7,一応、再開しました
あの事件以降、表立った動きがなかったエイ兄さま達が犯人達の処遇まで決めて貴族を集めて発表した。
家は半数以上が解体、私に直接的な危害を加えた2人はこの国で最も重い罰、終身刑となった。これで一生牢の中。
他はシルス様の言った通り、本人の強制労働や国外追放など様々だがとりあえず主要人物は全て片付けた。らしい。
何も知らなかったとはいえ加害者の家族も無罪放免お咎めなしとはいかず、身分は取り上げられて中位貴族の数は減った。もしまた政治に関わりたければ文官試験を受けなければいけないので試験資格だけはお情けで。
しかしその中でも罪が軽くなった人はいた。身分を取り上げられた貴族の多くは合併先への仕事の引き継ぎを満足にせずに平謝りしながら退散していったが針の筵の中、そして短い時間で最後まで嫡男として仕事の引き継ぎをしたある2人の罪はいくらか軽くなった。
何より被害者である私が減刑を望んだのだ。
一つはイナ様のガイアス公爵家、もう一つはエイ兄さまの領地と合併になった。この2人であればいつか爵位を取り戻せるかもしれない。
と思う。爵位を取り戻せないのは終身刑を出した家だけ。だから真面目に才能発揮できればもしかしたらって感じ。
この家は鉱山とそれに必要な技術者を有していて職人達からの支持もあったので今は嫡男としてではなく臣下として働いている。シルス様は飼い殺しにしても黙認すると言っていたが主がまともな人間なのでそれなりに高待遇ではあるだろう。
今回のことでエイ兄さまは学生で男爵から伯爵まで陞爵した。ということで婚約者探しに本腰を入れなければいけないわけで。悩みの種は中々消えないようだ。
そして今日から学園が再開する。体育祭は中止になったが学園祭はできることになった。その間に何もなければ。
「大体予想はできていたが…」
〈減りましたねぇ〉
騎士科は全学年合わせて180人ほどいたが今は見る影もなく。
〈私、そんなに恨まれてたんですねぇ。知りませんでした〉
「もう一度確認するがあれはガセだよな」
〈婚約者にベタ惚れのレイ様ならわかりますよね。私がハニトラなんてできないって〉
「それなら良かった。エルがずっと不安がっていたからな。学園には来ているから昼集まった時にでも安心させてやれ」
〈勿論そのつもりですよ。何日会えなかったと思ってるんですか。ほぼ毎日会っていたので引き篭もり生活の中でエルシー不足で干からびるかと思いました〉
とにかくとてつもなく人数が減ったので4学年あったのが1クラスに纏められるまでになった。
「エリーゼ様、先日は大変でしたね」
教室に入って早々、会いたくない男に声をかけられた。歪みそうになる顔を何とか直し、慎重に言葉を選んだ。
〈友人や兄、私の愛する婚約者が何とかしてくれましたので心配は無用です〉
愛する婚約者の部分は強調したい。
声が出るならこの程度造作もないだろうが文字しかない私はとにかくそこを強調して伝えた。
世界で一番好きなのは選べない。でも愛している人はエルシーだけ。前世含めて恋愛感情を抱いたのもエルシーだけ。
最も、噂程度で惑わされるような男は例え私を連れ帰ったとしても王にはなれないだろう。まあ私には関係ないけど。エルシー以外を好きになるとは思えない。
「そうでしたか、それは良い友人を持ちましたね」
彼の心の奥はわからないが表面上はにこやかに無難な言葉を返してきた。
この先のリスト殿下のことはどうでも良い。今私に必要なのはエルシーだ。リスト殿下じゃない。
今日はほぼ座学。教師としてもあんな事件があった後じゃ中々実技はやりにくいのかもしれない。できて馬だ。
だが7時なのは変わらないので朝早く来て剣の稽古をしている。リスト殿下は毎晩シルス様に捕まっているため登校はほんとにギリギリ。シルス様…抜かりない。よくそんなに話題作れるな。仕事の合間とかに考えてるのかな。
でもありがたい。流石にパフェを弁当には入れるわけにはいかないのでロールケーキとかクリームとフルーツ盛り盛りのスイーツは入れるようにしてる。
お礼の気持ちを込めて。私にはとても食べられない。生クリームの供給過多で気絶する気がする。
腰が痛くなるくらいの座学を経て昼食となった。学年が上のレイ様までクラスが同じになったのでレイ様に合わせた授業内容になったのだ。スピードは速いし一切席を立つ場面がないので数日も続けば腰を痛めそうだ。
そんな授業も午前の部は終わり。やっとエルシーを摂取できる。
「あ、リーゼ」
私を見つけるなり噂のことを問いただそうとしたであろうエルシーの話を遮るように真っ直ぐ飛び込んだ。私は久しぶりのエルシーを堪能し、エルシーは驚きからなのか固まった。
「エル、我慢しろ。長期に渡るエル不足で干からびそうだったんだとさ。お前もそうならここぞとばかりに甘えちゃえば?」
「……リーゼ」
上から降ってきたエルシーの声に顔を上げると少し頬を赤くした彼と目があった。
「ほんと…?」
まだ不安気に聞いてくるエルシーに頷くと私を抱きしめたまま地面に座り込んでしまった。ドレスではなく制服なのときちんと舗装されていたので誰も咎めることはなかった。
そのまましばらくお互いを抱きしめていたが途中で我に返り、いそいそと弁当の準備を始めた。周りの目がとても辛い。生暖かい視線を感じる。居た堪れない。
いつも通り収納から出してそれぞれに配る。皆の手首には改良版のブレスレットが光っている。悪意や毒など自分に直接危害を加える存在にしか反応しないなんて不良品にも程がある。
キース達精霊に手伝ってもらって新しく作り直した。私のはまだ作っていないがリスト殿下の思惑がわからない以上改良版を作ることはできない。
男人気がない私に進んで近付くような人間、警戒するに越したことはない。今の友人は私から近付いたみたいなものなので除外で。
でもほんとに誰だろ。私の変な噂流した奴。
「顔、しまえ。ここ、学校」
レイ様に指摘され、私ははっとして歪んだ顔をデフォルトに戻した。そう、どこで誰が見ているか。ここは学園。
ヘマすれば自分が不利になりかねない。光の文字で会話すれば望遠鏡で丸見え。前後の文脈から他の皆の会話を推測することもできるかもしれない。
私の苦手なポーカーフェイスが必要。が、できないので全力の無表情。
水を飲んで呼吸を落ち着けると頬に何か柔らかいものが触れた。
それはゆっくり私から離れていき、悪戯っぽい顔だけが残った。
「元気、出た?」
〈出た〉
エルシー、時々怖い。こういうの突然してくるから心の準備ができない。いや、心の準備ができても兄や友人の前でする勇気などない。でもちょっと元気出た。
午後の授業はこれで乗り切れる。改めて友人達を見ると、食器を落としたり真っ赤な顔を覆ったり天を仰いだりと多種多様な反応を示していた。
恐らく、この中で一番居た堪れないのは兄組のエイ兄さまとレイ様だろう。誰が好き好んで妹達のラブシーンを見たがるか。私なら見たくない。誰かに取られたような気がすると思うから。
ま、今は当事者なのでこの状況を楽しむことにした。甘さを抑えたシフォンケーキを口元に差し出されながら昼休みを過ごした。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(12歳)
・エリオット・ガーナメント(15歳)
・エルシー・ウォルフラン(15歳)
・レイ・ウォルフラン(15歳)
・マリー・エバネン(15歳)
・リスト・サリバン(12歳)




