66話「檻」
洞窟内を見渡すと、異質すぎる光景に思わずため息が出る。
まず目に入ったのは、階段だ。
誰が作ったのかわからないけど、二階へと続く階段が、何本か等間隔に作られている。
二階は柵で転落防止をされており、一階からでも檻が置かれているのが見える。
近くにあった檻に近づいて、手を伸ばす。
上から下まで柵を撫でると、ツルツルした感触と、ザラザラとした感触が手に伝わる。
うん、多分鉄だ。
こんなもの普通のゴブリンには作れるはずがない。
武器ですら、作れずに人の物を奪う盗人みたいな奴らだ。
鉄を持ってきて加工して……っていうのは無理がある。
ということはゴブリンが住み着くより前にあったのか……
それとも本当にゴブリンが作った?
エイリアンウサギみたいに変異して、頭のいいゴブリンがいる可能性もある。
(……てなると、もしかして入口を木と蔓で隠してたのもわざと?)
入る前にユアンたちが切ってもう見れないけど、入口を隠すように塞いでいた。
これを隠すための可能性も――
なんで?
ていうかそもそも、あの隠された入口をどうやってゴブリンたちが出入りしてたんだろう。
作るにしても、移動させるにしてもあの蔓たちをどうにかしなきゃ入れない。
それに隠す意味がわからない。
もしかして別ルートがあるとか……?
「これって……ゴブリンが集めたのかな?」
ユアンがキョロキョロと当たりを見回す。
「ちげえだろ。明らかに人が集めてるだろ。ゴブリンがどうやって集めるんだよ」
「こんな時に天然炸裂するんじゃないわよ」
「ごめん」
(そうなんだよね……)
集めるにしても普通のゴブリンはわざわざ檻なんて持ってこない。ていうか持ってこれない。
そこまで軽いものじゃない。
成長中のユアンたちの背丈よりも随分高い柵だってある。
それにゴブリンが集められるような量じゃない。
目の前に広がっているのは百以上の檻だ。
こんなそっくりな檻ばかり、ゴブリンがどうやって探し出したんだろう。
または作ったとして目的はなに?
一度にこんなにも人間を集める理由は?
そう考えると色々無理がある。
やっぱり、人が手を加えた洞窟ってとこかな。
元々なにかの研究所とか?それとも奴隷……
(あーやめやめ)
嫌な考えが浮かんできて頭を振る。
こんなの考えても分からない。
前世と違って魔法ありきで、前世の常識なんてない。
なにか突拍子もないことが起きてるかもしれない。
それより今は、捕まっている人たちを見つけて、回復魔法をかける仕事を優先しなくちゃいけない。
はぁ、なんで初依頼なのにこんな厄介なことばっかり起こるんだろうね……
神様……私なにかした?
「パム、行こう。案内してくれ」
「うん」
立ち上がり、捕まっている人たちの所へと向かう。
何個目かの空っぽの檻を通り過ぎて、目的地へと向かうと女の子たちが見えた。
捕まっている人たちは、みんな憔悴しきった顔で、端に寄って縮こまっている。
みんな10代か20代くらいだろうか?
今の私よりも年上の人が多いみたいだ。
服は破れてもいないし、きっちり着ている。
傷はあるけど、抵抗した傷だろうか?
擦り傷が多く見られて、転けたのかもしれない。
ゴブリンに手を出されていないみたいで良かった。
「大丈夫ですか!?」
「誰……?誰でもいいから助けて……」
ユアンの声に反応して、縮こまっていたお姉さんが顔を上げる。
「今、出します!下がっててください!」
お姉さんが後ろに下がったのを確認したユアンが剣を抜く。
一振りしたかと思うと、檻が真っ二つに切れた。
(わぁ……鉄なのに切れるんだ……)
漫画しか見たことない光景に、興奮する。
こんな光景を見れるとは思わなかった。
魔法にしても、剣にしても異次元すぎていちいち反応してしまう。
「パム、お願いしていい?」
「あ、うん」
危ない。本来の仕事を忘れていた。
急いでお姉さんに近づいていき、回復魔法をかける。
「治しますよー。回復魔法。痛いところありますー?」
「い、いえ。体が軽くなりました……擦りむいた所も治ってる……」
痛々しい擦り傷があった場所が、元通り綺麗な身体に戻っていた。
「もしかして、聖女様ですか?」
「……いいえ!ただの冒険者です」
また聖女さまだ……。
くそっ……聖女って呼ばれるだろうなとは思ってたけど、本当に嫌すぎる。
「パメラ、こっちも回復魔法頼む」
いつの間にか他の人の救出に向かっていたディランから声がかかる。
「はいはい、治しますよー。回復魔法」
次から次に救出していく。最終的に、救出人数は二十人ほどになってしまった。
私が回復を、ユアンたちが檻を切っている間、アンちゃんにマジックバッグを渡して、簡易的な食事を配ってもらう。
何日も捕まっていて、食事を取っていない人がいるみたいだ。
これから入口まで頑張らないといけないのに、それはまずい。
いくら回復魔法でも、空腹を満たすことはできない。
とはいえ、これだけの大人数分の食料も持っていない。
だから期間が長い人を中心に多めに取ってもらった。
短い人たちには半分くらいの量だけど、なんとか配れたので、これで頑張って欲しい。
こういうときのために、簡易的なパンとスープを多めに入れて来ておいてよかった。
まぁ、全然足りなかったんだけど。
「みなさん大丈夫ですか?」
「はい!!」
お腹も少し満たされたお姉さんたちが元気よく返事をする。
「出るぞ。俺は後ろを守る。あいつについていけ」
「はい!」
ユアンとアンちゃんを先頭にして、真ん中にお姉さんたち、後ろにディラン。
この隊列で進んでいくらしい。
一人で心配だからディランについて行こうと、出ていくお姉さんたちを眺める。
なんか……みんなユアンとディランを見る目が、ハートになっている気がする。
まぁ……無理もないか。
もうダメだと思ったときに、こんなイケメンに助けられるなんて惚れるに決まってる。
少女漫画的展開でおもしろ……いや、この状況で面白いとか言ったらダメなんだろうけど……
でもやっぱり面白い。こういうのを待ってた。
「おい、なにやってんだ。いくぞ」
「はーい!」
ダメだ。考え事してる場合じゃなかった。
ゴブリンたちが来るかもしれないし、そろそろ気を引き締めないと。
さっき来た道をまた走る。
後ろから声を張り上げて、ユアンたちに道を指示する。
とはいえ、お姉さんたちは体力がなくなっているのか休憩しながらじゃないと進めない。
それでも少しずつゆっくりと歩みを進めていると——
(やっぱり来た……どうせ来ると思ったよ)
異変を感じ取ったのは、洞窟を出られる一本道が見え始めたときだった。
探索魔法で洞窟の奥から赤いマークが大量に、こっちに向かって来ているのが見える。
それを確認した後、大声を張り上げる。
「みんな警戒して!!!ゴブリンの大群がくる!!!」




