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70話「ホッとする街」

「はぁ……やっと帰ってこれた……」


 門をくぐって街に入る。

 いつもの見慣れた街の風景に少し安堵する。


 今日はとんでもない目に遭った。


 初日から自信喪失だ。正直もうやっていく自信がないくらい強烈な1日だった。


 まぁ、やるしか選択肢がないから頑張るけど……。


 今度から魔除けの香は絶対に持っていこう。なんならストックしておこう。


 洞窟でファントムが出るのは想定してなかった。

 今回は誰も持ってきてなくて、切れてたのが良くなかった。本当についてない。


「ディラン運んでくれてありがとう」

「ああ」

「どうせなら冒険者ギルドまでお願い」

「たくっ、今度なんか奢れよ」


 もちろんそのつもりだ。


 ここまでおんぶで運んでくれたディランには本当に感謝だ。


 本来なら、ユアンにおんぶしてもらうつもりだったけど、大剣のせいでできなかった。


 それにディランのほうが魔法も得意で、手が塞がっていても戦えることもあり、おんぶ係に任命された。


「自分で歩け」と嫌がりそうなディランだけど、私の疲弊具合に快く手を貸してくれた。


(私、すっごい頑張ったからね)


「パム、冒険者ギルドに行こうか」

「あれ?お姉さんたちは?」


 後ろを振り返れば、ヘレナ姉さんたちがお姉さんたちを連れてどこかに行こうとしているのが見える。


「引き取ってくれるらしいわよ。どこかの誰かに夢中みたいだから」

「あーなるほどね」


 実は、ディランにおんぶされている間、お姉さんたちからの羨ましそうな視線をビシビシ感じていた。

 ディランの誉め言葉はお姉さんたちに効果てきめんだったみたいだ。


 洞窟を出た時も、ディランの安否を心配して駆け寄って来た。


 推しの出待ちをしてるみたいな光景が面白くて「ファンが出来てよかったね。指名依頼くるよ」っていじったら、洞窟に取り残されそうになった。


 あんな場所に置いていこうとするなんて、ひどい。


「冒険者ギルドにヘレナさんたちの報告もしておいてほしい、だって。

 だから冒険者ギルドに行こう。師匠に事情を説明しにいかないと」


 ああ……ゴリラの存在を忘れてた……。


 ◇◇◇


 冒険者ギルドに着いて、師匠に取り次いでもらうとすぐに案内される。


「ホーンラビットの変異種に、ゴブリンの巣。檻に、ゴブリンキングとファントム……それに、禁止された魔道具か」


 だいたいの流れをざっくりと話すと、師匠がメモを取っていく。


「おめーら運が良いのか悪いのか……

 初日からなんでこんな目に遭うんだ?」


 私も同意だ。私も洞窟の中で何回思ったか。


 今こうやって師匠がまとめたのを見ても、全然初めての依頼とは思えない。


「とりあえず、順序を追って聞かせろ。魔道具と、檻はファントムの仕業か?」

「いえ、違うみたいです。確認しに行きました」

「てことは回収できたのか?」

「はい。パムに回収してもらいました。檻は大量にあって無理でしたけど……」


 檻を確認しに戻ったせいで本当に嫌な目に遭った。

 これのせいで、疲れ切っておんぶしてもらう羽目になったと言っても過言じゃない。


 あの後、実はみんなが確認しに行くと言って檻の場所に戻った。


 でも、その間もファントムは脅かして攻撃してくる。

 しかも、一番怖がっている私を集中的に狙ってだ。


 なんて嫌な奴らなんだろう。

 あいつらは絶対許さない。

 絶対、魔法で除霊する方法を編み出してやる。


「おい、小娘聞いてんのか?魔道具と檻を出せ」

「あ、はいはい」


 誰にも取られないように、わざわざ収納魔法に入れていた魔道具と檻を取り出す。


「これは……確かに禁止された魔道具だな。香はどうした?」

「香も出していいの?袋にも入れてないけど」


 街には魔物が来ないように魔道具が置かれているけど、確実じゃない。


 多分これを出したら、香に引かれた魔物が街に来ると思うんだけど――


 という前に、師匠が机の引き出しを開けると、透明な袋を出した。

「これに入れろ」と指示されて、こぼれないように気をつけて、袋の中に入れる。


 手際よく紐で縛る師匠を見て、いけない発言が出そうになって口を押さえる。


「意外と用意周到で器用。それって独身生活が長いから?」とか言おうもんなら、多分ぶちギレられる。


 この世界の人は、結婚しているかどうかを気にするタイプらしい。

 別に結婚しなくてもいいと思うけど、あの師匠でも気にしてるんだから、根強いなにかがあるんだろう。


「これは俺が預かる」

「はい、わかりました」


 こうやって見たら普通の葉っぱだ。何でできてるんだろう……


「良いようにしろよ。俺もいたんだからな」

「心配すんな。ジェイにも掛け合ってどうにかする」

「ならいい」


 これは孤児が禁止された魔道具を盗んだかどうか、みたいな話?


 それとも、これがもし貴族の仕業だとしたら、見つけたのが私たちにわざと擦りつけようとする可能性があるって話?


 ……どっちも有り得る。


 まぁ、その辺は師匠たちに任せておこう。

 貴族は嫌いだからあまり関わりたくない。


「それより変異種のうさぎも出せ。変異したなら登録しなきゃなんねえ」

「ああ、はいはい。これね」


 マジックバッグからエイリアンウサギを出す。


「普通のウサギだな」

「それがびっくりなことに、開けたらほら」


 師匠を驚かせようと、口をつまんで広げる。


「なんだこの魔物は。気持ちわりいな……どこから見つけてきた」

「それは……」


 思わず目を逸らす。


 これを話すとなったらあれもバレるってことだ。


 ……それだけは避けたい。


 だってもう今日は疲れ切ってるのに、説教コースなんて絶対に嫌だ。

 私は帰って早く寝たい。


 こうなったら誤魔化すしかない。


「それは、戦闘中にたまたま遭遇し……」

「したら、こいつが触ろうとして食われかけた」


 バッと振り向くと、ニヤニヤとした顔のディランと目が合う。


 唖然としていると「仕返しだ」と口パクで返される。


 う、売ったのを根に持ってる!!最悪だ!!あの時ユアンにしておけば……!!


「それに、ゴブリンにわざわざ突っ込んで捕まったりもしたか?」

「ちょっ!!!!」

「ああ、それにゴブリンが捕まえた女に失言もしたか……」

「それは悪かったけど!でもあの状態でどうやって……っ!!」


 必死に反論しようと口を開くが、ボキッと何かが折れる音がして、口を閉じて恐る恐る振り返る。


「俺は気をつけろと言わなかったか?小娘」

「て、てへ。さ、さぁ私は一足先に帰らせてもらおうかなーっと」


 ドアを開けようとすると、後ろからなにかが飛んでくる音がする。


 慌てて避けると、でかい大剣がドアに刺さっていた。


(ここまでやる!?)


 慌てて大剣ごとドアを引いて部屋を出ると、師匠も出てくるのが見えて走り出す。


「待ちやがれ!!!」

「待てって言われて待つわけないでしょ!絵面もやばいよ!ししょー!」


 少女を追いかける筋肉マッチョのおじさんなんて、変な噂がかけられる。

 またしても婚期を失うことになるから忠告したのに――


「師匠っつうんなら言うこと聞きやがれ!!!!」


 師匠は鬼の形相で追いかけてくる。


「ただのあだ名じゃん!こういうときだけ師匠ヅラしないで!嫌がってたじゃん!」


「おめーこそ、こういうときだけ師匠扱いやめるのをやめろ!

弟子にしてやるから、お前居残って訓練しろ!!!俺が直々にしつけてやる!!!!」


「嫌だ!今日は疲れた!!帰ってぐっすり寝るの!」


 結局このやり取りは数分続くこととなった――


 そして、この騒動を見ていた人たちの噂によって、師匠は嫌がる少女を追いかけ回す変態。

 私は相当なことをやらかした問題児として、冒険者ギルドで一時的に噂の的になった。


 それに、逃げ切れずに訓練までさせられることになった私の心と体はボロボロになった。


 本当に容赦のないゴリラ師匠だ。


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