第五節:君と合流
いつの間にか眠っていたらしい。
目を覚ますと、そこにあったのは火の消えた焚き火と、樹々の隙間から差し込む眩しい木漏れ日だった。
「んふぁ……ぁ。あれ……? 朝だ。ボク、寝ちゃってたんだ……」
まだ半分寝ぼけながら近くの川へと向かい、冷たい水でパシャパシャと顔を洗う。
そこでふと昨日の出来事を振り返り、自分の身なりへと視線を落とした。
服の乱れや破れがないか全身を見回し、ボロボロになってしまった装備を再確認して、少しだけ肩を落とす。
「これ買うのに、依頼いっぱい頑張ったのになぁ〜……。でも、命があるだけありがたいよねっ!」
ポンポンと服についた汚れを払い、すぐさま気持ちを切り替える。
そして——頭の中で、昨夜のやり取りを思い返した。
(確か助けてもらって、朝に冒険者ギルドでペルと合流……)
思い出した。
今日の朝、ペルセウスと待ち合わせをしなければならないのに、自分はここまでぐっすり眠りこけ、さらには呑気に顔を洗って身支度を整えていたという事実に。
瞬間、ミリアの顔から一気に血の気が引いていく。
「ふぇ〜〜っ!? やばいやばいぃ〜〜っ! 早く街に行かなきゃっ!!」
道具をひっつかむと、ミリアは街を目指して全力で走り出した。
(あと少しで街だ! 早く、早くっ……!)
すれ違う街の人々に走りながら大急ぎで挨拶を返しつつ、一直線に冒険者ギルドへと突っ込んでいく。
ダッ、ダダダダダッ!
息を切らしてギルドに辿り着いた頃には、すでに太陽が高々と昇ったお昼過ぎ。
中からは昼食をとる冒険者たちの賑やかな声が漏れ聞こえていた。
息を整えながら辺りを見渡すと、ギルドの前にポツリと佇む、黒い服装に黒いフードを深々と被った男性の姿があった。
(あれ……あの人、ペルだよね? ……ヒェッ、こっちすっごく睨んでる……!?)
ミリアの姿を捉えたペルセウスは、静かに歩みを進め、彼女の目の前までやってきた。
その表情はいつも通りの無表情に見えたが——なぜだろうか、全身から静かな怒りのようなオーラが滲み出ている気がしてならない。
(こいつ……朝に来いと言ったのに、もう昼過ぎだぞ……)
ペルセウスは右手で慣れたように手刀の構えをとると、案の定、容赦なく振り下ろした。
「いっ、痛いっ! ごめんっ、ごめんってぇ〜〜っ!」
ゴツン、ゴツン、と何度も叩かれる。
「俺は朝に来いと言ったはずだが?」
痛さと申し訳なさで目をウルウルとさせつつも、ミリアは声を出した。
「う、うん……っ。あ、ほんっとっにごめん……! でも、ずっと待っててくれたんだね! ありがと、ペルっ!」
ペルセウスは呆れたように大きなため息を吐くと、いつも通りの無表情に戻った。
「まあいい、早く行くぞ」
「えっ、どこに行くの?」
既に歩き始めていたペルセウスの背中を、小走りで追いかけながら尋ねる。
「そんなボロボロの装備じゃ心許ないだろ。俺が買ってやるからついてこい」
どうやら、壊れた装備や冒険に必要なアイテムを買い直してくれるらしい。
ぐるりと周りを見渡せば、確かに武具店や道具屋、薬草店などが整然と立ち並んでいる。さすがは冒険者の街ミストラインだ。
「ボクのために買ってくれるの……? ありがとね!」
ペルセウスは無言のまま歩みを進める。
いくつもの店を通り過ぎ、たどり着いたのは、冒険に必要なものが一通り揃っていそうな、レンガ造りのお洒落なショップだった。
「ここだ。ここでお前の装備を新調する」
「へぇ~このお店、すごく綺麗だね!」
店内に入り、壊れた武具の新調や回復ポーションなどの消耗品を一通り買い揃えてもらい、店を出る。
ふと空を見上げれば、月は既に高い位置へと昇り、街の周囲はすっかり夜の闇に包まれていた。
「だいぶ暗くなっちゃったね。あっ、今日は宿に泊まっていかない? 宿代くらいならボクだって……あるよ……」
確かに財布にはまだ多少の金が残っている。しかし、低ランク冒険者のミリアにとって、この持ち金が底を突けば今後の生活はかなり厳しいものになるのだが——
「ああ、そうか。なら、よろしく頼む」
ペルセウスはミリアの引きつった顔を見て全てを察した上で、あえてあっさりと「頼む」と頷いた。
もちろんお金は大事だ。けれどミリアにとっては、助けてもらった恩を返せないことの方がずっと嫌だった。ペルセウスはその性格まで完全に見抜いて頼んだのだ。
「うん! こっちだよ、ついてきて〜!」
空は暗いが、光魔石の街灯のおかげで通りは明るい。
夜でも賑わう酒場、ベンチで寄り添う恋人たち、店の前でギャンブルに負けて地面を叩いている男——そんなミリアにとっての「いつもの夜道」だったが、今日はすぐ後ろをペルセウスがついてきている。
なぜだろう、その光景すらも、どこか懐かしい日常に感じられた。
「ここだよ!」
カウンターの店主に宿泊代を支払い、案内された部屋の前に立つ。
「……おい、ミリア。部屋が一つしかないんだが?」
「えっ? うん、そうだよ?」
その瞬間、ペルセウスはミリアと出会ってから初めて、明確に焦ったような表情を浮かべた。
「なぜ二部屋取らなかった!?」
再び振り上げられかけた手刀のポーズに怯え、ミリアは大慌てで弁解する。
「あっ、待って待って! お、お金が足りないから、一部屋でいけるかなって……だ、ダメ……?」
本日何度目になるか分からないため息を吐き、ペルセウスは額を押さえた。
「……今日だけだ。これから宿に泊まる場合は二部屋取れ。金がない場合は野営だ」
「りょ、了解です! 師匠っ!」
なんとか本日何度目かの手刀を回避することに成功した。
部屋に入ると、ミリアはそのままベッドに潜り込んで泥のように眠りについた。
一方のペルセウスは壁を背にして床に座り込み、どうやら満足に眠れなかったらしい。
その代わりとして——明日からの修行を、容赦なくハードなものにしようと心に固く誓うペルセウスであった。
こんにちは、ガネットです!
『第五節』までお読みいただき、本当にありがとうございます!
これにて、第一章は無事に完結となります。
次回からは、いよいよ第二章がスタートします!
ここからはミリアの修行や迫力あるバトルシーンも一気に増えていきますので、今後の展開を楽しみにしていてください!
【設定修正のお知らせ】
世界観の整理のため、第一章 第一節に登場した国の表記を『光王国』から『天光国』へと修正いたしました。
自分が想像していた以上にたくさんの方に読んでいただけて、本当に嬉しいです!
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