73話「リンジーさんのお願い」
「よく来たな。迎えにいけなくてすまない」
翌朝、騎士団に来た。
団長室には遊びに行ったことがあるので、迷うことなく団長室に着いた。
入ると、リンジーさんが笑顔で迎え入れてくれた。
リンジーさんは冒険者を引退した後、プロローグの街の騎士団長をしている。
夫婦揃って、いや、パーティー揃ってみんな責任のある仕事をしている。
(優秀な人材を手放したくなかったんだろうなぁ。平民でSランクまで行けるの本当に珍しいし)
それを了承する三人もすごい。私だったら断って隠居する。
「早速で悪いが、依頼内容を話す前に訓練場にきてもらえるか?見たほうが早いだろう」
そういって案内された場所は、いつも騎士の訓練に使っている大きな訓練場とは違う、小さな訓練場だった。
小さいと言っても、学校のグラウンドぐらいはある。
「ここって……騎士団に入った子たちが訓練している場所ですか?ディランに聞いたことがあります」
「ああ、そうだ」
(へーこんな場所あったんだ)
ディランに会いにくる時は、大きな訓練場に行ってた。
それに騎士団内を探索するなんて、防犯の都合上できないから知らなかった。
子供が騎士団に入団するって聞いた割りに、全然見かけないから不思議に思ってたけど、ここだったんだ。
物珍しくて、キョロキョロと観察する。
目の前では、いままさに子供たちが訓練している。
10歳にも満たない子供たちがランニングしているみたいだ。
(すごいなぁ……)
あんな年から、将来のために頑張ってるだなんて感心する。
私が前世のときは……言いたくないくらいめちゃくちゃだったのに。
ぼーっと眺める。
「あの通り、騎士団では将来の騎士を受け入れている。だが、少々困ったことがあってな」
「困ったことですか?」
ユアンとリンジーさんの話を聞きながら、目の前の子供たちを見る。
(本当にがんば…………ん?)
なんかランニングについていけてない子が出てきた。
それは体力の問題だからいいと思うけど……
「うわぁぁぁぁ!!もうはしりたくない!!!あきた!!!」
飽き始める子。
「もういやだあぁ、かえりたい……ぐすん……きついよぉ」
泣き始める子。
「おい!!まいにちこんなことさせるなんて、おまえはあくのマモノだな!!!」
騎士に立ち向かう子。
段々カオスな訓練場になってきた。
「……」
ユアンたちの沈黙が広がる。
「あはははは!!そりゃそうだよね!」
空気読まずに一人だけ腹を抱えて笑う声が訓練場に響く。
呆れた視線を感じるけど、止められない。
あの子たちの気持ちがすごくわかる。
できれば努力なんてしたくない。しんどい、きつい。
ましてや、あの年齢で訓練ばかりとか気がおかしくなる。
(まぁ、でもリンジーさんの気持ちもわかるけど……)
「ごほん……毎回入ってくる子供たちは、あのような調子でな……。
ディランはあの通り、訓練にかじりつくような子だっただろう?どうすれば良いのかわからなくてな……」
確かに。毎日ばかみたいに訓練してた。
「この子たちも時間とともに、訓練に耐えられるようにはなるだろう。
しかし、あの年で親元を離れて頑張っているからな。なんとかしてやりたいんだ」
そういってリンジーさんは少し落ち込んだ様子で笑った。
「そこでパメラを思い出してな。お前は息子を変えてくれたし、あの子たちを成長させただろう?」
リンジーさんが、ユアンたちを見ている。
「成長させたっていうか、ユアンたちが初めから優秀だっただけだよ」
「ふっ、お前の発想力とユアンたちの努力のおかげだ。素直に受け入れろ」
頭を撫でられる。
「ユアンたちも子供の扱いには慣れているだろう?そう思ったら、ギルドに向かっていてな。
しかし今思うと、お前たちの秘密を考えていなかった。騎士団の訓練法を考えたと噂が広がったらまた目立ってしまうな。すまないことをした」
謝るリンジーさんの顔を上げさせる。
「今更すぎる。そんなの承知の上だよ。だってランクが上がるごとに、嫌でも目立っていくでしょ?」
目立つのは嫌だけど、仕方ない。そういうものだと思ってる。
それに……この依頼を把握してる師匠が止めなかったのは、私と同じ考えなんだろう。
「重荷になっていないか?お前たちが困るのだけは避けたい」
「リンジーさん。私たちにもメリットはあるよ?恩を売れるしね」
もしもバレた時用に、あちこちに恩を売るのは悪くない。
民衆を味方につけたら、それだけで抑制になる場合がある。
危険だと判断された場合も、今まで誰にも危害を加えてない、助けてただけって免罪符になるかもしれないし、いいことはいっぱいある。
(まぁ、バレる可能性は上がるけどね……)
「ていうか、私たちが断ると思ってたの?ひどーい!」
私がリンジーさんのお願いを断るわけがない。推しに見くびられてる。
大変だ。今回の依頼ちゃんと考えなきゃいけない。
「そうですね。いつもお世話になっていますから、俺たちにできることがあればやらせてください」
「ま、できるかはわからないけど、やってみてからでも遅くはないわね」
肯定的な私たちの反応にリンジーさんが目を見開く。
「では頼んでもいいか?私の可愛い子供たちよ」
そう言ってリンジーさんはウインクした。
今度は私たちが目を見開く羽目になった。
やっぱ私の推しかっこいい!!




