62話「無能なパメラ」
ヘレナ姉さんの声に反応して周りを見渡すと、確かにウルフが10体くらいいる。
いつの間にか囲まれていたみたいだ。
「アン!パム!後ろで魔法の援護を!ディランはそっちを頼む!」
「ああ」
ユアンの初指示だ。なんか感動する。
「おい、早く移動しろ。何やってんだ」
「はーい」
感動している場合じゃなかった。
前線で戦う3人が輪になっている真ん中に移動しようと歩き出す。
「……大人しくしてろよ。ウルフだからお前は手出すな」
ディランに後ろからしっかり釘を刺される。
そんなに心配しなくても、みんなに囲まれてる状態で暴走なんてできない。
小さく頷くと、心配そうな顔をしてディランは配置についた。
さて、私は何をしよう。
誰かのサポートをしようと周りを見渡すが――みんな楽々とウルフを倒していた。
(あ、どうしよう。もしかしてやることない?)
今、障壁魔法を使っても意味ないし、ほかの魔法もむしろ邪魔になる気がする……
仕方ない。警戒しつつみんなのことを観察していよう。
早速見渡すと、真っ先にヘレナ姉さんとラナちゃんに目がいく。
(見た目のギャップがすごい)
ヘレナ姉さんは斧を持っていて、ラナちゃんは弓使いみたいだ。
正直反対のイメージだった。
でも、美人の斧使いと、元気で可愛い弓使いは、男人気の高いパーティーになりそうだ。
(わっ!すごい!!)
動きが遅くなりがちな斧だけど、ウルフの素早い動きにもついていけてる。
(ヘレナ姉さんかっこいいー!!!)
動きが遅くなるといえばユアンもなんだけど――
あれって大剣でいいんだよね?
剣みたいに楽々と振り回している。見たことない大剣裁きだ。
大剣ってもっとこう、重い剣に引っ張られて、ドーンって衝撃が来るような戦い方だと思ってたんだけど……重力とかどうなった?
ユアンとは反対に、ディランは見事な剣さばきを披露している。
太刀筋が綺麗すぎる。素人目でもわかるくらいだ。
アンちゃんも、魔法の成果が出ているみたいで、次々ウルフを倒している。
魔法を打てる回数も上がってきてるし、頼もしい。
(……うん、どうしよう。みんなが優秀すぎて本当にやることない!!)
ウルフだって魔物化したとはいえ、噛み付いてくるただの狼だ。
群れるだけの可愛いワンちゃん。
(でも……なんか多くない?)
10体どころか、次々と茂みに隠れていたウルフが飛び出してきている。
(……あのウルフ一体くらい飼えないかな?)
ウルフを見ていると、前世で動物を飼いたかったのを思い出す。
忙しくて飼えなかったから、飼ってみたい。
いいなぁ……。
あのもふもふ可愛い。牙が立派だね〜。
ガルガルしてても可愛い。
(ん?)
ウルフに癒されていると、すごく重大なことに気づいた。
あれ?これってイーストの森にいたら、私すごく楽できるんじゃないの?
ラナちゃんと私たちは同じFランクだ。
ヘレナ姉さんは、アンちゃんと顔を合わせれば喧嘩をしているけど、私たちを心配してくれてる。
なんやかんやで面倒見がいいヘレナ姉さんは、これからも私たちを見守ってくれそうだ。
それに私は、師匠に散々「人前で攻撃魔法と珍しい魔法はあまり使うな」と釘を刺された。
てことはサポートと回復係になるけど、みんなの様子を見るに、私は使う必要がほとんどない――
(つかの間の休息だ〜〜!!!)
最近忙しかったから、休みが心に染みる。いつの間にか社畜道に戻ってるんだもん。
嬉しい!また過労死するかと思ってたよ!
みんなの邪魔にならないようにこっそり喜んでいると――
視界の端で何かが動いた気がした。
「ホーンラビット?」
振り向くと、小さいからみんな見逃したのか、近くまでホーンラビットが来ていた。
――そして私は魔が差した。
みんなまだ戦闘をしているからいいかな?いいよね?
ウルフを見ていたら動物に触りたくなった。
ホーンラビットが嫌がるなら即やめるけど、挑戦したっていいじゃんと思い、しゃがんで手を伸ばす。
が、すぐにおかしいことに気づいて手を止めた。
「あれ?お前ツノない?どこい……」
威嚇で、おしりを上げて今にも飛び出してきそうだったホーンラビットは口を大きく開けた。
口を大きく開けたんだけど……明らかにおかしい。
口がいくつにも裂けていき、大きく開いていく。
そのままゆっくりと胴体まで裂けていき、おまけに一つ一つが個々に動いている。
「ええ…き、気持ち悪い……」
あれ?この裂け方なんかエイリアンみたいじゃない?それにさっきよりなんか大きくなってる?
ど、どうしたのこの子!?
何がどうしてこうなった!?私何もしてないよ!?
みんなに知らせたいけど、今、戦闘中のみんなに知らせたら絶対助けに来る。
それは怪我をさせるからダメだ。
かと言って私が動いたら、こいつの口の中に吸い込まれる気がする。
ああ、どうしよう……
迷ってる間にも、どんどん裂けていく口に戸惑っていると——
「ディラン!!」
ユアンの声が聞こえ、
「ぐえっ……」
急に首元を引っ張られて首が締まる。
引っ張られながら、ユアンの手によって無残な姿になったエイリアンうさぎの最後を見届ける。
すごい。ユアン立派になった。
あんな気持ち悪いものに果敢に挑んでる。
と思うと同時に、小さい魔物に大剣だからオーバーキルに見え……
「っ!!」
後ろで殺気がして振り向く。すぐに後悔した。
「お前……」
「あんた……」
鬼のような顔をしたディランとアンちゃんがいた。
どうやら服を引っ張ってくれたのはディランみたいだ。
「何してんだ!」
「何してんのよ!」
ディランには目だけで刺し殺せそうな目線を向けられ、アンちゃんからはゲンコツが飛んできた。
「痛い!」
「痛くもないくせに痛がるフリするんじゃないわよ!!」
障壁魔法をまた改良して、敵意のない人には触れられるようにしたのが仇となった。
(……これは敵意に入らないの?)
本当にこの世界の魔法が分からない。
◇◇◇
「この魔物は何かしら?誰か見たことがある?」
みんなで首を振る。
誰も知らないみたいだ。
みんな気持ち悪い見た目のエイリアンウサギを、嫌そうな顔で見ている。
「口を開く瞬間しか見ていないんだけれど。パムちゃん、その前の様子はどうだったの?」
「んー、ウサギ」
あの時、初めはホーンラビットかと思った。
ホーンラビットは角が生えているだけのうさぎだ。
でもこいつはその角がないから、ただのうさぎそのものだった。
前世で見たこともあるし、間違えようがない。
「あんたもっと真剣に答えなさいよ」
「答えてるよ」
「パム、うさぎって伝説の生き物の?」
「そう。こいつ見たらわかると思うけど、角がないんだよ」
みんなに元の姿を見せようと、エイリアンみたいな気持ち悪い口を閉じていく。
ユアンが切ったから、手に血が付く。
……色々と感触が気持ち悪い。
「あんたよく触れるわね……」
「むしろ早く閉じたいよ。閉じたらこの可愛い顔が拝めるんだから」
「俺も手伝うよ」
ユアンもエイリアンウサギの口を閉じていく。
すごい。平気な顔して触ってる。
ほかのみんなはめちゃくちゃドン引きしてるのに。
正直私も触りたくないよ。
もう触りたくないから、閉じ切る前に最後の口を持って観察する。
歯が数え切れないくらいある。ヨダレも凄い。
今更だけど、これ怪我する液体とかじゃないよね?
ユアンを見ると、平気そうな顔をしていたので大丈夫かとほっと胸を撫で下ろす。
でも一応、後で回復魔法をかけておこう。
「パムちゃんのいう通り、本当にただのうさぎみたいだわ……」
「変異種か」
変異種?変異種と言えば、ゴブリンだ。
ゴブリン・ホブゴブリン……あれ?ボブだっけ?
まぁいいや。なんちゃらゴブリンって進化系みたいな感じのやつ。
「とりあえず、これはギルドに持ち帰って師匠に聞いてみよう。ヘレナさんたちもそれでいいですか?」
「ええ、いいわよ。考えても魔物博士でもないんだからわからないもの」
リーダー会議だ!ユアンかっこいい!
ちゃんと前に立ってまとめようとしてくれてる!
感動して後ろで拍手していたら、照れくさそうにユアンが頭を掻いてる。
「ヘレナ!でもこれどうやって持ち帰るの!?ラナはこいつ持つの嫌だよ!?」
「そうね……どうしましょうか?一度戻るしかないかしら?」
戻るのは嫌だな。めんどくさい。
1番体力のないアンちゃんも嫌そうな顔をしている。
……そんな時はあのアイテムが役に立つ。
「それならこっちに任せてください。パムお願いしていい?」
「おっけー!!」
エイリアンうさぎに近寄って、腰につけていたカバンを開く。
かばんに魔力を流したら、エイリアンうさぎが吸い込まれて行った。
「あら、パムちゃんはマジックバッグを持っているのね」
「うちの院長からもらった。色々なところに飛び回る聖女だったから、移動用に買ったらしいよ」
院長から、冒険者当日にこれを使いなさいって渡された。
収納魔法もダメらしい……
「それにサポートと回復しかできない雑用係だからさ、私!」
よし、これで師匠との約束も大丈夫だろう。
絶対守れルールその1「無能なフリをする」は十分だろう。
まぁ、さっきのエイリアンウサギの件で無能さは発揮できたと思うけど。
師匠が言うには「ただでさえお前は異質すぎて目立つから、今はユアンたちを前に出して隠れ蓑に使え」との命令だ。
おまけに「お前は他人に無能だと言われても、嫌な顔されても気にしねえだろ。てか燃える性質だろ」と言われた。
全くもってその通り。
少しの時間でよく人を見ている。あのゴリラ。
「あら、回復できるだけですごいわよ。
冒険者で使える人に私は初めて会ったわ」
まぁほとんど聖女様になっちゃうからね。
給料もいいし、基本危なくないし。
「あたしにも何かあったらお願いね。パムちゃん」
「もちろん!!
ヘレナ姉さんのためなら火の中、水の中……はみんなが怒りそうだから無理だけど助けます!!」
後ろからまた殺気を感じて、慌てて軌道修正をする。
危険なことするなって事ね。了解しました。
「ふふっ、心強いわ。じゃあ気を取り直して薬草採取をしましょうか」
「い、いえーい!!!」
誤魔化すように声を張り上げると、後ろからみんなのため息が聞こえてきた。




