10,夏休みに入りました Part 2
1学期が終わり、皆大好き夏休みがやって来た。婚約者のいない人や友人と休日を楽しみたい人などは学園が主催するお茶会やダンスパーティーに参加する。
エイ兄さまは婚約者探しに参加することになったそう。伯爵夫人がいないのは後継にも関わってくるから貴族としては当然のことだ。渋々といった様子だったが。
そして私は剣に魔法、乗馬にピアノと忙しない1日を送っている。この学園には宿題というものがない。
貴族としてある程度の教養は必要だし、平民も一般科目は必要だが貴族は家庭教師によって幼い頃から勉強してきた。
平民も学園に入る前までは小学校のような場所に通っているのである程度は身についている。故に学園では勉強よりコネクション作りがメインとなっているのだ。宿題なんてしてる暇ない。
私のスケジュールを見ればわかる。1日24時間は鬼畜。
学園に入る前までは夏祭りも行けたがあの事件以降何となく避け、今では夏祭りでも剣を振るだけになっている。
レイ様はマリー様を連れて東の辺境伯まで行った。
此方には広大な海があり、真珠や珊瑚、ガラスの原料などがよく採れる。
反対に、東には高い山が聳え立ち、そこで採れる粘土から作った食器や植林した木材を使った家具などが有名だ。
事件以降、その評判は地に落ちたが仮で就いていたパトリック様と休みの度に足を運んだレイ様の働きもあって徐々にではあるが汚名は返上されつつある。
私もそこに行ったことがあり、和室を作るにあたって食器や机を買っていたので職人さんとは顔見知り。私とレイ様が交流することに対し、双方の反発は生まれなかった。
エルシーは夏休み期間中、辺境伯邸に滞在し、土地のことや職人との交流、お金のことなどを父さまから学んでいる。今までもちょくちょく来て勉強していたようだが長期的な休みに入ったので。まあ、スケールは違うけど夏期講習と思っていただけたら。
アクア様は魔術師団の入団の試験官。イリア様を含む受験生を篩いにかけることに時間を割いている。
シルス様とアンナ様は今の最上級生、つまりイリア様の代の卒業パーティーの後に挙式を行うそうで、今から準備に追われているとか。
王族のウエディングドレスってこんなに前から作るんだなあと呑気に思いつつ、立場のある人の結婚には貴族からの贈り物が必ずついてくるのでそれも考えないと、と。やっぱり曲以外にも欲しいじゃん?
私だったら曲貰えば物は要らないよって言えるけど身分的にもね。
何にしようか。宝石とか一流の職人が作ったアクセサリー、美容用品なんかは誰にでも贈れる。でもそれじゃその他貴族と同じになってしまう。
そこでまずは周りの人達に相談することにした。と言ってもエイ兄さまとエルシーだけだが。父さまと母さまは貴族としての贈り物の準備を始めているそうだ。
「んーー…シルス兄さんはフルーツ詰め合わせとかでも喜ぶと思うなあ。アンナ様は割と控えめな装飾を好むからギラギラした主張の強いものでなければ良いかなって思ってるよ」
とエルシー。
「シルス様なら布1枚でもリーゼからの贈り物だったら喜ぶと思うよ。アンナ様に関しては弟のイナ様に聞いた方が良いんじゃないかな」
とエイ兄さま。布1枚て。せめてハンカチと言ってくれ。
ということで騎士団の方にいるらしいイナ様に会いに行った。
「装飾品はシンプルなデザインを好んでいるな。ハンカチとかの日用品もゴテゴテに装飾されているものはお蔵入りだし、筆記用具なんかもシンプルなものだ。とにかく装飾が少ないほど喜ぶと思う」
と、言われたので早速帰って準備をすることにした。
東の辺境伯の特産品の一つにガラスがある。シンプルながらも美しいデザインのガラスペンを送ろうと決めた。
ガラスペンは私が4歳の時に父さまにお願いして始めたもので、オーダーメイド限定、毛筆や羽ペンが主流の王都ではあまり知られていないがマニアにはウケが良い商品だ。
ガラスペンは屋敷の者なら全員持っている。当主家族の私達は勿論、使用人も全員ガラスペンだ。
私達は美しい模様の入った物、使用人は無地。私の護衛的な人やアリアなどのメイドは白、エイ兄さまのは黄色、父さまのは黒、母さまのは緑だ。ペンの持ち手の色で誰に使えているかわかるようになっている。
そのうちエルシーにも渡そうと思う。茶髪だから従者の持ち手は木とかになりそう。
「おお、エリーゼ様。久しぶりだね」
〈久しぶりです。2本オーダーしたくて〉
工房に入ると初老の男性が出迎えてくれた。私の無茶なガラスペンオーダーにも応えてくれた凄腕職人で、今は何十人もの弟子を持っている。
「贈り物かい?」
〈はい、友人の結婚祝いに〉
「そうかそうか。ああ、そういえばもうすぐ陛下の挙式だね。式には出るのかい?」
〈んー。式は基本当主が出るので私は出られないかもです〉
パトリック様やイヴァン様のように騎士の中でも高い地位を持っている人は当主でなくても護衛として出ることができるが私は出られない。あれ、でも王子の婚約者だ。
〈やっぱ出られるかもしれません〉
と言い直しておいた。
「もしやそのためのオーダーかい?」
〈その通りです〉
「腕が鳴るねえ。時間はたっぷりあるんだ。期待しといてくれよ」
〈お願いします〉
そうして私は工房を後にした。出る前にガラスの置き物を買って。
帰ってすぐ自室に置いてある棚に買った置き物を並べる。これももっさり植物部屋に合うデザイン。この世界には地震というものがなく、過去に起こった事例もない。まずプレートという概念そのものがないと思う。
ので埋め込み式の棚に置き物を軽く固定するだけで倒れて割れることがなくなる。
この国の災害は火山の噴火だ。日本でいうと縄文時代に富士山が噴火したように、この国でも千年に一度は農作物が壊滅的な被害を受ける噴火が発生している。
自然災害に関しては竜も精霊も防ぎようがないので私は保存食を作ってはどうかとシルス様に伝えたところ、保存食を作ろうという人が大勢集まった。前回の噴火からそろそろ千年。
私の生きているうちに大噴火は起こるだろう。それもあって保存食作りには皆乗り気だったのだ。
日本と同じく米や小麦、そしてトウモロコシなど穀物三銃士が揃っているので主食には困らない。
カンパンやお湯で作るわかめご飯、缶詰に入れて保存期間を伸ばせるパンなどなど。今は瓶から缶詰に進化させるべく開発から始めているそうだ。保存用水に関してはあまり問題視されていない。
それもそのはず、この世界には魔法がある。一番多いのは土属性でその次が水。プールのような大きさの器に一瞬で貯められる人もいれば、コップ一杯が限界の人もいる。
それでも前世よりはマシだと思う。固形物は数週間食べなくても生きられるが水は数日で死んでしまう。それがカバーされるので保存食に集中できる。
小学校で習わないことをどうして知っているんだって?そんなの転生チートにお任せよ。料理に関してはレシピがチート級にあるんだから。
缶詰の製造過程は社会科見学でちらっと見たから少しはわかる。それを元に作ってもらっていた。
「はいこれ。試作品だってさ」
夏休み前から始められていた缶詰保存食の試作をエルシーから受け取り、皿にあけた。
〈おぉ…!ちゃんと缶詰だぁ〉
今回の中身はフルーツのシロップ漬け。前世でもフルーツミックスやパイナップルなどのシロップ漬けが多く出回っていた。施設の買い出し当番でスーパーに行った時に何度か見かけている。その度にこれが当たり前に食べられる人は羨ましいと思ったものだ。
〈美味しい…エルシーも食べてみて〉
私はフォークをエルシーの口元に持っていった。所謂、あーんの構図。
「ん…美味しい」
エルシーは少し躊躇った後に頬を染めて齧り付いた。甘いものが苦手なエルシーだけどシロップ漬けは美味しいと感じたよう。でも2口目は要らないみたい。甘味はほどほどに。甘いものが苦手な人向けの缶詰も必要になるな。
魚の缶詰とかもあったけどそれは腐りやすく匂いもするのでフルーツより難易度が高い。とりあえずフルーツ缶は完成だ。
と、これだけで私の夏休みは終わらない。辺境のガラス工房に行ったついでに実家に戻り、夏期講習中のエルシーと共に領地経営のことについて学ぶ。
それと並行して行われた剣術稽古にエルシーは戸惑っていたが早く慣れてほしい。軍の保有量が王家管轄の騎士団よりも多い辺境伯の剣術稽古なんてそんなものだ。
砂埃で咽せることも打撲骨折も日常茶飯事。私が光魔法と水魔法で即時回復効果のあるポーションを作っているから良いものの。
木刀の予備も数百と用意されている。そんな中にエルシーが放り込まれて馴染むわけない。が、皆気の良い人達なので馴染むのも時間の問題だ。
「リーゼって凄いねぇ」
和室で団子とお茶を食べているとき、エルシーは遠い目をして呟いた。領地経営の勉強、剣術稽古、趣味、3食料理などなど。そして今は学園にも通っている。
前世の同い年に比べれば多忙を極めているがそれなりに楽しい人生を送れている。
〈ん〜!やっぱり頑張った後のご褒美は美味しいね〉
「うん、そうだね。僕も初めはお茶の苦さに引いたけど今は紅茶より緑茶の方が好きだよ。甘くないし」
〈落ち着くよね〜〉
完全に腰を落ち着けた私達は夕食に呼ばれるまで好きなだけ話した。
そこからの夏休み期間はエイ兄さまに呼ばれてエルシーと共にダンスパーティーに一度だけ行った。自分の婚約者を選ぶ時に私との相性も考えたいからと。その他の日は剣やって勉強やってピアノ練習してと学園に入る前のような生活をした。
あとは公式なお茶会には呼ばれなかったので非公式のお茶会に行った。いつメンでやるあれ。
そうして束の間の休みは終わりを告げた。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(12歳)
・エルシー・ウォルフラン(15歳)
・ガラス職人




