10話「落し物と人助け」
「ふぅ……お腹パンパン……」
「ふふっ、おじいちゃんのお茶美味しかったね。俺も少し飲みすぎたよ」
ユアンはお腹を摩っている。
そうは言っているが本人のお腹は出ていない。
こっちはワンピースの上からも、お腹がぽっこりしているのにおかしい。
もしかして、イケメンはお腹でさえもコントロールできるのだろうか。
じゃないとおやつもいっぱい食べていたのになんで……
(ユアンって大食いだったりする?)
今も市場のお肉を、羨ましそうに眺めているユアンを見て嫌な予感がした。
――もし、そうなんだとしたら、問題だ。
孤児院の食事なんて到底足りていない可能性が出てきた。
思えば私でも少ないな、と思うほどの量しか出てない。
「ユアン、もしかしてまだお腹に入ったりする?」
私が問いかけたら、ユアンは少し顔を赤くして頷いた。
天を仰ぎたくなる。
どうりで孤児院の兄たちが、卒業した途端に体格が良くなるわけだ。
稼げるようになっていっぱい食べているんだろう。
これは見過ごせない。帰ったら院長に交渉してみよう。
お金が問題と言うなら、前世の知識の出番だ。
おじいちゃんに持っていったら、取り合ってくれるかもしれない。
(うわぁ……でもすごい嫌だ)
商売のことになると面倒くさいおじいちゃんを思い出してゲンナリする。
「あら〜、パメラちゃんとユアンくん?」
「さっきぶりだね、ライラさん」
振り返ると、昼間に会ったばかりのライラさんが立っていた。
しかし、「気をつけて帰ってね」と挨拶をすると早々去っていく。
(……なんか慌ててた?)
目線をウロウロさせて、落ち着きがなかった。
まるで何かから逃げるような――
「はっ…!もしかして夜逃げ!?」
何か困ったことがあったライラさん一家。
お金がなくなって借金を背負って、一家で夜逃げをする。
そこまで浮かんだけど、普通にないと思う。
ライラさんの家の旦那さんが、さっき市場を巡回しているのを見た。
騎士の仕事をしている時点でその可能性はない。
「夜逃げ?」と不思議そうな顔をしているユアンに、説明する。
もちろん可能性がないことも伝えた。
「うん。でも何かあったのは確かだと思うな。昼間と違ってどこか慌てていたから」
「じゃあー、誰かに追われてるとか?ずっとキョロキョロしてたし」
「……!パム、ライラさんを追いかけよう!それならきっと困っているはずだよ。助けが必要かもしれない」
「あ!ちょっと!!」
人の合間を器用に抜けて行って、ユアンは一人で走り去ってしまった。
運動神経は相変わらず良いみたいだ。止める暇さえ与えてくれなかった。
「あーあ、行っちゃったよ。……はぁ、私も走らなきゃダメ?」
自分のお腹を見て、ため息を吐いた。
◇◇◇
「はぁはぁ……やっと見つけたっ!!!」
走ったはいいものの、ユアンたちが見つからなくて走り回る羽目になってしまった。
やっと見つけた場所は、市場内にある飲食用にテーブルなどが置いてある広場だった。
椅子に座っている二人……いや、ユアンを睨んだ。
「パムごめん……つい……」
ユアンが肩を落として俯く。
落ち込んでいる姿が、怒られるのを待ってる犬みたいで、怒る気が失せてきた。
幸い、体は身体強化の魔法を使っていたから疲れてもいないし、
なんか私が悪いことしてるみたいに思えてきた。
「はぁ……もういいよ。それで?ライラさんはどうしたの?」
「財布を無くしたみたいだよ」
なんだ。逃げていたわけじゃなかったみたいだ。
まぁ、とりあえず事件に巻き込まれていなかったのは良かった。
「ごめんなさい……パメラちゃんまで助けにきてくれたのね……」
そう言ってライラさんは肩を落とした。
昼間のユアンを婿にと張り切っていた時とは違い、落ち込んだ姿にはくるものがある。
(気持ちわかるよ……)
私も前世の時に1回落としたことがある。
落とした時は、この世の終わりくらいの勢いで落ち込んだものだ。
まぁ私の場合は、無事に財布は戻ってきたけど――
この世界で、無事に帰ってくる保証は0に近い。
なんせ、治安が悪いから。この街はまだマシな方ではあるけど……
(きっとないだろうなぁ……)
それでも、この落ち込んだ姿を見たらなんとかしてあげたくなる。
ていうかここで見捨てたら罪悪感を感じる。
「……ライラさん、私たちも探すよ」
「でも……」
「俺たちも一緒に探した方が早いですよ。暗くなる前に探し出しましょう。大丈夫です。きっと見つかります」
「ていうことだから……アイラさん、財布の特徴と歩いた場所教えて!」
「ユアン、あの走りって全力?」
「違うよ?人が多かったから全力では走れないよ」
「あぁ……そう……」




