもさっき、大振りは見切られるって……それに、そんな無茶苦茶に剣を振り回したら、あっという間にスタミナゲージが枯渇して、ガードブレイクしちゃうわよ!」


「その枯渇するスタミナを、俺が回復魔法(ヒール)で全回復させ続ける。お前は疲労という概念を忘れて、延々と敵に斬りかかり続けろ。数撃ちゃそのうち当たる!」


「なにその脳筋すぎる戦法! アンタ、またカンペ見ながらチンタラ詠唱するんでしょ!? 回復が間に合わなかったら私、ボコボコにされちゃうんだけど!」


「俺の適応力を舐めるなよ。さっきから道中で回復(ヒール)を何度も連発したおかげで、この魔法の詠唱テキストだけは完全に頭に叩き込んだ。もう教典なんか見る必要はない!」


「ホントに!? じゃあ、遠慮なくスタミナ使い切るわよ! うおおおおおっ! 連続薙ぎ払い!」


 ミオは防御を捨て、怒涛の連続攻撃へと移行した。

 重厚な両手剣が嵐のように振り回され、石室の空気を切り裂く。レイス・ナイトはミオのスタミナ切れを待つように、冷静にステップで躱し続けていた。

 やがて、ミオの動きが鈍り始める。


「はぁっ、はぁっ! ダメ、やっぱり重装甲で連続攻撃なんて、スタミナが……!」


「慈悲深き光よ、我が祈りに応え、癒しを与え給え! ヒール!」


 ナオトの流れるような暗唱と共に光がミオを包み込む。瞬間、ミオの疲労が吹き飛んだ。


「おおっ!? ホントだ、嘘みたいに体が軽い! スタミナが全回復したわ!」


「カンペなしのショートカット詠唱だ。発動までのタイムラグはほぼゼロ。行けミオ! お前は絶対に疲れない! 絶対に死なない! 俺とお前で、終わりのない永久機関を完成させるんだ!」


「あはははは! 最高じゃない! これならいくら避けられても痛くも痒くもないわ! オラオラオラァッ! 当たるまで振り回してあげるわよ!」


 そこからは暴力的なゴリ押しだった。

 ミオが限界まで剣を振り回し、スタミナが尽きるたびにナオトの秒速のヒールが飛んでくる。

 疲労を知らない狂戦士(パラディン)の無限の猛攻に、さしもの洗練されたレイス・ナイトも、徐々にステップのタイミングを狂わされ始めていた。


「ナオト! あいつ、段々回避の動きが雑になってきてるわ! 私の剣が鎧を掠り始めた!」


「終わりのない猛攻に処理が追いつかなくなってきたんだ。アンデッドといえど、絶え間なく防御と回避を強要されれば、モーションのディレイが蓄積していく。お前が押し勝ってる証拠だ」


「なるほどね! あっ!」


 激しい打ち合いの中、ミオの脳裏に勇者ジークとの特訓の記憶がフラッシュバックした。


『――いいか、どんな達人であっても、攻撃の初動には必ず息継ぎの瞬間がある。お前はその一瞬の淀みを見切るんだ』


「息継ぎ……。呼吸のないアンデッドでも、モーションの隙が、まるで息を吸い込むような淀みとして現れてる! 見える! あいつの次の攻撃の起点がハッキリと分かるわ!」


「ジークの教えが、ここで活きたか。なら、決定的なカウンター(クリティカル)を決めてみろ! ミオ、パラディンの最強攻撃スキルを準備するんだ!」


「言われなくても! 私とナオトの永久機関の総仕上げよ!」


 レイス・ナイトが痺れを切らしたように大剣を上段に大きく振りかぶった。

 完璧な剣技のフォーム。しかし、その初動には猛攻によって蓄積された、ほんの数秒の淀みが生じていた。


「そこっ! 出鼻を挫かせてもらうわ!」


 レイス・ナイトの大剣が振り下ろされるよりも早く。

 ミオは踏み込み、下から上へと、渾身の力で剣を振り上げた。


「お別れよ、デカブツ! 神聖なる一撃ディヴァイン・スマイト!!」


 ミオが叫んだ瞬間、両手剣の刀身から、ターン・アンデッドにも匹敵する神聖属性の光が爆発的に噴き出した。

 圧倒的な光の刃が、レイス・ナイトの漆黒の大剣を真っ二つにへし折る。

 そしてそのままの勢いで、物理無効の幽体ごと、分厚い金属鎧を深々と一刀両断に叩き斬った。


「ガ、アアァァァァァッ……!!」


 断末魔の叫びと共にレイス・ナイトの巨体が真っ白な浄化の炎に包まれ、ボロボロと崩れ落ちていく。

 やがて、金属鎧が乾いた音を立てて石室の床に散らばり、強大な中ボスは塵となって消滅した。


「……ふぅ。やったわ。見事に真っ二つよ」


「完璧なカウンターだった。お前がヘイトを固定し、俺が回復でスタミナを供給する。急造ビルドとはいえ、俺たち二人の連携=永久機関は、中ボス相手でも通用することが証明されたな」


「ええ! ジークに教わった息継ぎを見切るコツも、完全に私のものになったわ! これでヴァルドレッドにも勝てる気がしてきた!」


 勝利の余韻の中、二人はハイタッチを交わした。

 最深部のボスを討伐し、第4地下墓地の完全な浄化に成功した彼らの顔には、かつての底辺冒険者の面影は微塵もなく、確かな自信に満ちた一流のプレイヤーの輝きが宿っていた。

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