6,事件思ったより深刻そうです2 エリオットside
エリオットは一人称を矯正したようです。
僕は今、凄く忙しい。可愛い妹、リーゼのことだ。
先日は生徒会メンバーを決めるためのイベントがあった。各学科ごとに2人ずつ決めるというものだったがそこで殺人未遂事件が起こった。
実際に犯行に及んだのは騎士科のリスト殿下、公爵家のイナ様、侯爵家の嫡男のハリス様、レイ様、そして数人の欠席者以外。
リスト殿下はその日はそもそも休みだった。
学園でやる内容の勉強をしていたと一日中付いていた使用人が証言しているので除外。そして首謀者という線も薄い。
現場にいた3人が流石に異常だと判断して実力行使にでようとした時に精霊王のキースが出てきてリーゼの背中に刺されそうになったナイフを受け止めたので大事には至らなかったものの、リーゼの顔には呪いの刻印のようなものが刻まれてしまった。
社交界での扱いが変わるので年頃の令嬢にこれは酷だが本人は笑って「顔の傷ごときで離れるような人間なら関わらないが吉」だと、そう言った。
無理をしているのではないかとも思ったがそんな様子もないのでこの後のことに集中することにした。
そして、現在三徹目。もうすぐ日付けも変わる。正直自分でも酷い顔をしていると自覚はしているが皆似たようなものだ。今回の件、現国王のシルス様をはじめとしてリーゼの友人達が大層ご立腹。
その場にいた人物全員を呼び出して穴が空くのではないかというほど見つめながら取り調べ。そのうちの半数以上が「あの女に騙されたんだ」と喚いていたが知ったこっちゃない。
しかしその “女” については誰も口を割らなかった。恐らく、名前すらも知らないだろう。
そう思っていた。“女” は首謀者として他にいるだろう、と。
それなのに、その4日後、“女” の正体がわかって辛うじて保たれていたであろう理性はガラガラと音を立てて崩壊した。
「エリーゼ・ガーナメント辺境伯令嬢は社交界を傾けるとんでもない悪女だ」
という噂が何処からか降って湧いたのだ。呼び出したユリウスとアリアを通じて確認したところ、首を傾げていたので本人に心当たりはないようだ。
そして今回の噂で一番ダメージを受けたのはリーゼの婚約者でありグランドル王国の第五王子、エルシー・ウォルフラン。
9歳のときに毒で殺されそうになったのを助けられてからずっとリーゼを好いてきた。その気持ちはリーゼには既に伝わっていて、見ている僕が疎外感を覚えるほど自他共に認めるラブラブカップルだった。
それが今回の噂のせいで亀裂が入りかけたのだ。事情を知ったリーゼは会いに行きたいと訴えたが何があるかわからない。屋敷にいろと指示を出せば早急に手紙を寄越して来た。
『絶対ない。エルシー以外の人間に恋愛感情抱けとか演技でも無理。気持ち悪い』
そう力強く書いた手紙を。
それを読んで幾らかは落ち着いたようだがもう噂が収まるまでは使い物にならないだろう。
僕らが動揺するほどの噂の詳細はこうだ。
「エリーゼ・ガーナメントは今の婚約者に満足しておらず、男ばかりの騎士科に入った。そこで様々な男を誘惑し、その相手は元々あった婚約者を捨ててまでエリーゼに求婚したがこっ酷く振られた。お前は遊びだ、と。傷害事件は被害者達の恨みだ」
と。そんなことあるわけがない。リーゼは剣が苦手だから騎士科に入ったのであって男が多かったから入ったのではない。
そしてあの性格を気に入る男は稀だ。陰謀渦巻く社交界で揉みくちゃにされているシルス様なんかは気を許した者への裏表がないリーゼを気に入っている。
が、男尊女卑の考えを持つ男はリーゼの豪快な性格は絶対に嫌だと思う。
婚約者への初めての贈り物を仁王立ちで渡し、誤って全力を出して扉を破壊、ストレスや怒りを離散させるために辺境伯所有の騎士を砂だらけになって全員沈め、頭を冷やすためにと頭から氷水に飛び込む。
自分を立ててくれる控えめな女性が好きな男がこれに耐えられるだろうか。答えは否。無理だろう。
確かに好感を持てる部分はある。努力家で友達想い、身分関係なく国民というだけで一定の壁は作りつつも分け隔てなく接する。そして他人を傷付ける奴には一切の容赦がない。どれだけ泣いて謝られても完膚なきまでに叩き潰す。「シルス様の国で国民を傷付けられると思うなよ」と。
人ひとり救ったところで大した利益にはならない。それこそ国の重要人物でない限り。自分の利益より他人の安全を守るために動くのは好感が持てる。
まあ知っている人はともかく、リーゼを知らない人から見たらそれだけ聞いてもあの性格で霞むのだが。それなのに噂は広がった。噂好きの貴族らしい。
救いだったのはリーゼは他人の意見に興味が無いこと、そして主要メンバー周りの反応が全く変わらなかったことだろうか。母上と父上も首を傾げるだけで苦言を呈すこともなかった。彼女なら絶対ないってわかっているから。
まず幼い頃から様々な種類の美形に囲まれているせいで何を見ても眉ひとつ動かさないリーゼがそんじょそこらの男なんかに遊びでも手を出すわけない。
例を出すならガタイの良い騎士、クールでスマートな魔術師、ギャップの王太子、繊細な少年、ツンデレ男子。こんな感じだろう。
となると別の誰かが裏にいる可能性は高い。リーゼを消したいと願う女が濃厚だ。だがそれに全く心当たりがないというのが一番面倒。
コンコンコン
「はぁ゛い…」
眠気が襲ってきたせいで来客への対応の声も掠れだした。
「ヤバそうだな」
「ぁ゛ぁ……レイ様…どう、しましたか。すみません…あんま頭回ってなくて」
「見りゃわかる。ぶっ倒れる前に寝ろ。国王命令だ。だそうだ」
「シルス様は」
「昨日寝た。お前が寝るまで帰らん」
テコでも動かなそうそうなのと眠かったので素直に用意された部屋の寝台に向かった…と思った。
が、その前で躓き、多分そのまま意識を失った。遠くでレイ様の呆れたような声が聞こえたような気がしたがそれに対応することも出来ず、暗闇の中に吸い込まれていった。
今回の登場人物
・エリオット・ガーナメント(15歳)
・レイ・ウォルフラン(15歳)




