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9,生徒会室


 夏休み直前。私は今危機に陥っている。恥ずかしながらも肖像画を交換し、エルシーの肖像画を飾り、ピアノの練習をしようとしていた時だった。




 月光の譜面が無い。


 休み時間にも練習する場所を決めていたので学園に持って行っていた。それが災いし、せっかく譜面に起こしたのに無くしてしまったのだ。

 もう暗譜はしたし音は完璧だがまだ表現を確認するためにあの譜面は必要なのに。無い。鞄ひっくり返しても無い。



 しかし、気分を変えようと中庭の噴水近くに来たらあった。噴水の中に。

 紙は乾かせたがインクは滲んでいてもう何が書いてあるんだかわからなくなっていた。表現についての記載は勿論、五線譜も。


 これがもし故意に投げ込まれたなら普通にブチ切れ案件だけどここで事を荒立てたくない。私が落としたことにしよう。もしかしたら本当に私が落としただけかもしれないし。



 「あったのか?」

 教室に戻るとレイ様が振り向いた。事情を知って探していたらしく、私が頷いたら「帰るぞ」と声をかけてくれた。ので私は素直に付いていったのだが…


 〈ここって〉

 「生徒会室だな」

 〈何故〉

 「エルとエリが連れてこいって」

 〈はあ〉



 そう言ったレイ様は何の迷いもなく扉を開けた。

 「あ、リーゼ。待ってたよ」

 飛びついてきたエルシーの抱擁に私も応える。

 〈どうかしたの?〉

 「僕が寂しかったから」


 お昼に会えるでしょうと思ったがそういうことではないのだろう。とりあえず何も言わないことにした。

 「エル、そうじゃないでしょ。確かに何割かはそうかもしれないけど言っておきたいこと、あったんでしよ」



 エイ兄さまのツッコミが入り、エルシーは姿勢を戻した。言っておきたいことって何だろ。学園祭絡みかな。流石にあの時のこととかこんなとこで漏らしたりしないだろうし。


 「ああ、言っておきたいことね。うん、あるよ。普通科1の方で一部だけどリーゼの名前が上がってるんだよ。1の方は平民が殆どだけど一応下位貴族もいるんだ。あの時のこともあるし警戒した方が良いかと思って」


 〈わかった。一応頭に置いとくね〉



 皆は知らないけど譜面のこともあるし私に敵意を持つ人がまだいるかもしれないから騎士科以外での警戒心は解かないようにしないと。まあリスト殿下がいる限り、騎士科でも気は抜けないけど。


 ほんとに、あの人は何が目的なのか。遠回しに聞いても嘘くさい笑顔でのらりくらりと躱されそうだしまず私に遠回しに聞くなんて芸当できるわけない。

 とにかく話したことある人の中での身分で言えば私が一番低いんだ。下手に動けば不敬と言われかねない。いざとなったらレイ様に守ってもらおう。

 

 私が期待を込めてレイ様を見るとあからさまに面倒だと言わんばかりに顔を顰められた。文句は言われなかったので良しとしよう。


 夏休み直前というのもあり、エイ兄さま達生徒会役員はバタバタしていた。何故私が呼ばれたのか?

 それはエルシーとエイ兄さまを見て察した。この2人は私が側で大人しく座っているだけで仕事が段違いに早くなる。他の生徒会メンバーからは感謝の眼差しを向けられた。どうやら仕事はあまり捗っていなかったようだ。



 ただ座っているだけなのに感謝されると罪悪感が凄い。私は何もしていないのに。


 暇なので絵でも描こうとスケッチブックと筆を取り出した。因みに紙ではなく麻の布。紙を作る技術は進化し、今では教本全てが紙らしいが未だ使い捨てするには躊躇うくらいの高級品だ。


 とりあえず外に見える景色を描く。外には私が先程までいた噴水がある。外をぼんやりと眺めながら無心で筆を動かす。いつもよりも時間をかけたのでスケッチにしては出来の良い作品になったと思う。



 またしても手持ち無沙汰になったので今度はエルシーを描く。

 書類と向き合って1学期中のまとめと2学期以降の予定を立てているそうだ。特に今年の1学期は面倒事に巻き込まれたせいで予定がぐちゃぐちゃ。


 申し訳ない気持ちは湧き上がるが途中で私のせいではないと開き直ってエルシーの麗しい顔を見つめながら絵を描いた。



 正面を向いているエルシーも良いけどこうやって目を伏せているのも憂いがあって良い。上手く描けたら額に入れて部屋に置こう。


 異世界の生徒会も雑用ばかりで大変そうだな。物語に出てくるみたいに学校全体を牛耳ってるわけでもないし高位貴族の役員はともかく下位貴族や平民の役員は名前も顔も知られていなかったりする。



 私も生徒会長は今日初めて見たし、知らないだけで会員数はもっといるんじゃないかと思う。



 あ、書類を受け取る時の角度も良い。一瞬見ただけでも筆が進む。今は白黒でしか表現できないけどそれままた味があって良い。


 近くでカシャンと何かが割れる音が聞こえた。何だろうと上を見上げると私の描いた絵を見て硬直しているエルシーがいた。いつの間にか横にいたみたいだ。


 割れてしまったカップを土魔法で再生させ、零れた飲み物は水魔法で消した。一瞬で。

〈観賞用なのでお気になさらず〉

 内心若干取り乱しているので思わず敬語。



 「お気になさるんだけど。あとカップ治してくれてありがとう。それ、部屋に飾るの?」

 〈飾る。ボロボロになったハンカチと共に〉


 昔貰った刺繍のハンカチは毎日のように使っていたせいで擦り切れてボロボロ。ということで額に入れて飾っている。自室はもっさり植物マイナスイオンドバドバ状態なので例の和室にいる。床の間にそれっぽく。



 「ああ、あのハンカチね。今度新しいの作ってあげるから。それと、あの空間を僕の絵で埋め尽くさないで。あの部屋落ち着くのに自分に見られながら団子とか食べたくないよ」


 〈確かに私も自分の顔に見られたくはないや。じゃあピアノの部屋に飾るね〉

 「うーん…まあ、畳張りの部屋に飾るよりは良いかぁ」




 お許しが出たのでピアノの部屋一面に飾ろう。因みに貰った絵はキャンバススタンドに置いてピアノ椅子の横に置いてある。正に至福…!これが正義…!


 「ここまでくると一種の恐怖を感じるよ」

 エイ兄さまが私の手を滑り落ちた絵を拾いながら言う。何だ何だと手元を覗き込んだ会長は絵を見て、私を見て、エルシーを見てを何度か繰り返し、「溺愛されすぎても困ることがあるんですね」と呑気に呟いた。



 生徒会長はイヴァン様の弟でアルスフィールド侯爵家四男のイリア様。イヴァン様と同じく希少な光属性。

 イヴァン様よりも魔力量は多く、パトリック様と恋仲になったイヴァン様をあっさりと切り捨てられたのはイリア様がいたからだと思う。


 でもアルスフィールド侯爵家は知らない。イヴァン様は精霊王の加護がある、と。

 イリア様は兄であるイヴァン様のことをそれはそれは慕っていて恋人の性別でその兄を勘当した実家に恨みがあるよう。嫡男ならまだしも三男で、家を継ぐ予定もないのに、と。



 自身も四男なので卒業したら魔術師となって家を出るらしい。試験は夏休み中に行われるということでそちらも大変そうである。

 人の絵を見て感心している場合かね。しかも試験官にアクア様がいるそうではないか。厳しそー。



 「ああそうだ。エリーゼ様って魔道具作ったことあるんですよね?」

 〈ええ、何度か〉

 「やっぱり精霊いた方がやりやすいんですかね?」

 〈いないよりいた方が良いですが精霊は楽じゃないと思いますよ。最上位精霊に進化させるのには魔力が必要ですし、初めから最上位精霊を呼びだそうと思ったら血の量えげつないですし〉



 それを既に複数持ってる私が言うと嫌味にしか聞こえないんだろうけど。

 「イーゼのはほんとにびっくりしたよ」

 「エリオット様はその現場を見たことが?」

 「あります。リーゼの部屋が騒がしかったので見に行ったら羽の生えた馬がいましたよ。紙の代わりに布団、インクの代わりに血を使っていたのでベビーベッドの中は地獄絵図でしたよ」

 「やばぁ……て、ベビーベッド?」

 「1歳の誕生日でしたねぇ」


 当時を懐かしむように目を閉じてうんうんと頷くエイ兄さまと私に困惑した表情をするイリア様。

 「因みに僕と婚約した6歳の頃には聖属性以外の最上位精霊がいました。そして魔道具作りもしてましたね」



 「ヴァン兄さんってそんな凄い人と知り合いだったんですね。王族と恋仲になったことよりびっくりです」


 いや、学生で騎士団にスカウトされたパトリック様との関係の方が凄いと思う。レイ様が卒業するまで、仮ではあるけど東の辺境伯事件での功績としてそこの爵位は貰ってるし。






 「自分の凄さをわかってないなぁ」と呆れたような言葉と共に、その日は終わりを告げた。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・エリオット・ガーナメント(15歳)

・エルシー・ウォルフラン(15歳)

・レイ・ウォルフラン(15歳)

・イリア・アルスフィールド(16歳)

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