第一節:魔力と身体強化
約千年ほど前のこと。このアルカロスト大陸には人族や獣人、亜人など、数多くの種族が平和に暮らしていた。
大陸の天には神々が住まう『天界』が。そして大地のどこかにある扉の先には、魔族や悪魔の住む『魔界』が広がり、互いに関わりこそ持たないものの世界のバランスを保っていたという。
だがある日突然、神と悪魔による大喧嘩が勃発。アルカロスト大陸全域が恐ろしい戦場と化してしまった。
大地は割れ、樹々は焼け焦げ、空には雷鳴が轟き、風には灰と血の匂いが満ちる……まさに大陸は一度、死んだのだ。
この不毛な戦争を止めるため、勇敢に立ち上がった一人の勇者がいた。
名を、ルミナス。
ルミナスは命を賭して天界と魔界へ乗り込み、熾烈な戦いを止めるよう説得して戦争を終結させた。そして両勢力は、幾ばくの時がかかろうとも互いに歩み寄るという盟約を結んだのである。
さらに、荒廃させてしまった大陸へのお詫びとして、両界から人族へと贈り物が授けられた。
魔界からは『魔法と属性の扱い方』を。
天界からは、十二神の力をそれぞれ宿した『十二の神器』を。
人類は授かった神器と魔法を駆使して大地を蘇らせ、やがて三つの大国を作り上げたのだという——。
熱の入った語り部の声が、通りを歩くミリアたちの背後から賑やかに響いてくる。
宿屋を出て歩いていた二人が差し掛かったのは、大昔の神話の紙芝居が催されている街の広場だった。
その周囲には子どもから大人まで大勢の人々が楽しそうに群がっており、人集りの後ろを通るミリアたちには絵こそ見えなかったものの、まだまだ続いている劇の声だけが風に乗って聞こえてきていたのだった。
「ねぇ〜ペル? 見てみてっ! なんか紙芝居みたいなのやってるよ?昔の神話? お伽話?らしいっ!」
ミリアは楽しそうに隣のペルセウスへ話しかけた。ペルセウスはいつも通りの無表情で答える。
「どちらかと言うと昔話だな。実際にあった話だからな」
「えっ? 本当の出来事なの……? なんでも知ってるね、ペルは! 今度機会があったらそういうの聞かせてよ!」
たわいもない会話を交わしながら歩いていると、やがて街の外へと出た。二人は街から少し離れた、見通しの良い広い平原へと向かっていく。
「……ねえ、ここで何するの?」
「今からお前に、剣の使い方と魔力の使い方を教える。今日からほぼ毎日俺が訓練してやるから、死ぬ気でやれよ」
「ふぇっ!?」
心の中で叫んだつもりの声が、思いっきり口から飛び出していた。
「ぐ、具体的にはなっ、何をするの……!?」
魔力とは、本来誰しもが体内に巡らせているエネルギーのことだ。
人によって強弱の違いこそあれど、これを自在に使いこなすことができれば、身体を鋼のように硬く、足は稲妻のごとき速さとなり、その拳ひとつで竜をも悶絶させるほどの威力を生み出すこともできる。
ペルセウスは魔力の基礎概念を一通り説明してから、最初の課題を提示した。
「ミリア、まずは身体強化をしてもらう」
「身体強化って……これのことでしょ?」
ミリアは全身に魔力を巡らせ、「どうだ!」と言わんばかりのドヤ顔でペルセウスを見上げる。
その瞬間、いつもの手刀が容赦なく飛んできた。
避けることすら叶わず、頭のてっぺんでそれを受け止める。
「いっ、痛ぁ!!? な、なんでっ!?」
「いや……なんとなく腹が立った。冗談はさておき、お前のそのへなちょこ身体強化だと、俺の手刀すら防げないわけだ。逆にミリア、その腰の剣で俺に攻撃してみろ」
「ほ、本気……? 怪我しても知らないからね!?」
少しばかりためらいながらも、ミリアは身体強化を練り直して剣を構えた。
「はっ!」
ペルセウスの身体目掛けて、全力で一刃を振り下ろす。
ガンッ!!
「痛っ!!? あと、硬いっ!!」
まるで分厚い鋼鉄を叩いたかのような打撃感。剣の柄を通じて手元へと跳ね返ってきた強烈な反動に、ミリアは思わず手を痺れさせて叫んだ。
「お前の身体強化では、俺に傷一つつけられないどころか、お前自身が怪我をする可能性すらあるわけだ。……ちなみに、俺はまだ本気じゃないぞ」
いつになく真面目な顔で、ペルセウスの言葉を静かに聞くミリア。
その変化に気づいたペルセウスが、ふと尋ねた。
「どうした? そんなに真面目に聞いて」
「いや……本当に強い人が強いこと言うと、そうなんだろうなって。ボク、ペルの言うことは聞くよ。だから、過程は信じるから……どうしたらそんなに凄い身体強化ができるのか教えてよ!」
ミリアの真っ直ぐな瞳を受け止め、ペルセウスはニヤリともせずに淡々と告げた。
「簡単だ。今から一日中、身体強化をし続けろ。私生活でもな。そして日をまたぐたびに、流し込む魔力の密度を増やせ。……当然、できなければ——」
右手をすっと手刀の型にして見せる。
ミリアは一瞬で顔をひきつらせ、ビビり散らしながらも声を張った。
「わ、わかりましたっ! でも常になんてできるかな……戦闘中だけでもしんどいのに……。でも、がんばる!」
「よし。あとは剣術だが……まあ、身体強化を維持しながら俺を相手にすれば、多少は物になるだろ。……さて、構えろ」
ペルセウスは足元に転がっていた一本の木の枝を拾い上げ、無造作に構えた。
しかし——その構えと、全身を覆う常軌を逸した魔力の密度により、ただの木の枝が名刀以上の威圧感を放っている。
ミリアは腰の剣を抜き放ち、必死に魔力を巡らせながら剣を強く握りしめた。
「いくからね……!?」
「ああ、来いっ!!」
やっほー、ミリアだよ!
今回から、だい!に!しょー!がスタートだよっ!
ボク、ペルのスパルタ訓練に負けないでもっともっと強くなるから、これからも見守ってくれたら嬉しいな!
もちろん、このお話から読み始めてくれた人は、ぜひ第一章もチェックしてみてね!
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それじゃあ、また次回ね!……次はペルが担当なのかな〜?




