25,その後
シルス様の結婚式は大成功だった。
豪華ではあるが下品でないドレスや、建物の装飾をアルタイル王国から来ていた貴族が気に入ったそうで、今のアルタイル王国の流行になったらしい。
全部アンナ様の好みに合わせただけなのだがと言っていたが関係ない。流行は流行。国外からの顧客が増え、輸出することで経済的にも黒字だそうだ。
前王の時は数年に一度は大赤字を出していたが、王族同士の仲が良いと話し合いも円滑に進むとのこと。
アルタイル王国の前王はグランドル王国が嫌いだったためびっくりするくらい高い関税をかけていたのが赤字を出す原因だったということだ。
日米和親条約異世界版みたいな。昔は領事裁判権もなかったし関税自主権もほぼなかったので最早同じと言っても差し支えないだろう。どこの世界でも不平等を強いる奴はいるものだ。
改めて、両国のトップが変わって良かったとしみじみ思う。が、しみじみしている暇はない。シルス様は多忙を極め、いつメンでのお茶会も中々難しいものとなったし私も進級して父さまの仕事の半分くらいは引き継いだ。
毎日のように転移陣で辺境伯邸に帰って仕事。ゼリーを掻き込みながらキーボードに向かう社畜はこんな感じなのだろうかと。
そして父さまはよくこの量をこなしていたなと感心する。単に私の要領が悪いだけだろうか。エルシーも週末は手伝ってくれるが平日はそうもいかない。
世の嫡子達は皆これをこなしているのか。凄いな。シルス様も王太子時代から「今日死ぬかもしらん…みんな…後は任せた……」などといったことを繰り返していたからな。
今思うとこの世界頭おかしくないか。だって長男長女は特にだけどこの世界の人達って幼稚園児くらいから家のこととか政治のことを教わるんだよ。
前世では考えられないくらい。遊びたい気持ちとかサボりたい気持ちとか全部押し殺して家のため、国のために生きて死ぬ。
ブラック労働万歳な制度。絶対王政の弊害か。
「リーゼ」
「わあ、エルシー」
「明日は休日だから、早めに来ちゃった。半分やるよ」
「ありがとう…」
早めに来てくれたエルシーに書類を渡して再び意識はこんにちは。生徒会のエルシーを見ていても思ったけど、やっぱり仕事が早い。
速読技術が高いので間違えることもないし、逆に一瞬で間違いを訂正してしまう。万年牛歩の進捗な私には到底できない。
「ふぅ…一旦休憩。食後にもう一度やろう」
エルシーはそう言って私の手を引いた。これは私が仕事が終わらないからと徹夜を繰り返していることを知ってから毎回ある。
精霊達のお陰で体に異常を感じないので日本人なら過労死するレベルでもピンピンしている。
「シルス兄さんは、精霊を雇ったそうだよ」
「へぇ………精霊!?」
精霊って雇えるものなのだろうか。
「精霊王呼び出して肩が痛いって泣きついたみたいで。普段見ないシルス様を哀れに思ったのか精霊を数人、派遣してくれたらしいよ。
シルス兄さんの感じる体の負担をゼロにする代わりに王宮料理人が作った最高級の食事を提供する、みたいな。王宮料理人も僕の一件があってから若干暇してるっぽいし、人間の王より偉い精霊の王からの命だと言ったら二つ返事で了承してくれたってさ」
「肩凝りかぁ。それは可哀想かも」
前世でも施設の館長さんがえっちらおっちら本を運びつつ、合間に自分の肩をべしべしと叩いているのを見てきたので肩は大事と知っている。まず肩が動かないと腕が動かないしシルス様の判断は正しいだろう。あと腰ね。
シルス様は女性にベタベタと触られるのを異常なまでに嫌悪するからイトのような性格の精霊があてがわれたそうだ。
マッサージをしたり人に見られる時以外はボサボサの髪を整えたりする役目らしい。
正直シルス様のボサボサヘアを見たことがなかったので少しはねているだけだと予想していたが、実際目にしたところ、ちゃんとボサボサだった。
前髪を掻き上げて額に手を当てる癖のせいで前髪は半分オールバックに固定されてたし後ろも絡まっていてこのまま放っておいたら多分鳥の巣になっていただろう。
「ここまで酷かったのか…」
アクア様に私がお願いしてマッサージチェアを作ってもらった。勿論代金はお小遣いから出した。
それをシルス様にあげたいと言ったところ届けてくれるとのことでお願いしたらあの台詞だ。
限界突破中の兄に憐れみの視線を送っていた。
あの椅子に座りながら精霊達の最高級エステを受けながらアンナ様と甘味を口にするのが最近の数少ない楽しみらしい。
うん、激務。シルス様今23歳。日本で言うと新卒くらい。新卒で大企業社長。うん、つら。
精霊がいる限りは禿げないと思うけど…ストレスによるシルス様の髪事情が心配になる今日この頃。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(13歳)
・エルシー・ウォルフラン(16歳)
・アクア・ウォルフラン(20歳)
・シルス・ウォルフラン(23歳)




