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ミオとナオトの異世界TRPG冒険譚  作者: かわさきはっく
第10章 聖法国ヴァルドリア・再来編

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第109話 聖都リスポーンと、お尋ね者の帰還

 ミオとナオトは見知らぬ家の軒下で目を覚ました。


「ログイン完了、か。転送座標のズレはないな」


「はぁぁぁっ! 空気が美味しい! 私たち、またオルビスに戻ってこれたのね!」


「全滅によるリスポーンだがな。それにしても懐かしい景色だ。白亜の壁に、整備された石畳。俺たちが貧乏旅行をしていた場所……聖法国ヴァルドリアの聖都か」


「何だか感激よね! 見てナオト、あの屋根の上の風見鶏! 前に私たち、あそこの下で野宿したじゃない! お金がなくて、カチカチの石化パンを半分こしてかじった場所よ!」


「お前の無駄遣いで所持金を全部溶かした直後にな。あの時のひもじさは今でもトラウマとして刻まれているぞ」


「もー、過去の失敗は水に流しましょ! 今の私たちにはお金が山ほどあるんだから! もうパンを半分こするような惨めな生活とはおさらばよ!」


「そうだな。影の倉庫(シャドウ・ポケット)へのアクセスも正常だ。アイテムと資金はいつでも取り出せる。デスペナルティでレベルは25に巻き戻されたが、その分、新しいクラスのスキルポイントとして還元されている」


「新しいクラス……そうだった! 私、もう回避盾じゃないのよね。そのせいかしら、なんだか体がすっごく重いわ」


「お前の新しいクラスは対アンデッドに特化した聖戦士(パラディン)だからな。敏捷ステータスが大幅に下がり、代わりに筋力と耐久にボーナス補正がかかっている。ビキニアーマーの時のような身軽さはもうないぞ」


「うわぁ、本当だ。軽くジャンプしようとしても、足に鉛がついてるみたい! でも……その代わり、なんだかお腹の奥底からすっごい力が湧いてくる気がする! これなら、ちょっとやそっと殴られたくらいじゃ絶対に倒れないわ!」


「それが前衛の壁役(タンク)本来のステータスだ。俺の方も、知力から信仰心へステータスが書き換わっている。神聖魔法使い(クレリック)の初期装備であるこの純白の法衣、どうも肌触りが落ち着かないな。錬金術師の黒いコートの方が性に合っていたんだが」


「似合ってるわよ、エセ神父様! 胡散臭さが三割増しになってるけどね! あ、私も初期装備の簡素なチュニックになってる。やっぱり、強い装備は自分でお金を出して買わないとダメなのね」


「そのためのシティフェイズだ。まずは市場と鍛冶屋通りに向かって、俺たちのレベルにふさわしい最高級の装備を買い漁るぞ」


「やったぁ! 爆買いフェイズ! 私、絶対に可愛くてガチガチに硬い鎧を選ぶんだから! もう、ボスの前で裸になんてならないわよ!」


「ああ、あれは俺も二度とごめんだ。行くぞ、ミオ。俺たちのリベンジへの第一歩だ」


 二人は初期装備の簡素な姿のまま、意気揚々と聖都の大通りへ歩き出した。

 通りには焼きたてのパンの香りが漂い、行き交う人々は平和な表情を浮かべていた。

 死と隣り合わせだった湿地帯とは対極にある、安全地帯の空気がそこにはあった。


「それにしても立派な街並みね。あの中央広場にあるおっきな銅像、前に来た時よりもピカピカに磨かれてない?」


「ああ。前に見た時はただの偉そうな銅像としか思ってなかったが……あれ、よく見たらジークだよな」


「えっ!? 本当だ! あの仏頂面と大剣の構え方、ジークそっくり! 偽物の魔王を倒したバカな勇者だって自虐してたけど、国に銅像が建つくらいすごい人だったのね」


「ジークはヴァルドリア生まれだって言ってたな。教会はジークの功績を女神の加護によるものだとか謳って、プロパガンダに利用しているんだろう」


「女神の加護ねぇ。でもさ、ナオト。女神様って高度な文明化を否定しているんじゃなかったっけ? 古代の機械技術とかを禁忌にしてる割には、この街、石造りの立派な建物ばっかりだし、軍備もすっごくお金かかってるわよね」


「いかにも巨大宗教国家にありがちな、教義と現実の矛盾(ダブルスタンダード)だな。魔物から聖地を守るためとでも理屈をつけて、一部の特権階級だけが富と技術を独占してるんだろ。実際、裏社会の連中の間じゃ、人類を適度な恐怖で縛り付けて信仰を強制するシステムこそが女神の正体だ、なんて、女神=悪神説を唱える異端宗派まで台頭してきてるらしい」


「うわぁ、きな臭い! ファンタジー世界のお約束っていうか、絶対に裏にドロドロした陰謀が隠れてるパターンの国じゃない!」


「まあ、俺たちには関係ないさ。今回はただ、対アンデッド特化の強力な装備と聖水の確保に利用させてもらうだけだ。……ん?」


「どうしたの、ナオト。急に立ち止まって」


「おかしいな。大通りの向こうから衛兵の小隊が真っ直ぐこっちに向かってくる。それも、かなりの殺気を放ちながらだぞ」


「え? 本当だ。槍を構えてるし、なんかみんなすごい怖い顔して……って、あれ? 真っ直ぐ私たちの方を見てない?」


「おい、まさか。エンカウントイベントでも発生したのか? 俺たちはまだ何もしていないはずだぞ」


 ナオトの疑問に答えるように、十人ほどの衛兵たちが二人の周囲をぐるりと取り囲み、鋭い槍の穂先を一斉に突きつけてきた。


「動くな! お前たち、そこから一歩でも動けば容赦なく串刺しにするぞ!」


「ひゃあっ!? な、なんなのよ急に! 私たち何も悪いことしてないわよ!」


「しらばっくれるな! その顔、その背格好、そして生意気そうな口調! 手配書の人相書きと完全に一致しているぞ!」


「手配書? ちょっと待て、人違いじゃないのか。俺たちは今日、この街に着いたばかりのしがない聖戦士(パラディン)神聖魔法使い(クレリック)のパーティーだ」


「嘘をつけ! 職業を偽ろうが、その面は絶対に忘れん! 貴様らはかつて、この国で数々の重犯罪を引き起こし、そのまま国外へ逃亡した特級の要注意人物……ナオトとミオだろ!」


「「……えっ?」」


 衛兵の隊長が懐から一枚の羊皮紙を取り出し、二人の目の前にバンッと突きつけた。

 そこにはナオトとミオの似顔絵と共に『お尋ね者』の文字がデカデカと書かれていた。


「な、なんで私たちの指名手配書が回ってるのよぉぉっ!? 私たち、この国でそんな悪いことしたっけ!?」


「とぼける気か! 貴様らの罪状、ここで一つ残らず読み上げてやろうか! まず第一の罪! 第4地下墓地における、重要文化財の破壊および建造物損壊罪だ!」


「あっ……」


「思い出したか! 地下墓地の清掃依頼を受けた際、あろうことか爆薬を使用して天井の支柱を吹き飛ばし、歴史ある地下墓地に大穴を開けた! その修理費の請求額、金貨4枚と銀貨80枚を支払わずにトンズラしただろうが!」


「ち、違うわよ! あれは巨大骸骨ジャイアント・スケルトンを倒すための正当防衛っていうか、不可抗力だったのよ! わざと壊したわけじゃないわ!」


「言い訳は審問で聞く! さらに第二の罪! 市街地における放火および重度器物損壊罪!」


「うっ……」


「これも忘れたとは言わせんぞ! 幽霊物件の除霊を依頼された際、火の魔法の出力を誤り、屋敷を全焼させたな! 大家は泡を吹いて倒れ、近隣住民はパニックになったんだぞ! あの時の損害賠償から逃れるため、貴様らは夜逃げ同然で街を去ったな!」


「だ、だからあれは! お婆ちゃんの幽霊がナイフやお皿を飛ばしてきて、すごく危なかったから……微調整に失敗しただけで……」


「ミオ、黙ってろ。墓穴を掘ってるぞ」


「さらに極めつけの第三の罪! 国家反逆および身分詐称容疑だ!」


「反逆!? いくらなんでもそれは言いがかりだ! 俺たちはそんな大それた陰謀に関わった覚えはない!」


「黙れ! 北の絶対防衛線である城塞都市イージスの検問にて、貴様らは教会の印章を悪用し、聖都の大聖堂より極秘の任務を帯びて派遣された特務調査員だと身分を偽って侵入した! さらには地下水路に未知の病原菌が蔓延しているなどと虚偽の予言を流布し、検問の部隊長を脅迫した罪だ! これは立派な国家への反逆行為である!」


「「あー……」」


 ナオトとミオは顔を見合わせ、同時に目を逸らした。

 完全に事実であった。

 所持金が尽きかけ、野宿を避けるために城塞都市の衛兵に対して、プランC (特務調査員詐称)を実行し、堂々と検問を突破した過去が、まざまざと蘇ってきた。


「ぐうの音も出ないようだな。ずっと行方を追っていたが、まさかノコノコと戻ってくるとは随分と舐められたものだ。総員、この極悪非道な犯罪者二人組を捕縛しろ! 抵抗するなら神の御名において、手足を切り落としても構わん!」


「はっ!」


 チャキッ、と衛兵たちが一斉に槍を突き出し、包囲網をさらに狭めてくる。

 圧倒的な数の暴力。逃げ場はどこにもない。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 手足を切り落とすって本気!? ただのFランクのペーペーだった頃のちょっとしたやらかしじゃない! 時効とかないの!?」


「国家に対する重罪に時効などあるか! 貴様らは一生、教会の地下牢で懺悔することになるのだ!」


「ナオト、どうするの!? このままじゃ、地下牢にぶち込まれちゃう!」


「落ち着けミオ。ここで暴れれば、それこそ本物の国家反逆罪で処刑イベント直行だ。それに、今の俺たちはもう、銀貨数枚で泣いていた貧乏冒険者じゃない」


 ナオトは突きつけられた槍の穂先を前にしても、全く慌てる素振りをみせなかった。

 むしろ、彼は口角を少しだけ上げ、余裕の笑みすら浮かべていた。


「抵抗する気はない。大人しく同行しよう。だが、隊長さん。一つだけ提案があるんだ。聞いてくれないか?」


「提案だと? 犯罪者の戯言に耳を貸すと思うか!」


「いやいや、教会にとっても絶対に損のない話だ。俺たちの罪状……要するに、すべてはお金で解決できる問題だろう?」


「……何?」


「地下墓地の修理費、幽霊屋敷の賠償金、そして特務調査員詐称に対する……深い信仰心と反省の意を示すための多額の寄付金。俺たちはそのすべてを支払う用意がある」


「ふざけるな! 莫大な賠償金を貴様らのような薄汚い冒険者が払えるわけがないだろう!」


「払えるさ。今の俺たちにはどんな理不尽なシステムもハックできる、究極の武器があるからな」


 ナオトは空っぽの両手を広げ、衛兵たちに向かって堂々と宣言した。

 かつての赤字続きの墓荒らしは死んだ。

 今の彼らは豊富なリソースと圧倒的な資本力を持った、真のプレイヤーなのだ。


「連れて行ってくれ。審問官との、楽しい交渉(セッション)の始まりだ」

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