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18,大目玉  


 「リーゼ!」


 控え室での着替えを終えて扉を開けた瞬間、待っていましたとばかりにエルシーが飛びついてきた。もしも声が出せたなら、「ぐぇ」と令嬢に似つかわしくない潰れた何かの呻めき声が出ていただろう。それくらいの勢いがあった。



 「すっごい感動した!ちょっと泣きそうになっちゃった」

 締め殺す気かと思う程のハグから解放され、そんなことを言われる。


 〈ありがとう。エルシー達といっぱい遊んだこととか思い出しながら弾いたんだよ〉



 私がそう言うと、エルシーは本当に幸せそうに微笑んだ。この笑顔を見る度に思う。あのままエルシーが服毒死していなくて良かった、と。


 「めちゃくちゃテンション上がってるとこ申し訳ないけど僕らは生徒会の宿命には抗えないからね。ほら、リーゼが戻る時間無くなっちゃうから行くよ」




 「やだぁぁぁぁぁぁぁ」


 首根っこ掴まれて引き摺られていくエルシー。生徒会の宿命。それはつまりミスコン、そしてミスターコンへの参加。私がさっきまで演奏していた劇場で行われる。


 私が知っている生徒会メンバーではマリー様、イリア様、レイ様、イナ様、エルシー、エイ兄さまが出る。生徒会メンバー以外だと、婚約者のいない年頃の令嬢が自分をアピールするために参加するようだ。


 特にエイ兄さまとイリア様。

 イナ様は候補がいないわけではないそうだが、貴族令嬢嫌いだ。



 私に対して尻尾を振りまくっていたのは剣の腕を認めてもらえたということ。

 マリー様や魔法実習棟の女生徒に関してはそこまで嫌悪していないようだがそれ以外は全然駄目。典型的な貴族令嬢というものが嫌らしい。


 魔法実習棟の在籍は義務というわけでもないので貴族の令嬢でありながら社交よりも魔法を選んだのだという理由で拒絶していない。


 時折り彼女達から熱っぽい視線を向けられるそうだがそんな時は大体魔道具の実験台にされる時らしい。自分の興味のある魔法のためなら現王妃の弟でもある公爵令息を人とも思わず精神。


 消えていく2人に手を振って一度外に出た。


 外はまるで前世の夏祭りのように人で埋め尽くされていた。流石貴族から平民まで通う学校だ。人数が桁違い。劇場が東京ドームレベルで広い理由がよくわかる。



 私の知り合いのほとんどは生徒会メンバーなので1人だなあと後ろの方に身を寄せる。予定だった。

 「お前はこっちだろ」

 低い声が降ってきた。


 〈パトリック様〉

 「アクアとイヴァンも3階の特別席にいる。お前も連れて来いとのことだ」

 〈あ、はい〉



 私は大人しく特別席に向かった。特別席は王族の配偶者やその婚約者、そして護衛のみが許可された、文字通り特別な身分の人以外は立ち入り禁止の区域だ。


 私も一応その1人なので入場は許可されているが、如何せん難易度が高い。席までの距離が遠いのだ。この人混みの中3階席に行くこと自体難しいのにその更に奥にある個室式の特別席に行くなどほぼ不可能だ。



 されるがままに手を引かれ、あれよあれよと言う間に特別席に。最早特殊技能だ。


 身長が低い私が一番手前に座った。その隣がアクア様、後ろがパトリック様とイヴァン様だ。


 2人共、平民騎士ではあるが、平民とはほとんど名ばかり。街に出てお店に入れば王侯貴族として対応されるし身につけている衣服も騎士団幹部服と一級品の服。


 この特別席への入場権もある。平民騎士になったことも知っている人はごく僅か。それなので誰にも疑問に思われず、3階に行くことができた。



 と、そんなことを考えていると女生徒達が登壇していた。素朴ではあるが上品なワンピースを着ている人、プリンセス風の装飾がされたフリフリのドレスを着ている人、男装麗人、魔術師服などなど様々。

 因みに魔術師団への受験資格は12歳以上、学園入学と同時だ。マリー様も魔法科で魔術師団試験に合格しているので今日は魔術師服。曰く、手抜きだそう。



 今出てきた生徒の中から3人まで投票することができる。その票の数で勝敗が決まる。生徒会メンバーと魔法科や騎士科などの特殊科に在籍している生徒にはファンが多い。


 そのため優勝はほぼ確実に決まっている。去年一昨年と優勝したマリー様は今年の優勝筆頭候補。クールでカッコいいと女性からの評判も良い。恐らく今年も優勝するだろう。



 私も当たり前のように、マリー様に投票した。後の2人は商家の少女と異国風の服を着ていた少女に。その異国風の服といえば日本だとインド系を思い浮かべる人が多いと思うが、彼女が着ていたのは日本の伝統的な着物。



 当然私は大歓喜。まさかここで自分以外に和服を着てくれる人がいるなんて思ってもいなかった。1人に対して1票しか入れられないのが憎い。

 1万は最低でも入れたいところだ。聖女も出ていたがあの変な手紙を送ってきたこともあって全く靡かなかった。



 やっぱり和服には黒髪が似合う。今世の私は真っ白。前世でもお婆ちゃんとかが着ている印象があったがやっぱり黒髪は捨て難い。彼女、あまりにも似合いすぎている。



 私の大興奮で終わったミスコンだがまだもう1つある。ミスコンに出た女生徒達はこれからフリーの男性から声をかけられるだろう。

 保護者含めて女性は皆楽しみにしていたであろうミスターコン開始だ。



 男性陣は婚約者がいる生徒の手抜き感が半端なかった。私服、騎士服、魔術師服、などなど既存の物をさっと着ただけ。それだけでもずば抜けて綺麗な人が多い。 


 エルシーは絶対に目立ちたくないと言って王都の大型図書館に行く時に着ていた秋コーデという感じだった。茶色や橙など温かみのある色を基調とした服に丸眼鏡をかけている。昔から眼鏡だったがこれも印象が変わって良い。



 私を見つけたエルシーは少しはにかんで小さく手を振った。私はもう瀕死だ。辛うじて手は振り返したが。


 エルシーは髪が茶色だから秋コーデがよく似合っている。他にこんな人いないから多分一番目立ってる。ただ、田舎の緩いイケメン感があるエルシーと王都の圧倒的美形達では数の暴力で何とでもなる。目立ってはいるが、そこまで叫ばれてはいなかった。皆人気だったが中でも執事役として出ていた人達の人気度は凄まじかった。



 エイ兄さまも、イリア様も。そして留学生のリスト殿下、執事役ではなかったものの、ハリス様も美形のフリーだ。そして皆地位も高い。エイ兄さまと結婚すれば伯爵夫人、ハリス様なら侯爵夫人、リスト殿下にいたっては王族だ。



 ほうとため息が漏れているのがよく聞こえる。私は友人達のご尊顔に眩暈がしていたのでため息を漏らす暇もない。


 今回のミスターコン、泥試合になりそうな予感がひしひしと。

 シルス様とパトリック様、アクア様は2、3歳しか変わらない。そのため同じ年に同じミスターコンに出たらしいがその時も泥試合だったそうだ。学生時代の3人を思い浮かべて勝手に納得する。エルシーとエイ兄さまには上位に入って欲しいけどエルシーをこれ以上見せたくない気持ちもある。



 とにかくあのエルシーを一刻も早く独り占めしたい。

 「エリーゼ、あの服、お前と揃いで用意した物か?」

 瀕死の私にアクア様が問う。

 〈はい、図書館デート用に〉


 文字でしか会話ができないというのは時に利点になる。それが今だ。まともに呂律が廻らない今こそ文字は役に立つ。



 「図書館?ああ、そういえばエルがそんなことを言っていたな」

 私達が不定期に行く図書館デート。学者が書いた論文から娯楽本まで様々揃っている王立図書館。入るのも借りるのも無料なので平民からの人気が高い。

 前世の図書館と全く一緒だ。違う点と言えば、王族であるエルシーや王都伯爵のエイ兄さまが立ち寄ることが多いところだろう。平民を必要以上に萎縮させないように、図書館デート用の服を仕立てたのだ。


 魔法実習は得意だが魔法学と呼ばれる座学教科が壊滅的で、よく教えてもらっていた。当時を思い出してニマニマしているうちに、全員舞台袖へと消えていった。


 ボケっとしていたので誰に入れたかはっきり覚えていないがエルシーとエイ兄さまには確定で入れたはず。3人目は覚えてない。わからなくなって天の神様に聞いた可能性も否めない。



 もう少し堪能すれば良かったと少しの後悔を抱えて初めての学園祭は終わりを告げた。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・エリオット・ガーナメント(15歳)

・エルシー・ウォルフラン(15歳)

・イナ・ガイアス(12歳)

・ハリス・ゴッドソン(12歳)

・イリア・アルスフィールド(16歳)

・マリー・エバネン(15歳)

・アクア・ウォルフラン(19歳)

・イヴァン(22歳)

・パトリック(20歳)

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