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2,これは…ストーカーですか1ー2


 「あ、来たね」

 「結構遅かったね」

 「絡まれてた」


 げっそりする友人の方をエイ兄さまが軽く抱く。空気のように気配を消して立っていたマリー様はさり気無くエイ兄さまからレイ様を奪い取り、エルシーは私の全身を探るように観察した。

 いや、舐めるように、と言った方が正しいだろうか。シャワーは浴びてきたのだが。



 害は無いので疑問に思いつつもされるがままに立っていたがそれがいけなかったようだ。エイ兄さまがエルシーの首根っこ掴んで私から剥がした。


 「何も言わずにジロジロ見るのは変態と勘違いされてもおかしくないよ」

 「あ、ごめん。リーゼ、気のせいだったらごめんなんだけどシャンプー変えた?」


 〈?変えてないよ。え、何か変な匂いする?〉

 「うん。そうだよね。リーゼのシャンプーが柑橘系じゃなかったことなんてなかったもんね。でも何か変なんだよね。

 母上が着けていた香水みたいな匂いがするんだ」

 〈香水?前王妃の香水…ああ、あの生ゴミみたいな〉



 生ゴミは言い過ぎかもしれないけど香水を重ねまくったせいで鼻が曲がるほどの悪臭を漂わせていたのだ。結果生ゴミ扱い。


 「うん。そんな感じの匂い」

 〈そんな悪臭だったら気付くと思うんだけど…〉

 「ああ、何もしないぞ」

 「レイ様、女性の髪を無遠慮に触るのは控えた方が良いですわよ」


 遠くでそんな声が聞こえたが無視。というか頭に入ってこない。

 〈リスト殿下から離れた時に何かされたかも。あの一瞬、違和感があったから〉

 「確かに、それしか考えられないな。ハリス。お前もあの場に一緒にいただろう。何か感じたか?」

 「はい。ですが、ここで話すには少し…」

 「場所を変えよう。エル、別館を借りるぞ」

 「わ、わかった」



 そうして一抹の不安と共に王宮の別館、エルシーが住んでいるエリアに向かった。シルス様は本館に戻るか聞いたそうだがシンプルな別館の方が落ち着くらしい。


 「こ、ここが王宮…」

 道中、不安の上乗せをするような出来事に遭うことはなく、ビクビクと辿々しい足取りでハリス様が登城したこと以外は何も問題なかった。



 「リスト殿下は本館の方に暮らすことになっているからシルス兄さんが上手いこと引き留めてくれるみたい。ご機嫌取りのパフェをご所望だよ」

 〈わかった。ありがとうエルシー〉


 カーテンを閉め、窓に結界を張り、扉をガッチリ固定する。常日頃、音漏れの心配はしなければ。

 「エリーゼ、俺が通訳しよか?文字光ってたらやりにくいだろう」

 突然柔らかい風と共に登場したのは精霊王キース。

 〈ありがとう。精霊達はどうなってる?〉

 「特に問題なく過ごしてるよ」

 それが聞けただけで大安心。今回のことでもし精霊達に危害が及べば私は犯人を差し違えても殺すだろう。


 ほっと胸を撫で下ろすとハリス様は緊張しながらも話し始めた。

 「あの、リスト殿下は入学式の時からエリーゼ様に注意を配っていました。彼が騎士科に入ったのは、エリーゼ様の名前を見つけたからでしょう。

 留学生の王族ならどの科に誰がいるか、予め確認することもできると思います」



 「そうか。だから魔法科ではなく騎士科に来たんだな」

 レイ様が手足を組んで納得したような顔をした。

 「でも、何でリーゼが?」


 エイ兄さま、私もそれは思ってます。本人に言っても役に立つ立たないの話になったし。

 「エリーゼ様は聖属性以外の最上位精霊からの加護を受けています。そして竜王様、精霊王様からも。この時点で他国から注目を集めます。

 他国には精霊が居ませんから。そして更にこの国の王族全員の知り合いとなると丁度良いコネクションにもなる。そういうことでしょう」



 私は彼にとって単なる道具の一つか。でも私を連れ出しても精霊は他国に出られない。

 竜も精霊もグランドル王国にいるから。そこから離れると精霊は消えてしまう。そのことを知っている者は少数だし、他国の人間が知らないのも仕方ない。



 「エリーゼ、お前精霊に王族に竜だけでなくストーカーまで寄せ付けるのか?もう解除したけど髪に盗聴機能ある物質付いてたよ。多分、魔道具の一種だ。普通の奴なら気付かない。

 それこそ、毎日エリーゼの髪の匂いを嗅いでないと」


 キースはそう言うとエルシーを見た。エルシーは頬を染め、気不味そうに顔を逸らした。私の髪、そんなに匂い強いかな。エルシーと肌が触れるくらい近付くなんてエスコートくらいなのに本人でさえ気付かなかった僅かな変化に気付くなんて。



 「あ、あの…つ、使ってるシャンプーが一緒だからその別に常に把握してるわけじゃなくてその…」

 わたわたしてるエルシー。なに、この可愛い生き物。

 私達のシャンプーが一緒なのは緑の最上位精霊ルド、水の最上位精霊マリン、光の最上位精霊コーリッシュがオーダーメイドで作ったのを貰っているから。


 光の魔法で髪質が常に一定に保たれるので私達の髪は常に艶々だ。だが精霊達の負担になるので私達の分しか作ってもらってない。



 「エリーゼ、萌えに平伏してるとこ申し訳ないけどこれを本当にあのリストって王子が着けたなら結構危ないよ」

 私はそれに頷くことで答えた。

 「危ないのはわかりますがどう危ないのかがよくわからなくて」


 エイ兄さまが続きを促すとキースは私の髪を束にしては梳いてを繰り返し、やがて顔を上げた。


 「彼奴には婚約者がいない。彼方の国の情勢は知らんが立太子もまだ。つまり第三王子って微妙な立場でも王になる可能性はある。

 だがこのままでは婚約者のいない自分では王になれない。それなら後ろ盾もあって特別な力を持つ令嬢を婚約者として迎えよう。そんな身勝手な作戦のターゲットになったのがエリーゼになる。ハリスの仮説が正しければ、な」


 「十中八九そうだろうな。あの目は好意でも嫌悪でもない。でも無関心でもない。何て表現したら良いかわからない。

 でも喋り方も人を人と思っていない雰囲気だった。普段シルスを見ているから過剰になっているのかもしれないが」


 人権の権化のシルス様を思い浮かべる。確かにあの人が幼馴染だからリスト殿下の発言に反応してるかもしれない。

 「でも、嫌な感じはしました」

 リスト殿下と対面した私とレイ様はハリス様の言葉に同時に頷いた。




 あれ、でもブレスレットしてるのに。

 「ブレスレットしてるのにって?」

 上から降ってくる心地良いハスキーボイスを肯定する。


 「それは相手に悪意があれば反応する。でも下心には反応できない。相手の心にあったのは悪意じゃない。下心だよ。エリーゼ、あの王子は絶対に信用しちゃいけない。絶対だよ。声を失ったってこととか精霊とか出されても絶対1人でついていったらだめ。わかった?」


 私は両肩を鷲掴みにしてくるキースに何とか了解の意を示した。

 「レイ様」

 「ああ、マリー。何だ」

 「あの、学年も違いますしずっとは難しいかとは思いますがエリーゼ様からなるべく離れないでください」


 「良いのか?ハリスに全部任せようと思っていたのだが。エリーゼは騎士が怯むくらいの実力者とはいえ女だぞ。護衛と銘打って堂々と浮気するかもしれないんだぞ」


 おぅ…レイ様。引き止めてもらえなくて悲しいのかね。必死だ。

 「レイ様はそんなこと絶対にしませんよ。まずできませんわよ。エリーゼ様が許さないでしょうしレイ様は私にベタ惚れですもの」


 「……!そ、それは…そうだ。俺はマリー以上に好きな女などいない」

 「なら大丈夫ですわ。未来の義姉として義妹の身は心配ですし、よろしくお願いしますね」


 「俺も自分の姿くらい隠せるからレイがいない間はくっついてることにするよ。

 竜王も多分ノってくれるんじゃない?今の時間ならもう寝てるけど早朝に起きることに関してははアイツの十八番だ。シフト制で張るよ」

 〈あ、ありがとう〉

 「良いよ良いよ。エリーゼは俺達の命の恩人なんだから」

 ああ…面倒なことになってしまった。

 「あ、あと髪は切った方がいいよ」


 〈!?〉

 全剃りは勘弁してくださいマジでほんとに。

 「ぜ、全剃りにはしなくて良いよ。ただ、腰くらいまであるのを肩かからないくらいにしてってこと。下の方は魔道具の所為でもう汚れてるから」



 ああ…ああ………バランスまた調整し直さないと。

 「髪の重さで重心取ってたんだね、エリーゼって」

 本当に、通訳かって出るだけあって心の中全部読まれてる。シルス様と同じくらい特殊だな。





 ああもう…勘弁してよぉ………

 私の望みは言葉にも文字にもされることはなく、空中に離散していった。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・エリオット・ガーナメント(15歳)

・エルシー・ウォルフラン(15歳)

・レイ・ウォルフラン(15歳)

・ハリス・ゴッドソン(12歳)

・マリー・エバネン(15歳)

・精霊王キース

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