79話 『ミミック』
「総員、退避せよ! “勇者”だ、皆殺しになるぞ!」
王笏を振って気を入れ、、超魂族らしい漲る霊気を全身に纏ったアンドレアスが、管制室が揺れるほどの音量で叫んだ。
壁や床、そして点きっぱなしの通信装置を通して、急ごしらえの前線基地全体に退避命令が広がる。
実際、英断といえるだろう。
非戦闘員や予備の連中が残っていても邪魔にしかならないし、無駄な犠牲も増える。
“勇者”エリクと“聖女”ジョゼにしても、向かってくる一般兵を巻き込んで倒すならまだしも、逃げるのを追いかけて処理するほどの余裕や攻撃性はない。
二人は遠ざかってゆく複数の気配を無視し、“大魔王”の隙を伺った。
「アンドレアス王、あんたも逃げたほうがいいんじゃないか? 無論、逃がさないけれど」
カーキ色の鎧に仕込まれた、大量の土のペンタクル符が鈍く煌いている。
もちろん、それだけではない。
秘密の儀式を経て二重魂魄を備えた“勇者”であるエリクは完璧なマルチタスカーで、様々な戦闘手段を同時に扱う。
加えて……
「どうやら、勘違いをしておるとみえる」
厳かに呟いたアンドレアスが十フィートの長身を優雅に揺らし、一歩だけ動く。
直後に床から突き出した聖光粒子の刃を、彼は王笏を振って霧散させた。
不意討ちを回避された“聖女”ジョゼは小首をかしげた。
「なんだか、違和感ですわ」
鞄を投げ捨て、さらに一歩を踏み出すアンドレアス。
力ある王笏の文様が鈍く点滅し、生きた樹のように成長を始める。
「おぬし等が余を倒しに来たのではない……余が、おぬし等を誘い込んだのだ。ゼプタァー!」
アンドレアスはもはや槍と化した王笏を恭しく掲げた。
ジョゼが粒子を練りつつ、相棒に呟く。
「エリク」
迸る暗色の魔力が伸び広がる邪悪の樹を描き、超魂族の、“大魔王”の全身にへばりついた。
前もって準備されたプログラムに呼応して王のローブが霧散し、黒い樫を彷彿とさせる質感のバトルスーツに変化してゆく!
エリクはその変身過程に一瞬の隙を認めた。
ゴウ! ジェットパック起動。
「ハーッ!」
聖堂騎士団流の鋭い直突きが、アンドレアスを狙う!
ジェット加速されたそれは火薬を上回る速さと正確さだ。
対霊的生物用に調整された呪いの刃が生成途中のバトルスーツを貫通し、超魂族の胴に吸い込まれた。
直後。
「う゛お゛っ」
SMASH!
巨大な靴底を腹部に叩き込まれたエリクが吹き飛ばされ、バウンドした。
だが、流石に“勇者”の反応速度。
彼は手放さなかった剣を天井に突き刺し、ただちに復帰。
更に、ひらひらと舞って床に落ちる土のペンタクル符に紛れて、何かが蠢きだす。
ほどなくして立ち上がったのは、ヒト型のマシン・ゴーレム。
エリクの魂の同居人が操作する分身体、ツチヤ!
「うむやりおる、ちと、荷が勝つか?」
わずかに欠けたバトルスーツに目をやり、不快そうに眉根を寄せたアンドレアスが床を踏み締めた。
強力な超魂族の力で、周囲の空間が薄く歪んでいる。
隙は無くなった。睨み合い。
とはいえ、余裕があるのは流石にエリクとジョゼの側だ。
分身体を含めれば実質三対一なのだから当然だろう。
だが、二人はある疑問について考えなければならなかった。
そうしなければ、暗殺作戦そのものが失敗に終わりかねない。
「やはり、何か……」
接触点の霊的構成物質を分解消滅させる、エリクの祝福ジェット突きは確かにアンドレアスの胴を貫いた。
肉よりも霊体の方に存在の重点を置く、超魂族には、当たりさえすれば必ず効く。
にもかかわらず、全くダメージになっていない……それも、防御や修復能力、あるいは気合で耐えているのではなく、完全に無傷。
回復と浸食を司る“聖女”の瞳が、回復や損傷の兆候を見逃すことは有り得ない。
霊木王笏の力で生成されたバトルスーツが欠け、修復される気配が無いところからも、攻撃自体が無効化されたわけではないのは明らかだ。
更に、エリクには別の違和感も。
「どうにも、違う気がするんだよ、いやなに、ルクスコリ軍の魔王対策課を疑うわけじゃないが。
ともかく、点の攻撃は効きが悪いようだな、魔王様?」
エリクは剣を鞘にしまい、小型のロケットランチャーを取り出した。
彼のバックパックには、作戦のために用意された各種兵器の素体が無数に入っている。
紙符ペンタクルで増幅された地元素をその型に注ぎ込むことで、インスタンス生成するのだ。
分身ツチヤもトレースして同じ物を構える。
アンドレアスは注意深く全員の挙動を窺っている。
「ふーむ、おぬし等の指揮官は無能のようだなあ。
そもそも、魂魄のミームを肉体のミームで誤魔化すこの次元で、個を厳密に定義するのは難しいのではないかね、“勇者”君?
余は憂いておるのだよ、退廃と欺瞞へと向かう世界をのう」
じり、じり、じり。互いの領域が楕円を描いて接触し、また離れる。達人。
「旧支配者の勝手な理屈ですわね、超魂族!」
緊張が広がる中、先に動いたのはジョゼ!
“聖女”の体内で練り上げられた粒子が爆発的に増殖し、ギュルギュルと渦を巻いて殺到する!
聖光が持つ修復複製能力を逆用した消失攻撃、情報削り!
アンドレアスは霊木槍を振り回して高エネルギー結界を生成し、輝くウィルス触手を迎撃。
一本、二本、三本、四本を切り飛ばし、隔離して殺す。
五本、六本、七本!
「ぬうう、クオォォ……」
槍が打ち漏らした触手は、噴き出す毒々しい虹色のエキゾチック物質に阻まれた。
原初の種族、超魂族操る混沌の吐息が聖光粒子の増殖コードを掻き混ぜて分解、無力化!
そこに、均衡を崩すべくエリクが動く。チームワークは完璧だ。
「秘密が何だか知らんが、喰らえ」
化学エネルギー弾が飛ぶ。 燃える軌跡!
更に分身ツチヤがトレースしてもう一発。
聖光対策にリソースを割いているアンドレアスは対応できない。
……いや、違う、あれは!
「ふぉいあー」
気が抜ける声と、床からの奇妙な爆音。BOOM!
二本の榴弾が管制室の屋根ごと吹き飛んだ。
エリクは背後に、強烈なエネルギーの高まりを感じた。
反撃は間に合わぬ! 回避だ!
「っとお!?」
BOOM!
「ゴボボッ」
直前まで胸部があった位置を、黒い何かが通過。
追加の地雷床爆発で、エリクをトレースしていた分身が崩壊。
まだだ。今度は突然の銃撃。BLAM! BLAM! BLAM!
エリクは弾を切り払い、あるいは回避しながら下がり、分身の再生成に入る!
そこに割り込んでくる聖光ウィルス触手!
「アア、一発で魂魄引っこ抜いてやろうと思ったのによ、ショックだぜ」
襲撃者は浮遊してジョゼのインターセプトから逃げ、アンドレアスの横に移動した。
床の爆心地に落ちていた黒い鞄に金属節足が生え、同様に動く。
エリクは唸るように呟いた。
「いつの間に貴様……」
人形を想起させる整った容貌、濁ったエメラルドの虹彩、ふわりとカールしたブロンド。
黒い骨じみた爪の手甲、本体もしくは分身と思しき黒い角鞄。
四フィート少々しかない細身の少女を模した身体は、専用のシュバルド式ミリタリースーツで包まれている。
火工品の大悪魔、デグレニャ!
「待ちかねたぞ」
ジョゼの連続攻撃をギリギリで凌ぎ切ったアンドレアスが、崩れる天井の破片を弾き飛ばしながら安堵の溜め息をついた。
どうやら、シュバルド側にもいろいろと事情があるらしい。
エリクとジョゼは顔を見合わせた。
「すみません主様、もう一匹の網が頑丈すぎて、連絡作業に手間取りました。
おい“勇者”、今度は私も本気だぞ! 許可があるからな!」
言うが早いか、少女悪魔の下半身がスーツごと弾け飛び、白い金属鱗に覆われたメカニカルなドラゴンの首と頭が現れた。
背中の鞄にも虚空じみた暗黒の口。
携えた二丁の黒い機関銃と、下半身の顎から生えた主砲がエリクを向く。
少女と機械とドラゴンの声が三重に重なって響く。
「「「キハァーッ……主の剣、ブラックバッグ参上ォ!」」」
「参上ならさっきしただろう、貴様」
「「「うっせぇ! フォイア!」」」
魂の姿、ブラックバッグに変異したデグレニャが無数の重金属弾をばら撒く! BUZZZZZ!
エリクは展開した符を媒介にピンポイント防御壁を次々と生成しながら、分身ツチヤとともに対霊的生物弾で反撃。
壁が、床が、次々と崩壊してゆく。
鈍い青色光を発しながら滑るように飛ぶブラッグバッグと、ジェットパックで三次元移動するエリクの戦いは、天井が無くなったこともあって基地内から濁った空に移りつつある。
一方、アンドレアスとジョゼは緊迫状態にあった。
互いに、上を気にしている。
「援護はさせぬぞ聖女、おぬしの相手は余だ」
「エリクは勝ちまわすわよ……にしても、ううん?
あなた方の混沌操作は、自身の存在を削ると聞きますけど」
「…………」
答える代わりに、アンドレアスは更に虹を吐いた。
対応してジョゼも周囲から取り込んだ餌を“聖女”に与え、聖光を練る……練る……練る!
虹色と白色、二つのエキゾチック物質が火花を散らす。
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大荒原の一角。
天を衝くような灰色の巨体が、地響きを立てて戦車を踏み潰した。
近くに動くものは残っていない。今の一台で最後か。
表面にはいくらかの槍や砲弾が突き刺さり、魔力爆発の跡すら残っているが、鋼の要塞を止めるには全く不足だったらしい。
“それ”は城じみた高度から視線で周囲を眺め、次の標的を探した。
KABKABKABOOOM!
肩から放たれる超口径の砲弾は最大で三十マイルを越えて飛ぶ。
自身の圧倒的な力とその限界を完全に把握している“それ”は、効率的に敵を引き寄せ、あるいは探し、あるいは逃げながら戦場を立ち回っていた。
ザザザ……
(接敵の連絡)
(随分遅かったですね)
(此方の進捗は万事問題ない)
(では)
(うむ)
ザザザ……
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ソレイエルの瞳からの光を青と黒に塗り分けた宇宙と空の地平線をバックに、二つの飛行物体が舞っている。
一方は暗い空の色をしたドラゴン状存在を駆る光熱の化身。
もう一方は、直方体のシルエットを持つ銀色機動装甲を操るテックの怪物。
「んぬああ、おんのれガラクタめ」
「ギュワー」
高空航空輸送艇“エアフォルク”を破壊撃墜し、同じく“R”も撃墜ではないものの高空用動力を破壊し、敗走させたリュミエラ。
三年近くにわたってルクスコリ共和国を悩ませた二隻は、当分機能すまい。
ルクスコリが消滅でもしない限り、この功績だけで食っていけそうだ。
だが、彼女はいまだ遥か空の上で戦っていた。しかも、予想外の苦戦。
深紅の鱗と白銀の筋繊維装甲でギラギラと輝く変身状態も解いていない。
正確には、一旦解いて偽りの聖女を安定化させたいのだが、解くわけにいかない。
彼女を乗せたクロマクも大分消耗し、影と氷の防御膜があちこち剥がれた歪な姿だ。
なるべく早く降りてクリスタルを食うか、戦死者から瘴気を吸収する必要がある。
……奴を、大破した“R”の中から出現した怨敵を倒してから。
「どうしたもんか、ッ!」
バォオォォォォン……
成層圏の薄い風に乗って、異様な振動が広がる。
攻撃の前兆。
これだ、これが厄介。
ZAP!
「ハァ、あ、危な、おっ、おごォ……グガ……」
精密収束熱光線が、オドンを切り裂きイオンに乗って迫る電磁加速弾丸を撃ち落した。
この不可解な振動弾は見た目より遥かに広範囲の霊的物質を削り取る。
リュミエラだけならかわせばいいのだが、足場として必要なクロマクが大きな的になっているせいで、迎撃を強制されている。
短い時間内に撃ちすぎて、偽りの聖女の制御と排熱が不安定だ。
激しい頭痛と吐き気。
真紅の仮面に開いた半月の口から、咳と共に燃える体液と金属蒸気が漏れた。
流石に限界が近い。
しかし、向こうが展開する長大な砲身も黒い煙を上げているし、当初は全方位をカバーしていた電磁バリアは、熱光線と劣化の吐息に削られて見る影も無い。
これほどの特殊弾に加えて防御壁も展開するなると、怪物的外部アーマーといえども各種の制限が存在するようだ。
成層圏での砲撃戦は根競べの様相を呈していた。
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ザリザリザリ……
(ザザザ……隊長! 隊長!)
(“魔王”と戦闘中だ馬鹿!)
(“エアフォルク”の反応消失と“R”の空域離脱確認、聖堂騎士団部隊が特定兵器を二種撃破)
(なるほど良いニュースだが今は、っおお!)
(聞き流してくださいよ……それでですね、大荒原の外で大規模な空間座標変動が計測されています、警戒を)
(何の話だサンク!?)
(不明につき調査中ですが、その変動から“魔王”に近い反応が)
(待て、なにザザザ……)
(情報収集に努めます)
(ザザザ……い……おい!)
ザリザリザリ……
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BOOM! BOOM! KABOOM!
長魚が泳ぐような独特の挙動で飛行するブラックバッグ化したデグレニャが、鞄の口とドラゴンの顎から、様々なサイズの賞状筒にも似た羽付き弾を吐きまくる!
一つ一つが致死的な化学エネルギー弾であるそれを、“勇者”エリクは正確な射撃と爆発ペンタクル符によるチャフ・フレアで処理。
加えて、今のエリクは対霊的生物弾を大量に持つ。
ブラックバッグは少女部位の操る機関銃と爆弾を、呪いの弾丸対策に回さなければならないのだ。
消費は明らかにエリクの方が少ない。
だが火工品の大悪魔である彼女の弾切れははるか先。
なにしろ、“主の剣”たるブラックバッグの魂の姿は、鞄状の生きた小型転送門なのだ!
現在、鞄はシュバルド本国の武器庫のひとつに接続されている。
「「「カハー! 勇者、勇者、主様のために死ね勇者!」」」
痛んだ砲口を吐き捨てた顎から、次は機関砲がせり上がってきた。
BUZZZZZZZZ! BATARATARTATA!
「馬鹿を言うな! 滅されろ悪魔」
紙符を撒き散らしながら呪いを撃ち返すエリク!
飛行のため体内に収用されたツチヤが精神の中で呻いた。
(まずいぜエリク、こんなのにかまってらんねえ)
「問題ない、下を見ろ」
(む? ほう……)
「「「ア゛? アア゛ーッ!」」」
ふと地上に目を向けたブラックバックの金切り声。
彼女とエリクが爆発物を大量に使うせいで、しばらくの間地上と空中は煙と光と魔力で分かたれていた。
一瞬だけ撃ち合いが中断したため、見えた。
ジョゼの展開する光の粒子が、広範囲に広がっている。
練り上げられ、地面を伝って複製増殖した攻撃用の聖光は、“魔王”を今にも轢き潰しそうだ!
エリクは予定外の光景に気を取られたブラックバッグを狙撃した。
しかし、三倍の感知器官を持つブラックバッグはきっちりと反応し、弾丸をかわして更に叫ぶ。
そして、その内容こそが、問題だった。
「「「てめぇグレゴア、なにやってんだ、なん真面目にやってんだよ!? 馬鹿だろ、時間、時間稼ぐって大佐ァ!」」」
「は?」
エリクが予想外の単語に硬直し、ジェットパックの制御を切らして落下。
“魔王”の右腕を霊木槍ごと捻じ切ったジョゼは、ようやく得心したかのように頷き、聖光粒子を脈動させた。
“魔王”の輪郭がぶれ、バトルスーツが崩れる。
出現したのは、アンドレアスと似ても似つかぬ、ミリタリースーツ姿の肥満体超魂族。
「ハァ、カカ、やはり俺では、無理か」
限界を超えた混沌の操作と、蓄積されたダメージでよろめく超魂族が呻く。
「何時から、入れ替わって」
「最初からだぜ! ざまを見ろ……グボッ」
怒り狂ったように殺到する聖光が、多相生物の超魂族を、影武者グレゴアを食い潰した。
“魔王”の腹心の一人は哂って死んだ。
ただ、それだけだ。元々居ないと思っていた一人が死んだだけ。
事態は何も解決していない。
「エリク、悪魔を早く! アンドレアスを探すにしても、あれは放置できない」
「判ってる、だが時間が……」
「「「GRRRR! もう知らねぇ、私が爆殺してやらぁ! オ゛ッ、ゲ、ガボボ」」」
空に吼えたブラックバッグの、ドラゴンの顎から巨大なエネルギーの塊が漏れ出す。
エリクの対霊的生物弾が人型部位に着弾するが、ブラックバッグは腕ごと爆発させて侵食を止めた。
ジョゼが余った聖光粒子を上に向けようとする。間に合わない!
顎が輝く。
殺害を一旦諦めたジョゼとエリクは、防御にリソースを割いた。
「「「クカ……ガアアア!?」」」
攻撃は来ない。
ブラックバッグは墜落した。
黒いボルトが、ドラゴンの顎に突き刺さっている。
虚空から剣呑な声。
「すまねえエリク殿、ジョゼ様。そいつは俺の獲物だ」
大気が揺らめき、ボロボロの迷彩マントを纏った痩躯の長魂族が姿を現す。
エリクはその男を知っていた。
知っていたが、とりあえず地上で身悶えするブラックバックを対霊的生物弾で撃つ。
好機を逃す手はない。
「「「ぎゅア、オ゛ッ、グァ、やア゛……ARRGH! ARRRRRGH!」」」
「助かった、助かったがラザル少将、何故あんたがここに? 確かルクスで……」
「こいつは俺の部隊全員の仇だ、必ず大荒原に出て来るはずだったから来た、それだけの話よ」
「なるほど、好きにしろ」
「少将、マリエットをあまり心配させると大変ですわよ」
ラザルは気まずそうにジョゼから目を逸らしたが、それでも更に呪殺のクロスボウ・ボルトを撃った。
魂の姿を維持できなくなったブラックバッグが断末魔じみて火薬を吐きながら、鞄と少女に戻ってゆく。
「えほ、アァァ、アア、まだ私ぃ、あ゛ッ! ARRRRGH!」
「まだ生きてるのかよ……お!?」
クロスボウに追加をつがえたラザルの腕が止まる。
「おい待てこれ」
エリクが目を見開く。
「まずいですわ!」
凄まじい質量を備えた灰色の影が突如出現し、三人まとめて吹き飛ばした。
地響きを立ててジャンプした影は、空中でシュバルド式ミリタリースーツを纏った男に変化し、何故か空から墜ちてきたデグレニャを抱えて着地。
「……遅いぜ、は、や、ガト、除呪を、ぉ」
「間に合ったか、無茶しすぎだ……ん、デグ、グレゴア氏は」
「遅いぜ」
「そうか、残念だ…………ん、うむ、ぐ」
「じゅ、ちゅる、はア゛、ぁん」
男は綿菓子を連想させる白い塊を取り出して口に含み、弱々しく震えるデグレニャの唇をこじ開けて押し込んだ。
舌が絡み合い、薄い蛍光色の魔力が泡立ち、崩壊しかけていた少女の仮想肉体と欠けた鞄の実体が回復してゆく。
顔を上げて口元を拭った男の瞳は、暗く煌くタイガーアイ。
「第二ラウンドだ、ルクスコリの屑ども」
新たな悪魔、“魔王”の腹心が、復帰してきた三人を出迎えた。
怪人図鑑そのさんじゅうよん
〔マシナリー・ハイ・エルフ『リューゲル』〕
シュバルド空軍大佐で、成層圏輸送艇エアフォルクの艦長。
ハイ・エルフであるにもかかわらず、身体の半分以上が機械化されており、高空の苛酷な環境に耐える能力と常人の五倍の演算領域を持つ。
メカニカルな外骨格と豊富な魔力を用いた機動戦闘を得意とするが、変身したリュミエラには及ばず、真価を発揮できないままエアフォルクと共に破壊された。
・おおきさ
8フィート8インチ、635ポンド。
・装備
増設生体演算メモリ
シュバルド式パワードスーツ
ベルトラン式内臓装甲(誤字ではない)
成層圏対応型オドンブースター*2
・特殊魔法と能力
「金属親和骨格」
「地元素操作Ⅱ」
「超魂族基本セット」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――




