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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
最終章 とばりおちて
93/101

84話 『ブレイキング』

 星の子の力を表出させたリュミエラが一直線に跳ぶ。

それは弾丸を超えて輝く風、いや、真昼の空に描かれた光の道!

偽りの(False)聖女(Saint)操る光熱で、十二フィートを超える身長と尾に備わった古代ドラゴンの骨と筋を乗算強化することにより、今まで以上の加速と加熱を可能にしているのだ。

地面を踏み締めた音が、切り裂かれる空気の流れが、遅れて響く。


「ギュアハハハハ!」


 官能的な薄紅色のオーラに包まれたリュミエラの腕が、エスコートの左肩にめり込んだ。

高熱の鉤爪が鉱物系の悪魔(デーモン)特有の、硬質外殻と鉛じみて重い肉をなんの抵抗もなく引き裂き、切り崩す!

変身状態での加速コントロールはまだ慣れないが、エスコートやデストロイのような重量級の獲物には極めて有効だった。


「ARRGHHHH……」


 金属が破断するような機械的絶叫と共にもげ落ちる角ばった左腕。

だが身長にして星の子リュミエラの三倍近く、質量なら百倍はあるエスコートは踏み留まり、右肩5インチ砲と手持ち機関砲による砲撃を継続した。

恐るべき低重心と安定性!

追撃しようと空中で方向転換したリュミエラのすぐそばで、鐘の鳴るようなデストロイのキーワード詠唱が聞こえる。

悪魔(デーモン)言語と鋼の発声器官が組み合わさったそれの内容はリュミエラには理解できない。

ただ危険な予感だけが光でブーストされた思考領域を駆け抜けた。


「Zone of Control Ver.1.08」


 月長石のサーチライト瞳から、薄く濁った奇妙なエネルギーの波が照射される!


「うぇ!?」


 光と熱に対する完全な免疫を持つリュミエラ自身は、デストロイからの干渉を防いだ。

しかし、悪魔(デーモン)の領域であるその周囲は違う。

急減速する空気と空間。

物体の移動を一時的に阻むそれ自体に攻撃的作用はないが、跳び回る対象へのインターラプト効果は絶大である。

BOOM!

なかば空中に縫い付けられたリュミエラを、デストロイの高角砲が襲う!


「うおあアあア!」


 否、リュミエラは無事だ。移動妨害領域も解除されている。

彼女は一瞬で状況判断し、再びエスコートを破壊すべく動き出した。

そして、転倒したのは不可思議にもデストロイの方!

見よ、丸みを帯びた灰色の脚に、怪人少年サンカントが内在勇者コードを組み合わせて精製した無数のワイヤー触手が絡みついている。

サンカントはそのまま仮想質量を操作し、悪魔変化の巨体を投げ飛ばす!


「うん、やはり人数が居ると楽だな!」


「まったくだぜ」


 打ち上げられたデストロイにラザルの呪殺ボルトが連打される! カコン、カコーン、補助腕の砲塔が脱落し、次に脚。

デストロイは胴と頭部に妨害領域を展開すると共に、他の被弾個所を次々に放棄して致命的損傷を止めようとするが、遅い。

バラバラになりながら落下するデストロイ。

一方エリクは、大型パワード・スーツの背面から展開したランチャーに対霊的生物用の特殊弾頭を装填していた。

魔力鎖を破壊する呪われた希少な重金属弾が、左腕と二本の主砲を破壊されたエスコートの胸部に突き刺さり、崩壊し、風穴を空ける!

もう一発。KABOOOM!

太い灰色金属の上半身はへし折れた。

前に出て敵に致命的な隙を作るという仕事を終えたリュミエラとサンカントが、悪魔(デーモン)の崩壊に巻き込まれぬよう退避し、戻ってくる。


「ふう、これでいいかな隊長」


「それでさっきのは何なんだよ、聞いてなかったぜ」


 不平をぼやくサンカントが、悪魔(デーモン)コンビの残骸を眺めた。

上半身が吹き飛び、台座じみた足腰だけが立っているエスコート。

四本の女性的な補助腕に加えて本来の手足までが捥げ落ち、トルソーと化して横たわるデストロイ。

諸行無常……いや、微かな違和感。


「うむ助かった、んで説明だが、あージョゼ……はまだ手が離せないか、ならその間に準備しながら、おや?」


 皆が一息つき、リュミエラが変身を解除しかけたその時。

魔力が霧散しつつある悪魔変化が、ガラクタと思っていたそれが、わずかに動いた。


「ワレハ、ショーゲツ……ワレ、ワレラ……足止メル……チカラ、贄ガ、戦ウ意……義……」


 動作停止したはずのデストロイが、老女然とした掠れ声を発する。

同時に、下半身だけのエスコートが一歩を踏み出す。ズシン、ズシン。


「ハッ、魔力反応断絶したはずだぜ!?」


 驚愕の表情を浮かべたラザルが、慌ててクロスボウの照準を合わせ、撃つ。

だが、少しばかり遅い! BOOM!

呪殺ボルトは、地面に転がったデストロイの頭部より展開された機関砲に撃ち落とされた。

キィィィィン。


「Zone of Control Ver.2.00」


 耳障りな金属音を含む詠唱。

直後、デストロイの歪な巨大鋼鉄女体が飛び起きた。

頭とトルソーが釣り上げられたかのような不自然さで浮き上がり、自切したままの手足と砲塔がそれに続く。

首の切断痕から覗いていた悪魔(デーモン)ショーゲツの核(コア)、現世での存在を司る薄色クリスタルが砕け散り、ワイヤー状に変化して力場を生成している。

虚無的な月長石の瞳に、再度光が灯った。

弾薬をリロードしたエリクが呻く。


「これは一体……?」


「わかんないけど隊長、もう一回殺せばいいんじゃない」


 下半身だけで歩みを進めるエスコートの腰から、悪魔(デーモン)サミュエルの核(コア)、ジェットのクリスタルが飛び出して爆散。

渦巻く黒い煙が失われた上半身に代わって、鈍い赤がちらつく白炭の身体を生成した。

頭部に現れた瞳はジェットではなく、空虚な灰。

荒れた大地に刻まれた足跡から煙が上がり、炎の軌跡が続く。


「フホ、ゲホッホッ! グフ、ロス、ズザザザ、タイムだぞ、“勇者”」


「我々ハ目的ヲヲヲ達成しまシマス、シ、ウフフクフフア」


 二匹の悪魔(デーモン)は、ノイズまみれの声で低く笑った。

ロスタイム……そう、ロスタイムだ。

決して復活したわけではない。存在としては既に死んでいる。

自身の存在そのものを生け贄に捧げて生前の情報を残骸に刻印し、わずかな活動猶予を作りだしたのだ!

おそらく、それを可能とする特性を持っているからこそ、殿に選ばれたのだろう。

それにしても、なんたる覚悟、なんたる忠誠!


「んだこりゃ、呪いが効かねえぞ?」


 異常な挙動で行く手を阻むデストロイの胴に呪殺ボルトが刺さるが、侵食が起こらない!

反撃の意志というより、なかば反射めいて撃ち返された砲弾を回避したラザルは訝しんだ。

パワード・スーツの複眼に内蔵された各種の視界を通して、敵の挙動を観察していたエリクがそれに返す。


「……ラザル、こいつらはアンデッドですらない、人格の残滓に従って機械的に動いてるだけだ!

たぶん呪いの対象が、目指すべき核(コア)が存在しないんだろう。

対処は物理的に砕くか、パワーソース切れまで放置するか」


「どれぐらいで切れるよエリク殿、時間ねえんだろ!」


「わからんが、半日は持つまい」


「んなに待てるか馬鹿!」


「まあ、つまりはぶっ壊すしかないってことだ」


「ぐぬ、俺のクロスボウはただ丈夫なだけの敵は苦手なんだが」


 ボルトを炸裂型に変更し、デストロイに撃ち込むラザル。BOOM!

しかし、頑健な鋼のマリオネットはそう簡単に止まらぬ!


「駄目でススす、貴様ラわたしを破壊できデキないそれは既ニ破壊ズミデスからが疲労を感じないワタシは立チツヅケけル」


 ワイヤー伸長右ストレート! ワイヤー収縮回転蹴り! ワイヤー伸長4インチ連装砲接射! 砲撃反動回転蹴り!

勅を果たそうとするショーゲツの遺志がエリク達の進路を塞ぐ!


「めんどくせえ……っとと」


 ひらり、ひらりと風に乗るラザルに精密さに欠ける攻撃は当たらない。

問題は、彼からの有効打も無い事だ。

単なる破壊は専門外。

エリクはエリクで、上空で情報収集に努めるジョゼに加えて、暴走状態のデストロイとエスコートにまで注意を向け続けているためあまり派手に動けない。


「任せろ少将!」


 割り込んできたサンカントの輝く鏡の拳が、デストロイの部品を殴り飛ばした。

怪力と攻性防御膜が合わさり、シンプルな物理的衝撃をもたらす!

 

「助かる」


「認めらレレません私は叩キスマス」


 伸びきったワイヤー力場に炸裂ボルトの追撃。

異形マリオネットの腕を一本切断。後五本!


「僕ガとオサナアいイイ!」


 FIRE! エスコートの砲撃。

熱と灰で形作られ、セントエルモの火のように揺らめく不安定な砲身に、実弾を撃つ能力は残っていない。

代わりに放たれるのは、彼の実体を削って生み出された球形の火元素。

弾丸にしては遅く、炎にしては早い速度でリュミエラ達の目の前に到達、落下した塊が砕けて燃え広がる!

エリクは地元素を操作して消火を始めた。

その光景を眺めていたリュミエラが、赤い仮面を歪めて嬉しそうに呟く。


「隊長、あたしに任せてよ、あれ」


「ん、僕が砲撃で散らした方が早くないか? あっち(デストロイ)ほど動きも早くないし」


「あの炭の塊は、存在を燃やすことでパワーに変換してる。原理は陽の光やレンファニウムの放射なんかと同じ。小規模だけど」


「ふむ」


「つまり、あたしの、偽りの(False)聖女(Saint)の餌! ボン、そしてアペティ!」


 言うが早いか、リュミエラは蹴爪の生えた白銀の脚で地を踏み砕き、力強く跳躍した。


「クル、ナアアアアァー……」


 再び火元素の塊を放つエスコート。

リュミエラは回避しようともしない。

一瞬で炎を掻き消して、白炭のボディに取り付く。

彼女はそのまま両手両足のドラゴンの鉤爪でエスコートの表面を引き剥がし、溶鉱炉のような内部に飛び込んだ。

爆発、そして炭が爆ぜるかのごとき妙な悲鳴。

三十フィート以上もあった太いシルエットが縮みはじめた。

機械的な炎の砲撃こそ止めないエスコートだが、もはやまともな火力ではない。

より強い意志を持った炉、星の子の魂魄にパワーソースを吸い取られているのだ!

輝きは消え、白い灰となって崩れてゆく。


「アァア゛、主、サマ、申シワケ、デグレ、サマ、モ、ガッ」


 サミュエルの残滓が、空に融けるような薄い断末魔と共に砕け散る。

リュミエラは悠々と着地した。

最後の最後まで残っていた浮遊する灰の砲身も、火鼠じみた小さな炎を撃った反動で崩壊し、消えた。

少し離れた場所では、ラザルとサンカントによるデストロイの解体が進んでいる。

マリオネットからスクラップに戻りつつある。


「ふう……さてと、隊長に……ん、シャトレーヌ! 戻ってきただと、何故、いや、いいけど、でも」


 ゴウンゴウンゴウン、見上げた空から特徴的なオドン式ジェットエンジンの音が聞こえた。

忘れるわけもない、というよりも少し前までリュミエラと戦っていた白銀長方形のシルエット。

煙を噴いており、厄介だった各種の防御機構も生きていないようだ。

だがそれは遠見レンズや機械の補助なしでも細部が見えるほどに降下してきた。

ウェポンベイが開き、何かを大きなものを投下した。それは空中でクス玉じみて割れた。

浮遊していたジョゼが急降下し、聖光粒子の防御膜を張る。


「こっちですわ!」


 リュミエラ達四人がジョゼの輝く傘の下に滑り込むのと、無数の小型物体が降り注ぐのはほぼ同時だった。

ZZZZAAAZAZAZAZAAAP!

各種通信を妨害し、霊的存在を無差別に損傷せしめる“シャトレーヌ”の電磁クラスター爆弾が炸裂する。


「あお゛ァア゛ぁ、あ――ア、主様万歳!」


 かろうじて実体を残していたデストロイが、紫色のスパークを伴う爆発により消滅。


「おいおい、味方を巻き込みやがったぞ」


 砂煙に加えて激しい電磁波が荒れ狂い、全員の視界が遮られる。

エリクが防御用のメタリック・オブジェクトを増産して妨害電波と煙の排除を急ぐ。

幸いにして爆撃は一度のみで、視界と感覚の復旧はすぐに終わった。

エンジン音を認識した瞬間から偽りの(False)聖女(Saint)を練っていたリュミエラが、収束熱光線で“シャトレーヌ”を撃ち落すべく照準光を空へと向ける。

……だが!


「え、ええ!?」


 KABOOOOM!

爆撃を行った“シャトレーヌ”が唐突に空中爆発!

リュミエラは不審げに思いながらも照射を停止し、多少のロスを伴ってパワーソースに還元した。

機関の不具合だろうか? 違う、何かがおかしい。

エリクは唖然として空を見た。


「馬鹿な、転移、こんな場所で!?」


 炎と煙と鉄の影に、正八面体の発光物体を、奇怪な積層魔方陣を見た。

確かに、全員が見たのだ。

術式を解除すべく光の触手を伸ばすジョゼだが、大質量物体こと“シャトレーヌ”の破片と爆風に阻まれてほんの一瞬遅れた。

銀色をした人形状のものが収縮する八面体と共に消滅。


「チィーッ! ぬかりましたわ!」


「あああ、メルド!」


 慌てる面々をよそに、サンカントは金と黒に彩られた怪人の瞳で静かに遠くを見つめている。

正確には、彼に寄生する“サンキエム”が。


「…………捕った」


「ん、どしたのサンカント、じゃないな、えと」


「四式緊急転送装置。発動は早いけれど、バックドアがあります。

“私の”ルキエル基地にも備え付けられていたから、わかる……にしても、まだバージョンアップせずに使っていたのか。

転移先の解析が可能です。破壊しに行きましょう。

ただしバックドアの存在はハカセ、ごほん、ベルトランも知っている。

私がこっち側なのを知っていて、こんな近くで使うということは、なんらかの特殊な事情か対策があるはず。

急いだほうが良い」


「流石にこの手のには強いわねあんた……あたしはもちろん行くけど。

最初からそういう約束だし。あ、そうそう、頼まれてた件どうにかできましたよ、隊長。

“エアフォルク”は完全破壊、“R”は半壊で撤退させました。

あ、サンカ、“サンキエム”、あれをこっちに」


 星の子の活性化を停止したリュミエラが、普段の姿に戻った。

竜牙剣(ドラゴンキラー)が右手で掴んだ状態で出現し、残虐な赤い仮面が大鱗に還元される。

今回はエスコートからパワーソースを吸収している事に加え、変身の維持期間が短いためバックファイアもない。

被害といえば成層圏での戦闘時点で衣服の体をなしていないほどに傷んでいた、赤黒いフードマントとラヴァ・ワーム革の上下が更に劣化した事ぐらいだろうか。

彼女は前もってサンカントに渡しておいた着替えを要求し、こそこそと着替えだした。





怪人図鑑そのさんじゅうはち


〔『エスコート』〕

シュバルド軍のアンドレアス派悪魔将校の一人が変身した魂の姿で、シュバルド山軍特定兵器。

兵器としての名はガーディアン・エスコート。

精密射撃と範囲攻撃を使い分け、耐久性に優れる。

大いなる魔王に下された任務と敬愛する大悪魔のための殿として“勇者”と“聖女”に挑み、破壊された。


・おおきさ

36フィート7インチ、45トン。


・装備

5インチ単装キャノン

エキドナ

予備魂魄バッテリー


・特殊魔法と能力

「完全燃焼」

「悪魔基本セット」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――




怪人図鑑そのさんじゅうきゅう


〔『デストロイ』〕

シュバルド軍のアンドレアス派悪魔将校の一人が変身した魂の姿で、シュバルド海軍特定兵器。

兵器としての名はディフェンダー・デストロイ。

砲の保持を兼ねた四本の補助腕を持ち、大型のわりに器用な立ち回りを可能としている。

大いなる魔王に下された任務と敬愛する大悪魔のための殿として“勇者”と“聖女”に挑み、破壊された。


・おおきさ

38フィート2インチ、78トン。


・装備

4インチ連装キャノン

24インチ土竜発射管

予備魂魄バッテリー


・特殊魔法と能力

「ZOC」

「悪魔基本セット」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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