第113話 ミオの防御盾と、暴力的な浄化
「せいっ! はぁぁぁっ、粉砕よ!」
ズバァァァンッ!!
ミオが横薙ぎに振り抜いた両手剣が、迫り来る三体のスケルトンをまとめて粉砕した。乾いた音と共に骨の破片が通路に散らばる。
「今のスイング、どうかしら? 最初の頃は剣の重さに振り回されてたけど、もう完全にコントロールできてるわ!」
「ああ、見事なもんだ。聖戦士の動きが体に馴染んできたな。大振りの後の隙も小さくなったし、敵のヘイトを集める位置取りも、見違えるように安定してきた。ピョンピョン飛び回ってた回避盾の頃とは盤面の安定感が段違いだ」
「ふふん、伊達に死に戻りしてないわよ! 両手剣の重心移動のコツさえ掴めば、あとは振るだけで勝手に骨が砕けていくんだもの。物理でゴリ押すのって、やっぱり気持ちいいわ!」
「お前の好戦的な笑顔は聖戦士のロールプレイには見えないがな。どちらかといえば、血に飢えた狂戦士のそれだ」
「失礼ね。私は慈愛に満ちた聖戦士よ。ほら、このミスリル銀の聖鎧の輝きを見てよ。どこからどう見ても正義の味方じゃない」
「見た目だけはな。そういえばミオ、お前が前衛でヘイトを稼いでくれているおかげで、俺の立ち回りもかなり楽になったぞ」
「そういえばナオト、スケルトンの頭をカチ割るの、手際よくなってるわね。クレリックのくせに前衛でゴリゴリの物理攻撃なんて、なんだか違和感あるんだけど。普通は後ろの方で杖を構えてるものじゃないの?」
「これはクレリックの正しい姿の一つなんだよ。純粋な後衛職と違って、中装鎧を着込み、前線で盾や鈍器を振り回しつつ、ゼロ距離で回復やバフを撒く。お高いチェインメイルのおかげで、スケルトンの錆びた剣くらいなら余裕で弾けるしな」
「そうなんだ。回復役が前線に並び立ってくれると、壁役の私としてもすっごく安心感があるわ。錬金術師の時は、いつ私の真横で爆弾を誤爆させるかヒヤヒヤしてたし」
「人聞きの悪いことを言うな。あれは環境を利用した正当なシステムハックだ。まあ、今回は知力を捨てて信仰心に極振りしたから、爆弾は使わないがな。その代わり、このメイスの神聖属性ダメージが、アンデッドの骨には特効で入る仕様だ」
「最高じゃない! で、私のチュートリアルはもうバッチリだと思うんだけど、次はどうするの?」
「ああ、お前がヘイトを固定できるようになったなら、次は俺の支援魔法のテストだ。メイスで殴るだけじゃ、いずれジリ貧になるからな」
「エセ神父様のお祈りの時間ね。いいわよ、次はどんな敵が来ても、私がガッチリ引きつけてあげる」
「言うようになったな。おっと、さっそく次のお客さんのお出ましだぞ。パッシブの索敵スキルが反応した」
青白い燐光の向こうから、ペタペタと湿った不気味な足音が近づいてくる。現れたのは、カビ臭いゴムのような皮膚を持ち、犬に似た醜悪な顔を歪めた食屍鬼の群れだった。
「うわぁっ、気持ち悪い! 次は肉付きね。人間の死肉を食らうモンスターだわ」
「スケルトンの鈍重さとは比較にならない奴らだ。獣みたいに深い前傾姿勢で素早く這い回ってるぞ。これぞ定番モンスターって感じの醜悪さだな」
「あの振り上げてる爪、絶対に毒がありそう。紫の液がポタポタ滴ってるもの。いくらダメージがないって言っても、あのベトベトの液が新しい鎧につくのはすっごく嫌。やっぱり一回後ろに下がって避け……」
「身勝手な泣き言を漏らすな。お前が前線から下がったら、タゲが俺のところに飛んでくるんだぞ。いくら鎧を着てるとはいえ、俺はHPの低いサポーターなんだ。囲まれたら袋叩きにされる」
「だってぇ。あんなカビ臭い犬みたいな顔が群がってくるの、生理的にキツいのよ」
「パラディンとしての戦い方を身につけるんだろ。腹を括ってその場に立ち続けろ。お前が壁にならないでどうする!?」
「うぐっ……。わ、分かってるわよ。でも、あちこち這い回っててマトが絞れないわ。 どうやって全部の気を引けばいいのよ?」
「システムに頼れ。パラディンのヘイト管理スキル、神罰の標的を使うんだ。範囲内の敵の敵対心を強制的に自分へ固定するシステムコマンドだよ。ロールプレイを兼ねて、システムが挑発行動と認識するセリフを叫べば発動するはずだ」
「ロールプレイ込みのコマンドね。オッケー、やってみる! ええっと……不浄なる化け物ども! 私のお肉はすっごく硬くて不味いから、かじってみなさいよ! 神罰の標的!!」
ミオが両手剣を掲げて叫ぶと、彼女の体から黄金色の波動が円状に広がった。
「……挑発のセリフが拙なすぎて神聖さの欠片もないが、効果はあったようだな。波動に触れたグールたちが一斉にピタリと動きを止めたぞ」
「ひゃあっ!? 全部こっち見た! 血走った目で私を睨んでる! 来るっ!」
「一斉に来てるぞ! 避けるなよミオ!」
「避けない! 私は壁! 私は動く要塞よ! 前職で多用してた、パリィのスキルをこの巨大な両手剣の腹で……えいっ!」
ガギィィィンッ!
飛びかかってきたグールの爪を斜めにいなす。たったそれだけの動作で、グールの腕は根本からへし折れ、壁へと無惨に弾き飛ばされた。
「ギャアアアアッ!?」
「えっ? 弾いただけなのにグールがひしゃげたわよ? 骨が折れるすごい音がしたんだけど」
「見事なパリィだ。お前の筋力と両手剣の圧倒的な重量が、防御モーションそのものを強力な物理ダメージに変換してる。これならスタミナを無駄に消費せずに、カウンターだけで敵のHPを削れるぞ」
「すごいすごい! 避けるよりずっと楽じゃない! ほら、次! どこからでも来なさい!」
グシャッ! バキィッ!
「あはははは! 面白いくらい弾けるわ! 毒爪なんてちっとも怖くないわよ! そぉいっ! 隙ありっ、一刀両断!」
「よし、完璧だミオ。ヘイト管理と防御の立ち回りをモノにしてきたじゃないか。これならどんな戦いでもメインタンクとして通用するぞ」
「ふふん! もうグールなんてただのおもちゃよ! ナオト、そっちは準備できた!? 私がいっぱい敵を固めておいてあげたわよ!」
「ああ。お前がタゲを固定してくれたおかげで、こっちの準備も整った。支援魔法のテストの番だ」
「じゃあ早くお祈り済ませなさいよ! ドカンとでっかい神聖魔法、撃っちゃって!」
「慈悲深き光よ……ええっと、我が祈りに応え、迷える魂に浄化の……ああもう、テキストが長くて舌を噛みそうだ。錬金術の時は火薬を投げるだけで0秒発動だったのに」
ナオトはミオの背後で、片手にメイスを提げたまま、もう片方の手で分厚い教典を開き、たどたどしい口調で神聖魔法の詠唱を行っていた。
「ちょっとエセ神父! まさかアンタ、お祈りのセリフ暗記してないわけ!? 本見ながら魔法使ってるの!?」
「クラスチェンジしたばかりの付け焼き刃で、こんな古臭い長台詞を覚えてられるわけないだろ!? 今必死に教典のルビを追ってるんだ! 魔法名だけ叫べばいいシステムじゃなくて、詠唱のテキストを読み上げないと発動しない厄介な仕様なんだよ!」
「戦闘中にカンペ見ながら魔法撃つ教祖様なんて嫌すぎるわよ! カッコつかないじゃない! 片手に鈍器、片手にカンペって、どんな宗教家よ!」
「カッコなんてどうでもいい! 祈りの言葉を最後まで正確に読み上げさえすれば魔法は発動するんだ! ええっと、どこまで読んだっけ……そう、ここだ! 不浄なる呪いを打ち払い、聖なる鉄槌を下し給え」
「おっ、読み終わったわね!」
「よし、祈りのプロセスはすべて完了した。アンデッド退散!」
ナオトがテキストを読み終えた瞬間、彼の体を中心にして目を開けていられないほどの眩い純白の光がドーム状に爆発した。
「うわっ、眩しっ!」
「どうだ? 低レベルのクレリックが使うターン・アンデッドなら、アンデッドに恐怖を与えて一時的に逃走させるか、行動不能にする程度の制圧効果しかないはずだが……」
「……え? うっそ。消えちゃったわよ?」
光が収まった後、ミオの周囲に群がっていたグールたちは悲鳴一つ上げず、音もなく真っ白な塵となって溶けるように消滅していた。
「……マジか。レベル25の信仰心ステータスで放つ範囲浄化魔法。低級アンデッド相手なら、まさかの即死判定になるのか!」
「あはははは! すごーい! ナオト、今の魔法すっごく教祖様っぽくてズルイわよ! 物理ダメージ一切なしで敵が塵になるなんて、チマチマ爆弾投げてた頃よりずっと派手じゃない!」
「ああ……この殲滅力は癖になりそうだ。教典を読み上げる手間を差し引いても、盤面を一瞬で更地にする感覚はたまらないな。これなら敵の大群に放り込まれても一掃できる」
「ふふっ、私の両手剣のパリィと、ナオトのカンペ見ながらの神聖魔法。どっちも実戦で完璧に通用することが証明されたわね!」
「ああ。もうスケルトンもグールも全く怖くないな。この調子で、身のこなしとスキルの効果をさらに確認していくぞ」
「ええ。ガンガン奥へ進んで、地下墓地を片っ端から綺麗にするわ!」
「目指すは最深部の中ボスだ。お宝があれば全部いただいて帰るぞ」




