61話「初めての冒険者依頼」
早朝7時。
初めて冒険者として依頼を受けるために冒険者ギルドにやってきた。
「ねえ、ユアン。あんたは何がいいと思う?」
「うーん、初めてだから薬草採取とかどうかな?」
Fランクの依頼書から少し離れた場所で、アンちゃんとユアンが相談している。
二人とも頼りになるなぁ。
ぼんやりと2人を眺めていると——
「あんた、一回降りなさい」
ユアンにおんぶされて、無防備なお尻をアンちゃんに叩かれる。
「それ、訓練の時のやりかえし……?」
「そうよ。屈辱的でしょ」
「いや……何にも思わない」
それより今は頭がガンガンして、吐き気がする。
「パム、一回降りられる?
あの中に行かなきゃいけないんだ」
ユアンが片手で示す方向を見ると、うじゃうじゃと人がひしめき合っている。
それに我先にと押し合いをして地味な攻防をしているみたいだ。
セール品を奪い合うおばちゃんたちみたい……うん、絶対無理だ。
「……いってらっしゃい」
大人しくユアンの背中から降りる。
(あー気分悪い。朝、早すぎるよ……)
支えが欲しくて、近くにいるアンちゃんにもたれかかる。
「ちょ、あんた重いわよ!!」
フラついているけど、何とか受け止めてくれたみたいだ。
「私が重いんじゃなくて、アンちゃんがひ弱なの」
「あんたこんな時でも減らず口叩くのね……一人で置いてくわよ」
それは困る。
置いて行かれないように、がっちりアンちゃんにしがみつこうとすると、後ろから伸びてきた手に腕を掴まれて支えられた。
「あ、ディランじゃないの。この子お願い」
「ぐえ……」
方向転換されてディランに押し付けられる。
勢いがすごくておでこをぶつける。
荷物じゃないんだからもうちょい優しくして……。
「……どうしたんだこいつ。顔色悪いな」
「朝は体調悪いみたいなのよ」
「お前、前はここまでじゃなかっただろ。なんかあったのか」
そういえば苦手なのは苦手だったけど、前世を思い出す前まではここまでじゃなかった気がする。
(え、これって思い込み?ダメって思ってるからダメなの?)
「……あるっちゃある?でも関係あるのかわかんない」
「何よそれ。はっきりしないわね」
別にアンちゃんたちなら言ってもいいんだけど、流石に冒険者がいっぱいの中では言えない。
噂になったら嫌だし。
「おい」
「ん?」
「回復魔法か何かで治せないのか」
「へ……」
回復魔法……?
「や……やったことない!!!」
そうだ。なんで便利な魔法あるのに私は使ってないんだろう。普通に忘れてた。
あーもうバカすぎる。
初歩中の初歩を忘れてるなんて、ギルマスの言う通り本当に呑気な小娘だ。
気を引き締めなきゃ。
いっそのこと大事なことをノートに色々書き留めて、肌身離さず持ってるべきかも。
「回復魔法」
回復魔法をこっそり使い、周りの邪魔にならないようにゆっくりストレッチをする。
うん、凄く調子がいい。頭痛も吐き気もなくなった。
「はぁ……今までの苦労はなんだったんだろ……」
「お前、たまに抜けてるな。気をつけろ」
ディランの言う通りだ。本当に悔しい。落ち込む。
「パムどうしたの?」
「バカだから落ち込んでるのよ」
少し髪を乱したユアンが帰ってきた。
顔を上げてユアンの手を握る。
「ユアン、今までありがとう」
「どういたしまして??」
笑顔でお礼を伝えると、不思議そうな顔をしている。
いつもおんぶしてくれて本当に助かった。
やっぱりユアンは頼りになる。
「これからもよろしくね」
疲れた時はまたお願いしようと、手をギュッと握る。
「うん?よろしく」
何も分かってないはずなのに握手を返してくれた。やっぱり優しい。
「おい、ユアン」
「あ!ししょー!おはよう!」
「チッ……師匠って呼ぶんじゃねえよ」
そう嫌がられたら余計にやりたくなる。
師匠をニヤニヤと見ていると、心底嫌そうな表情をしていた。
可愛い少女からの挨拶を、そんなに嫌がらないで欲しい。
しっしと手で払う師匠に口を尖らせる。
「ていうか、ししょー何持ってんの?」
師匠の右手に、剣が握られているのが見えた。
「あーユアン、これは俺からの祝いだ」
師匠が差し出した手のひらには、キラキラと輝く金色の装飾が施された大剣がある。
おまけにこれまた綺麗な宝石がつけられている。
サファイアかな?
そういえば、ディランも剣を師匠に貰っていた。
ディランの剣にはルビーみたいな宝石がつけられてた気がする。
師匠の弟子への面倒見の良さは評価したい。私には怖いけど。
「宝石は困った時にでも売れ」
ユアンが両手で受け取る。
「ありがとうございます!大切にしますね」
笑顔が眩しい。
師匠に頭を撫でられて、嬉しそうに大剣を腕に抱きしめている。
「じゃあな。頑張ってこい」
「はい!いってきます!!」
◇◇◇
「で?なんであいつらがいるわけ?」
イーストの森へ続く門を出て、歩いているとアンちゃんとディランが近づいてきた。
アンちゃんが指す方向に、ヘレナ姉さんと、ユアンに抱きついているラナちゃんがいる。
「なんでってありがたいでしょ?
薬草の取り方を教えてくれるって言うんだから」
あのあと、ヘレナ姉さんたちと偶然出会って一緒に薬草採取の依頼を受けないかと誘われた。
本来なら試行錯誤するところを無料で教えてくれるって言うんだから、受けないのは勿体無い。
「なんで引き受けるのよ!!」
「まぁ、お前に同意だな。力隠してるのにわざわざ一緒に行くなよ」
みんなして私を責める。
ディランが来てくれると思っていなかったし、最終的に私が了承したわけじゃないのに……。
「リーダーのユアンが決定したんだよ。文句はユアンにどうぞ」
先を歩いているユアンを指差す。
「わぁ……可愛い光景。デートみたい」
第三者目線で見ていると、二人きりの世界って感じだ。
ラナちゃんがユアンの手を握りしめながら、腕を振っている。
「どこがよ……
さっきから相手が強引だから、断りきれなくて助け求めてるわよ……」
「デート中によそ見しちゃダメだよね」
「そういう問題じゃねえだろ」
ディランに頭を叩かれる。
でもボケとツッコミみたいで今のは良かった。
「あんたは本当に何も思わないわけ!?あのムカつく顔みてよ!!!」
アンちゃんが指さす方向には、私たちを見て勝ち誇った顔をしてラナちゃんがいた。
「んー初恋で張り切ってて可愛いねってくらいかな」
「ディランあんたは!?」
「どうでもいい」
「う、裏切り者!!もういい!!」
私たちの回答が気に入らなかったのか、ぷんぷんと怒って先に行ってしまった。
大丈夫かな。
常時、強化魔法を使えるようになったとはいえ、アンちゃんは感情が乱れると魔法も乱れるみたいだ。
最後までこれは治らなくて、ドジっ子アンちゃんは未だに健在なんだけど……
「ディラン……転ぶと思う?」
「思う」
アンちゃんを見ながら、ディランに話しかけると即答だった。
まぁ、散々転ぶところを見た……
「あ」
「はぁ……」
案の定転けてしまい、ユアンに助け起こされている。
アンちゃんフラグ回収が早すぎるよ……。
「ウルフよ!!!!みんな戦闘準備なさい!!」
タイミングよくヘレナ姉さんの声が響き渡った。




