20,再び集合
大盛況の中、学園祭は幕を閉じ、再びいつもの日常が戻ってきた。と、なるわけもなく、私達の話題はあの手紙のこと。日本語で、私宛に書かれた。
毎度の如く、王宮の別館に向かった。やはりあそこは警備がザルなだけあって人がいない。そのため盗聴対策さえしていれば問題ない。
応接間でいつメン+イナ様、ハリス様、イリア様で待機。多忙を極めるシルス様とアンナ様をひたすら待つこと5時間半。現在時刻は夜10時。
「お待たせぇ〜」
大きな欠伸と共にシルス様入室。その後ろからアンナ様。
「お忙しいところ申し訳ございません」
エイ兄さまのその形式ばった挨拶を軽くいなし、空いていたソファーにどかっと座った。そして私をガン見。
〈本当は夜遅くの甘味は体によくないですが、特別ですよ〉
すかさずパフェをどうぞする。
「やったぁ」
とても王とは思えない、威厳の欠片もない食べっぷり。トッピングのフルーツをアンナ様とシェアすることも忘れない。やはり、疲れた王には甘味に限る。
「それで、聖女からの手紙だっけ。これ、読んでみたんだけど僕でも読めないよ。他国の言葉も勉強したし追加で古語もやってたけど全然。お手上げ状態。エリーゼちゃんだけに読めるっぽい」
降伏したように両手を上げたシルス様は私に手紙を戻した。
この人達に嫌われたくない。でも、今誤魔化して後悔したくない。後で責められるより、今粉々にされた方がマシか。私は大人しく白状した。
〈信じられないと思いますが私には前世の記憶というものがあります。エリーゼとしてこちらに生まれる前、私はこことは違う、別の世界で一度死に、辺境伯の娘として転生したのです。この手紙の文字は私が前世で当たり前のように使っていたものになります〉
拒絶覚悟、一生に一度の大告白。
皆、私の告白に言葉を失っている。そりゃそうだ。今までのエリーゼ・ガーナメントは全くの別人。生まれた時からエリーゼはエリーゼじゃない。エリーゼの皮を被った別人。
「リーゼは、凄いね」
沈黙を破ったのはエルシー。否定されて当然だと思って身構えていた私にとって、予想外の反応だった。そのままエルシーは私の目の前に来て包み込むように私の両頬に掌を当てた。
「同じ世界同士じゃなくて、違う所から来たわけだから全然わからないことも多かっただろうし前の世界と比べちゃうこともあったんじゃない?」
エルシーの言葉に頷く。竜とか、精霊とか、地球上では多くの人が信じていないような存在に加えて、自然災害より危険だと言われている魔物の存在、魔法の存在、上下関係がはっきりしている社会制度、働き始める年齢や婚姻、全部日本とは違うことだらけだった。生まれた時からそうなのだから慣れるだけで必死。自ら望んだ世界でも、大変じゃないわけがない。
他の貴族から軽んじられることのないよういつメン以外がいる場合の発言内容には細心の注意を払うし、強くなるためなら何だってした。
「僕は全然わかんなかった。リーゼはあまり悩みとか顔にも口にも出さないタイプだからさ。そこが凄いんだけど…まあ、もう少し、頼れる男になるよ。リーゼに頼ってもらえるような」
「そうだねぇ。まだ完全に飲み込めたわけじゃないけど、エリーゼちゃんが僕らと、この国のことを想ってくれてるのは知ってるし、何よりエリーゼちゃんが来てくれたからエルは助かったようなもの。皆、感謝してるよ」
「典型的な貴族令嬢とは少し違うなって思ってはいたけどそういうことだったんだね」
「そうだな。エリーゼ・ガーナメント辺境伯令嬢が、お前で良かった」
否定されることも覚悟していただけあって皆の言葉には少し驚いたけど、嬉しかった。
〈私に出会ってくれて、友達になってくれて、ありがとう〉
視界が滲んでいく中、光文字で心からお礼を言った。
最初に私を抱きしめたのは、目の前にいるエルシーだった。その上からエイ兄さま、マリー様、アンナ様と続く。男性陣は気を遣ったのか何なのかわからないが少し後ろで私達を優しく見ていた。
暫く団子のように抱きしめあっていた私達だが手紙を思い出してはっと我に返った。
怖がる内の自分を鼓舞し、意を決して読み上げる。大丈夫、この人達なら受け入れてくれる。そう言い聞かせて。読んだ内容はこの通り。
『ねえ、あなた転生者よね。あなたが悪役やらないせいで乙女ゲームの物語が変わっちゃったじゃない!私はヒロインなの!幸せになるべきなの!あんたは聖女をいじめた罪で島流しにされて野垂れ死ぬ運命なの!勝手に変えないでちょうだい!それに何で第五王子が生きてるのよ、9歳とかで死んだはずでしょ!私は隠れ攻略対象のフレイクスの妃になるの!王太子妃のアンナを断罪してシルス達も攻略しないといけないのに邪魔しないでよ!』
余りにも身勝手だ。ここはゲームの中でも、物語の中でもない。現実の世界だ。しかも私が死ぬ運命だとかアンナ様を断罪するとかエルシーは死んでるはずだ、とか意味がわからない。
「これは、どういう意味だろうね。僕がアンナを手放すことは絶対にあり得ないしエルが死ぬはずとかそれも意味がわからない。とにかく終始意味不明だよ」
「はい、それに、リーゼが島流しで野垂れ死ぬとか何を根拠にそんなことを。リーゼなら泳いででも帰って来そうですが。聖女にいじめを行うメリットもありませんし」
「まず前提として、何故攻略だの妃だのという話になっているのでしょうね。攻略と言えば、冒険者が入るダンジョンを思い浮かべますが、多分違いますよね」
「エリーゼ様は攻略対象や乙女ゲームという単語に心当たりはありませんか?」
イヴァン様からの問いに私は考えた。スーパーに行く道には機械系のお店が並んでいた。その中の広告で、乙女ゲームとやらの宣伝がされていたような…。
〈私はお金がなかったのでその手のものはやっていませんでしたが、広告でちらっと見たことはあります。1人の少女が複数人の高位貴族の男性と恋愛をして、悪を倒すというものが多かったかと…〉
自分で言って思う。めちゃくちゃじゃないか、と。
「男好きということか。エリーゼちゃんの評判を下げたのも彼女かなぁ。あーあ。聖女がエリーゼちゃんみたいな子だったら良かったのに」
頬杖をついて面倒そうに呟いたシルス様に申し訳なさが募る。面倒事に巻き込んですみませんと心の中で土下座。
「こんな性格ならいずれ見放されるでしょうし、そうなれば新たに聖女が出るでしょう。それに賭けるしかありませんね」
と、エイ兄さま。
「気持ち悪いな、この女」
「リーゼがいるのに僕が死ぬわけない。馬鹿なのかな、この女」
「私は彼女に断罪されるようなことはしていませんが、どこに目が付いているのでしょうね」
ボロクソ言われている。
私も同じことを思っている。こんな内容、この国の文字で書けば終わりだ。だから日本語で書いたのだろうが、まあ無駄だ。私には頼れる友人が沢山いるんだから。しかも国の最高峰の身分の。
「少し様子を見るか。実害はまだ出ていないが、アンナには今までのにプラスしてあともう数人、護衛を付けさせてもらうよ。で、エリーゼちゃんはどうする?もう改良版ブレスレットはあるようだけど護衛必要?」
シルス様の問いに首を振る。
〈キースとヒスイに勝る護衛はいませんから〉
「じゃあ、今回も1人になったら駄目だからね。異様な光景になるだろうけど騎士科全員で行動しても良いくらいだ。エリーゼちゃんは自分より弱い民間人には手加減する癖があるでしょ?それで身柄を奪われたらこっちとしてもたまったもんじゃない。エルが犯罪に手を染めかねない。エルのためにも集団の中にいること。良いね?」
〈わかりました〉
エルシーが犯罪に手を染めるというのは大袈裟でも何でもないと思う。エルシーなら、私のことが大好きなエルシーなら、冷静さを欠いて攻撃的な手段を選びかねない。そうすれば、過失はエルシーにもあることになる。それは避けたい。素直に頷いた。
「シルス兄さんは、僕を何だと思っているんですか。僕だって突然飛び出したりしませんよ」
「それは、今だから言えるんじゃない?いざとなればエルは確実に1人で飛び込む。お前がどれだけエリーゼちゃんが好きかは側で見てきたんだからわかってる」
「それなら………エリ」
エルシーが眉をキリリと上げてエイ兄さまの名前を呼ぶ。
「僕が、間違えそうになったら、手足縛って猿履してでも窓のない部屋に僕を閉じ込めてほしい」
「わかった。気絶させてでも止める。蚊帳の外が嫌なら絶対冷静を欠くなよ」
「うん」
エルシーは静かに頷き、その日の話し合いは終わった。現在時刻午前2時45分。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(12歳)
・エリオット・ガーナメント(15歳)
・エルシー・ウォルフラン(15歳)
・レイ・ウォルフラン(15歳)
・アクア・ウォルフラン(19歳)
・シルス・ウォルフラン(22歳)
・マリー・エバネン(15歳)
・イナ・ガイアス(12歳)
・アンナ・ガイアス(22歳)
・イリア・アルスフィールド(16歳)
・ハリス・ゴッドソン(12歳)
・イヴァン(22歳)
・パトリック(20歳)




