第四節:お肉は偉大
ぼんやりと意識が戻り始め、感覚が研ぎ澄まされていく。
最初は聴覚——パチパチ、と鳴り止まない音がする。
(これは……焚き火の音?)
次に嗅覚——涎が出そうなほど、美味しそうないい匂いがする。
(す、スッゴくいい匂いがする……!?)
そして感覚が戻った瞬間、ミリアはすぐさま焚き火の横に刺してある肉を口へ頬張っていた。
「うぅっ……うまぁ〜……!」
焚き火の向かいに座っている黒髪で赤目の青年に気づくことすらなく、一心不乱に肉を口に突っ込んでいる。
そんな様子に、青年は呆れた顔で口を開いた。
「おいお前……起きて早々、食い物か?」
ミリアは驚いたような顔で青年の方を見た。周りを見渡すと、そこは静まり返った深緑の森の中だった。
「!? 君は……あの時助けてくれた……?」
お肉をそっと置き、少し複雑そうな顔をしながら言葉を続ける。
「あ、あの……君のお肉食べちゃってごめんね? あっ、ボクはミリアだよ!」
ハァとため息を吐いてから、青年は呆れたように名乗った。
「俺の名前はペルセウスだ。……まあ、言いたいことはあるが、今はいい」
そこでミリアは、今更ながら自分の身体の異変に気づいた。
ハイオークに殴り飛ばされたはずなのに、痛みが何一つなく、擦り傷すら見当たらない。
「あれっ? ボク、吹き飛ばされて血も出てたのに痛くない……ペルセ……ペル?が治してくれたの?」
ペルセウスは少し驚いたような顔をした。そりゃそうだ、ほぼ初対面の女の子にいきなりあだ名で呼ばれれば誰だって驚く。
「あっ、ごめんね? いきなりあだ名で呼んじゃった……えへへ、治してくれてありがとっ!」
ミリアは満面の笑みで感謝を述べ、ペルセウスの顔を見つめながら真面目な表情声音で言葉を紡ぐ。
「ねえペル。助けてもらって言うのもなんだけど……ボクのこと、鍛えて欲しい。強くしてくださいっ……!」
(やっばぁ……ボクついつい変なこと言っちゃった。大丈夫かな……?)
ペルセウスは少し考え込むように間を置いてから答えた。
「一つ聞かせてくれ。なぜ強くなりたい?」
その問いに対して、ミリアは真面目に、あの戦闘を思い出しながら答える。
「ボクが強ければ、ハイオークもペルみたいに簡単に倒して、あの二人も簡単に助けられたのに……その、つ、つまり……!」
少し言葉を選んで続きを言葉にする。
「守られる立場じゃなくて、みんなを守る立場になりたいっ!」
その言葉を聞いて、どこか懐かしそうな表情を浮かべるペルセウス。少しの間を置き、口を開く。
「わかった。代わりに条件がある」
(じょ、条件……?!)
一体何を言われるのかとドキドキしながら、ミリアは頷いた。
「これから俺はお前の師匠になるわけだが……俺の指示には絶対に従ってもらうぞ?」
(えっ、そんなことでいいの?)
そう思った直後、ミリアはふと頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしていた。
「あっ……ペルのエッチぃ〜!」
元気よく喋った直後、ペルセウスの手刀が容赦なくミリアの頭へと振り下ろされた。
ゴツンっ、と鈍い音が響く。
「ひっ、ひどいっ! 痛いよぉ……!?」
「ふざけたことを言っているからだ」
落ち着いた声音で答えると、ペルセウスはミリアに焚き火でこんがりと焼けたコッコの肉を差し出した。
「食べていいの? さっきも食べたけど……?」
ペルセウスは無言で頷き、一言だけ付け加える。
「明日の朝、冒険者ギルドの前で待つ。来なければ置いていく。以上だ」
それだけを言い残すと、彼は静かに立ち上がり、あっという間に森の暗闇へと姿を消していった
肉を食べてやはり思った、肉は偉大だと




