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22,ヒロインとの対峙


「全部!あんたが悪いんだから!」




 今いるのは窓の無い資料室。昔の教本や修繕がされていない文献、魔道具や刀などが無造作に置かれている部屋だ。



 冬休み直前のタイミングで騎士科が清掃を行うのだが、処分する物が多すぎて大雑把なレイ様や散らかしの天才だったリスト殿下はゴミ出しに行ってもらい、ハリス様は生徒会室の方に片付けリストを取りに戻っている。最上級生は休み。

 1つ上の先輩方に魔法実習棟の生徒はいないので皆刀の整理や本の手入れなどをしているため換気のできないこの部屋にはいない。



 つまり、この場には自分と、その声の主しかいないということ。


 〈私のせい、とはどういうことでしょうか。シエル・マロー、いや、聖女様でしたっけ〉 



 壁が厚いわけでもないこの部屋。彼女の金切り声は道行く人に丸聞こえだろう。今日は騎士科しかいないけど。


 「あんたのせいで攻略が上手くいかないのよ!このままじゃフレイクスが他の女と結婚しちゃうかもしれないじゃない!」


 〈フレイクス?ああ、フレイクス・アルタイル陛下のことですね。数年前に即位した〉



 「そうよ!私の最推しなの!私は他の攻略対象を全員落としてフレイクスと結婚するのよ!それなのにエリオットは前世靡かないしレイが病む原因のエルシーは死んでないし!パトリックに至ってはどこにもいないし!シルスだってアンナとかいう悪役令嬢と仲が良いのよ!何もかも上手くいかないのは全部あんたのせい!」



 捲し立てるように一気に喋る聖女。この話の中でわかったことは一つ。

 こいつがとんでもないクズだってことだけだ。私の大切な人達を物のように扱う。ゲームだか何だか知らないけど自分のためなら平気で他人を蹴落とし、貶める。クズ以外の何者でもない。クズに失礼というまである。


 私は小さく息を吐いた。悪女の噂をこいつが流したことくらいは今の流れで大体分かるし大して怒りも感じていない。でも、我慢ならない。




 〈高位貴族に敬称を付けないというのは置いておいて、貴女にひとつ言いたい。ここはゲームの中でもなければリセットが効く世界でもない。死ねばそこで終わり。ちゃんと人生がある。貴女が主役の世界じゃない。貴女が何を言おうと私には関係ない。人の人生めちゃくちゃにするなよ〉



 もっともっと言いたいことはある。一度しか会ったことはないけどアルタイル王国のフレイクス陛下は聡明な人。


 こんな頭お花畑の女など跳ね除けるだろう。アンナ様とシルス様も想いあっているし、レイ様とマリー様も。パトリック様はイヴァン様。エイ兄さまこの女だけは選ばない。私を基準にして考える上で反発しすぎるから。



 「うるさいわね!あんたは悪役なんだからすっこんでなさいよ!」


 そう言った聖女は近くに合った魔導具を私に向かって振り上げた。正直この程度で怪我をすることはないし避けられる。が、魔道具を壊したくないので受けることに決めた。



 「エルが暴走する。やめろ」


 振り上げた聖女の腕を掴んだのはレイ様。ゴミ捨てから帰ってくるところで騎士科の後輩に呼ばれたとのことだった。音沙汰無いと思っていたらそういうことかと納得納得。



 「こんなところに置かれるような魔道具は避けろ。それと、シエル・マロー子爵令嬢。聖属性が現れたからといって優遇されているだの偉いだの思っているようだが今のお前は聖女でも何でもない。

 ただ聖属性があるだけの女だ。このことは、兄達にも伝えておこう」




 レイ様が来てくれて良かった。私はお互いの同意のもと、脳筋的な解決しかしてこなかったからこういったことは全くわからない。

 魔道具は壊しちゃいけないということだけしか頭になくて危うくエルシーを傷付けるところだった。




 〈レイ様、ありがとうございます〉

 「わかったなら良い。物より人だからな」

 〈はい〉


 そういったやり取りをしている中、私は壮絶な目眩と格闘していた。急に目の前が歪んで火が付いたように体が熱い。

 気合いと根性で耐えることもできるがそれは許されなかった。ハリス様に抱き抱えられた瞬間、私の意識は吹き飛んだ。



 意識が戻ると懐かしい日本の景色が広がっていて、ああ、これは夢だと自覚する。もし日本で生きていたら私はもう24歳だな、と。


 唯一違うのは、日本の学校で今の友人達が一緒にいるところ。同じ中学で、同じクラスで。

 正直美形がすぎて日本のボロ校舎には全く合わないが夢の中の私は楽しそうだった。現実の自分は置き去りにされているようだ。


 不意にエルシーが此方を向く。バチっと目があったと思ったら次の瞬間には腕を掴まれていた。声は聞こえないけれど、こっちにおいで、そんな風に言われているように感じた。


 でも、怖かった。エルシーがエルシーじゃない。



 掴まれた腕を振り払うとそこには見たことないくらい恐ろしい顔をした友人達がいた。そして次々に私を罵倒し始めた。もう訳がわからない。この夢は何なんだ。人の恐怖につけ込むタイプの妖怪だろうか。


 「……ぜ…リーゼ…。起きて。起きて。僕はここにいるから」






 何処からかそんな声が聞こえる。これだ。エルシーはこっちだ。そっちに行きたい。でも、足が動かない。


 エルシー。エルシー。早くこっちに来て。

 自分を罵倒している友人達を他人事のようにぼんやりと眺めながら心の中で必死にエルシーの名を呼び続ける。


 ずぷん、と足が沈んだ。底なし沼に向かって足を引っ張られてるようにそこから抜け出せない。

 「リーゼ、起きて。大丈夫、大丈夫」



 優しい声に従うように私の体は沈んでいった。そこは凄く暖かかった。


 「エ…ルシー……?」

 


 どこか掠れたような声が聞こえた。そして声の主が自分だと気付き、驚く。

 声はあの時失ったはずなのに。それは私の側に付いていたエルシーも同じようで落ちそうなくらいに目を見開いていた。



 「こえ…こえが………」

 私が目を覚ましたことよりも、私が声を出したことに驚きを隠せないエルシー。

 「あーーー………………でる、こえ、でる」


 少しの戸惑いと感動が入り混じった感情がある。ぼーっとしていた中、先に現実に戻ってきたのはエルシーだった。


 「エリを、呼んでくるね」

 エイ兄さまは医師達を引き連れていた。王宮直属の医師をシルス様が付けてくれたらしい。



 体に異常は無く、魔法関係かと連れられてきたアクア様曰く、魔力暴走だと。何がどうなって暴走したかわからない。暫く全身くまなく調べられ、わかったことは一つ。


 「聖属性だな。これは」

 魔力属性を瞬時に測定してくれる魔道具を手で遊ばせてアクア様が言い切った。

 「うそ…」

 「本当だ」

 「え、じゃあ聖女はどうなったんですか」



 聖女は2人も現れないはずだ。そこに例外はなかったはず。

 「聖女?ああ。あの女…。牢に入れてから調べたが、確認は出来なかった。あの日はあったが今はもうない」


 ないというのは聖属性のことだろう。属性が無くなるなんてことがあるのかと。そう思うが私に出ている時点で無くなったと判断するのも妥当だ。

 うんうん唸っていると、あることに気付いてしまった。私が声を失ったきっかけって何だっけ、と。


 「キース、ヒスイ…!」

 そう、私が声を失ったのはキースとヒスイを助けたから。その声が戻ったとなると2人はーー



 「どうした」

 「呼んだ?」

 私の予想に反し、2人共元気そうだった。

 「なん、なんで…わたし、こえ………」

 「うーん、その辺よくわかんないんだけどなんか元気。精霊達も皆ピンピンしてるよ」


 ひとまずは安心。

 「声が戻ったってことは……一瞬だけ仮面、外せる?」

 「?うん」


 エルシーの言う通りに仮面を外し、久しぶりの景色を楽しむ。

 「あの、変な模様もない」

 「聖属性が移ったことによる反動なのかわからないが、魔道具にも反応しないし呪いは解けたと言っても良いな」


 アクア様がまた別の魔道具を出して私に翳す。この人は一体幾つ作っているのだろうか。それにしても、全属性とはまた。チートっすなぁ。


 「とにかく、無事で良かった。体調に変化があれば教えてくれ。それじゃ、エル、あとはよろしく」

 「僕もリーゼの無事な姿見れたし事後処理やら何やらってやってくるよ」

 「俺らも消えるぞ、キース」

 「はーい」




 そして、広い部屋には私とエルシーが残された。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・エリオット・ガーナメント(15歳)

・エルシー・ウォルフラン(15歳)

・レイ・ウォルフラン(15歳)

・アクア・ウォルフラン(19歳)

・ハリス・ゴッドソン(12歳)

・キース

・ヒスイ

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