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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第二章 上光と情報
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幕間02 『気苦労』

 大地の魔力が地下に溜まりすぎると蟻の巣のような空洞ができる。

それが長い年月をかけて伸び広がり、遂には地表に穴が空いて魔力が漏れ出したものを“ダンジョン”、正式名を“魔力の地下牢獄”と呼ぶ。

発生したダンジョンの末路は鉱脈となっていたり、魔物が発生、あるいは誘引されてある種の牧場として役に立ったり、さもなくばドワーフの住処になったりと様々だ。

なんにしろ危険はあるが優秀な資源であり、様々な保護管理のためのシステムが発達している。

とはいえ地下深くから発生するため、ある程度地表近くまで成長してからでなくては発見できず運用できない。

……できないが、何事にも例外は存在する。

例えばここ、ダンジョン化しきる前の巨大空洞をハイテクノロジー改造して作られたベルトラン地下研究所がそれだ。

何重もの偽装を施し地下深くに広がるさまは、まさに秘密基地というにふさわしい。

地下研究所の奥底では毎日のように狂った非人道研究が行われ、主ベルトランの狂笑が響く。


「グワーッハッハッハ! 見よセジエム、ワシの推測はやはり正しかった!

……これで経費がだいぶ節約できよう」


「言わせていただきますが博士、地下に魔力吸収放射ポイントを設置して魔物を誘引、繁殖させる。

それを定期的に収穫しエネルギー問題を解決。

ここまではいいと思います、実際五年の月日と予算の七%を費やした価値もありましょう。

でーすーがー!」


「ハッ?!」


「設置したポイントが十箇所ありますよね?

十箇所の収穫には将来的に複数の怪人技術者と最低四十体のソリオンが必要になります、あ、私はやりませんよ。

んま、でもそれはどうにかなると思います、はい。

しかし、うち六箇所がルクスコリのクリスタル管理課の重点対象になっています。

当たり前ですね、これだけ露骨に発生異常があればそりゃ注目もされるでしょう。

どういうことかわかりますか博士!

十のうち六、過半数ですよ!

いくらこっちの経費が軽減されるといっても、敵はほぼ無消費でポイント六個分のクリスタルと素材を得られるのです!!

差し引きマイナスではありませんか、何故せめてもシュバルドにポイントを埋めなかったのですか?

おかしいですよね、デグレニャ様と王様にどう説明すればいいんですか、報告すんの私ですよ!

しかも収穫用の怪人が聖堂騎士団工作部の連中に数体やられています! 怪人製造にかかる金額は博士が一番ご存知ですよね?

そのうえトラントシエムでしたっけ、あの馬鹿なんかメンテ中に襲撃されてもう。

カピテーヌがついてなかったら取り返しのつかないことになってました、確実に。

そもそも博士は……」


「う……グググ……うむ……あれよ、ワシもそこら辺は考えておる。

考えておったがシュバルド国内に実験用ポイントを設置する許可が出なかったのだから、仕方なかろう!

どうしようもないではないか! ワシは悪くないぞセジエム、悪いのはあのチビ悪魔だ」


「はあ、まあそこは博士の言う通りなのですが、むむ……報告は……報告……」


 睨み合うベルトラン博士と女研究者怪人セジエム。

二人の背後ではいくつもの大型クリスタル液晶モニタが様々な光景を映し出している。

その時、モニタリング室の扉が開いた。

ベルトランの眼鏡が揺れ、セジエムが首をひねる。

地下研究所最下層にあるモニタリング室に無条件で入れるのは、三人しか居ないからだ。

正確には、ベルトランのお目付け役であり勝手に侵入してくる大悪魔(アーチデーモン)のデグレニャもいるので四人だが。

ただしデグレニャは転移(テレポート)で魔力を撒き散らしながら出現するため、基本的にドアを開けて入ってくることはない。

そして、三人のうちベルトランとセジエムはこの場に居る。

つまり。


「あ゛ー……疲れました、博士。

テストミッションから帰還いたしました、カピテーヌです」


 分厚い剛性扉から疲労困憊、といった様子で現れたのは女神の彫刻のごとき美しい仮面の顔を持つ金属の人型だ。

白銀のバックパックを背負い、右腕と右脚はどこで失ったものか根元から切断されており、質の悪い義足めいた細い金属棒が代替している。

だが、最も異質なのは左手に持っているものだろう。

それは、病的に白い一本の腕だった。

腕に注目しつつもカピテーヌの破損具合を確認したベルトランがやや肩を落とし、悔しそうに呟く。


「あの機動アーマーはかなりの自信作だったのだがなあ……」


「申し訳ありません、アーマーが機能不全に陥っており、内蔵竜爪剣(ドラゴンソード)も紛失いたしました、四層にアーマーの残骸を収容してありますので後日データチェックを。

しかし暗殺対象は全て処理してまいりましたので、金銭面以外の問題は無いと推測されます。

処理により、プラン三には余裕を持って対応できるかと。

なお別働隊の研究資料奪取については“勇者”チームに先手を打たれた模様」


「研究資料の方はまあ、重要ではあるがあまり期待しておらんかった……む、ミッションの方もほぼ達成だと?

良いが、ならば何故そこまで破損しているのだカピテーヌ」


「対象の処理後ほどなくして襲撃を受けました。

ええ奴です、コードネーム“魃(ひでりがみ)”。

何故ルクスに出現したのかは不明です。

鏡面アーマーは奴の熱線に、魔法銀(ミスリル)骨格は竜牙剣(ドラゴンキラー)に耐え切れませんでした、火元素不使用の強化が求められています。

しかし戦闘技能はこちらが僅かに上回っております、補助プログラムの改善を行えば次は処理可能と推測されました。

竜牙剣(ドラゴンキラー)の取得と戦闘試験には失敗いたしましたが、博士の要求しておられました大型生体部品の回収に成功しております」


「そうか、ならばまあ仕方あるまい……ほっほう、それが奴の腕かね、できれば“勇者”か“聖女”の方ならもっとよかったのだが。

にしても腕の状態で特殊機能を維持しているとは、まさにワシの推測通りではないか?

君を修理したら早速解析だ」


 ベルトランの強化された頭脳が高速思考を開始し、骸骨じみた顔は喜悦に歪む。

解析した固有形質を切り分けて別の魂に刻む事で、肉体に該当の能力の一部を与えることが可能なのは長きに渡る実験から確定していた。

その技術が生み出したものが勇者試験体シリーズ、つまり“怪人”というわけだ。

しかし逆、死んだ肉体から固有形質を抽出することは今までどうしてもできなかった。

いまのところ怪人を作成するのに使うコードが全て“先代勇者”をベースにしているのは、ベルトランが保有している強力な固有形質を持った魂がそれしかないからである。

ベルトランをもってしても魂を完全にデータ化し、複製することはできていない。

無数の力を保有していた“先代勇者”の魂は、各種の実験と怪人の製造により削られ続けいまやダシガラにも等しい状態だ。

新たな怪人製造手段を手に入れなくては、早晩パトロンに見放されてしまうであろう。

そんなことは決してあってはならぬ。

……というわけで、カピテーヌの持ち帰ってきたサンプルは大変貴重なものだ。

魂の研究だけならば適当に攫ってきた知的生物を刻めば良いが、基本的な性質を変化させるほどの固有形質は極めて少なく、ベルトランといえどもそうそう手に入らない。

そして、“先代勇者”のように複数の固有形質を保持でもしていないかぎり、魂は一度改造に使ってしまえばそれっきりであり使いまわしも極めて面倒な手順が必要なため、特殊な固有形質を所持する者の新鮮な肉体は魂以上の価値を持つ。


「博士!!!」


「耳元で大きな声を出すでない、どうしたセジエム」


「新たな実験は魔力吸収放射ポイント収穫係の再編成と、奪われたポイントの破壊処理計画を立ててからにしてください。

何故ポイントに自爆装置をつけなかったのですか、我々怪人とソリオンには過剰なまでの安全管理装置を付けてくれやがってますのにもかかわらず、本当に、全く」


「うぬ……仕方あるまい。

ポイントの方はやっておくからセジエム、カピテーヌ君を修理して“魃(ひでりがみ)の腕”を魔力処理して保存液に漬けてくれ」


「了解しました」


 言うが早いか、ベルトランが猛烈な速度でキーボードを叩き始める。

どうにも気紛れな彼だが、強化改造による思考速度のブーストもあり情報処理能力は圧倒的だ。

セジエムとカピテーヌは仕事をはじめたベルトランの邪魔をせぬよう、そっと退室した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ウオオオ! 見よセエエエジエエエエム!!

“魃(ひでりがみ)”の培養細胞は火元素と温度に対する耐性を保持しておるぞ!

怪人理論の大幅進化も近い」


 興奮状態のベルトランの視線の先では、不気味な青い溶液に半分漬けられた薄く小さな肉塊が炎に炙られていた。

青い溶液、つまり人工体液は当然に沸騰し濁りはじめているが、肉塊はフレッシュなままだ。

この肉はベルトラン一派内部で“魃(ひでりがみ)”と呼ばれている人物の細胞を培養したものである。

“魃(ひでりがみ)”ことリュミエラの固有形質は強力な光と熱を発する力の他に、火元素と光熱に対する完全な免疫を持つ。

それはどうやら、本体と魂から離された肉と骨にも残存しているようだ。


「ハイ博士、魔物細胞と変わりませんね、ただヒト族の肉は魔法培養でも増殖が遅く、ソリオンの素材にするには量的な問題で向かないのではないでしょうか。

しかしピンポイントな改造強化には非常に適しています。

んー、それにしても、何故この腕から取ったものは能力を保持していて、勇者コードを刻んだ怪人は切り分けて培養すると能力を失うのでしょう?

ベルトラン式万能ビオス細胞が何か悪さをしているのでしょうかね」


「そう、そこが最大の不安要素なのだ、だがワシは一つ思い出したことがある。

昔やったドラゴンの雛の実験を覚えておるか。

あれは培養するとすぐに特殊性が失われたであろう?

しかし、出回っておるドラゴンや魔物の素材は死んで長いにもかかわらず特殊機能を維持しておるし、今現在怪人に使っておるグリーン・ドラゴンの培養細胞も同様だ。

……ビオス細胞の干渉可能性は決して低くないが、そもそも魂なり魔物の核(コア)なりが完全に定着するまでにはわしらが思っておるより時間がかかるのであろうな。

うむ、そうだ時間だ、今生きておる中で最も古い怪人は誰であったか、セジエム?」


「えーとですね、活動期間が確実に一番長かったサンキエムが終了されましたので、少々おまちを。

ユイッテムかトレジエム……は両方休眠中か、するとカトルジエム? いや、あれは一度終了して再生させたので除外……むむ。

……博士、どうやら現在最も長いのは三年間休眠カプセルに一度も入ってない私のようですね」


 カルテじみたファイルをめくるセジエムが舌を出し、肩をすくめた。

ベルトランが溜め息をつく。

数日間無休で実験を続けた二人の目の下には深い隈ができている。


「……そうかセジエム、君か、極めて、極めて残念だ。

君の勇者コードは肉体の変質を引き起こさない。

これでは検証不能ではないか」


「ハア、そうですね。

だいたいですよ博士、肉体変質が起こる魂自体が極めて少ないのですから確定するまで検証し続けるのは無理があるのでは?」


「そこを突かれるとぐうの音も出ん、出んがそれではどうしろと。

先代勇者から取れる固有形質コードはあと三本しかないのだぞ、だが強力な戦士を攫ってきてコード無しで怪人化するのは色々とリスクが大き過ぎる。

唯一の希望、王様から回されてくる囚人は質が悪い。

かといって生体素材も魂も不使用のカピテーヌ型は金がかかりすぎだ、そもそも記憶素子への完全な人格転写自体あの子でしか成功しておらん。

恐らく転写される側が転写の理論を理解していないと魂を失う負荷に耐えられんのだろうな。

人工知能では今のところ遠隔操作と変わらん……うむ、手詰まりだ!

とりあえず残りの勇者コードの用途は保留とする。

魃(ひでりがみ)の腕だが、掌と肉は保存カプセルに、培養細胞はこのまま増産してコマンドの素材に、腕の骨は抜いてカピテーヌの改修に回せ。

竜骨と魔法銀(ミスリル)の合金に添加すれば恐らく馴染むだろう。

それで戦力上納と対ルクスコリだが…………」


「しばらくはソリオンの増産とクリスタルの収穫で凌ぎましょうか。

後はコマンドの強化ですね。

研究者不足は攫ってくるしかなさそうですが」


「ままならんものだ」


 憂鬱な会話を続けながらも、ベルトランとセジエムの手は様々な器具を動かし、目は各種データファイルの確認を続ける。

集中力が切れないのは、危険な自己改造をした上で薬物の力を借りているからだ。

二人の狂人の夜は長い。


怪人図鑑そのじゅう


〔勇者試験体十六番『セジエム』〕

形質学者ベルトランの非人道改造により情報処理能力の増加と長期間休まず活動できる肉体を得たヒト女。戦闘能力は高くない。

焦げ茶色のサイドテールがチャームポイントだが、殆ど休みを取らないため眼窩はやや窪み、いつも濃い隈ができている。

彼女は怪人ではあるものの非人道研究の他、ベルトラン地下研究所のメンテナンスやパトロンへの報告などを担当しており実質的には重役だ。


・おおきさ

5フィート8インチ、110ポンド。


・装備

耐元素白衣

睡眠時間が不要になる薬品


・特殊魔法と能力

「精神耐性」

「思考力強化」

「ベルトラン怪人基本セット」


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