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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第四章 金の町と秘密の階段
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38話 『ろくでもない』

「10だあアハハッハァァァ!」


 裸の少女が奇怪な変異を遂げ、破裂した。

火工品の大悪魔(アーチデーモン)であるデグレニャの仮想肉体は、それ自体も爆弾として転用可能なのである!

連続した爆発、閃光、高熱、轟音、破片。

紙が焼失し、機械が砕け、天井と床がはじけ飛ぶ。

だが、光と熱に対する完全な耐性を持つリュミエラは爆発の様子を詳細に認識していた。

耳は働かないが、目は問題ない。多少平衡感覚がおかしいが身体も動く。

危機を感じた上級水晶集め(クリスタルハンター)の本能が彼女の精神を活性化させ、体感時間が鈍化する。

彼女は破片を真紅の鱗に包まれた左腕で受け、撥ね散らした。

破片が次々と飛んでくる。何しろ、デグレニャの爆発から一番近い位置に居たのはリュミエラなのだ。

偽りの(False)聖女(Saint)のパワーソースが残り少なく、光熱による防御は心もとない。

打ち漏らした破片に肉を裂かれ、あちこち痛むが、出血は彼女の特性上すぐに止まる。

まだ致命傷ではない。

彼女は室内を見回した。この光と熱の中で視覚が働くのは彼女だけだ。

エリクは黒い金属質の物理防御壁を展開している。そもそも“勇者”はこの程度では死なない。

ジョゼを殻じみて覆う濃厚な聖光の粒子が脈動する。攻防一体の“聖女”の力。

サンカントが居た場所に穴が開き、鏡状の防御膜で塞がれている。咄嗟に地中に潜ったようだ。

ラマモンはどこに行ったかわからない……が、悪魔(デーモン)である彼が物理的な傷で再起不能となることはないだろう。


(何よ、結局あたしが一番危ないんじゃない)


 リュミエラが加速された思考の中で悪態をつく。

せめて夜でさえなければ、地下でさえなければ、あるいは収束熱光線を連射してさえいなければ。

天井の一部が崩落してくる。

彼女は飛び下がりながら土砂を回避した。更に肌が傷つく。

背中が痛む。ラヴァ・ワーム革製の頑丈な耐熱耐光フードマントも打撃までは軽減してくれない。

この爆発は地上でどう扱われているだろうか? 

規模から推測するに建物倒壊まではゆくまいが。

彼女は身体の何倍も早く働く思考をあれこれとめぐらせつつ、必死に破壊から身を守った。

しばらく後。


「ぐ……は、無事か、皆」


 ドーム状の防御壁を解除し、怪力で瓦礫をどかしたエリクが咳き込みながら共に顔を出した。

重い瓦礫が小さな地響きを発する。

大掛かりな地下室は爆発と光熱により半ば崩壊し、惨憺たる有様だ。

彼に少し遅れてジョゼが防御モードを解除して立ち上がった。

紺色のフードローブはあちこち焼け焦げ、シルバーブロンドの長髪もいくらか縮れているが、肉は無傷だ。

正確には、“聖女”の力により修復されている。


「はあ、散々ですわ……」


「うーんー」


 呻き声が下から聞こえた直後、地面が小爆発して、元々浅黒い肌を軽い火傷と土汚れで更に黒くしたサンカントが地中から這い出す。

更に三人の反対側から疲労困憊といった様子のリュミエラの声。


「あ゛ー、ま、生きてはいる、うぷ、痛くて吐きそ」


 四肢欠損や流血こそないものの色素の無い肌は打撲と裂傷だらけで、右膝などは骨が見えている。

エネルギー切れに加えて至近距離で飛散破片物を受けた被害は甚大だ。

命に別状こそ無いが、簡易自己治癒の手当て(ドレシング)程度では動けるようになりそうにない。

……だが、幸いにしてこの場には因果を捻じ曲げるほどの高速他人治癒を実現するジョゼが居た。

フードローブの袖と破れ目から展開され、リュミエラの全身の傷口へと殺到した発光する回復触手が、温水流じみて肉を愛撫するとともに修復の力を注入する。

それは負傷する前の姿、つまり魂の形と共鳴し、逆回転さながらに肉を再生させた。


「ジョゼさんあんが、と……お゛っ、お、えぇぇ……あ゛、ひゅ……ふぅ、よし、問題なし、モルテル。

っはあ、ひどい目にあった、何さあれ!?」


「私に聞かれても困ります」


 言いつつサンカントの怪我も修復し終えたジョゼは、髪を整えながら青い瞳で周囲を見回した。

と、その時。


「ぉぉ……ぃ……ぉィ……」


 瓦礫の山の中から、弱弱しい男の声が聞こえた。

ラマモンだ。完全に埋まっている。

……まあ、掘り出せば大丈夫だろう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、わかっていると思うが困ったことになった」


「困ったつうか、考えたくねェ、ですな。

上からの通信によりゃあ建物に目立った被害はねえようで、それは良かったですが」


 苦虫を噛み潰した顔のエリクとラマモンが話し合っている。

地上ではもうじき夜が明けようとしているが、リュミエラ達五人は件の地下室から動いていなかった。

まだ調査が終わってないというのも勿論あるが、そもそも問題が多すぎるのだ。


「爆発の威力を高める暇が無かったのか、それとも街をどうこうする気はなかったのか……まあ今はそれはいい、サンカントどうだ、何か良い情報でもあったか?」


 エリクが瓦礫の上に座って考え込んでいるサンカントを呼ぶ。

焼け焦げた瀕死の怪人から魂の欠片を奪い取り、先ほど吸収解析を終えたサンカントだが、表情は明るくない。

それは目立つ収穫が無かったことを意味している。


「いや、だめだ隊長、何も知らされてなかったみたいだぜ。

とりあえずあの超魂族(ハイ・エルフ)の命令で実験データの整理とソリオンの操作してたっぽいけど、断片的過ぎてわかんねーや」


「そうか、残念だ」


「……勇者殿、根本的な問題として奴は本当にシュバルド首長のアンドレアスなんですかなァ」


「五分五分。だが、本物だろうと偽者だろうと映像は記録したぞ。

どう使うか決めるのは僕ではないから、今は何も言えないけれども。

映像記録自体は、上の許可がおり次第複写したものをドミニク市長宛てで送付しよう。

それともラマモン氏、あんたを通した方が良いか?」


「いや、直接ドミニクに送って問題ねェ、むしろ直接送ってほしいですな、そうじゃねェと俺の面倒が増えちまう。

後は……」


 と、瓦礫を漁り痕跡を探っていたジョゼが顔を上げ、割り込んできた。

話しながらも指はテルミンを弾くように動き、聖光粒子を操作している。


「あの強度の反魔法結界を使うことからして、まずアンドレアス本人だと思いますけどね。

そんな事よりもエリク、本部に連絡は入れたんですの?

上から回しでここを保持してもらわないといけませんし、調査員も出す必要があるでしょう」


「すまんジョゼ頼む。こっちは通信機が割れているんだ」


「早く言いなさい…………はい、こちらジョゼ、暗号化は大丈夫です、はい……それで…………」


 慌てて手作業を中断したジョゼが、聖堂騎士団本部との通信を開始した。一刻を争う。

エリクとラマモンは、ルクスコリ中枢とモーリス市に今後発生しそうな各種の面倒事についての議論を再開している。

戦い終えてぼーっと瓦礫の上に座っているリュミエラとサンカントにも色々と切羽詰った様子が伝わってはくるが、こと政治的な問題が絡んでくると二人にできる事は何もない。

第一、二人が追っているのはあくまでベルトラン博士と特殊ソリオンの女であり、シュバルド王国のハイ・エルフや悪魔がどうこうには興味が持てないのだ。

リュミエラは小さく溜息をつくと、近く起こりうる各種の小問題(つまり、今回の件で支払われる給金の額や、結果的に大迷惑を与えてしまったバスチアン夫妻へのお詫び等、リュミエラの生活にとって重要なことだ)について考えをめぐらせはじめた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 十日後、ルクスコリ共和国首都ルクス郊外。

乗合車から降りたリュミエラとサンカントが大きく伸びをした。

二人は“レファルド”地下の件で昨日までモーリスで足止めを食らっていたのだ。

なおエリクとジョゼ、そして調査隊の面々はまだモーリスで捜査と各種調整に当たっている。

リュミエラ達が少しだけ早く戻れたのは、二人が必要とされる仕事が一通り終わって報告書の提出が終了したためだ。

それとは別に、正規の部隊員ではないことや、色々あってモーリス側から勾留される可能性が発生したため早めに脱出したというのもある。

ともかく二人は疲弊しており、戦闘時の防具を兼ねる魔物素材のフードマントやジャケットはボロボロだ。補修か買い替えが急務。


「こんだけ荒事やってんのに服が経費で落ちないとかたまんね、リュミエラさんに貰った奴まで潰しちゃったし。

あーあ、少しだけリュミエラさんの気持ちわかったぜ。

……もっと安い服にしよっかなー」


「何よ今更。てかサンカントなら聖堂騎士団の制服使えば経費にできるじゃない。

あたしなんかラヴァ・ワーム革製品(これ)か、これより高いのしか着られないってのに」


「制服なんか街着にできねえし、俺らの仕事って殆ど怪人相手か、そうじゃなきゃ破壊工作の応援だからそっちにも使えないだろ」


「はー……ほんとにねえ」


 夕日を背中に浴びながら、根城である貸家へと歩く。

背負った旅の荷物に加えて仕事疲れの溜まった(モーリスへは本来、遊ぶために行ったはずだ)足取りは決して軽くなく、ぐだぐだと不平をぼやきながらだが、それでもいくらか気は楽になっていた。

怪人図鑑そのじゅうご


〔勇者試験体八十番『カトルヴァジエム』〕

形質学者ベルトランの非人道改造により新たな記憶と脳改造による情報処理能力の増加を得たヒト男。

頭脳労働用に設計された怪人であり、戦闘能力はあまり高くないが防御用の固有形質コードを持ち、耐久性は高い。

モーリスの地下カジノバーの更に更に地下で、アンドレアス指揮のもと何らかの特殊作業に従事していたと思われるが詳細は不明。

リュミエラに無力化され、デグレニャの爆発に巻き込まれ、サンカントに止めを刺された。


・おおきさ

5フィート8インチ、154ポンド。


・装備

耐元素白衣

ミスリル製魔力隠蔽短剣


・特殊魔法と能力

「硬化」

「高速計算処理」

「ベルトラン怪人基本セット」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



第四章「金の街と秘密の階段」終。

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