83話 『合流点』
広がる空と雲、凍える大気、広がる魔力、響く火薬、影のドラゴン、星の子の旱。
ZZAZZZAZAZAZZZZ
(想定外の襲撃を受けています。“エアフォルク”空中崩壊のち喪失、“リベルテル”中破……“シャトレーヌ”による迎撃を行います)
(“リベルテル”撤退に成功しました。規約により絶望山脈ドックに入渠以降、“魔王”に所有権が移動します)
(各種不具合が発生しています。“シャトレーヌ”戦闘続行に支障あり)
(戦闘空域を離脱します)
システムメッセージ:管制装置掌握率が低下しています……復旧中です
システムメッセージ:量子魔力通信装置に障害が発生しています……復旧中です
システムメッセージ:電磁フィールドジェネレーターAが喪失しています
システムメッセージ:電磁フィールドジェネレーターBが過熱しています……復旧中です
システムメッセージ:外部カメラ03・04・08・11・12・14・15・16・17・20・21が喪失しています
システムメッセージ:外部カメラ02・05・06・09・13・18・19・22・23にノイズが発生しています……復旧中です
システムメッセージ:クリスタル式電波探査機が喪失しています
システムメッセージ:オドン振動式探査機が損傷しています……復旧中です
システムメッセージ:アウトオブミサイル……背面VLSを交換してください
システムメッセージ:元素転換フレア弾生成機を交換してください
システムメッセージ:チャフを補給してください
システムメッセージ:電磁加速砲身耐久限界です……応急砲身生成中です……生成率八十二%
システムメッセージ:スパイクブラスト射出装置が劣化しています……パージしますか(Y/N)
システムメッセージ:側面アストラルネット・プロジェクターが損傷しています……自動復旧は不可能です
システムメッセージ:底面マジカルエクスプローダーが過熱しています……元素転換を中止しますか(Y/N)
システムメッセージ:クリスタル燃料圧縮エンジン01・03が喪失しています
システムメッセージ:クリスタル燃料圧縮エンジン02の出力が低下しています……復旧中です
システムメッセージ:強力オドンジェネレーター01の出力が低下しています……復旧中です
システムメッセージ:イオン式ステルス防御膜が喪失しています……再塗装してください
システムメッセージ:ミラー・スクリーン展開装置Bが喪失しています
システムメッセージ:複合装甲劣化率六十六%……早急な交換が必要です
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“ドラゴン・ソリオン”カピテーヌの生物偽装カメラアイ内部の仮想モニタを埋め尽くし、濁流のように流れ続ける赤い文字列と計器ログ。
アラートのほとんどは、彼女が操作する空中機動装甲“シャトレーヌ”一号機の不具合からくるものだ。
しかし安全率を分厚く取ったそれは、いまだ機能停止していない。
メイン兵装と防御機構の七割に加えてエンジンの半分が使用不能になりつつも、追跡者を少しずつ引き離しながらジグザグに雲間を飛んでいる。
「航行に支障なし」
システムメッセージ:量子魔力通信装置の復旧に成功しました……基地とコネクトしますか(Y/N)
「Yes」
ザリザリザリ……
「応答……応答せよ、応答せよ!」
「すみません、連絡が遅れました博士」
ザリザリザリ……
「うむ、何があった、いや、どうなった」
「“スペクトル”の連鎖対結攻撃により通信障害を受けていました。戦況は障害発生から変化しておりません」
「ふむ、地上の、大荒原の様子はわかるか?」
「範囲によります。全体は把握できません。主戦場と“聖女”反応は可能です」
「およそ理解した。“聖女”反応周辺を爆撃した後、“シャトレーヌ”を自爆処理せよ。******君の帰還は緊急転送装置で行う」
「了解、は? しかし緊急転送は隠密性が……」
「状況が変化したのだ、シルヴェストルは放棄する」
「了解」
ザリザリザリ……
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煙を吐きながら魂の姿へと変異を開始したサミュエルとショーゲツに対し、エリクは地のペンタクル紙符を撒き散らした。
だが、二匹は不確定的な輪郭のまま濃い敵対的元素が漂う破壊領域を脱出。
空中で更に変化が進む!
そして、雲間から戦場に陽光を注ぐソレイエルの瞳が、黒い二つの影に遮られた。
言うまでもなく、悪魔の威圧的な姿。
一方は両肩に単装キャノンが接続されている角ばったシルエットの巨人で、肩から腰にかけてベストのような黒い文様が走っている。
もう片方はやや女性的な円筒形のボディと四肢を持ち、背中から生やした四本の補助腕にそれぞれ連装キャノン。
蜘蛛を連想させるこちらも、かなりの巨体だ。
「ホハーッ! 護衛監エスコート見参!」
「用法が間違っているぞ、サミュエル」
遠吠えのようなサミュエルもといエスコートの名乗りに挟まれる軽口。
とはいえ、仲間割れをするというわけでもない。敵の動きは止まらない。
三十フィート以上もある鉱物質のゴーレム・ボディの肩から生えた5インチ砲が、二本同時に火を噴く。BOOM!
それより体格の良いもう一方、ショーゲツの変異体は榴弾をばら撒きながら着地し、ある種妖艶な曲線を描いて灰色の拳を振り下ろした。
連続する爆発。
弾体そのものは強力なパワード・スーツを纏ったエリクが止めたが、質量攻撃と爆風はいかんともしがたい。
少なくとも、エリクやジョゼのような人外の生命力を持っていないラザルは、後退せざるをえなかった。
空で繊細作業中のジョゼが不満をこぼし、巻き込まれぬよう聖光粒子の密度を上げる。
完全に魂の姿を現した二体の手負い悪魔が、地響きを立てた。
全ての砲身が睥睨するかのようにエリク達を向く。
「ああもう、しつこいですわ!」
「ラザル、僕は海の連中は専門外なんだ、エスコートじゃない方、何か判るか?」
スピーカーを通したメカニカルなエリクの声。
再生成したロケットランチャーが、パワード・スーツの背中からせり上がってきている。
「俺だって専門じゃねえっての! ぬうう、あれは、うむ、海軍の大型悪魔ならベソール?
……いや違うな、ベソールはもっと……すると……ああ、あの変な4インチ砲はあれだ、デストロイ、防空監デストロイ。
細かい能力は知らんが防衛系で火力は高くねえはず、しかし急いでるってのに面倒だぜ……お、おおっと!?」
砲撃。BOOM!
転がって逃れたラザルの数十フィート横を5インチ砲弾が掠める。
降り注ぐ破片は、突風で逸らす。
……と、エリクが動いた。
「それだけわかれば十分だ、少し下がっててくれ」
パキパキパキ、金属が捩れて割れるような禍々しい音と共に、エリクの周囲に無数のメタリックなオブジェクトが広がってゆく。
半径十、二十、三十フィート……まだだ……七十、八十、九十、百フィート!
それは“大地の勇者”が展開する対破片防御フィールド。
BOOM! BOOM! BOOM!
エスコートとデストロイの砲撃が集中する……しかし、通らない。
弾丸がオブジェクトを破壊するより、エリクが再生成するスピードの方がずっと速いのだ!
「スゲエな……だがエリク殿、さっきも使ってりゃもうちいと楽だったんじゃ」
「こいつは負荷が一定値を超えると減衰できない、大悪魔共に使ったら逆に消し炭だ」
「そうか」
「ともかく、狙撃してくれ!」
「おうよ」
金属質の防御フィールドに守られたラザルはクロスボウに呪いを込めはじめた。
集中。集中。更に集中。
粘りつくような呪殺の印がボルトに刻まれ、負のオーラを放つ!
「…………」
砂煙も、砲撃の振動も、長魂族のラザルにとってみれば障害にはならぬ。
音もなく飛んだ黒いボルトが、デストロイの最も装甲の薄い部位、四本の補助腕のうち一本に突き刺さった。
対霊的生物に特化された呪いが急速に広がり、砲撃機能を失わせる!
コントロールを外れた連装砲台が誘爆。KABOOOOM!
「GOOOARRRRRGH!!!」
呪いの侵食を止めるため、破損した補助腕を自ら引きちぎったデストロイの悍ましい叫びが大気を揺らす。
戯画アンドロイドじみたマシーナリーなその顔は、苦痛と怒りで歪んでいた。
残った腕の六門が全てラザルに集中するが、メタリック・オブジェクトが防ぐ!
その時、ラザルは既に次の呪殺ボルトを放っていた。
意外にも高い反応速度でデストロイに回避された二の矢が、エスコートの肩部単装キャノンを破壊! BOOM!
だが補助腕と違い、肩は装甲が厚い。真の効果が発揮されるまでには時間がかかる。
損傷を無視して何かを準備するように屈み込んだエスコートの背中に、コモリガエル状の開口部!
エリクに初めて焦りが見えた。
「Release ECHIDNA」
等間隔に降り注ぐ弾頭。二十四連装の対地元素砲は広範囲のオブジェクトを巻き込む!
「のおおお!? いや、いける、まだ耐えられる、撃て、呪殺しろラザル!」
銀色のパワード・スーツが煌き、燃える破片と拮抗。
続けて、体勢を立て直したデストロイが割り込んできた!
「喰らえ“勇者”、とあー!」
防御フィールドの生成率を上げて強引に耐えるエリクに、大型自走弾が地表を溶かして這い進み、迫る。
シュバルド海軍の対地魚雷(矛盾した通称だ)“土竜”!
ラザルは呪いのチャージを中止し、連続射出される土竜に炸裂ボルトで対抗する。
爆ぜる大地。
「駄目だデストロイ、やはり“勇者”の防御は抜けない」
「うるさい、撃ち続けろ」
「わかってら、フォ、フゴボーッ!?」
CRASH!
突然、エスコートがつんのめる様に倒れ込んだ。
動かない。
直後、デストロイがエスコートの後頭部を蹴った。
金属音とともに、何かが弾き飛ばされた。
よろめきながら起き上がるエスコート。
「ゴフボッ、助かった」
「エスコート! あいつはどこから出てきた、それと左肩装甲を剥がせ、呪われている」
「知らない、ぞ、僕は、ゲハー、ハッ、ああ、わかった……」
円筒形の鋼の塊、デストロイの強靭な脚に吹っ飛ばされた何かが、叫びながらエリク達に向かってくる。
人型をしている。
戦場に似合わぬ少年じみた声と姿、似合わぬ攻撃的な内容。
「ちっくしょおおおおお! もう少しで頭を捥ぎ取ってやったのに!」
ドウン! 影は途中で空気を踏み込んで立て直し、地面にクレーターを作って着地した。
逆立つ黒い髪と浅黒い肌。目元はゴーグルで隠されている。
エリクはパワード・スーツの頭を、昆虫の複眼状の銀の顔をそちらに向けた。
「ちょうどいいところに来たじゃないか、サンカント」
「ア゛、誰……っと、エリク隊長か、あれ、ジョゼさんは?
それよりえっと、どんな状況だこれ、ラザル少将まで居るし、つか更地……座標合ってる、合ってるよな?
シュバルドの前線基地って姉ちゃん言ってたのに」
「あー、話すと少しかかる、まずはあのでかいのを二匹処理してからだ」
「えっ、俺より隊長のが、ガーってまとめてぶっ壊す奴で楽勝なんじゃ」
「連戦でパワーソースに余裕がないんだよ!」
「ハイ隊長、おっ!? え、なんでこっちに、隊長が呼んだのか?」
「どうしたサンカント」
竈の商人族少年の姿をした怪人が急に挙動不審になり、首を捻って空を見上げた。
ZAZAZAP!
不快な雑音を伴った薄緑の閃光が薄曇を裂き、デストロイの撃った砲弾を、ラザルが迎撃する前に灼く。
炸裂ボルトは無為に爆発。
ワンテンポ遅れて、陽光の元でなお輝く紅い物体が自由落下してきた。
それは怪人少年のすぐ横の地面に激突し、赤黒いケープをはためかせてゆらりと起き上がった。
凄まじい熱に当てられた地表が融け、鉱物蒸気と陽炎が立ち昇る。
そして大きい。
常人の三倍近い丈を持つエリクのパワード・スーツ姿と比較しても決して見劣りしない。
鍛え上げられたドラゴンを思わせる前傾姿勢と、同じく長い鞭尾。
滑らかな真紅の鱗に覆われた上半身と、力強く張った白銀の筋繊維が艶かしく恐ろしい下半身。
槍を思わせる長くシャープな四肢の先には、四インチはあるドラゴンの爪が生えている。
顔は無機的な紅い仮面だが、口に当たる部位が大きく割れており、ずらりと並んだ牙が禍々しい。
「SHHRRR……んー、なんか話と違う?」
落ちてきた怪物は、外見からは想像もつかぬ普通の声で喋った。
ようやく地上に戻りました。




