第二節:魔力操作の才能
キィンッ! カンッ!!
平原に高らかな金属音が響き渡る。
片方が手にしているのは鉄の剣ではなく、ただの木の枝。しかし、ペルセウスの膨大な魔力によって強化されたそれは、並の鋼鉄すら凌駕する硬度を誇っていた。
「はっ……! やぁっ!!」
ミリアは汗を散らしながら必死に剣を振り立て、ペルセウスへと斬りかかっていく。だが、ペルセウスは最小限の動きでそれを軽々と回避し、時には木の枝の腹で刃を受け流した。
「そんなものか? 木の枝一本ぐらい折ってもらわないと、この先が思いやられるな」
淡々と煽りを交えながら、ペルセウスはミリアの鋭い連撃を完璧にいなしていく。
ミリアは一度後方へ飛び退いて間合いを取ると、ペルセウスの構えを観察しながら全身の力を抜き、ゆっくりと深呼吸をした。
「すー……はぁー……っ。よしっ!」
パンッと自分の頬を叩いて気合いを入れ直すと、再び剣を力強く構える。
「ねぇペル? その剣……じゃなかった、その枝を折ったら、今日のごはん奢ってよ!」
まさかこの土壇場で食い気全開の条件を突きつけられるとは思っていなかったのか、ペルセウスはわずかに眉を動かした。
「……ああ、いいぞ。肉でも魚でも、好きなものを奢ってやる」
「言ったね!? よーしっ!!」
ご馳走という最高のニンジンをぶら下げられたミリアは、一瞬で瞳に燃え盛るようなやる気を宿した。
即座に身体強化を練り直すと、一気に地面を蹴ってペルセウスの懐へと突進する。
その速度と踏み込みの威力は、先ほどまでの比ではない。
「ハぁぁっ!!」
疾風のような踏み込みから繰り出された一刃を、ペルセウスは咄嗟に木の枝で受け止めた。
——ガキンッ!!
強烈な衝撃と共に、ペルセウスの持っていた木の枝の表面が、わずかに削れて木屑を散らす。
(やるな……! まさか、もう身体強化の応用を閃いたか……!?)
感心するペルセウスの前で、ミリアは得意気なドヤ顔を浮かべて鼻を鳴らした。
「へへーん! ボクの魔力量じゃ、全身を強化してもペルには届かないからね! 手と足だけに魔力をギュッと集中させたんだ〜!」
それから何度も剣を交わし、やがて陽が落ち始めて空が茜色に染まり始めた頃。
「はぁ……はぁ……っ! もう、全然勝てないっ! ペル、チートすぎるよぉ! そもそも木の枝ってなんだよぉ〜!?」
「今日はここまでにしとくか。肉はお預けだな……フッ、冗談だ。明日はダンジョンに行くから、好きなものを食え」
落ち込んで肩を落としたミリアだったが、その言葉を聞いた瞬間に一転、パッと可愛らしく元気な表情に早変わりした。
「えっ!? 本当にいいの!? やったぁーっ! 肉! 肉ぅ〜〜っ!」
身体中ボロボロになりながらも、その綺麗な緑の瞳はいつも通りキラキラと輝いている。
心底嬉しそうにはしゃぐミリアの姿を見つめ、ペルセウスは誰にも聞こえないような小さな声でポツリと呟いた。
「……その笑顔が、世界を救うんだろうな」
「え? なになに〜?」
食べ物のことしか頭にないミリアには何も聞こえていなかったらしい。
「なんでもない。よし、街に戻るぞ」
「りょーかいっ!」
短い返事からも、ミリアの元気いっぱいな様子が伝わってくる。
二人並んで夕暮れの街路を歩いていると、ペルセウスがふと声をかけてきた。
「ミリア。初めての修行にしては、正直ここまでできるとは思っていなかった」
ペルセウスの言う通り、ミリアはどうやら『魔力操作』——身体強化を施す部位の切り替えや、力の加減といった精密な制御能力が飛び抜けて優れているらしい。
攻撃を受ける瞬間にその部位だけに魔力を集中させたり、踏み込む一瞬だけ足と剣に魔力を流して加速したりと、並の冒険者であれば挫けてしまうような高等技術を、たった一日で感覚的に掴んでみせたのだ。
「俺から見ればミリアの魔力量は特別多いわけではないから、その戦い方は極めて合理的だ。魔力の節約にもなるし、今後魔法や属性を扱えるようになれば尚更な」
「っ……!? ぺ、ペルがボクのことめっちゃ褒めてくれてるんだけどぉ!?」
(うっ、うれしいぃぃ〜〜!!)
顔を真っ赤にしながらも全身で喜びを噛み締めるミリアと、「……少し褒めすぎたか?」と内心で苦笑するペルセウス。そんなやり取りをしているうちに、二人はいつの間にか街の入口へと辿り着いていた。
「ふぅー! やっと着いたー! ごはん、どこで食べる?」
「そうだな……あそこなんてどうだ?」
ペルセウスが指差したのは、香ばしい肉の匂いが漂う、肉料理がメインの賑やかな酒場だった。
店に入ると、冒険者たちが楽しそうに酒を酌み交わしている。二人は奥の端の席に腰を下ろし、メニュー表を眺めた。
「うわぁ〜! このお肉すごく美味しそう! ペルは何にする?」
「俺はそうだな……骨付き肉にする」
料理が運ばれてくるまでの間、ミリアはワクワクしながらナイフとフォークを持って待っていた。
やがて目の前に大きな肉料理が運ばれてくると、二人は揃って美味しそうに口へ運ぶ。
「なにこれっ! すっごく美味しいっ!!」
ペルセウスも言葉には出さないものの、美味そうに骨付き肉をかじっている。
と、周りの様子を伺いながら、出来上がった一人の酔っ払い冒険者がニヤニヤと近づいてきた。
「ようよう、可愛い子連れてこんな夜に自慢か〜? 俺たちにも貸せよ〜?」
「ほう? 俺の仲間を貸せ、と?……お前らにはもったいないな」
ミリアは気にせず肉を頬張っていたが、ペルセウスは珍しくイライラとしたオーラを隠そうともしない。
(……『仲間』って言ってもらえた……!)と、ミリアが心の中で少しだけ喜んでしまったのは内緒だ。
「もー、喧嘩はやめなよー? ほら、お肉あげるからねっ!」
ミリアはすっと立ち上がると、ペルセウスと酔っ払いの口へ、勢いよく肉串をポイッと突っ込んだ。
突然口を肉で塞がれた二人の顔を見て、ミリアはニコッと可愛らしく微笑む。
「ほら、みんなで食べよ? ん〜! 美味しいっ!」
思いもよらない行動に、ペルセウスは思わず顔を緩ませてクスッと笑いをこぼしてしまった。
「……ハッ、ほんっとにお前は面白いやつだな」
ペルセウスはすぐさま酔っ払いの方へ冷たい視線を向け、淡々と言い放つ。
「今回はミリアに免じて許してやる。次は気をつけろ」
何が起きたのか分からないまま、口に肉を突っ込まれた酔っ払いは、そのまま大人しく自分の席へと戻っていった。
(※この出来事はボクたちの間で『肉詰め込み事件』として後世に語り継がれることになる……なーんて!)
お腹いっぱいご飯を食べた後、二人は夜風を感じながら宿屋への道を歩く。
「美味しかったね! ペルも美味しそうに食べてた!」
「そんなことより、明日はダンジョンに行くことを忘れるなよ」
ダンジョン——それは各地に存在する、古代の遺跡や未開の洞窟などの総称だ。
「ダンジョン……! すっごく楽しみー! お宝とかあるのかなー!?」
「さあな。今日は部屋を別々に取ってあるから、しっかり風呂に入って寝ろよ」
「はーい!」
宿屋に着くと、二人はそれぞれの部屋へと入り、明日から始まるダンジョン探索へ向けて静かに備えるのだった。
よう、俺だ。ペルセウスだ。
ミリアに言われて引き受けた。
特に言うべきことはないが……強いて言うなら、読んでくれて感謝——
「あっ! ペル、こんなところにいたの〜? もう、早く行くよっ!」
「……おい、急かすな。今、後書きを書いて——」
「あっ、みんな! 読んでくれてありがとねっ!
ここだけの話、ペルは『師匠の威厳』がどうとかで、素直に感謝の言葉を言えないんだ! ごめんね?」
「……ミリア、お前な」
「あ! もし『面白かった!』とか『ダンジョン探索も楽しみ!』って思ってくれたら、下にある【ブックマーク登録】や【評価(★★★★★)】を押してくれるとボクたちすっごく嬉しいな! 感想も待ってるよ〜!」
「……まったく。それじゃあ、次回もよろしく頼む」




