71話「思わぬ休息日」
「パメラちゃんー!こっちにお願いできるかいー?」
「はーい!!!」
頭に布を巻いたおっちゃんの呼び出しに、元気良く返事をし、目の前においてある木材を持って、駆け寄った。
ファントム洞窟事件から一年経った。
みんな13歳になり、また一歩大人への道へ進んだ。
冒険者ランクも、そろそろDランクに到達できそうだ。
指名依頼のポイントは300だ。
200ポイントは、洞窟とエイリアンウサギの件が緊急依頼と認められて入ってきた。
正直な話、冒険者ランクも指名ポイントも、洞窟の件がほとんどを占めている。
ここ一年で前進した感覚は全くない。
まだまだ道のりは長い。
でも今日は、指名依頼をしている真っ最中で、よくバザールで買いにきてくれる建築屋さんのおっちゃんに、人手が足りないからと指名してもらった。
こんなところでも、院長の名声が役に立つなんてありがたい限りだ。
重たい木材も、強化魔法で楽々持てるし、私にしては、結構良い仕事の部類で好きだ。
おっちゃんも仕事が終わったときに、ジュースを奢ってくれる良いおじさんだし。
まぁ、一人を除いては――
「もう!いつまで力仕事しなくちゃいけないのよ!!!」
仕事が終わって、孤児院に帰って来た。
そのままアンちゃんの部屋にお邪魔するなり、アンちゃんの怒りは爆発した。
「いつまでって……いつまでも?」
冒険者としてやって行くなら指名依頼は避けられない。
そもそも仕事を選べる立場でもないし、Sランクを目指してるなら、なんでも受けるべきだろう。
「そうだけど!そうじゃないのよ!冒険者ってもっとこう……!」
ああ、言いたいことはわかる。
アンちゃんの言葉を遮って言葉を発する。
「ダンジョン行ったり、いろいろな街に行ったりしてるものだと思ってた?」
「そう!!!それよ!!!!」
正直私もそう思ってた。想像していた仕事ではなかった。
まぁ、私は結構満足してるけど。
今のところ、変な指名依頼もないし平和だ。
「これもユアンがなんでもかんでも受けるお人好しだからよ!全く進めないわ!!」
アンちゃんの言葉に苦笑する。
たしかに指名依頼がくるたび、ユアンは依頼を見ずに受けようとする。
「困っているんだろうから」というユアンと、ほかの街にも行ってみたいアンちゃんの言い合いは最近目立っている。
まぁ、結局アンちゃんが折れることになるんだけど。
アンちゃんも受けるしか選択肢がないのは理解しているみたいだ。
とはいえ、感情は別物だというのはわかってる。
「アンちゃんはザレックとディランみたいに冒険するほうがいいの?」
「あんたはどっちがいいのよ?」
「私はどっちでもいいよ。でもゆっくりできる方がいい」
変な指名依頼が来て、変な依頼をするくらいなら、今の仕事がいい。
挑戦心がないと言われそうだけど、中身はとっくのとうに成人してる大人だ。今更挑戦心なんて出てこない。
「あんたはあんたでお気楽すぎるのよ。
はぁ……協調性がないわねこのパーティーは……」
こうやってアンちゃんは言ってるけど、指名依頼を断ったら断ったで気にするくせに。
なんやかんや今の仕事でも、おっちゃんたちに娘のように可愛がられて嬉しそうなのに、本当に素直じゃない。
(まぁ……このままってわけにもいかないよね)
アンちゃんの不安を貯めたままというのも良くない。
そろそろ、違う街に行ってみても良いかもしれない。
ヒルダも子供たちをまとめるのがだいぶ慣れてきたようだし……短期間なら大丈夫だと思う。
「ユアンがギルドから帰ってきたら話し合おう。
今の依頼が終わるまで、まだしばらくかかるし、じっくりとみんなで相談して」
「そうね……」
という話をしたのが、つい一週間前の出来事だ。
「急な空きができちゃったね。パム、アンどうする?」
おっちゃんたちは、次の建物の設計作業に入った。
私たち初心者に設計なんてできるはずもなく、建てる作業に入るまで、私たちの出番はないらしい。
ということで、私たちが本来予定していた仕事がなくなって、思わぬ休息を得た。
「依頼でも受ける?まぁ、いい依頼があるかわからないけど……」
気が進まない中、依頼書のボードへと近づく。
「パム、アン、なにかいい依頼見つけた?」
「んーこれと言って、受けたい仕事もないかなー」
「そうね……」
少し遅い時間に見ているから、とっくにいい依頼は取られて、もうない。
Dランクだと、イーストの森のウルフの討伐に、ゴブリンの討伐……こいつらはもういい。お腹いっぱいだ。
それか、イーストの森よりランクが上の、南にある昆虫の森。
これはアンちゃんがダメだ。虫が嫌いだから。
それに私も、あまり行きたくはない。
一応、虫に触れはするけど、気持ち悪いものは気持ち悪い。
それに昆虫の森はこの街から少し離れている。気軽には行けない。
そうなると、残すところは上級の森か、ダンジョンということになる。
でも上級だと、ランク的に目立ちすぎる。
まぁ、元Sランク冒険者の弟子がいるからおかしくはないだろうけど、出来ればまだ避けたい。
残るはダンジョンだ。
でもダンジョンも日数的に無理だ。数日間潜ることになる。
それだとおっちゃんたちの作業に何日かかるかわからないし、依頼に支障が出るかもしれない。
(やっぱ……受ける依頼がない……)
「……いっそのこと、休息日にする?」
嬉しさを隠しきれなくて、ニコニコしながらユアンたちに尋ねる。
「そうしましょう……」
「うん、俺も賛成」
2人が仕方ないと苦笑いしながら頷いたのを見て、拳を上げて飛び跳ねる。
「やったー!!!」
本当に嬉しい。
駄々こねて、週一の休みは獲得したけど、休みが少なすぎるんだもん。
ユアンもアンちゃんもタフすぎる。
「ふふっ、久しぶりに孤児院のみんなと鬼ごっこでもしようか。最近ハマってるみたいだよ」
「へぇー!!じゃあ捕まった人には、罰ゲーム受ける鬼ごっことかどう?」
「あんた罰ゲーム好きね。罰ゲームって何するのよ?」
「んー、筋トレとか?それか大掃除」
孤児院のみんなにしたいイタズラを想像したらわくわくしてきた。
高揚した気分のまま冒険者ギルドのドアに手を伸ばすと——
「おめーら、ちょっとこい」
師匠の呼び止める声が聞こえて、休みが潰れることになった。




