4,命の危機でしょうか
体育祭は5月末に行われるのだが主催に生徒会が関わってくるのでその前にメンバーを決める行事がある。その日に授業はなく、1日かけて選別する。
メンバーは生徒会長1人、副会長2人、各学科から2人ずつ。普通科は1と2で分かれているので計4人になる。後は魔法実習棟から2人。
学年は基本問われない。
生徒会長と副会長1人が最上級生ならって感じ。前生徒会は解散、新たに新生徒会が設立れるところは日本と同じだ。
ただ、選挙ではない。各学科で集まって推薦した人物が会員になる。騎士科の前生徒会にはレイ様が在籍していたそうだ。曰く、雑用係らしい。
今日がその日だ。
イナ様との勝負は一応授業内でした。お互い当たりどころが悪かったようで、相討ちとなってしまい、意識不明で2人して医務室に運ばれた。レイ様には「泥試合だった」と言われたので私は大分粘れたみたいだ。木刀が折れることはなかった。
と、そんなことを思い出せてしまうほど私は暇だった。生徒会には国の主要となる立場の生徒が多いため入れることが1つの名誉とされている。
功績を挙げられたらコネクションもできるかもしれないため皆必死だ。私は既に色々と持っているので今日の夕食のことを考える余裕さえあった。リスト殿下は留学生で生徒会には入れないので今日は休みだ。
今はレイ様が有力候補で2人目を決めるというところだ。レイ様とお近付きになりたい人達がついに剣の腕で決めようという流れになり始めた。
「エリーゼ様は立候補しないんですか?」
〈あまり乗り気ではありませんね〉
「レイが助けを求める視線を此方に寄越してくるのだが」
相討ちとなったことでイナ様と対等になった私。私達は彼らにとって最も高い壁だろう。レイ様に勝った私がイナ様と相討ち。つまりイナ様も自分達より遥かに強い年下、そしてレイ様の友人。壁と言わずして何と言う。ハリス様も私達ほどではないが壁にはなり得る。
私の場合、魔法実習棟の方にも行かなければいけないので2倍面倒。まあでもエルシーとエイ兄さまが在校生なので生徒会はこの2人でほぼ決定だろう。行くまでもない。
そして良くない方向に向かっている。何故か私達に勝った者が生徒会に入ることになっている。
「どんな卑怯な手を使ってでも勝ちにくる気がします」
「俺もだ」
〈私もですねぇ。逆効果だとも気づかず、哀れです〉
「ボロクソだな」
「皆嫡男じゃないことが救いです。まともな家の嫡男なら知り合って損はないので」
貴方の知り合いには王族と公爵家がいますよと言いたい。シルス様もハリス様の顔は覚えているからそれだけで一歩以上リードしてる。
「あ」
此方に向かって木刀が飛んできた。ほぼ新品の。咄嗟に受け取ったが最後、私は相手をしろと言わんばかりに引き摺り出されてしまった。
この程度でと思うだろうが私は軽いのだ。どれだけ抵抗しても体重の前には何もできない。
目で助けを求めたが非情にも、それは無視された。
「次期辺境伯として王都の軍事力は見極めるべきだ。戦闘用スイッチは入れない方が良い。死人が出るからな。安心しろ。仮にお前が負けてもあと2人いる」
などというよくわからない言葉と共に。
あと2人の中に入れられたハリス様は不服そうではあったが結局3試合目があればということに納得し、私を生贄として差し出した。面倒なので早く終わらせたいところだ。
卑怯な手を使うだろうとは思ってたけどマジか。相手は使い慣れた自分の真剣に複数。
しかも4、5人じゃない。対する私は飛んできた木刀に1人。まるで戦場。スイッチを入れない戦いは初めてだ。そして多少なりとも魔法は使ってくるだろう。私は緊急時以外は魔法を使うなと教師陣から言われているので木刀縛り。
そこまでして生徒会に入りたいかね。レイ様からの印象が悪くなるだけだけど。
そう考えたのは私を生贄に差し出した2人も同じでレイ様と話をしている。まあ、危なくなったら透明になっている精霊王が何とかしてくれる。
木刀を構え、真っ直ぐ前を見る。基礎段階では正気を保った状態なのでいつもの要領で。円の真ん中に放り込まれ、呼吸を整える間もなく攻撃が飛んでくる。
流石良いとこの坊ちゃん。構えのブレは小さいし攻撃は体格差もあって重い。そんな中縦横斜めからの攻撃に対応しなければいけない。これは…良い訓練だな。実践的だ。そうだ。こんな場合もあるのか。とりあえずポジティブにいこう。
と、楽しむことにした矢先だった。背中に悪寒が走る。何だろうこの感じ。あ、思い出した。ブレスレット。悪意に反応する。それが暴れてる。
バチン
そう嫌な音を立ててブレスレットは弾け飛んだ。多過ぎる悪意に晒されると壊れるらしい。
そんなに女が嫌いか。と、思う暇もない。1本の木で多数の刃物を受け止めなければいけないがその木にも亀裂が入り始めた。
レイ様と同じように肉体戦に持っていけば流血騒ぎだ。
余りにも酷いので男三人衆が剣を持って立ち上がった時、背中に鈍い痛みを感じた。
「それだけは俺が許さないよ」
ハスキーボイスに微かな森の匂い。精霊王キースだ。私を庇うように立っていた。
思わぬ人物の登場に固まる人達。私もその1人。その隙に剣を持った男三人衆が手早く拘束した。
私は呆然として棒立ちしていた。が、何とか現実に戻りキースが怪我をしていないか確認する。
〈怪我!してるじゃん!何で!?〉
「あのナイフには毒が塗ってあった。俺に毒は効かないけどエリーゼは死ぬから。この程度怪我とも言わないし、平気だよ」
〈平気なわけない!刺さったのが胸だったらキースだって危なかったんだよ!〉
キースにだって心臓があるから。
「ごめん」
生徒会メンバーを決める集まりから殺人未遂にまで発展するとは思っていなかったが、実際私は殺されそうになり、私を庇ったキースは治すことはできるが事実として両掌にザックリと深い傷を負った。
私も、指摘されるまで気付かなかったが頬に傷を負っていた。一応治癒魔法は使えるが万が一ということもあるし医務室に担ぎ込まれた。診察の間は立ち入り禁止なので皆外待機。
暫くするとエルシーとエイ兄さまが血相を変えて駆け込んできた。駆け込みは危ないよ。
医務室の扉は開かれなかった。王宮が所有している医師の顔から血の気が引いていく。
〈どうかしましたか?〉
光の文字を見て我に返った医師は私に鏡を見せた。
でも、そこには美少女が映ってる以外は何もなかった。一体彼には何が見えたのだろうか。
〈何もないですよ〉
そう言うと血の気の引いた青白い顔がもはや青を通り越して白くなっていった。バタバタと音を立てて医務室の扉を開けた医師。そして部屋の外から私を見た人達も彼と同じ反応をした。
「これは、どういうことだ」
エイ兄さまが初めて地を這うような低い声を出した。
「わ、わかりません。ただ、治療をしている際にどんどん広がってしまいまして。今は止まっていますがいつまた広がり始めるか」
そんな会話をしている中でも私は何が起きたかわかっていなかった。
「リーゼ、首から上、痛いとこある?」
その問いかけに私は首を横に振った。
「鏡、見てみて」
鏡を覗き込むと、先程は見えなかった何かが見えた。なんじゃこりゃ。
「その顔は、見えたんだね。これは普通の鏡じゃ見られないような呪いだよ。下手だけどちゃんと定着してる」
〈どんな呪いですか?〉
呪いの大小によってこの後のことが変わってくる。
「もしこれが全身に回ったらまず手足が動かなくなる。その次に目が見えなくなってその直後、食事や睡眠ができないくらいの痛みに一日中襲われる。
最後は息をするだけで悶え苦しむくらいの激痛。そして何日も何週間も苦しみ抜いた末に命を落とす。
そんな恐ろしい呪いだよ。解呪するには聖属性がないと」
唇を噛むエイ兄さま。今は私の強すぎる魔力のお陰で抵抗できているようだが体調を崩すなどして抵抗力が弱まれば一気に呪いに侵略されるだろう、と。
「解呪はできないけど、抵抗することはできる。俺達精霊のプライドに賭けて、必ず止める」
キースが顔を歪めつつ、真っ直ぐ私を見て言った。が、私はというと、あまりにも突然すぎて実感が湧いていないため絶望もせず楽観もせずといった心境だ。
小さな頬の傷からここまで広がるんだなと他人事のように鏡を凝視する。
レイ様はシルス様やマリー様の元に向かい、今回の事件の報告をしにいった。その他の生徒はハリス様を含め、全員家に帰された。
今回の事件の犯人は騎士科の生徒。動機は不明だがあの騒ぎは私を殺すためのものだったのだと思う。
それにしても、誰が裏で手を引いたんだろうか。あんな大勢の令息。操られていたのではないかと思うのも正常だ。が、ブレスレットは操られた者には反応しないので自分の意思だろう。
「リーゼ、今からシルス様に会いにいくんだけど一緒に来る?それとも危ないしここにいる?」
〈行きます〉
「俺も行くよ。あとはい、これ」
現れたキースに渡されたのは顔の半分を覆う仮面。
「これで抵抗はできる。聖属性を見つけ次第、解呪できると思う」
〈ありがとう、キース〉
マスク焼けならぬ仮面焼けしそうだが背に腹はかえられぬ。
私はキースと馬に乗って王宮までの道を急いだ。
今回の登場人物
・エリーゼ・ガーナメント(12歳)
・エリオット・ガーナメント(15歳)
・レイ・ウォルフラン(15歳)
・ハリス・ゴッドソン(12歳)
・イナ・ガイアス(12歳)
・精霊王キース
・騎士科の生徒
・王宮医師




