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神とたたかう人でなし。  作者: 瀬々良 未完成
北部戦線の再始動
18/33

Chapter1.1.5 彼女にとって彼

「つまり私はどうしようもない人間で、そんな私と行動するということは、いつあなたが死んでもおかしくないということです」

「………」


「……本当はもっと早く、何か任務が始まる前に時間を見つけて言っておくべきでした…」

「………」


あかつきさん、聞いてますか?」

「ん?ああ、悪い悪い、聞いてる聞いてる」


 全部聞いていた、聞こえていたのではなく、ちゃんと聞いていた。いや、それにしたって…


「…やっぱり私みたいな人間が近くにいるのは気持ち悪いでしょうか?」

「いやいや、違う違う…ただ……」


 あかつきナユタはついにそれを口に出すのか。


 彼女の話は驚きの連続だった。生い立ちから今に至るまで、さぞかし悲劇的な人生だったのだろう。

 ただ、そんなことは所詮、彼にとっては他人のこと、他人事である。彼女自身同様に同情や憐みなど求めてはいないだろうし、彼もそんな気持ちは沸かなかった。

 正確には沸きかけていたその気持ちを極限まで冷ます彼女の言葉が最後の最後に飛び出たからである。


「トワ=クライスツェフって言った?」

「ええと、はい、言いましたけど…」


 あかつきナユタは天を仰ぐ。

 ああ、北部の空は今日も今日とてとても綺麗だ。


「そっか、言われてみればクオンもクライスツェフか…」


 どうして今の今までそこに大した焦点を当てなかったのだろうか。

 クライスツェフなどそうそうこの世界にいる名前ではない。


「…あのー、あかつきさん?」

「ああ、本当に悪い、いや、何でもないんだ…うん、何でも……」


 夢にまで出てきたことが現実にまで影響を及ぼすのか。

 何せ彼にとってのトワ=クライスツェフはあまり思い出して楽しい人物ではない。


「……よし、忘れよう。ごめんな、クオン」

「いえ、別に構わないのですが……」


 クオンにしてみればそこまで話したくもない昔の話をしているのだ。こんな上の空で聞くのは失礼だろう。

 ナユタは気を引き締めた。


「でもさ、何となくだけど、クオンは俺には話さなくてもいいって思ってたんじゃないのか?」

「……はい」

「何で?」


 別にナユタは怒っていない、変な興味があるわけでもない。ただそれだけは確認しておかなければならない。

 もし、彼が思う答えでなければ、彼女との接し方も考えなければならなくなる。


「最初は、すぐに言おうと思っていました。でも、いざ来たらあかつきさんが遅刻していませんでしたし…」

「……それは悪かった」


 もしかしたらこれからナユタは永遠にこの事実から逃れられないのかもしれない。


「あとは、あかつきさんも…他の皆さんも強かったので」

「……大丈夫と思ったと」

「…はい」

「じゃあ、大丈夫だったからいいんじゃない?」

「へ…?」


 彼はあまり重たくならないように、伝えたいことを、なるだけ軽く伝えた。

 何を言われると思っていたのか、たいそう身構えていた彼女からは拍子抜けしたような声が漏れる。


「俺は別に何とも思ってない。まあ、死にかけたのは事実だけど……それに、クオンは俺が死んでもたぶん何とも思わないだろう?」

「……それは、その…」

「正直に言ってみろって」

「きっと、何も思わないです」

「ははは、だろ?」


 一般の人間がこの会話を聞いていたら何を思うだろうか。

 狂った2人の狂った会話はとんとんと拍子を打つように進んでいき、死んでも何とも思わないと言われた彼は、楽しそうに笑っている。


「ならお互い何とも思っていないんだ、そんなに気にすることじゃない」

「しかし、それは……」

「そもそも今回は誰も死んでないしな」

「それは、そうなんですが……」


 別に彼女は人が死ぬのを望んでいるわけではない。

 ただ少し歪んでいるだけで、死に触れすぎてか、天性のものか、死んでいった者に一つの例外を除いて感情が浮かばないだけで。

 誰も死なないのが一番いいに決まっている。


 自分が原因で彼が死んでしまうかもしれないということが、彼女にとっては最も辛いことなのだ。

 たとえ死んだ後の彼に何も思わずとも、死んでしまうかもしれない彼を野放しにはできないのだ。


 彼女は自身がそういう汚い人間だということを重々承知している。


「もしかしたら俺たち人でなしにクオンのそういうのは関係ないのかもしれないな」

「それは…」

「まあ、一つ言うなら……」


 ずっと座って固まりっぱなしだった身体を伸ばす。静寂の中パキパキと節々が鳴る音が響いた。


「俺がもしも死んだ時に、ちょっとでも悲しくなったなら、その時は悼んでくれたらいい。それで十分」


 微笑しながらそう告げた彼を彼女は見上げた。

 別に目線が変わったわけでも何でもないのに、見上げなければいけないほど彼が高く、高くにいるようなそんな感じが。


「……」


 ツーっと両頬を伝う筋を慌てて抑える。

 どうして彼はこんなにも、汚い、醜い、大嫌いな自分と正反対に綺麗なのだろう。

 かつての親友と、違っているようで似ていて、でもやっぱり違う。


 彼女の心の中には、かつての親友に抱いていた懐かしい感情が、温かい感情が呼び覚まされていた。

 それは長らく人との関わりを避けてきた彼女が久しく忘れていた『憧れ』という感情だった。


 そう、クオン=クライスッェフにとってあかつきナユタは憧れだ。


「それに俺たち人でなしはさ、皆何か問題を抱えてるんだよ」

「……私は」

「だから皆たぶんどこかぶっ壊れてるし、クオンがそのこと言っても気にしないと思うぞ」


 ぶっ壊れている。それは確かにそうなのだろう。

 悪魔の契約者が一般の人間に忌避される理由の一つはそこなのだ。

 エレナ=ヴィッケンシュタインのその側面以外を未だ彼も彼女も垣間見てはいないのだが。


(やっぱり私もそうなのでしょうか…でも…)


 未だ心に引っかかる何かが彼女の正体を暗ませる。ただもう少し、彼女が自分という存在を認めるには、もう少しだけ時間がかかる。


「で、たぶん話さなかったとしても何とも思わないはずだ。皆少なからず何かを隠しているはずだから…俺も含めて」

あかつきさんも、ですか」

「まあ、クオンが自分のことを話したから、俺も別に話してもいいけど?」

「いえ、そういう卑怯なことはしたくありません」


 キッパリとクオンはそう言った。

 全く興味がないというわけではない。彼の心の内に何があるかは彼女にとっても気になるところではあるが、それでも彼女の気持ちは言葉の通りだ。


「じゃあ、今は言わないでおくよ」


 よいしょっと座っていた身体を立ち上がらせ、再び彼は全身を伸ばす。


「とにかく、皆大丈夫だから何も気にすることない…っていう話だ」

「……はい」


 彼につられて立ち上がった彼女は、そうして足踏みすることをやめたのだ。


 また自分の思い通りになったようだと、トワ=クライスツェフはほくそ笑んでいた。


「そういえば…」

「ん、まだ何かあるのか?」


 クオンはニッコリと満面の笑みを浮かべて頭を下げる。


「明日からはご指導の程お願いしますね」

「…あー、なるほど」


 そういえば訓練をつけて欲しいと頼まれて、それを承諾してしまっていたことを思い出した。

 別に後輩の指導とかそういったことに抵抗を感じているわけではない。


「でもさ、やっぱりクオンが指導を求めるべきなのは俺にじゃないと思うぞ」


 しかし、クオンと本来の戦闘スタイルのナユタではどう考えても実りのある指導などできるとは思えなかった。

 彼は自分と彼女の実力をハッキリと理解している。自分が彼女にモノを教えられる立場ではないことも。


「いえ、以前の戦闘であかつきさんが無理をなさっていたのは分かっています。本来なら私が誰に指導を仰ぐべきかも…」


 彼女がいったい誰を思い浮かべたのか、聞こうか聞くまいか一瞬迷ったナユタだが、彼女の表情が一瞬強張ったことを考えると、おそらくそれは正解なのだろう。


「もし自分があの少女の、熾天使(ラファエル)のいう通りだと納得できたときに、足を引っ張りたくないんです」

「まだ納得はできていないと?」


 少々意地の悪い質問なのかも知れない。


あかつきさんから見たらやっぱり私は()()でしょうか?」

「まあ、十中八九」


 本当のことを言ってしまえば、彼にとって彼女は確定である。彼女は人でなし、悪魔の契約者。その悪魔までは分からないので熾天使(ラファエル)の言っていることが全て正解かは分からないが。


 これは原因は分からない。ただエレナからも、フーリからもクオンからも初めて会ったときから感じるのだ。同類だということが。

 裏を返せば、彼女らに感じたその共感のようなものがほとんど感じられなかった者は他にいて。


「私も分かっていないわけではないんです」

「ん?」

「叔母様が初めてやって来たとき、今まで周りに感じていただき疎外感のようなものがなくなりました。」


「エレナや風利かざりさん、あかつきさんも隊長代理も、まるで古くからの友達みたいにすっと受け入れてしまいました。私に友達はいないんですけど」

「エレナがいるだろ?」

「はは、そうでしたね。三乙女さおとめさんは恐くて、神納木かんのぎさんは不気味でしたけど…それでも私は皆さんに何の嫌悪も抱きませんでした。ずっと中央にいたのに」


 ずっと中央にいたのに。

 中央はかつての対神革命たいじんかくめいより人間至上主義が当然の真理になったと聞く。


「ただ…今の私がそれを認めて、受け入れてしまうのは、逃げだと思うから」

「…そうか」


 時間が必要なのだろう。

 しかし、今の彼女の言葉を聞く限り、ナユタが思っていたよりも、彼女の成長はずっと早いのかも知れない。


「かなり吹っ切れたんじゃないのか?」

「はい、私は自分さえ納得できればそれでいいので」

「ははは、違いない」


 憎らしい笑みを浮かべる彼女に彼も笑いがこみ上げる。


「あれ?」


 ふと後ろを歩いていた彼女がそこで足を止めた。


「どうしたんだ?」

「いえ、ここの廊下の壁ってこんなにボロボロでしたっけ?」


 粉砕されたガラスが飛び散り、原型を留めないほどにズタズタにされた瓦礫からは依然土煙が燻っている。

 もはやそれは壁がボロボロになったというよりは、取り壊されて外と繋がったと言ってしまった方が正しいような気さえした。


 ◆


 時は少々遡る。


 三乙女さおとめカイセは歩いていた。いつものように不機嫌そうな顔をして。

 彼は不機嫌だった。

 不機嫌な原因というのは近々来るという来客の応対をせがまれたことにある。

 わざわざ出迎えろなどと指令が飛ぶような来客など北部戦線ここには1人しかいないのだ。

 彼は果てしなく彼女のことが嫌いだった。


「ん?」


 いつものように開けたところで休もうと思っていたのだが、特等席に新入り2人が座っている。

 何事か、深刻な顔で話しているようだが彼にさしたる興味はない。

 どうにもすぐに終わりそうには見えなかったので彼は引き返すことにした。


「こんなところで何をしている、三乙女さおとめカイセ……」


 振り返り少し歩くと突然かけられる声が一つ。

 声の主はなぜかいつもはしまっている刀を剥き出しにしている。

 月明かりがその刀身を照りつかせていた。


「何だ?奥に誰かいるのか?」


 カツカツと靴音を踏み鳴らし、純黒の髪をたなびかせ、カイセの横を通り過ぎる。


「あれは、あかつきと…はは、何だ?随分とあの女にご執心じゃないか、三乙女さおとめカイセ」

「何のことだ…」


 心の底からのため息が漏れ聞こえる。

 カイセにとってこれ以上不毛な時間はない。もう何度目だろうか。彼女が、神納木かんのぎマシロが彼に絡んでくるのは。

 その上、今回という今回は言いがかり以外の何者でもない。たまたま見かけて離れようとしたところを勝手に彼女が誤解しているだけだ。


「…とぼけるのも大概にしろ。お前があの女を気にかけていることくらい誰でも分かる」

「はっ、勝手に言ってろ」


 吐き捨てた言葉を残して彼は去ろうとする。

 しかし……


「…待て」

「あ?」


 背後から彼女の剥き出しの刀と殺意が当てられる。

 三乙女さおとめカイセはようやく彼女の方へと振り向いた。


「まさか否定しないとはな」

「……!」


 じりじりと滲みよる彼女の影に、三乙女さおとめカイセの表情が変わった。

 またこの時間が始まるのだ。


「お前が否定しないということはそうなんだろう?

 知っているさ、ああ、知っている。ずっと見ていたのだからな。お前のことなら何でもな……」

(……こいつ!)


 違う。今日の彼女は何かがおかしい。

 いつもならば激昂した彼女が感情のままに暴れ出す。

 彼が彼女のそれを捌いて落ち着くまでひたすら相手になるのだ。もちろん彼からは()()()()()()()()()


「はははは、何だこの感情は。無性にお前を切り刻みたくなってくる……いや、先にヴィッケンシュタイン(あいつ)から刻むか?

 お前はどんな顔をするのだろうなぁ、三乙女さおとめカイセ!!」


 月明かりがさす。

 どろどろに淀んだ瞳に心底楽しそうにへばりついた笑みを浮かべた彼女の顔がはっきりと彼の脳の奥の奥まで浸透する。


「そういえばこの刀もあの天使(雑魚)の薄汚れた血で汚れていたなぁ……はははハハ、お前の血で洗い流せれば、どれだけ綺麗になるだろうな?」


 何だ、目の前のこの女はいったい何だ。

 明らかに神納木かんのぎマシロではない。彼のよく知る彼女では絶対にない。


「…お前は誰だ?」


 気がつけば口からこぼれていた。


「何を言っているんだ?ワタシは神納木かんのぎマシロだ。今からお前を切り刻む」


 音もなく這い寄り気づけばもうそこにいる。


 ここで暴れられてはまずい。

 紙一重まで近づいて来た彼女から距離をとる。

 誰も巻き込むわけにはいかず、誰に見られるわけにもいかない。

 少なくとも今のこの女とまともにやりあえる者など動ける者の中に1人もいないことが彼には分かってしまった。


「くそったれが……」


 正確には未知数がいる。

 しかし、彼の脳裏に浮かんだ一度の戦闘さえ見たことのないいつも笑っている水色の男もギャーギャーうるさい金髪のクソ餓鬼も今この状況で動けるかなど分からない。

 そんな奴らには頼れない、頼らない。三乙女さおとめカイセは頼らない。


 彼は頼らないことを決めたのだ。何があっても自分の力で強引にでも解決できなければならないのだ。

 そんな呪いじみた使命感が彼を動かしているのだ。


「こっちだ!」


 彼が突き破った窓ガラスの音が静寂の空の下にこだまする。

 幸いなことにその程度で騒ぎ立てる者などここにはいない…はずだ。新入り2人は分からない。


「ハハハ、逃げるなよ三乙女さおとめカイセ……お前のその腕から滴る赤黒い液体が、どれだけワタシの心を揺さぶったことか…ハハハハハハ!」


 壁をぶった斬って彼女がカツカツと歩く。

 その靴音がいよいよ響かなくなって久しく、彼はようやく彼女に対峙した。


(これだけ離れてりゃ大丈夫だろ)


 心の中に言い聞かせ、彼は拳を握る。

 もう関係はない。ここまで来れば何事もない。後はいつも通りなのだ。

 いつも通り彼は彼女の攻撃を片っ端から受け続ければいいのだ。


「アハハハハハ、ようやくこっちを向いてくれたのかぁ三乙女さおとめカイセェ…」


 しかし、いつもと違うひどく淀んだ眼をして真っ黒な気配を引っ提げて、へばりついたように歪に笑う彼女を彼は知らなかったのだ。


 北部戦線入隊当時から二年間、知らない仲ではない。

 相対したあかつきナユタは感じていた。ともすればクオン=クライスツェフでさえ掴みかけている彼女の異常性にしかし、彼は気づけなかったのだ。

 何よりも彼女が二年間、彼にだけ発し続けて来たSOSに気づけなかったのだ。


 もはや彼と彼女は引き返すことができないところまで来てしまっていた。

 しかし、彼と彼女の決着が着くのは今はまだ遠い未来の話である。


「アハハハハハハハハハハハ」


 ただ、今この時は、神納木かんのぎマシロの声をした神納木かんのぎマシロとは思えない誰かの高笑いと地を這う彼女の剣撃の音が真っ暗な森の中に響く。


 神納木かんのぎマシロにとって、三乙女さおとめカイセは敵でしかない。


 ◆


「……それは本当ですか?」

『ああ、確かな筋から得た情報だ。……すまないがもう時間の問題かも知れん』

「どうしてこんな状況になるまで気づかなかったんだ!」

『やられた、まさか()()()()()()が危険を冒してまで北部に足を踏み入れているなど想像にもしなかった…完全にこちらの落ち度だ、すまない』


 弁明する女の声を聞き終えて、北部の旧時代的な設備とは打って変わった小型通信端末の電源を切った。


「…くそっ」


 風利かざりフーリは悪態をついた。焦りを隠しきれなかった。

 頭を抱えて考え込む。あの風利かざりフーリとは思えない、真剣な顔つきが微塵も崩れなかった。


「どうする…」


 焦りが緊張がフル稼働する脳みそが、心臓を震わせる。

 ドクンドクンと胸を揺らすその鼓動が徐々に徐々にその速度を上げていく。


「どうすれば…ぐっ」


 ドックンと一際大きい鼓動が激痛を。

 止まらない。心臓が一つ胸を打つたびに痛みが、全身を駆け巡る。


「落ち着け、落ち着け…」


 ダメだ、感情に左右されてはダメだ。

 負の感情はひどくストレスを感じるから、それはひどく疲れることだから。

 幸い感情の操作には一日の朝がある。それがあることのいったい何が幸いかなど分かりはしないのだが。


「……よし」


 鼓動が鎮まる。

 もう大丈夫だ、大丈夫。

 いつも通りにヘラヘラと、なるべくどこにも負担のないように、ふざけたようにしていればいい。

 そしてなるべく、周りに嫌われるように動いていればいい。


「さて、小生ここは踏ん張りどころかな〜」


 いつも通りにふざけたように風利かざりフーリはそう嘆息する。さっきまでの真剣な顔つきはすっかりとなりを潜めてはいるが、それでも彼の表情はうかないまま。いつもの余裕が全く見てとることができない。


「お嬢をあんな地獄に連れ戻させるわけにはいかねーんだよ」


 決意を込めたその眼差しを風利かざりフーリを知る人間が見ればどう思うことか。

 長く接した人間になればなるだけ驚くことだろう。そして、感心することだろう。


「まあ、これもお仕事なんで程々に頑張らせていただきますかねー」


 最後の言葉を抜きにすれば。


「フーリくーん」


 彼が無理やり弛緩させた空気に一層間の抜けた声が響く。


「本当、緊張感なくなるよなー、お嬢がいると」


 いよいよ彼の顔つきも態度も口調も何もかも、万人の知る風利かざりフーリに戻っていた。


「はいはい、すぐに行きますよ」


 彼はその手に持っていた小型通信端末を棚の奥へとしまいこみ、自室から外へと出て行った。


「もう、遅いわよ、フーリくん!」


 プンスカと腹をたてるエレナを軽くなだめながら、風利かざりフーリはそこそこ気に入っている日常へと帰っていく。


「悪かったですってば、ちょっとウトウトしてたんすよ」


 表情一つ変わることなく平然と嘘をつく。


「もう本当にフーリくんは私がいないと何もできないんだから」


 彼女は鼻高々にそう言った。


「そうっすね」


 彼は適当にそう返した。


 エレナ=ヴィッケンシュタインにとって風利かざりフーリとの関係は。



 ーーーーーーーーーー依存である。

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