63話「薬草採取」
「それじゃあよく見てちょうだい。薬草はこの葉っぱよ。丸みを帯びていて……」
あれから私たちは場所を移動した。
木が少なく、魔物が来たらすぐ分かる少し開けている場所で、今はヘレナ姉さんの薬草講座を受けているところだ。
「こっちは毒草よ。この葉っぱはギザギザして……」
魔物に気をつけながら、ヘレナ姉さんの話を聞く。
(なるほど)
今は、ランクが離れている者同士がパーティーを組む場合は、下の者に合わせて降格する。
そういうルールがあるから降格しているけど、ヘレナ姉さんはラナちゃんと組む前は、Cランク冒険者だったらしい。
だから説明に慣れているのか凄くわかりやすい。
薬草を採る時はいくつか注意点があるらしい。
大きく分けて形、色、葉の数。
それらを間違えると厄介なことに、毒草の可能性大だ。
毎年、間違える新人がいるらしい。
薬草は、丸くて、色が少し緑で薄く、葉っぱは7つ。
毒草は、ギザギザしていて、色が薬草より濃く、葉っぱが7つ。
の違いらしい。
間違えないように、天使と悪魔と覚えておこう。
丸は天使の輪っかで、ギザギザは悪魔の尻尾。色も白と黒だから薄さがピッタリだ。
あと、薬草はポーション。毒草は解毒ポーションに使う材料みたいだ。
ヘレナ姉さんの話を聞きながら、周りを見渡す。
薬草が至る所に大量に生えている。
どうりで薬草依頼が安いはずだ。
薬草500個納品で鉄貨5枚。
前世で言うと500円。
簡単な採取で文句を言うなと言われそうだけど、しっかり根から掘らないといけないし、毒草も避けないといけない。
ここから見えるだけでも、薬草の中にところどころギザギザの毒草が混じっているのが見える。
これは適当に取ったら危ないから気をつけないといけないやつだ。
……すっごいめんどくさい。
ヘレナ姉さんの説明が終わり、みんなで魔物に気をつけながら薬草を黙々と取っていく。
「はぁ……こ、腰がきついわね……」
「わかる。疲れたし飽きた……」
アンちゃんに同意する。数分経っただけなのにもう嫌だ。
限界が来てアンちゃんと一緒に地面に座り込む。
延々と続く草むしりに飽きがきた。
この作業は向き不向きがある。
私はどちらかというと嫌いだ。
バザール思い出す。
出来なくはないけど、飽きが辛い。
大きくため息を吐いて、ユアン達を見る。
私たちと比べて、ユアンとディランは真面目に手を動かしている。
ラナちゃんはユアンと一緒にいられて嬉しいみたいで、全然飽きてなさそう。
「二人とも根性がないわ。さっさと取りなさい」
「はーい!ヘレナ姉さん」
美人にこう言われてしまえば、働かないわけにはいかない。
重い腰を起こして、草むしりを再開する。
「アンゼリカ、あなたも早く取りなさい」
「……わかってるわよ!うるさいババアね」
嫌々薬草取りを始めて、やる気のないアンちゃんにヘレナ姉さんはため息を吐く。
腕を組んで、頬に手を当てて、作法がなんか色っぽい。
ああ、そうすれば色っぽく見えるのか。勉強になります。
「あら、パムちゃんより根性なしなのかしら?手が全然動いてないわね?何故かしら?」
「くっ……取ればいいんでしょ取れば!!!!」
ヘレナ姉さんにお尻を叩かれて、腹立たしそうに手を動かす。
負けず嫌いなところをうまく動かされていて、アンちゃんの完敗だ。
やっぱりヘレナ姉さんは年のこ……頭がキレるみたいだ。
◇◇◇
「終わったー!!!!」
やっと目標の数になってアンちゃんと手を取ってはしゃぐ。
これだけ頑張ったのに鉄貨5枚だ。
なんて大変な仕事なんだろう。
途中、同じ場所で薬草をとるのはよくないと言われ、移動したのが良かった。
これがなかったら多分、飽きで死んでた。
「できればもうやりたくないけど、明日もあるんだよね……」
「嫌なこと言うんじゃないわよ」
アンちゃんが杖をついて項垂れる。
あれだけ嫌がっていたのに、なりふり構ってはいられないみたいだ。
もうすっかり使いこなしている。
「なんで杖持ってるのかと思ってたら……。
アンゼリカ……あんたそんな体力で冒険者としてやっていけるの?」
「これでも体力は増えたのよ!!!」
そうだそうだ!!!約1年前のアンちゃんは体力がないし、運動音痴だし、魔力量もないし、魔力コントロールも下手くそだし大変だったんだよ!!!
なんて言おうものなら、多分殺されるから黙っておこう。
「ユアン!疲れてない?はい、お水!飲んで!」
「ありがとう。
でも、ラナちゃんの方が疲れてそうだよ。
これ、ちゃんと飲んで水分補給してね」
……遠回しに断って返してる。
それはわかってて返してるの?成長し……
「パム、マジックバッグからコップと水を出してくれないか?」
いいけど……何するつもりなんだろう?
首を傾げると、意図がわかったのかユアンが笑って答える。
「みんな疲れてるから、暖かい水を配ろうと思って。運動後だから、ちゃんと水分補給しないと」
水筒に入った暖かい水を受け取ったユアンは、コップにそれを入れてアンちゃん達に手渡す。
あの温水は今日は寒いからって、朝にユアンがわざわざ入れたものだ。
魔法で作った水も飲めるけど、冷たいからって。
こんな所でも世話焼きが発生している。
自分も疲れているはずなのに。
ていうか成長じゃなかった。ただの天然だった。
きっとどれだけ手練れが口説き落とそうとしても、ユアンを落とすのは至難の業だ。やっぱ罪な男だ……。
「パムも飲んで」
「飲むけど、ちゃんとユアンが飲んだらね。ずっと真剣に仕事してたんだから真っ先に飲んでよ」
渡された水を突き返すと、ユアンの目が見開かれる。
「ふふっ……わかった。一緒に飲もう」
「ありが……ん?」
別のコップに入れられた水を受け取ろうと手を伸ばす――
が、視界の端で何個も赤い点滅が光っているのに気づき、手を止めた。
「んん?」
「パム?どうかした?」
「なにかあったのか」
私の異変を感じ取ったのか、ディランが近寄ってくる。
大事な時に魔法が使えなかったこともあるし、初心者のうちから頼りきりもよくないと思ってた。
魔法を使わず自分で掃除をできるようにって言う院長の、教育のせいかもしれないけど。
だからこっそり使って、たまーに危険がないかを地図魔法と探索魔法を使って見ていた。
探索魔法だって改良して、人や、道筋だけでなく、魔物も表示されるようにした。
人は青、魔物は赤だ。
どの魔物かの表示まではしてくれないみたいだったから、点滅が早ければ早いほど、危険な敵になるように改良をしたんだけど……
今までで1番点滅が早い魔物がどんどんこっちに来ている。
それも20体くらい連なって。
「みんな魔物が来る。警戒して」
ユアンたちが戦闘体制に入る。
私の急な指示にも慣れたのか、素直に従ってくれて助かる。
「パメラちゃん?何も来ていないわよ?」
「もうすぐ来る。20体くらい」
ヘレナ姉さんたちは、疑問に思ったのか武器を持ちながらも不思議そうな顔をしている。
「まぁ、さっきサポートって言っていたし探索の魔法も使えるのかしら?」
「うん。まだ時間あるけど姉さん準備して。群れるってことはゴブリンかもしれない」
ホーンラビットやスライム。
イーストの森には、群れない弱い魔物が多い。
群れるとすればウルフかゴブリンのどちらかだ。
でもこの点滅の仕方的に、この森で上級のゴブリンだとは思う。
さっきのウルフよりも点滅が早い。
「ゴブリンかよ」
「勘だからまだわかんないけど、多分ね」
ディランが嫌がる気持ちも分かる。
この世界のゴブリンは、男は遊んで殺して、女は繁殖の道具。
決して可愛いタイプのゴブリンじゃない。
私もすごい嫌いな魔物だ。胸糞悪い。
しばらくすると、遠くの方で緑の魔物が見えた。
やっぱりゴブリンだ。こっちにはまだ気づいていないみたいだ。
あまり見る機会はなかったけど、今見ても気持ち悪いし臭そうだ。
ボロボロの布を体に巻いて、人間たちから奪ったのか、これまたボロボロの武器を持って歩いている。
お風呂も入ってないだろうし、できれば近寄りたくない。
なんかここまで臭いが漂ってきている気がする。
(ん?あれって人?)
ゴブリン達の間に、なにか背の高い人影が見える。
「女の子いない?」
ゴブリンに囲まれて、泣きながら歩いている女の子が数人いる。
さっきは青いマークがなかったのに……
慌てて確認すると、赤いマークの間にちらっと青いマークが出現している。
(敵の数が多いから隠れてた?)
「ああ、捕まったんだろうな」
「助けないと…!!」
ユアンが駆けつけようと、走り出すが――
「ダメよ、ユアンくん。一旦隠れるわよ。あれだけいるならゴブリンの巣がある可能性があるわ。
あの子たちには悪いけれど、今は我慢をしてちょうだい。もっと被害が出る可能性があるわ」
「はい……」
ヘレナ姉さんに、止められた。
ユアンには泣いている子を助けられないのは辛いと思う。
私も辛いし、みんなも辛いけど――人一倍正義感があるから。
そうこうしているうちに、ヘレナ姉さんとラナちゃんたちが早急に移動していく。
「……っ」
拳を握りしめているユアンを見守る。
ユアンはこういう時に判断が弱い。
わかっているけどどうしたらいいのかわからなくなるみたいだ。
人好きのする性格だけじゃなく、これも治るかなって思ってリーダーを任せたんだけど……重荷のようならまた考えよう。
「今は我慢しろ。お前リーダーだろ。迷うな」
「……うん」
ディランの言葉にハッとしたような顔をして拳をまた握りしめた。
女の子たちがいる方向を一目見て、移動しようとするユアンに声をかける。
「ユアン」
「パム?」
「場所を見つけたら、すぐに助けてあげよう」
「うん」
声をかけたが、さっきよりも力強い言葉に、心配する必要なかったかもと思い直した。
……それなら私は私のできることをしよう。
握りしめて少し真っ赤になっているユアンの手を両手で握る。
「ユアン、私のこと信じてくれる?」
「うん。パムの事はいつでも信じてるよ」
吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳と視線が合う。嘘ひとつ無さそうだ。
ユアンの態度に満足して微笑む。
そして口を開いた――
「じゃあこれからすることも怒らないでね」
「え?パム何するつも……わっ」
ユアンをみんなが隠れている草むらに急いで隠す。
私の行動が理解できないのか、はたまた戸惑っているのか。
唖然としているみんなを無視して、立ち上がる。
「よし、じゃあ行ってくる!そっちはよろしくね!!!」
止められる間に草むらから抜け出そう。
急いで抜け出すと、状況を理解できたのか後ろから声がかかった。
「あんた行くってどこによ!?ちょっと待ちなさい!!」
「パム!?ダメだ!!」
「お前、まさかゴブリンに……!」
ユアンたちから次々と声が上がる。
みんなの予想は合っている。
さすがは私の幼なじみ兼家族。
大きく息を吸い込んで吐き、
「おーい!!ゴブリーン!!!!ここに可愛い可愛い女の子がいるよー!!!!!」
ゴブリンに向かって走っていく。
後ろから「大人しくしろっつっただろ!!!」と怒鳴る声が聞こえたのを最後に、私はゴブリンに捕まった。




