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28.真犯人と消される証拠

場所:リセフィア帝国・オルバイン街、『泥の杯亭』、最上階の部屋

時間:潜入二日目、深夜

シグリッドが部屋に戻ったのは、深夜三時を過ぎた頃だった。窓のない部屋に、可奈が設置した小さなランプの灯りが揺れている。可奈は、シグリッドの帰りを待って、ずっと服を着たまま硬いベッドで身構えていた。

「お兄様!」可奈は跳ね起き、彼の無事を確認した。

シグリッドはフードを脱ぎ捨て、疲労を隠さないまま、部屋の隅の椅子に座り込んだ。彼の快晴の空の様な青い瞳は、暗闇の記憶をそのまま宿しているように鋭かった。

1.偵察結果の報告

「情報は掴んだ。我々が追うべきものが、具体的な組織として動いている」

シグリッドは水を一気に飲み干すと、可奈の目を見て、静かに、しかし決然と告げた。

「公証人組合の最上階で、君の噂にあった**『妙な魔術師』**が活動していた。そして、彼らが何をしているのかも判明した」

可奈は、息を詰めて次の言葉を待った。

「彼らは、幻惑系の魔術を使って、王室派の商人たちの資産関連書類を改竄し、**『合法的な手続き』**で差し押さえを行っていた。公爵家は、王太子殺害の混乱に乗じて、王室の経済基盤を完全に潰そうとしている」

可奈は愕然とした。「やっぱり、公爵家が…」

「それだけではない」シグリッドは続けた。

「その魔術師の隣には、昼間私を追ってきた実行部隊のリーダーがいた。そして、私は彼らの会話を聞いた。彼らは、改竄作業の最終段階に入っており、作業が終わり次第、ローゼンガルテ王国への**『最終報告』**を行うと話していた」

2.最も重要な情報

シグリッドの声には、初めてかすかな怒りが滲んでいた。

「そして、彼らの真の目的は、王室派の資産を奪うことだけではない。彼らは**『王太子殺害の証拠を完全に消し去る』**ために動いている」

可奈は膝から崩れ落ちそうになった。その言葉は、可奈の冤罪の根拠となる証拠、つまり「真犯人の存在」自体が、オルバイン側によって意図的に抹消されようとしていることを意味していた。

「証拠を消すって…じゃあ、もう時間がないってこと!?」

「その通りだ。公爵家が最終報告を行い、全てが法的に完了すれば、我々が真犯人を突き止めたところで、ローゼンガルテ王国は何もできなくなる。公爵家の工作は、単なる暗殺事件の処理ではない。これは、ローゼンガルテ王国を内側から経済的に崩壊させ、外交的に孤立させるための、宣戦布告だ」

3.次なる行動の決定

シグリッドは立ち上がり、剣の柄に手をかけた。

「我々が行動できる時間は、長くても48時間以内だ。魔術師の作業を止めなければならない。彼らの作業場を潰し、公爵家の工作の証拠を押さえる必要がある」

「どうやって?公証人組合は警備が厳重よ」

シグリッドは、夜のオルバイン街を見下ろした。

「夜間の警備は厳重だが、それは正面と裏口に限る。私が侵入し、魔術師を無力化する。君には、そのための**『陽動』**を頼む」

「陽動?」

「ああ。君は明日、この宿屋を拠点として、街の注意を公証人組合から逸らさなければならない。最も目立ち、最も不審がられる行動をとるんだ。そして、この街で唯一、公爵家が手を出せない場所に、私を誘導する」

シグリッドの目は、獲物を狙う鷹のように鋭く光っていた。

「明日、我々は公証人組合を襲撃する。準備しろ、可奈。これが、我々の最初の、そして最も危険な任務になる」

可奈は、目の前の冷酷な騎士の言葉に、恐怖と、そしてわずかな高揚感を覚えた。ここで引けば、自分の無実は永遠に証明されない。彼女は立ち上がり、強く頷いた。

「分かりました、お兄様。陽動、やってみせるわ」

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