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24,サプライズ


 「あーー…緊張する…………」


 式に出る本人よりも緊張しているのは私、エリーゼ・ガーナメント。今友人達に渡すプレゼントを収納にしまい終えたところだ。




 「本人より緊張する客っているんだね」

 「エルシー」

 今日のエルシーはいつもよりフォーマルな格好をしていた。


 そして私はいつもの騎士服。騎士科の制服ではなく、騎士団の正装で動きやすさよりも見た目が重視されている。どうせ学園を卒業したらドレスを着る機会も無くなるし今から慣れておこうということ。

 イトは人間の結婚式について知らないということもある。



 まあ、もともと動きにくいスカートは好んで履きたいと思っていなかったし今までとさして変わらない。スカートを履くのは特別な時だけで良い。その方が特別感もあるし。


 「天使……いや、最早悪魔……?」

 「はいはい、訳の分からないこと言ってないで、行くよ」



 ぶつぶつと呟く私を軽く流すエルシー。私の扱いが段々わかってきたようだ。私がこうして1人の世界に入る時は引き摺って無理矢理動かすのが効果的だ。そしたらそのうち覚醒する。



 私はしっかり転移陣の上で覚醒し、2人の入場曲を演奏するために係の人と最終打ち合わせに行った。知らないのは主役の2人と一部を除く参列者だけ。

 友人達にはちゃんといつ演奏するかなどは話しておいた。曲は伏せて。


 本番が近付くにつれて私の心臓はドキドキのバックバク。もともとピアノを習っていたわけでは無いので人(不特定多数の)前で演奏するのは学園祭が初。その学園祭も生徒とその身内しか来ていない。

 だが今回はどうだろう。 



 王族の、国のトップの結婚式。高位貴族がこれでもかと押し寄せて友好国の貴族が来て、絶対に失敗できない大一番だ。


 自分から言い出したことだけど本番を前にするとやはり緊張でおかしくなりそう。プロのピアニストに尊敬の念を抱く。


 「リーゼ、そろそろだよ。頑張って」

 頬に柔らかい何かが触れる感触とちゅっというリップ音。またこれだ。私の様子が少しでも違うと落ち着かせるためにキスを落としてくれる。

 悪戯っぽく微笑むエルシーに頑張ってくると伝え、ピアノ椅子に座った。



 これ以前は鐘の音しか使われておらず、私がサプライズプレゼントで贈りたいと無理を言ってここ用のピアノを作ってもらっていた。サプライズなのでここでのリハーサルは何もない。


 軽く重さだけ確認してあとは指を温める。テンポが遅いせいでミスタッチが目立ってしまうので。ギリギリまで温める。


 「ガーナメント様、準備はよろしいですか?」

 「はい、大丈夫です」

 「わかりました。では、自分のタイミングで弾き始めてください。弾き始めから5秒後に、入場のアナウンスを流します」


 係の人との会話を終えていざ勝負。


 おっしゃベテラン素人ピアニストの実力、見せたるで!



 私はゆっくりと弾き始めた。もう何度も聴いたメロディーがチャペルに響く。このピアノ、凄く良い音が鳴る。包み込んでくれるような優しい音。

 だからと言って聴き取りにくい音でもない。



 新郎新婦入場のアナウンスが流れ、チャペルの扉がキィと開くのがわかる。人々が思わず漏らす感嘆の息も、聴き覚えのない曲に困惑する新郎新婦も全く見えないけれど空気感でよくわかった。


 困惑しているということは多分親しい人にしかわからない。


 ただ、曲は一切止めない。新郎新婦退場まで弾き続けるのだ。竜王と精霊王が描かれているステンドグラスの前で、2人は一生を誓う。その辺りは声がよく通るようにピアノの音量を少し落とした。



 何度も何度も同じフレーズが出てきては飽きるだろう。でも原曲を長引かせるためにはこういうことをしないといけないのだ。


 我慢して欲しい。まず文句言わんといて。まあ、まだ誰も言ってないけど。



 式は滞りなく進んだ。ここで一度国外貴族へのお披露目が終わり。国内貴族へのお披露目はこの後に王宮にて行われる披露宴でするそうだ。


 この披露宴では国内のほぼ全ての当主夫妻、一部の伯爵家と侯爵家以上の高位貴族の時期当主夫妻が参加することになっている。参加しないのは爵位をお金で買った家とその他下位貴族の時期当主夫妻くらい。




 私も一応次期当主ではあるので出席はする。が、夫予定のエルシーが社交嫌いなのであまり長居はしないと思う。エイ兄さまはフルマックスで出るそうなので女性に言い寄られることを覚悟していた。






 「僕は今からお人形僕は今からお人形僕は今からお人形……」

 とぶつぶつ言い聞かせているところは中々に怖かった。


 最後の方にひっそりと入場する。両親はアナウンスが流れたが私達には流れなかった。コソコソと入場し、後ろの方で完璧にカモフラージュしていたアクア様の隣を陣取る。


 主役の2人を見たい気持ちもあるがどう頑張っても主張の強い御婦人方に揉みくちゃにされてセットした髪やら服やらが崩れてしまうだろうから。美形にかける御婦人の熱量たるや。



 この披露宴では主役2人が最初に踊り、間に各貴族からの挨拶を挟む。そして2曲目から一般参加の私達が踊ることになっている。


 私とエルシーはここで2曲こなしたらそそくさと退散するつもり。アクア様はどうするつもりなのかと聞いたら「婚約者は作りたくないから最悪イリアと踊る」と言っていた。

 この日のためだけにイリア様は女装をしていたそうだ。


 お互いに恋愛感情などは皆無で、だからこそ遠慮なく踊れるそうだ。


 1曲目は拍手喝采で終わった。あの2人のダンスは何度か見てきたけど優雅、美しい、などがよく似合う程の完成度だ。拍手喝采もよくわかる。



 わらわらと、吾先にと高位貴族が挨拶に向かった。因みに私やエルシー、アクア様、イナ様は対象外だそうだ。身内とその家族、婚約者だけは対象から外れるらしい。のでハリス様は友人関係にあるが一応対象内。


 夕方から始まったはずなのに挨拶は卒業式の校長先生の話くらい長丁場になり、漸く2曲目に入る頃にはもう既に月が出ていた。今日は満月。

 あっちの世界よりもはるかに大きな月が中庭をぼんやりと照らしていた。



 「国のトップの披露宴で花嫁よりも月に見惚れる女は後にも先にもお前くらいだな」

 「うぉ、おぉぉ……」


 突然のアクア様に口から心臓が飛び出そうになった。令嬢らしからぬ変な声が出てしまったことは触れないでほしい。



 「外に何かいるの?」

 エルシーが自然な動作で私の手に指を絡めた。これは知っている。恋人繋ぎというやつだ。嬉しいのでそのままで、私は月を見上げた。


 「新月だったら花火を打とうと思ったんですけど、満月なら仕方ないですね」

 残念だが月があるとどちらかが霞む気がする。

 「打てば?」 




 そう言ったアクア様はなんと、月を消した。

 「い、今、何を…?」

 「姿隠しの魔道具を使っただけだ。消しちゃいない。これで好きに上げられるだろ。異世界クオリティの花火も見てみたいしな」


 この世界にも花火はあるが前世よりはどこか寂しい感じがする。色数や形のバリエーションが少なく、大きさも小さい。そのため、正直物足りなかったのだ。


 前世の施設では10歳以上になると複数人であれば子供だけでお祭りを回っても良いことになっていた。

 どんな風に花火が上がっていたかはよく覚えている。そして5歳の時に初めて見た花火にぎゃん泣きしたのも覚えている。音が大きすぎて。あれはビビる。



 自分なりの改善点は幾つかあるので全部反映させた花火を打ち上げよう。

 中庭の目立たないところに連れてこられた私は前世見た大きな花火を思い浮かべて指先から魔力を放出する。 

 

 竜や精霊、国花などなど。上げたいものはたくさんある。


 因みにこの国の国花は青のカーネーション。建国当時の初代国王が国民の幸福を願い、「永遠の幸福」の花言葉を持つ青のカーネーション国花として国旗に取り入れたそうだ。

 日本ではカーネーションといえば赤色で、母の日のイメージがある。


 それはここでも同じだが国花が青なので市場に出回るのは青ばかりで母の日の時期だけ赤が売られると言った感じだ。父の日には普通に青いカーネーションが贈られるらしい。




 色々な属性を組み合わせる。緑属性なら緑色、火属性なら赤色といった感じだ。

 パンッという乾いた音と共に夜空に花が咲いた。地響きのような大きな音ではない、軽い音。


 大広間の大きな窓は開けられて中の貴族達のテンションが上がっているのがわかった。歓声が聞こえてくる。



 「綺麗…!」

 エルシーもその隣のアクア様も少年のように瞳を輝かせていた。やって良かった。


 王宮の窓が開けられたということはシルス様が許可したということ。サプライズプレゼントの重ねがけ。喜んでくれるといいな。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・エリオット・ガーナメント(15歳)

・エルシー・ウォルフラン(15歳)

・アクア・ウォルフラン(19歳)

・シルス・ウォルフラン(22歳)

・アンナ・ガイアス(22歳)

・貴族達

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