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68話「ゴブリンキング」

「なんでゴブリンキングがここに……」


 思いもよらぬ展開に目を見開く。


 おかしい。だってさっきまで入口とは反対の場所にいたのに。


 ゴブリンキングは、巣の中で二体も存在しないはずだ。

 キングという名だけあって、王様は一人しかいない。


 じゃあ……奥にいるのは一体なに?


 慌てて探索魔法の画面を確認すると、すぐに違和感に気づく。


 ……あれ?いない。


 さっきまであれだけ早く点滅していたマークがない。


 疲れで見逃したのかと思ったけど、何回見ても同じだ。

 今、ゴブリンよりも早い点滅なのは、目の前にいるゴブリンキングだけだった。


 なにこれ、バグ?

 聖灯祭の時に魔法が出なかったみたいに、なにかおかしなことが起こった?


「ばか!パメラ!!そんなことしてる場合じゃないでしょうが!!!」

「パム!!」

「ぅわっ!!」


 アンちゃんの怒鳴り声が聞こえたと思ったら、ユアンに抱き上げられる。

 慌ててユアンの首に手を回して顔を上げると、ゴブリンキングの大きな足が見える。


 (うわぁ……すごい迫力)


 てそんな感動している場合じゃなかった。

 ダメだ。集中力が切れてる。


 あやうく踏み潰されるところだったし、気を引き締めないと。


 まぁ、障壁魔法(バリア)も強化魔法(ブースト)もあるから大丈夫なんだけど。


「ユアンありがとう。でも障壁魔法(バリア)使ってるから大丈夫だよ」


 笑ってユアンの腕から降りる。

 後ろを振り向くと、少し困った様子のユアンがいて首を傾げる。


「どうし……」

「あんたたちなにしてんのよ!!!それよりあいつの相手しなさい!!!」


 あ、こんなことしてる場合じゃなかった。


 アンちゃんが指を指した先にはゴブリンキングが佇んでいる。

 それに周りにはまだゴブリンだって——


「あれ?なんかおかしくない?」

「何がよ?」


 違和感を覚えて呟く。

 私の呟きはアンちゃんたちに届いたみたいだ。


「ゴブリンたちの様子だよ。見てよあれ」


 ゴブリンキングはどこか遠くを見て、ただ佇んでいる。まるで電池の切れたおもちゃみたいだ。


 ゴブリンだってそう。

 さっきまで武器を持って襲いかかってきていたのに全然戦意がない。

 武器を持ったまま、固まっている。


「そいつずっと様子が変だったぞ」


 ディランが帰って来たみたいだ。


 ユアンに「おかえり」と言われて、「ああ」と挨拶をかわしている。


 ……こんな状況で、ディランがこの会話をするってことは、本当にゴブリンキングはずっとこの調子だったんだろう。


 攻撃をしてこないゴブリンキングってなに?また変異?

ホーンラビットがエイリアンウサギになったように、こいつも実はゴブリンキングじゃないとか?


 今日は変な現象ばっかりだ。


 洞窟に来た時から今を思い出す。


 採取後ゴブリンを見つけて巣へ。

 巣に来たらお姉さんたちが檻にいて、救出。

 それから洞窟を出ることになって、ゴブリンと対峙。

 その途中に、ゴブリンキングが来て現在に至る。


 ……改めて考えてみれば、なんか色々とタイミングが良すぎる気がする。


 帰る直前にゴブリンと遭遇したのも、入り組んだ道が一本道になって安全になった瞬間。

 ゴブリンキングが今動かなくなったのも、ディランが来る直前。

 捕らえられたお姉さんたちが手を出されていなかったのも……全部ただの運?


 それとも何のためか分からないけど、誰かがわざと起こしてる?


 例えば魔物を操って、お姉さんたちを助けたかったとか?


 いや、それはない。

 それだったらゴブリンと戦闘なんてさせないし、魔物を操られるなら自分で助けられる。


 てなると、敵ってことになるんだけど。


 そんなことできる魔物なんていなかった。

 それとも目の前にいるゴブリンキングが考えて……いや、それもない。


 おもちゃの一つみたいに、今止まってるし、ゴブリンキングも操られてる側なんだろう。


「パムはどう思う?」


 ユアンに突然声を掛けられて肩が跳ねる。


「お前聞いてなかっただろ。こいつらどう思う」 

「わかるわけない。謎現象すぎるもん。なんなんだろうね?」


 ゴブリンキングを見上げる。

 こいつは本当に一体なんなんだろう。


「まぁ、でも——」


 一つ気になる事はある。


「なんでみんな奥の方を向いてるんだろうね?」


 ゴブリンもゴブリンキングも、みんな洞窟の奥を見ている。


「お前も気づいてたか」

「おかしいわよね?ゴブリンなんてあたしたちと戦ってたのに真反対に向いてるなんて」


 奥に何かあるのかも。あそこは唯一近寄ってない場所だ。


 とはいえここまで魔物が惹き付けられるものなんて私は知らないけど。


「なにかあるのかもしれない」

「私もそう考えてた」


 ユアンの言葉にアンちゃんたちも同じことを考えていたのか、頷いている。


 みんなの意見が一致した。

 それじゃあ、奥に行ってみる?と聞こうとした瞬間――視界の端でなにかが動くのが見えた。


 慌てて視線を向けるとゴブリンキングが動いている。

 動くたびに、また振動が体を揺らす。


「どうしたんだろう?」


 隣からユアンたちの驚く声が聞こえる。


 (やっぱり、ひと段落ついた時に動き出した?)


 様子を見ていると、少し進んだところでゴブリンキングが振り向く。


 まるで早く来いって言ってるみたいだ。


「呼ばれてるみたいだね?ユアンどうする?」


 リーダーのユアンを見る。

 ここはリーダー判断に任せよう。


 罠の可能性もあるし、謎が解けるかもしれない。


 私としては幸か不幸かわからないけど、行ってみる価値はあると思う。

 このままだとモヤモヤしたままだしね。


 みんなと目線を合わせてから、ユアンは頷く。


「行ってみよう」


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