↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女もどきと模造勇者  作者: 岡本
第二章 上光と情報
20/101

18話 『ミステリアス・ハンター』

「ガガ、ジガガガ! 何だ貴様ら? キZZZマらGGAAA!

このトランとシエム様に生かす価値だと、我をVORRRRRってZZZZGGGURRR! ファァァァーIIAAAー!」


 二面三手四脚の奇怪な怪人が、スパーク音と雑音の混じった意味不明な叫びを上げた。

二つの顔が同時に喋る上、半分ほど言葉になっていない。

リュミエラとバスチアンにわかることはせいぜい、トラントシエムという名前らしい怪物が怒っている、という程度だ。

いきなり砲撃されて怒らない奴が居るのかという疑問に関しては、この際置いておく。

ともかく不自由な言語は別として、その行動は簡潔である。

ジャキン! 背中に生えているカノン砲のうち一本がせり上がり、折れ曲がって威圧的にリュミエラとバスチアンの方を向いた。

肩の金属突起に支えられた太い砲身は、トラントシエム自体の大きさも合わさって一見ロケットランチャーか何かに見える。

どうやら片方は不具合で動かないようだ。

先程の炸裂火炎弾を思い出したリュミエラが顔をしかめた。

バスチアンはリュミエラから見て少しばかり後ろに陣取り、防御姿勢をとりながら背部カノンの挙動を興味深そうに観察している。

いくら危機的状況だろうとドワーフの血は押さえられないのだ。


「何よこいつ」


「まあ敵だろう」


 どうやら完全な実弾ではなく、魔力チャージ式と見えるカノン砲にパワーが集中してゆく!

赤い砲身が膨らみ、バチバチ火花を散らした。

トラントシエムが吼える。


「未完成どもメ、我々がトランとシエムがGAAAA、ぬにをしたという殺ZUUぞあAAUGHHH!」


 金と黒の四つの瞳が狂ったように回転し、金属製の乱杭歯が覗く二つの口が泡を噴く。

明らかに正気ではないが、それは戦闘能力の低さを意味しない。

トラントシエムが跳ね、空から発射準備の完了した砲身をリュミエラ達に向けた。

そう、トラントシエムは確実に正体不明の襲撃者を始末するため、自身の耐久性に任せ全員を巻き込む気なのだ。

実際至近距離で大爆発を起こせば、いかにリュミエラ達といえどもひとたまりもないだろう。

しかし。

ZAP!


「GRRRアアアアア?!」


 砲身は炸裂弾を射出することなく爆発した。BOOM!

爆風で空中から叩き落されたトラントシエムが、二本となった腕と三本の脚でのたうち回る。

リュミエラとバスチアンは涼しい顔で立ったままだ。

そもそも、万全でない状態で怒りに任せ追撃を行った時点で勝敗は決していた。

リュミエラの足元が沸き立ち、全身から白い蒸気が立ちのぼっている。 

何が起こったか? 実に簡単な事だ。

敵の目の前でパワーチャージを行う間抜けな的を、前もって準備していたリュミエラの熱光線が襲っただけである。


「ふむ、意識が二つあるのかしら?」


 降り続く雨を煙に変えながら排熱を行い様子を窺うリュミエラが、トラントシエムが呻きながら射出した肩の金属棒を竜牙剣(ドラゴンキラー)“牙”で叩き落す。

トラントシエムは片方の腕と、多少はマシに喋っていた方の頭をカノン砲と同時に破壊されていた。


「――AUGHH!!――RRR!――・――?!」


 腕と頭を更に失った怪人は青い体液を噴きながらも腕からエストックじみた突起を伸ばし、でたらめに振り回す。

BANG! BANG!

直後、後方から射撃音。

バスチアンの予備武器である量産型ドワーフ銃“ベルガーⅡ”が、彼の熟練の銃技により残った腕に叩き込まれた。

二発の合金弾はトラントシエムの各肘関節に着弾、そのまま間接を破壊し二本とも切断!

怒り狂う怪人の機動力を奪うべく、リュミエラは“牙”を振るって更に脚を切断した。


「さて、どこを聖堂騎士団へのお土産に残すべきか」


 リュミエラは欠伸をしながら、なおも抵抗しようと転がり動く異形の怪人を見下ろした。

幾筋もの光の線がリュミエラの肌から伸び、トラントシエムが何をしても即座に反応できるよう注視している。


「リュミエラ氏、何か」


「え?!」


 少々遅れ、リュミエラの感覚器官にもかすかな魔力振動が飛び込んでくる。

彼女は慌てて飛び離れた。

バスチアンも焦げた髭を揺らし後方へと跳ねる。

そして、横からやってきた高速飛翔体が醜く転げまわる怪物に直撃した。

光熱に耐性のあるリュミエラの瞳が、銀色の大型弾により発生したメタルジェットがトラントシエムの胴を侵食するさまを認識する。

トラントシエムは僅かに赤く点滅した後、バラバラに飛び散り絶命!

砕けた頭部に脳らしきものは残されていない。

恐らく全ての機能が樽めいた胴体に入っていたのだろう。

しかし、リュミエラもバスチアンも死んだ敵のことなどもはや気にしてはいない。

別に注視すべきものがあるからだ。

やや収まりつつある雨の中、“そいつ”がかなりの速度で走ってくる。

身長はリュミエラより僅かに高そうだが、ぎりぎり六フィートには届くまい。

横幅は細くも太くもなくといったところか。

身に着けているものは傭兵や護衛、水晶集め(クリスタルハンター)等の民間戦闘者の間では特に珍しいものではないシンプルな迷彩戦闘服だ。

腰に下げている幅広の短剣は、リュミエラのよく知るものに少しばかり似ているオーラ紋を放っており、恐らく上質な竜歯剣(ドラゴンダガー)と思われた。

バックパックは大きめで、何やら様々な道具類が覗いている。

どこにでもというほどではないが、大きな街なら数人は居る腕の立つ典型的水晶集め(クリスタルハンター)の姿だ。

妙な点をあげるとするなら、左手に下げている長さ四フィートほどのロケットランチャー、あるいは榴弾砲と思しき太い銃火器だろうか。

おそらく、先程トラントシエムを粉砕した銀色弾を発射したものと同一のはずだ。

銀灰色の筒は冷却が済んでいないのか、当たる雨粒が蒸気となって立ちのぼっている。

二人が、ほぼ同時に間の抜けた声を発した。


「……あれ誰?」


「水晶集め(クリスタルハンター)だよ……な? 腰の剣に武器タグ付いとるし」


 戦闘終了を認識した荷物キャリーが、岩の後からガシャガシャとバスチアンの元へと寄ってくる。

水晶集め(クリスタルハンター)と思しき“そいつ”が二人の方に顔を向け、泥水を撥ね散らしながら停止。

シンプルなメットから垂れる一本に編まれた赤毛と、薄汚れているにもかかわらず髭の無い顔が女性である事を推測させる。

“そいつ”は慌てたようにメットを外し、得物の筒を近くの岩に立てかけて口を開いた。


「ああ! なんだか巻き込んでしまったようで申し訳ありません!」


 妙なテンションの相手に気圧されたリュミエラとバスチアンがなんとも言い難い表情を浮かべ、顔を見合わせる。

深々と頭を下げた女は、雨音に負けない大声で自己紹介を始めた。


「私は砦の町フォルティ出身の上級水晶集め(クリスタルハンター)、エイティーヌと申します。

これが上級証ですね、三十三歳のヒト族で、はい。

普段はあっちにいまして一応夫も……え? 聞いてないですって?

ええと、さっきの妙な怪物は私と主人が先月から追ってた相手なんですよ。

複数の違法狩猟と、二件の殺傷も、はい。

そうしたら何だか戦闘中みたいじゃないですか」


「いや、わかったからもういいわ、タグもおかしくないし。

あたしたちも仕事でルクスから来てたんだけどね、ほらタグ。

まあこの変なのは関係ないはずのことよ。

それより、こいつって賞金首か何かなわけ?」


 溜め息をつきつつ、リュミエラはブーツの先でトラントシエムの残骸を転がした。

生物というより機械に近い印象の分厚い皮膚で、あちこちから金属部分が飛び出す謎の構成だ。

バスチアンも欠片を一つ拾い上げ、目を細め首をひねっている。


「フォルティに来れば賞金は出ますが、全国手配ではなかったかと。

あ、そうですね、ええと、私が賞金貰うとおかしいですよねこれ。

でも友人の仇だったものでつい」


「賞金はどうでもいいんだがな、この残骸を貰って帰ってかまわんかねエイティーヌ氏。

無論全部じゃなくていいが、そっちも殺害証明が必要だろうしな……クリスタルもねえし耳もなんぞ妙だが。

何にしろ見たことねえ魔物だから興味がある」


 バスチアンはそう言うと、リュミエラに目配せした。

助け舟を貰ったリュミエラは大袈裟に肩をすくめ、同意を示す。

結局、賞金額が大した額ではなかったのもあって、エイティーヌが予定金額の半額をクリスタルで先に支払い、残骸の殆どをバスチアンが持ち帰ることで合意してその場は別れた。

本当に提供された賞金額が正しかったのか、エイティーヌがどんな人物かは不明なままである。

しかし、リュミエラもバスチアンも仕事の揉め事はなるべく避けたいし、なにより魔物素材類が劣化する前に帰りたかったのだ。

実際ここでもし元素狼(ウルファクター)の毛皮をダメにしてしまうと、弾薬やら何やらで赤字は避けられない。

二人はどうにも消化不良な気分のままにルクス南西危険区域を後にした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「……ってことがあったのよ」


「ふーん、また妙なところに居たんだなあ」


 炭酸水のグラスを片手に、からりとフライされたエビやら妖精やらを齧りつつリュミエラが呟いた。

サンカントは適当に頷きながら次々と焼き菓子を口へと放り込んでいる。

薄明かりの下静かな音楽が流れ、やや小さめのテーブルには様々な軽食。

壁には見事な絵画までかけられており、リュミエラやサンカントのような野蛮な人種には極めてミスマッチな情景と言えよう。

ここは聖堂騎士団本部の近くにある高級ダイニングバーなのだ。

リュミエラとサンカントは、雇い主である“勇者”エリクと“聖女”ジョゼの個室予約により、情報交換を行いつつ食事中であった。

エリクは報告を聞きつつ、渋い顔で琥珀色の液体を傾けている。


「災難だったが、危険区域内、か、ふむ……。

それでその、トラントシエムだかいう狂った怪人の残骸はどこに?」


「マリエット副隊長に全部投げたわ、今は鑑識か研究所に回されてるんじゃない。

でまあ、ソリオンと怪人がいた天幕周辺に特に目立つものはなかったわ。

何か埋めてたのは確認したんだけども、帰る前に掘り起こしても何も無かった。

地下深くに自力で潜るタイプの可能性は捨てきれないけど」


「やはりこの店の料理は素晴らし……ふむ、私が思うに、クリスタルの増産とルクスコリへの妨害のためだと思いますわ。

シュバルド王国で魔物の繁殖を促す技術が開発され、実験中だという話がうちの連絡員からきてますし。

後手後手でも見かけ次第処理していくしかないんじゃないかしら。

魔物もソリオンも。 ねえ?」


「まあジョゼさんが言うならそうなのかも、で、そっちはどうだったの。

放棄された基地ってなんも残ってなさそうだけど」


 リュミエラの脳裏にありとあらゆる痕跡を消し去られたルキエル火山地下基地と、サンキエム所長の破滅的な詩が浮かんだ。

ずいぶんと厄介な相手であった。

あれからそれなりに時が過ぎたが、今のところ超える相手は現れていない。

……そして、件の竜爪剣(ドラゴンソード)の行方も不明のままだ。

少なくとも売りに出されていないのは確かであり、それはリュミエラに不安と安心の両方を与えている。

どちらにしろ、窃盗の実行犯であるかのソリオンを殺さなければファルギには戻れないだろう。

第一、リュミエラのプライドが許さない。


「まあ、めぼしい物は無かったよリュミエラさん。

ジョゼさんや隊長が探しても無かったんだから確かだ。

ただ、リュミエラさんの竜爪剣(ドラゴンソード)のオーラ紋が少し残ってた……あの女は確かに生きてるぜ」


「アレが死ぬとか考えられないわ、いや、正直どっかでのたれ死んでて欲しいけど。

父さんと“牙”にかけて絶対に殺す」


「まあまあまあリュミエラさん、それはいい、いやよくないが今はいい。

ただ一つだけ気になった事がある。

フォルティ出身で竜歯剣(ドラゴンダガー)使いの水晶集め(クリスタルハンター)と会ったんだよな?

エイティーヌだったか、僕も会った事がある。

うん、僕の出身はフォルティ砦だからね。

…………だが、銃火器を使うという話は一度も聞いたことが無い。

しかも怪人を即死させるような改造ランチャーなど、そんな」


「え?」


 リュミエラの表情が凍りついた。


怪人図鑑そのなな


〔勇者試験体三十六番『トラントシエム』〕

形質学者ベルトランの非人道的改造により新たな記憶と異常な肉体を得た双子の男。

二面三臂四脚の異形であり、ドワーフ狙撃銃の連射にも耐えうる強靭な樽状の胴体で暴れまわる。

身体能力は高く、強烈な遠距離砲撃能力も持つが無茶な改造の影響で精神に異常があり、組織内での立場はよくない。

ルクス南西危険区域に何らかの目的で部下と共にやってきたが、リュミエラとバスチアンの先制攻撃で半壊したあげく、彼を追ってきた水晶集めに止めをさされて死亡。


・おおきさ

12フィート、800ポンド。


・装備

大口径ダブルメガランチャー

両肩スパイクショット


・特殊魔法と能力

「地元素操作」

「ダブルマインド・ダブルソウル」

「ベルトラン怪人基本セット」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。