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聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第二章 上光と情報
22/101

20話 『サイバネティックス・パワー』

「言う事はそれだけかしら、ガラクタ?

……リュミエラ・ド・サン=ウラガンの名において、あんたを廃棄するわ」


 言うが早いか、リュミエラは先ほど拾った竜歯剣(ドラゴンダガー)を投げ付けた。

力を注がれた緑の短剣が高速回転し、重そうな機巧外部アーマーを装着したカピテーヌを狙う。

銀の仮面じみたその表情に変化はない。


「無駄なアクションです」


 飛来する竜歯剣(ドラゴンダガー)を、カピテーヌは素早く左腕を伸ばし摘み取った。

恐るべき精密動作性だ。

カピテーヌがつまんだ短剣を長方形の機械的バックパックに押し当てると、まるで口のようにスリットが開き、バックパックに吸い込まれる。

不可思議!

リュミエラはそれを気にせず、熱風を巻き起こし跳ぶ。

もともと目くらまし程度のものだ。

実際、手に馴染まないドラゴン製品は役に立たない。

タン、タン、タン、軽い破裂音とともに、空気を蹴って立体的に跳ね回るリュミエラがカピテーヌに肉薄する。

カピテーヌは動かない。

薄赤いカメラアイのみがリュミエラの得物である分厚い三角形の“牙”、竜牙剣(ドラゴンキラー)を追いかけていた。

物理法則をほとんど無視したような高速の方向転換を決めたリュミエラが、カピテーヌの斜め横から刃を振り下ろす!


「ッシャアア!」


 力強い叫びとともに叩き付けられる刃は、しかし空を切る。

ゴウ!

カピテーヌの動きにわずかに遅れ、メカニカルな起動音が広がった。

ロケット推進か、あるいは足裏に車輪でもついているのか、ともかくノーモーションで真横にスライドしたのだ。

凶悪な“牙”は倉庫の硬い床を数フィートばかり切り裂くに留まる。

そして当然、ただ回避しただけではない。

蒸気を噴きながら高速で振り向いたカピテーヌは攻撃体勢に入っている!

BLAMBLAMBLAM!


「う、ぬ、おおっと?!」


 体制を崩したリュミエラに、カパリと口を開けた銀色バックパックからせり出した黒い砲身から無慈悲な弾丸が撃ち込まれる。

直撃すれば石の壁をもぶち抜く音を超えた重金属弾の三連打!

だが、彼女も常識で測れる存在ではない。

熱を帯びたしなやかな筋と肉が滑らかに収縮し、一瞬で体勢を立て直した。

パワーが溜まり紅色に輝き始めた“牙”で二発を易々と弾き飛ばし、ZAP!

残った一発は熱光線で焼却!

そして、排熱開始とともに勢いよく踏み込んで回転跳躍した。

見事なアクロバット挙動だ。

トリッキー過ぎる動きがカピテーヌの戦闘補助プログラムによる追尾を振り切り、カメラアイのロックが外れる。


「******!!」


 CRASSSSSH!

棘だらけのスパイクブーツが、カピテーヌの胴部に下から叩き付けられた。

猛烈なドロップキックだ。

カピテーヌが奇怪なメカニカル音を発しながら打ち上げられる!

外部アーマーの一部がスパイクの形に凹み、雑音を発した。

打撃は有効だ。

しかしリュミエラは追撃のチャンスを無視し、慌てて飛び離れた。

怯えか? いや、そうではない。

カピテーヌが空中で体勢を立て直す能力を持っていることを、ファルギ村での経験から推測できるからだ。

カシャン、カシャン、チチチチチ。 

上から機械音が響く。

勢いよくバックステップしたリュミエラが目を見開いた。


「馬ッ、か!」


「贈り物です」


 バックパックから取り出されたのは、いったいどんな方法で収納されていたのか謎の長さ四フィート、太さ六インチ以上はある銀灰色のロケットランチャーだ。

リュミエラはその威力を知っている!

わずかに遅れてカピテーヌのカメラアイが不吉に輝き、リュミエラの肌を赤い照準が這い回った。

瞬時に再ロック成立、発射。BOOM!

白い煙、白い閃光、白銀の弾丸。


「ギュアァアアア!!」


 射出と同時にリュミエラが絶叫し、偽りの(False)聖女(Saint)を全開にした。

ランチャーの弾丸より明るく輝くリュミエラが凄まじい高熱を発する。

床が融けて泡立ち、不燃性のはずの倉庫の壁に裂け目ができ崩れゆく。

ZZZABOOM!

熱線を浴びた炸裂流体金属弾は着弾前に爆発、メタルジェットは発生せず蒸発!

有害な石の煙と、野太い熱線をカウンターで喰らったカピテーヌが電子音の悲鳴を上げる。

出力がありすぎて鏡面アーマーでも反射しきれなかったのだ。

一方で前準備なしに出力を上げたリュミエラの消耗も無視できぬ。

過度の集中による鼻などからの出血が煙となって立ち昇り、息を荒げて咳き込む。

だが、休んで良い場面ではない。


「――**――――*****?!――*!」


「っは、ぐ、が、砕けろガラクタ!」


 “牙”の力で加速しながら真上に三段跳びし、倉庫の天井を蹴って加速したリュミエラが蹲るカピテーヌを狙う。

高熱の衝撃波で空気が燃え上がる!

一方、外部アーマーの表面装甲といくつかの隠し武器を損傷したカピテーヌはギリギリで肉体制御能力を取り戻していた。

戦闘補助知性から流れてくる電気信号を音声として呟く。


「緊急処理が必要とされています」


 カピテーヌは装甲をパージした。

溶けた金属が剥がれ落ち、一回りスマートになったカピテーヌの表面に新たな鏡面装甲が発生している。

二段構えなのだ。

ジジジジジ、体表に複雑な電子集積回路じみた文様が浮かぶ。

白、青、赤、緑。

それぞれが四元素に対応している魔力操作紋だ。

状況判断により白と赤は消灯、青と緑が強く輝く。

すぐにイオンの風が広がって電磁バリアと化し、高熱を遮断。

一瞬遅れてカピテーヌの全身から氷の棘が無数に発生した。

そこに突っ込んでくるのはもはや視認不能の光の塊、明るい闇と化したリュミエラだ。

氷とイオンのバリアに包まれて跳ね起きたカピテーヌは薄紅色の竜爪剣(ドラゴンソード)を構え、圧倒的エネルギーの塊を迎撃する!

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 リュミエラとカピテーヌが激闘を繰り広げているころ、首都ルクスのテロリスト騒ぎは区画封鎖の成立もあって収束しつつあった。

主な犠牲者は六区のパレードに参加していた数人の議員と、八区で戦闘に巻き込まれた屋台の主だ。

おそらく“光の祭典”閉会後にニュースになるだろう。

しかし、戦いが終わっているわけではない。


「何故……何故こんなことに、何故バレている、何故……」


 首都ルクス第八区の路地裏を、ちぢれた茶髭のドワーフが転がるように走っている。

頭髪は全く無いが、丈夫そうな鉢金を巻いており、目は典型的なドワーフ工員が使用する色つきゴーグルで隠されていた。

だぶっとした地味な衣服の下から、インナースーツにも見える妙な軽鎧が覗く。

彼の名はトランティエム。

同じく勇者コードの一部を持ち、強力な粘液を操るヴァンテユニエムと共に“光の祭典”最終日の混乱と緩みを狙って送り込まれたベルトラン怪人である。

仮にゴーグルをはずしたなら、特徴的な金色の虹彩が現れるであろう。

しかし、トランティエムとヴァンテユニエムは戦いに来たわけではなかった。

もうひとつの任務である、要注意議員の処理は別のチームの担当だ。

彼らの役目は適当に騒ぎを起こし、神殿付属の研究所にあるいくつかのデータを奪うこと。

だが、失敗に終わった。

そもそも行動を起こす前に向こうからやってきたのだ。

何故居場所が割れたのか、トランティエムにはわからない。

ともかく、彼は少し離れた場所で襲われた相棒のヴァンテユニエムに加勢する事ができなかった。

始めて見た“勇者”の強さは、少なくともトランティエムの基準では圧倒的と言うほかない。

“聖女”が居ないから、あるいは部隊を率いていないから、そんなことは些細な差であったことが今なら痛いほどわかる。

“勇者”は強いから“勇者”なのだ。

わずかしか“勇者”の要素を持っておらず、戦闘特化でもない彼らにどうにかできる相手ではない。

……そして、もっと恐ろしいのは“勇者”と共に襲ってきたもう一匹。

その男は、“勇者”の不意打ちで瀕死の重傷を負ったヴァンテユニエムの頭部を貪り食ったのだ。

トランティエムは無様にも全力で逃げた。

いや、今も逃げている。

仮に逃げ延びたところで、組織内での立場が落ちるのは確実だろう。

だが、たとえランクが落ちる……それどころか、戦闘員ソリオンの材料となろうとも“奴”に食われるよりはきっとマシだ。

とにかく、ルクスを出ればどうにかなる。

幸いにも、トランティエムは音の反響で全方位の様子をリアルタイムに知る能力を持つ。

逃走向きなのだ。

……だが。


「よお、久しぶり」


 革のジャケットを羽織り、今風のデザインのバイザーをつけた男が、四階建ての集合住宅から降って来た。

浅黒い肌に、逆立つ黒い髪……そして、相棒を喰らったギザギザの歯が覗く大きな口。

“奴”だ。

“奴”はゴブリンに似ているが、違う。

きっと神殿の作り出した新兵器に違いない。

そう推測したトランティエムは二丁のドワーフ銃を構え、震えながら後ずさった。


「何故だ、さっきまで反応が無かった、音は絶対に嘘をつかねえ、あああ!」


「そりゃさ、二つ向こうの通りを走ってたからだろ?

ちょっとぐらい離れてても、俺にはお前らがわかるんだ。

まあいいや、仕事だし、お前の“それ(Il)”の欠片も欲しいし」


 仮にトランティエムがもう少し高い立場に居たなら、あるいはもっと下調べに力を割いていれば、“奴”が勇者試験体五十番、怪人サンカントであることに気付いたかもしれない。

もっとも、知ったところでどうにかなるかというと限りなく微妙と言わざるをえないが。

サンカントはグラスが割れるような耳障りな音を立て、威圧的に拳を打ち合わせた。

拳には煌く鏡のようなエネルギー、神聖武器もとい“饑(ひだる)”の力が収束している。

この力は強力だが燃費が非常に悪い。

それを補うのが高密度の改造肉体と異常に消化能力の高い胃腸というわけだ。

サンカントが悠々と歩いてトランティエムに迫る。


「ひひ、ひぃいいいい! 寄るな!」


 トランティエムは目の前の猛獣にドワーフ銃を撃ち込んだ。

頼れる合金弾が猛獣の、サンカントの肉と骨を裂……かない。

音を超えた弾丸が、輝く指先に摘み取られている!


「おっと、危ないじゃん。

うん、一度やってみたかったんだよ」


 恐るべき精密さで銃弾をキャッチしたサンカントが、指先でそれを弾いた。

金属の粒が弧を描いて飛び、トランティエムの縮れ髭に受け止められて転がり落ちてゆく。

トランティエムは銃を投げ捨てて走り出した。

サンカントは力強く地を踏み締めた。

しかし、二人の行動はどちらも無意味に終わる。

角を曲がり少し広い道へと飛び出した二人に、土煙を巻き上げる黒い影が。

CRASH!!


「ヒッ」


「ああん?」


 爆音を上げながら突っ込んできてサンカントとトランティエムを轢いたのは、軍用じみたオープントップのクリスタル燃料車だった。

見事なハンドルさばきで停止したグレーの車体から飛び降りたのは、カーキ色のプロテクターを纏った男。

つまり、サンカントに少し遅れてトランティエムを追跡にきた“勇者”エリクである。

走る鉄塊に激突されたにもかかわらず、サンカントは何事もなかったかのように埃を払って立ち上がった。

二十フィートほど先では、トランティエムが捻じ曲がった脚を抱えのたうち回っている。

明らかな耐久力の差だ。

とはいえ、決してドワーフの怪人が虚弱なわけではない。

エリクの手で改造されたその車に轢かれれば、並みの二足歩行生物なら挽き肉と化すのは確実であり、サンカントが丈夫過ぎるだけである。


「ひっでえ隊長、確かに俺はこんぐらい平気だけどさ……」


「忙しいんだから遊ばないでくれよ、サンカント」


「はい」


 悪びれもせず、逆に口をへの字に曲げて不平を呟いたエリクは懐から鈍く光る小さな鉄人形を取り出した。

それと並行し、少しばかり背筋を正したサンカントがトランティエムの処理に向かってゆく。


「が、何で俺が、こんな貧乏く、じ」


 呻くトランティエムを片手で引き起こし、ゴーグルを毟り取って瞳を確認したサンカントが無慈悲に腕を振り下ろす。

輝く手刀が顔の皮を剥がし取り、その勢いで強化改造された首の骨をも砕いた。

青い人工体液が傷口から噴出する。

怪人の血は基本的には赤い。

サンカントもそうであるし、先ほど倒したもう一体も赤の血だった。

しかし一度死ぬ、もしくは極端な改造を受けて生身の部分が少ない個体は青い人工液で代謝を行うのだ。

このドワーフは大して改造度が高くないので、再生怪人だと推測できる。

サンカントは頭骨と引き抜いた髄をバリバリと噛み砕き、怪人の魂の喪失と共に発生する薄赤い霊的物質、“それ(Il)”を取り込んだ。

傷ついた魂が、また少し回復した。

少なくとも、サンカント自身はこれで力と記憶を得られると信じているし、実際に強くもなっている。

いつものように思考の中で謎の声が響く。

サンカントはかすかに呻いた。


(Regagnez.)


「……ああ」


(Cependant, s'il vous plaît regagnez plus.)


「わかってるよ、ちくしょう」


(Regagnez tout.)


「……ああ」


(Regagnez.)


 サンカントが“それ(Il)”を定着させている間に残された首から下を、エリクの操作する鉄人形を素体に精製した特殊なスチールゴーレムが車の荷台へと運んでゆく。

ゴーレムは死体を取り込み、そのまま棺桶へと変化してゴトリと倒れた。

研究材料は多いにこしたことはないのだ。


「サンカント、何か新しい情報はあったか?」


「いや、さっきの奴と同じだぜエリク隊長、資料がどうの程度しか」


「そうか、やはり下っ端だな。

後で研究所の警備を強化するよう、僕から進言しておこう。

おっとこうしちゃいられない、乗れ、第九地区へ急ぐぞ」


「了解だぜ、でも俺の感覚じゃもう怪人の反応は」


「戦闘中だ」


「へ?」


 力強い改造クリスタルエンジンが、助手席に陣取るサンカントの体重をものともせず唸りを上げた。

青い血痕のみが、この場の惨劇を記憶している。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「そろそろ止めて歩くか」


「あい隊長。

……とりあえず怪人の、“それ(Il)”反応は無しだぜ。

でも、なんだこれ、リュミエラさんは一体何したんだ」


 制限速度を無視して第九地区に乗り込み、倉庫街の途中で車から降りたエリクとサンカントが怪訝な顔をした。

二人の視線の先には、煙が上がっている倉庫が一つ、あるいは二つ。

そして“光の祭典”の中も仕事に勤しんでいたのであろう、いくらかの不幸な人々が逃げ惑っている。

数台の火消し車があたりに鎮火用の薄い結界を展開していた。

しかし、その程度の事態はある程度推測できている。

二人の不安を煽ったのはそこではない。


「いくらリュミエラさんでも無分別に破壊するような事はないだろ、契約は守る人だし。

む、ツチヤが何か言っている」


 “勇者”であるエリクの魂の同居人が騒いでいるようだ。

サンカントは直接話したことこそないものの、存在はよく知っている。

工学知識に長けた中年男性であるらしいツチヤが仕事中に反応するのは、かなり珍しいらしい。

エリクによると、珍しい技術を目撃した時か、危険を感じ取った時に反応するとのことである。


「で、なんていってんの隊長?」


「重火器が使われた形跡がある、知らない雰囲気がする……だとさ。

重火器っつうことはドワーフか? けどさっき処理したのもドワーフだしな、そんなに数が多い種族でもなかったはずだが」


「大丈夫かな……」


 首をひねりつつも戦闘体勢を整えなおしたエリクとサンカントは消防隊を押しのけ、焼け落ちた二つの倉庫のうち破壊が酷い方に乗り込んだ。

そこは、惨憺たる有様となっていた。

耐魔法構造が義務付けられているはずの大型倉庫が、壁の一部を残してほぼ崩壊している。

見覚えのあるソリオンの部品や、不可思議な弾痕があちらこちらに見えた。

魔力の残滓は少ししか感じられない。

高熱で溶解した形跡が各所にあるため、破壊にリュミエラが関与しているであろうことは容易に推測できる。

様子を窺うサンカントは、怪人のそれ(Il)が全く感じられないことに疑惑を隠しきれない。

その時瓦礫の影から、声が聞こえてきた。


「あ゛ー……ちょっと遅いわよサンカント、と、ええと……その声は隊長か」


 馴染み深いが、普段と比べてなんとも気だるげな声。

赤黒いフードマントの女が、彼女の獲物である竜牙剣(ドラゴンキラー)を、杖代わりに床に突き刺して難儀そうに立ち上がり、低く笑って振り向いた。

当然、それはリュミエラだ。

一度身を起こしたリュミエラはゆっくり息を吐き、再び座り込む。

普段の彼女とあまりに雰囲気が違いすぎる。


「無事で何よりだ、しかしリュミエラさん、ここで一体何があったんだ」


「リュ、リュミエラさん?!」


「げっほ、まあ落ち着いて、話すからさ。

後サンカント、重い、疲れてるからちょっと乗っかるのはやめ、て。

それとエリク隊長、防音を」


「わかった」


「ふぁ? あ、ごめんリュミエラさん……」


 リュミエラの言葉を受けたエリクが、機密会話用の二重防御幕を張る。

第九区画は“光の祭典”開催範囲外であり人が少ないため、野次馬などは殆どいない。

しかし、消防隊員などはいるし、彼らが秘密厳守かというとそうでもないのだ。

安全を確認したリュミエラがゆっくりと話し始めた。


「……ちょっと話が長くなるけど、忘れないように今伝えとくわ。

それでだ、“光の祭典”パレード中の議員だかなんだかを殺して、あたしと戦ったのは怪人じゃない。

隊長の顔見知りなのよね、エイティーヌって人、こないだ言ってた。

あたしが戦ったのはそいつ。

正確には、エイティーヌの皮と肉を被ったソリオンの一種……だと思う。

待って、そんなありえないみたいな顔しないで、もちろんあの量産黒甲冑とは違うわよ。

サンカントは覚えてるわよね、ファルギ村を襲った変な奴よ、エルフじゃないほうの。

見た目は全然違ったけど、確かにあいつよ、竜爪剣(ドラゴンソード)も持ってた。

これは真面目な話よ、隊長。

ベルトランにとって怪人なんて大した事ないのかもしれないわ、あいつ、カピテーヌとか言ってたあいつは確かに怪人じゃない。

だけど、行動を起こすまであたしでも全く気付かない、いや会ってもわからなかった擬態に、あの攻撃力と機動力。

いくらかかってるのか知らないけど、機巧の分際であたしの本気と互角か、もしかしたら向こうの方が上よ。

ロケットランチャーにベルガーⅡ以上の射撃に高速飛行に、魔法も四元素フルに操ってね、ハハ、死ぬかと思った。

でもまあ、所詮機械だしね、“牙”で腕と脚をぶった切ってやったら逃げたわよ……ごめんね隊長、追いかける余力なかった。

そういうことだからさ、でも、あたしは満足してるわよ。

ほら見なさい、うちの竜爪剣(ドラゴンソード)だけは取り返してやったわ、ざまあ見ろ……はあ、早くジョゼさんの治癒が欲しい、それに樹脂葉巻(バター)も……っう……」


 咳き込みつつも一気に語り終えたリュミエラが瓦礫にもたれかかり、荒い息をつく。

戦闘終了時のリュミエラは、大抵誰も近づけないほどの熱気を撒き散らしているのだが今はそれもない。

かなりギリギリまで消耗しているのだろう。

エリクは渋い顔になりつつも魂の同居人が騒いでいた理由が確定し、安堵した。

リュミエラと戦った形質科学の結晶、つまり特殊技術が原因だったというわけである。

そして、“カピテーヌ”という単語を心に刻んだ。

サンカントは何だかんだで敬愛する師であるところのリュミエラの横に座り、何やら考え込んでいる。

エリクはそれを尻目に、通信機で一通りの連絡をマリエットと運営チーム警備部に伝えた。


「これでよし、とりあえず今回の仕事は落ち着いたかな……多分。

リュミエラさん、工作部の休憩室と病院、どっちがいい?

サンカントと僕は警備続行か……はあ、あとはこっちに鑑識の連中を呼ばなきゃな。

いいかげん、対症療法じゃなくベルトランを捜して襲う必要も出てるよなあ……」


「休憩室がいいわね、どうせジョゼさんの仕事で治るんだし」


「了解、どっちにしろ僕達は車で来てるから乗せてくわ。

後部座席で寝ていてくれればすぐ着くかと思う」


「へへ、にしてもこんな疲れたリュミエラさんを見るのはなんか新鮮……あれ、ちょっと、え?!」


「なによサンカント、あたしは休みたいの、どしたの、ああ? これ?

ま、戦ってりゃこんなこともあるわ、いたた」


「いやいやいや、何それ、おい、大丈夫じゃないだろ?! 絶対! なあ! なんだよそれ!

隊長もそう思うよな?! あああ、ねえ、何とか言ってよ、そんな事、だって、おいいいいいいいい?!」


 “あること”に気付いたサンカントの困惑と憎悪と、とにかく色々と混ざった叫びが二重の魔力膜に吸い込まれ、消えた。




怪人図鑑そのはち


〔勇者試験体二十一番『ヴァンテユニエム』〕

形質学者ベルトランの非人道改造により新たな記憶と強靭な肉体を得たヒト男。

どこにでも居る普通の容姿、どこにでも居る普通の性格をしており、容易に人ごみに溶け込める。

一方で戦闘能力はそれほど高くなく、裏方向きの怪人である。

何らかの目的のもと“光の祭典”開催中の首都ルクスへ相棒のトランティエムと共に潜入したが、任務を実行する前に処理された。


・おおきさ

5フィート10インチ、145ポンド。


・装備

ミスリル製魔力隠蔽短剣

耐元素インナー

色眼鏡


・特殊魔法と能力

「細い小さな棒」

「ベルトラン怪人基本セット」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――




お祭りに命賭けてる人々。

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