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2,これは…ストーカーですか1ー1


 どの学科でも内容に差はあるが、共通の科目というのはある。


 例えば地理。普通科では各地の特産品などを押さえるが騎士科は違う。地の利を活かして戦うにはどうすれば良いかというのを重点的に学ぶのだ。

 魔物は殆ど居なくなったとはいえいつモンスターウェーブと呼ばれるものが来るかわからない。魔物の特性と共に学ぶ。



 今日は入学してから初の実習授業。縦割り学科別なので上の学年の人もいる。

 現在15歳のレイ様とか。今回は剣の合同訓練だ。乗馬はまだもう少し先。私が今乗れる馬は白い体にキュルンキュルンの黒目が特徴のオス馬だ。それ以外の馬は全く私に懐かないのでそういった事情もあって特に可愛がっている。彼は騎士科の生徒専用の馬小屋にいるので帰る時に回収する。


 訓練では使い慣れた剣ではなく、配布される木刀を使用する。

 勿論西洋風だ。日本刀も格好良いよ。前にブチ切れた時に壊した部屋は見事に和室になった。

 書院造を参考に。それ以来団子とかはそこで食べてる。やっぱり雰囲気大事。


 普段の訓練では完全和服姿に日本刀風のものだがここではかっちりした騎士服だ。騎士服は学園の指定制服とは違う素材で、より丈夫にできている。

 和服は団子くれるお姉さんにこういうの知らんって聞いた時に紹介してくれた商人から買った。

 やっとだ。私を侮る男に少しはやれる奴だって教えてやろう。


 「では新入生諸君。今年の騎士団スカウト有力候補のレイ殿下に手本を見せていただくのでよく見て勉強すること。レイ殿下、ペアは好きにお選び下さい」



 見るだけで勉強になるかはわからないがまあ立ち位置とか動きとかなら。

 私も見学に徹しようと思っていたが目が合ったら最後、ということでガッツリ目合いました。こっち来てますはい。怖いです。


 「教授、新入生を相手にするのは反則ですか」

 「い、いえ!そのようなことはございません!」


 逃げようとはしたがその前にレイ様が教授に許可を取ってしまった。彼方では安堵の溜息、此方からは落胆の溜息が聞こえる。

 これは先輩方、怖がっていますね。先輩が怖気付く相手に私が敵うはずないのに。



 〈何故新入生の私を?〉

 「俺がこれに勝てたら昼食のゼリーが増える」

 理由、しょうもない。ゼリーくらい言ってくれたら増やすのに。もっと頂戴って言うの恥ずかしかったんかな。


 「顔に全部出ているぞ。まあ良い。リーの攻撃に対応できるなら俺のも難くないだろう。俺も本気で行く。お前も本気で来い」

 簡単に言わないでよ。まあでも…


 〈辺境伯の名前は汚したくありませんし、無様は晒さないようにしますよ〉


 戦闘用のスイッチをポチッとな。粗が見える。パトリック様より大雑把な性格が構えに出ている。パトリック様ならギリギリカバーできるラインの粗しか晒さないからな。だが私は知っている。

 この粗は囮だ。レイ様との対戦は粗を探すよりアドリブで攻めた方が良い。


 「どちらかが負けを認めるかカウント10で勝敗を決める。はじめ!」


 地面を蹴る音が聞こえると同時に私達の木刀同士がぶつかり合う。重い。重いけどパトリック様より小柄な分、受けられない程じゃない。一瞬だけ腕が痺れるくらい。


 辺りに砂埃が立ち、視界が悪くなる。周りを見ると観客が唖然としている。綺麗な訓練しかしてこなかったおぼっちゃまには刺激が強すぎたか?

 それか本気モードのレイ様を見慣れてないのかな?でも体育祭出てたよね。じゃあ何で?などと頭では考えながらも体は勝手に動く。



 スイッチ入れるのほんと強いな。私もレイ様もいきなり首や頭などの急所を突くことはしない。お互い敵を殺す前にまずは動きを封じる作戦だから足や肩などに刃が集中する。


 観客は固唾を呑んで見守る。まるで命を賭けた闘いを見ているかのような空気感がひしひしと伝わってくる。

 正確にはお昼ご飯のデザート(ゼリー)を賭けた闘いだが。

 暫くして嫌な音が聞こえた。


 メシ…ッ


 また聞こえた。何かが軋む音だと思う。それが何かわかったのはお互いの木刀がへし折れた時だった。この試合の勝敗は “どちらかが負けを認めるか” と “カウント10”。

 つまり刀は折れたが勝負はついていない。

 私達は目で合図した後、刃が届かない位置まで飛んでそこで折れた木刀を捨てた。そこからは完全に肉体戦だ。ボクシングなのか空手なのか何なのかは定かではないがその辺りだと思う。



 レイ様は全く遠慮せずに顔も殴ってくるので戦いやすくて良い。変に手加減されるのも困る。幸い私には光の魔力というものがある。

 殴られてできた傷など一瞬で治せる治癒魔法があるのだ。あと魔物も敵兵も女だからと手加減するほど甘い相手じゃないので。


 唇を舌で舐めると鉄の味がした。切れたな。


 一体どのくらいの時間が経っただろうか。随分とギャラリーも増えた。あの中にエイ兄さまとかエルシーとかいるんだろうな。もう多少のことでは動じなくなった2人だがこれはどうだろうか。


 あっ…

 私の放った拳がレイ様の鳩尾にヒットした。クリーンヒットといったところだろうか。大丈夫だよね?え、折れてないよね?これ折れてたらスライディング土下座平謝りしかなくね?頭の中でパニックになっている間にもカウントは進み、何故か私が勝ってしまった。戦闘用スイッチを切る。



 〈あの…すみません。ガッツリヒットしましたよね〉

 「しましたよね、じゃなくてしたんだよ。クソ…俺のゼリーが。次は勝つからな」

 〈次も負けませんよ〉


 私もギリギリだったけど。

 とりあえず治癒魔法でお互いの傷を治した。その後、握手をして礼。



 「エリーゼ様!凄かったです!レイ殿下とあんなにやりあえるなんて!」

 〈ありがとうございます、ハリス様。いつもパトリック様にボコボコにされてますから〉

 「ぱ、パトリック様!?あの方とも…僕なんてまだまだですね」

 〈ま、まあそれくらいじゃないと辺境伯は継げませんから〉


 そう、私は次期辺境伯当主なのだ。レイ様に負けるということはレイ様以上の相手が現れた時に殺されるということ。

 殺されないためには強くならなければいけなかった。地獄のような日々だったが逆を言えばあれがなかったらレイ様には確実に負けていた。


 「エリーゼ・ガーナメント様、凄かったですね。女性であそこまで動ける方はいませんから」

 そう言って優雅に歩いてきたのはリスト殿下。私の表情筋が…ピンチ。

 そして私を世の女と一緒にしないでほしい。世の女と私は別の人間なんだから。

 〈何のご用でしょうか〉


 手本のつもりだったが思ったより時間がかかったので実践はまた後日になったのだ。早く汗を流したい。

 そして貴方は苦手です。を遠回しに一文で簡潔に伝えた。が、そんな私の思いに気付かずか気付いていて知らん顔をしているのかわからないがリスト殿下は更に言葉を続ける。



 「僕は貴女に会って話をしたかったのですよ。貴女のことを知ってからずっと、ね。留学を決めたのも貴女がいたからですよ」

 〈私のような小娘にそんな大それた力があるとは思えません〉

 「いいえ、貴女は間違いなくどこの国に行っても役に立ちますよ。その力があれば」



 嘘くさい笑みを浮かべたリスト殿下に最早恐怖すら感じる。

 「人を物のように言うのは関心できませんよ、リスト殿下」

 見かねたレイ様が助け舟を出してくれた。この場でリスト殿下に意見できるのは話を振られた私と、王族だけ。隣にいたハリス様は身分的に口を挟むことができなかったのだ。


 「レイ殿下、物だなんて。そんなこと思っていませんよ。貴方こそ、先程女性の顔を殴っていたではありませんか。そちらの方が問題だと思いますけどね」


 女性の顔、ね。私なら平気なのに。普通に治せるし。


 「彼女の戦闘スイッチが入っている時以外で殴ったりしませんよ。幼馴染であり、友人ですから。エリーゼと戦えばその強さはよくわかりますよ」

 そうですよ、私は友人兼ご飯係です。

 「か弱い女性を殴るなんて僕はそんな野蛮ではないですよ。それに、この国では女性に後継ぎをさせるのですか?」


 コイツ…レイ様を煽ってる。家なんて才能と人望さえあれば誰が継ごうが問題ないんだよ。しかも平民の養子とかじゃなくて直系の娘。


 煽りに乗ってしまいそうになったレイ様は寸でのところで出かけた言葉を飲み込んだ。偉い偉い。これはゼリー追加決定。



 「この国の方針に意見があるなら兄のシルスまでどうぞ。ほら、2人共行くぞ。午後は授業がないんだ。さっさと昼飯だ。エル達はもう待ってるって。それでは、失礼します」

 〈失礼します〉



 私とハリス様もそれに倣って礼をする。そのまま踵を返し、迷わず校舎に歩いた。歩いている時に頭に違和感があったが今はお昼ご飯だ。頭は後で考えよう。


今回の登場人物


・エリーゼ・ガーナメント(12歳)

・レイ・ウォルフラン(15歳)

・ハリス・ゴッドソン(12歳)

・リスト・サリバン(12歳)

・教授

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