64話「ゴブリンとお散歩」
ゴブリンに囲まれながら、森の中を歩く。
捕まった女の子たちは、疲労が蓄積されているのか、足元は覚束ない。
表情は暗く、怯えており、みんな絶望した顔をしている。
そんな女の子たちを見てゴブリンは満足そうに、槍を持ち上げて喜んでいた。
その一方で私は――
「ちょっと!!痛い!!!痛いってば!!!」
ゴブリンに虐められていた。
私の余裕そうな表情が気に入らないのか、さっきから足を突つかれている。
我慢できずにゴブリンを怒鳴りつけるが――
「ギッギッギッ」
返ってきた言葉は、面白がっているような笑い声だった。
ゴブリンは尖った歯を見せて、鼻をくしゃりとたるませ、笑っている姿は凶悪面だ。
これを見ただけでも恐怖に陥る人がいるのもわかる。
(やっぱこいつら気に食わない)
睨みつけると、それすらも面白いのかゴブリンたちはまた笑いだした。
障壁魔法のおかげで痛くはないけど、嫌がるふりをする私を見て喜んでいるゴブリンを見ていると、嫌悪感が倍増する。
何が面白いのかわからない。普通にこいつら気持ちが悪い。
だからゴブリンは嫌いだ。
今、接してみてさらに嫌いになった。
それにこの性格だけじゃない。
臭いし臭いし臭い。
鼻がひん曲がりそうな程の悪臭に鼻を摘む。
「本当に臭すぎる!!!!鼻もげる!!もう限界!!!
清掃魔法、清掃魔法、清掃魔法」
何回も何回もゴブリンに清掃魔法をかける。
ゴブリンの臭いは、色々嫌な匂いが混ざっている。
生ゴミや、風呂キャンした匂い、それに血の匂いとか。
嫌な臭いが混ざっているからか、余計にきつい。
この臭さは数回かけたくらいでは取れない気がする。
清掃魔法をかけてもまだ臭う。
それでも根気よく清掃魔法をかけていると、ちょっと匂いがましになった気がしてきた。
いや、鼻が壊れたのかもしれない。
消えてるのかもしれないけど、臭いがなんか鼻に残ってる気がする。
「ねぇ、ちゃんとお風呂入ってる?魔物だからって、風呂キャンやめてよ。
人に会うならお風呂に入って!!!聞いてんの!?ちょ!!槍やめて!!バカ!」
文句を言うと、また槍で突かれる。
ダメだこいつら。やっぱり魔物って人の言葉話せないんだ。
人型だからワンチャン話せると思ったんだけど……
ため息を吐きながら周りを見渡すと、私と同じく捕まった女の子たちと目が合う。
「……」
「……」
完全に頭のおかしいやつが来たって顔されてる……。
いつの間にか困惑した表情で女の子たちから見られていた。
ちょっとゴブリンと喧嘩しすぎたかもしれない。
でもあまりにも臭くて我慢できなかったんだもん……。
「大丈夫?えーと、なんていう名前?」
気を取り直して一番近くにいた、茶髪の女の子に話しかける。
「へ……いや、あの……きゃっ!!」
話しかけた女の子にも、ゴブリンは槍を突きつけた。
それに気づいた女の子から悲鳴が上がる。
「障壁魔法」
怪我をする前に、小声で障壁魔法をかける。
いちいちかけるのは面倒臭いから、ついでにこの場にいる女の子全員にかけてしまおう。
「え……?」
刺されたはずの足が、いつまでも痛まないことに気づいた女の子が、唖然とした声を漏らす
「回復魔法」
ついでに辛そうなみんなの体力を回復してあげよう。まだまだ歩きそうだし。
「しー、秘密ね」
口に人差し指を持っていく。
「突かれても、みんな痛がるフリして。
こいつら馬鹿だから、怪我してないのに気づいてないんだよ」
さっき散々突かれた足を見せると、私に傷ひとつないのに気づいたみたいだ。
みんな一気にホッとしたような顔をしている。
「あ、あの……!!回復魔法を使えるってことは聖女様ですか……!?」
「いや?聖女さまじゃないよ。ただの冒険者。捕まってるの見て助けに来ちゃった」
かっこつけようとウインクをすると、みんな泣き出してしまった。
「みんな巣まで我慢できる?
仲間もいるから見つけたらすぐに倒そうと思うんだけど……
もうちょっと協力してくれないかな?」
なるべく優しい声色で話しかける。
「は、はい!ぐすん……あ、ありがとう……うう……」
「あ、ありがとうございますっ!お手伝いで街の外に出ただけなのに、こうなって……わ、私もうダメだってずっと思って……」
怖い思いをしただろうに強い子たちだ。
まだみんな10代くらいの、若い子たちばかりなのに……
目の前で怖がっている女の子の手を握る。
私の手が足りなくて申し訳ない。
女の子たちを見て決意した。
やっぱりゴブリ……害悪な魔物たちは滅多殺しにしよう。うんそうしよう。
私は手出せないんだけど……いや、こっそり攻撃魔法使っちゃだめかな……?
頭の中で、メリットデメリットを計算する――
けど、すぐに諦めた。
やめとこう……
今日だけでもう2回もやらかしてるのに、また追加で怒られる。
◇◇◇
「ここが巣かぁ……」
目の前に広がる洞窟を見上げる。
この洞窟は崖の下が削られてできた場所みたいだ。
見上げると、そう高くない場所に木が生えているのが見える。
おまけに入口は、自然に絡まったのか蔓や、木で隠されている。
普通に見た時には気づかない場所だ。
ヘレナ姉さんの言う通り、泳がせて良かった。
洞窟の中を観察する。
灯りもなく、奥は暗くて見えない。
「わー!!!」
入口から声を出すと、しばらくしてから「わー!」と声が返ってきた。
結構大きい洞窟みたいだ。私が叫んでも魔物が出てこなかった。
ということは結構な数の魔物がいる可能性がある。
探索魔法で見てみよう。
(は?なにこれ……)
夢かと思って、目を擦る。
でもいくら見ても、同じ結果で諦めがついた。
これはやばい。
赤い点滅はゆっくりなものの、マークは数え切れないほど重なり合って、数さえ確認できない。
いや、時々点滅が早いやつもいるみたいだ。重なり合った影からちょっと見える。
それに中には人がいるのか青いマークがある。
「……ほんとイラつくな」
どういう目に遭っているか想像すると、後ろで呑気に「ギギギッ」と笑っているゴブリンに本気で殺意が湧いてきた。
ゴブリンたちは中に入るためなのか、松明を作っている。
どうするべきだろう……みんな早く来て欲しい。私、手出ちゃいそう。
ガザガザ——。
「ん?」
草むらが揺れる音がして、視線を向ける。
もう居場所がわかったからか、みんなが飛び出してくるのが見える。
その中でも、一番身軽で前線のディランがこっちに突っ込んで来る。
(あ、終わった……すごい怒ってる……)
目と眉を吊り上げて、表情が怖い。
目だって笑ってない。目だけ射殺されそうだ。
「お前覚悟しろよ」
「あ……あはは……は……」
近づいてきて早々、物騒なセリフに思わず視線を逸らす。
「ひゃっ……!」
でも視線を逸らした先にも、怖い顔があり、思わず後退りする。
さらにまた視線を逸らすと怖い顔が――
あ、私どこも向けないや。
みんなの視線がゴブリンに向けるものよりも冷たい……。
金属と金属がぶつかる音がする。
みんながゴブリンと戦闘する中、私は女の子たちを、戦闘の邪魔にならないように急いでまとめる。
「パム!なんでゴブリンの群れに突っ込むんだ!!危ないだろう!!」
「ごめん!!だって!!泣いてる女の子たちがちょっとは元気出るかなって!!!障壁魔法」
障壁魔法を使いながら援護をする。
その間にも、みんなの苦情が止まらない。
「あんた本当に許さない!!!どれだけ心配したと思ってるの!?」
「ごめん!!!!だって女ならすぐに殺されないし、私は障壁魔法得意だから、この子たち守れると思ったんだもん!!!!」
現に守れた。
それに、泣いてる女の子たちを見て、助けにきてよかったと思ってる。
心配させたけど後悔はしてない。
でもアンちゃんたちの気持ちもわかる。
だからひたすら謝らせてください!!!
「だからって普通突っ込むやつがいるか!!!!お前いい加減にしろよ!!!」
「ごめん!!だって身体動いちゃったんだもん!それより、口動かさないで体動かして!!」
早く倒せと指示を出すと、みんなの目がまた怖い。
私が誤魔化していると思ってるみたいだ。
慌てて、手を横に振る。
「違う違う!!!中にうじゃうじゃいるんだって!!それに人もいる!!
障壁魔法。ユアン、アンちゃん後ろ気をつけて!」
人がいると言う言葉に反応して、手が止まったユアンとアンちゃんに注意をする。
切られるところだったよ。全く。
「そうよ。心配なら後でなさい!ラナ!援護をお願い!!!」
「うん!!!」




