9話「噂の調査隊3」
「おじいちゃーん、パメラだよー!!遊びにきたー!」
大きなお屋敷のベルを鳴らすと、門が開いた。
鳴らしたベルはもちろん魔道具だ。
前世のインターホンのようなもので、鳴らすと家の方に音声が流れる仕組みになっているらしい。
「ユアン行こっか」
「パム、大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。私がおじいちゃんって呼べてる時点で悪い人じゃないって。ほら、行こう」
手を差し伸べるとユアンは恐る恐る私の手を握った。
この世界のお金持ちって性格が終わってるから、その反応になるのもわかる。
でも、騙されたと思ってとりあえず一緒に来て欲しい。
「おーい、おじいちゃーん」
歩いていると次第に白髪の老人が見えてきた。
テラスでお茶をしていたみたいで、湯呑みを持って座っていた。
(そういえばこの世界にも、急須と湯呑みってあるんだ。あと緑茶と)
「おお、パメちゃんいらっしゃい。元気にしとるようで」
「おじいちゃんこそ元気そうだね。
あ、この子紹介するよ。家族のユアン。私と同い年だよ。緊張しちゃってるから優しくしてね」
ユアンを隣に座らせて、勝手知ったる動作で湯呑みにお茶を淹れる。
緑茶のいい匂いが鼻に漂ってきた。これだよこれ。やっぱ日本人としてお茶は外せない。
「やだのう〜、パメちゃん。わしはいつも優しいぞ。ほれ、ユアンくんもまずは茶でもどうじゃ?」
「え、あ、すみません。……いただきます」
ユアンでも緊張をするらしい。どこかぎこちない様子でソワソワしている――と思ったのは一瞬だった。
「んっ……美味しいです!お爺さん、俺こんなお茶飲んだことないです!」
「そうじゃろう。パメちゃんもお墨付きの緑茶じゃよ。あ、わしのことはダリルじいじか、おじいちゃんって呼んで欲しいのう。
パメちゃんみたいにおじいちゃん♡って呼んでくれてもかまわんぞ?」
「じゃあ俺もおじいちゃんって呼んでいいですか?」
「いいぞ。ふぉふぉふぉ」
(もう仲良くなってるよ)
さっきの緊張してた姿はもう影も形もない。
ユアンも大概肝が据わっているみたいだ。
ていうか……おじいちゃん♡なんて呼んだ記憶はない。とだけ訂正しておく。
◇◇◇
「おじいちゃん、噂話の真相聞かせてよ」
お茶を飲んで和んだところで、本題を出した。
「そうじゃろうと思っておった。パメちゃんのことだから、色々聞き回ったんじゃろ?」
「うん。でもろくな噂なかったよ。ユアンがモテて大変だったぐらい」
一日、一緒に歩いただけで、ユアンは少女からお姉様にまでモテモテだったのがわかった。
当の本人は、今もキョトンとしているが、見惚れる人、格好いいと興奮する人、私を見て睨んでくる人もいた。
ここだけの話、なにか起きないかなってワクワクしてたんだけど、何もなかったのは残念だ。
「ユアンくんイケメンじゃからな〜。ユアンくんはどんな子がタイプなんじゃ?」
「もーおじいちゃん焦らさないでよ。それわざとでしょ」
「ふぉふぉふぉ」と笑って誤魔化すおじいちゃんを睨みつけた。
やっぱりわかってて話逸らしやがった。
反応を見て楽しんでる悪趣味な狸爺め。ちょっと似てるからこそ腹立つ。
「パム、なんでおじいちゃんが知ってるって思ったんだ?」
「このジジイ……あ、間違えた。じいじはダリル商店の創設者だよ。
店舗だって至る所にあるし、引退したっていってもまだ遠方から手出してるからね。
優しそうに見えて狸爺だから、利用されないように気を付けてね」
ダリル商店は、水の街アリア発祥の商店だ。
大きな街に行くと必ずあるほどの有名店だったりする。
「え……?パムはなんでそんな人と友達になったの?」
「ただの茶飲み仲間。ぎっくり腰で跪いてるところ助けたんだよ」
去年の春頃だったと思う。
今日みたいに街に出かけた時に、たまたまおじいちゃんが躓いているのを見つけたのだ。
お屋敷まで送って、お礼に貰った紅茶とスイーツを食べていたら、話が弾んでいつの間にか茶飲み仲間になっていた。
憎たらしいジジイだけど、根は優しい……とは思う。
ユアンが初め緊張してたように、この世界のお金持ちは偉ぶるものだ。
でもこのおじいちゃんは孤児でも優しくしてくれる珍しい人格者だった。
だから私もこうして仲良くしている。本当に憎たらしいけど。
「二人ともひどいのう。パメちゃんはお友達じゃぞ?そんなことせんよ」
「よく言うよ。この間毒味させたくせに」
状態異常が効かない……と思われる私を知って毒味させたのがこのクソジジイだ。
効かないけど、味で区別はつくから食べさせられた。
……あれ?このクソジジイが本当に優しいのか怪しくなってきた。
「おおっと、これ以上引っ張ったらパメちゃんに本気で怒られそうじゃからそろそろ話すかのう」
おじいちゃんは誤魔化すように話題を逸らした。
教えてやるから毒味の件は許してくれということだろう。
「昨日ソイルの街近くの街道で、冒険者が新種の魔物を見たんじゃ」
「ソイルの街……土神様が創ったと言われている街ですか?」
私が住んでいる街から西にある街だ。隣領地だけど近くはないくらいの距離だろうか。
「そうじゃ。休憩所で新種の魔物は現れたみたいでの。それが木よりも大きいらしいぞ」
「そいつがあんな揺れ起こしたの?魔法?」
「いいや、陥没したんじゃ。
魔物は土から出てきたみたいでの。
とんでもない数の魔物が出てきたんじゃ、そして陥没した」
やっぱり陥没で間違いないみたいだ。
小さい穴が複数できて、支えられなくなって一気に落ちたってところだろう。
「背丈以上って言ってたのはなんだったの?」
「ああ、新種の魔物は合体したんじゃと。人型らしいぞ。小さな手足で歩いて、母体の魔物に溶けるように混ざりあい、やがて大きな魔物へと進化したみたいじゃ」
スライム的な魔物ってこと?
いや、土がなくなっているんだからきっと土のような魔物のはずだ。
溶け合うってことは粘土みたいな感じ?
ああ、もしかして――
その魔物ってゴーレムなのかもしれない
「攻撃性は?あと怪我人」
「ないのう。冒険者は傷一つ付いておらんかったし、周辺のどの街にも怪我人はおらんかった。でもひとつ気になる話があったのう」
「気になる話?」
まだ何かあるんだろうか。もしかしてこれが噂でも出回らない原因だったり……
「ああ……冒険者が言うには――
ゴーレムが振り返って「早く逃げろ」と話したみたいじゃ」
「早く逃げろって……」
「そんな……魔物が話したんですか?
話す魔物なんて聞いたことがない」
そうだった。何が問題なんだ?と思ったけど、この世界に話す魔物なんて存在しないんだった。
話す魔物がいる作品って結構あるから失念していた。
ということは、異例すぎてまだ公表できないということだろう。
今までにないタイプの魔物が出現した。なんて言ったら恐怖で騒ぎになるのは確実だろう。
「どうりで変な噂しかないと思った。こんな近くで発生してたら普通はすぐにわかるもんなのに」
「うん。きっと混乱するから公表しないんだろうね。とりあえず怪我人が居なかったのは良かったよ」
「S級冒険者も王立騎士団などもこの件に関わるみたいじゃ。だから二人とも他言無用じゃよ」
もちろんわざわざ騒ぎに突っ込む気もないし、言うつもりもない。私はただの平民だからね。
「はぁ…なんか疲れた。おじいちゃんお茶おかわり」
隣に座ってるおじいちゃんに湯呑みを差し出す。
おじいちゃんの淹れるお茶は美味しいからね。まぁ私が入れたお茶も負けないけど。
「パメちゃん、老人使いが荒いのう。でも図々しいところもチャーミングポイントじゃな」
「知ってる。あ、おじいちゃんユアンのやつも入れて」




