60話「パメラの覚悟」
(ギルマス視点)
個室で弟子たちとテーブルを囲む。
部屋には土神の街で作られた有名な高級品の壺や、有名な家具職人が作った机と椅子がある。
椅子に座り、止まらないため息を吐いているうちにも、シェフたちが次々と料理を運んでくる。
水神の街でしか取れない高級魚「ライライ魚」や、火神の街でしか育ててない「バーニング牛」までありやがる……。
(お、俺の金が……)
模擬戦で小娘に情けない負け方をした。
平和ボケしてる小娘に倒されるわけねえと思って、忠告を無視した結果——このざまだ。
でも、誰が罰ゲームでこの街1番の高級料理屋を奢らされると思うんだよ。
しかも弟子まで連れてきて、俺の財布をすっからかんにしようとしてやがる。
本当に性格の悪い女だ。
嬉しそうな弟子たちの顔見てたら断れねえだろ。
それにこれで俺が奢らなかったら、あいつらにまた失望されて暴言吐かれるじゃねえか。
冒険者時代の貯金があって心底良かったと胸を撫で下ろす。
「手を合わせてください。いただきます」
なんだそれ?新しい魔法か?
「「いただきます」」
「いただ……?」
忌々しい小娘の、厄介な魔法かと思って警戒していると、ユアンたちも唱え始めた。
……こいつらが使ってるなら大丈夫か。
「おいひい……」
小娘が肉を幸せそうに、口いっぱいに頬張っている。
味わって食べろよ……と念を送っていると——
「師匠ありがとうございます!」
「お、おお……いっぱい食べろ……」
ユアンから話しかけられて、小娘から視線を逸らす。
しかし、小娘を見ていたのが何故か気まずくて、咄嗟に出た言葉にすぐに後悔した。
ミスった——
こいつにいっぱい食わせたら本当に俺の財布が空になる。
「ユアン、遠慮なく食え」
「おめーまで俺の財布、空にする気か!?」
余計な言葉を発するディランに、カッとなる。
こいつ……小娘をちょっといじめたくらいで、そこまで怒らなくていいじゃねえか!!
親父とそっくりで粘着質なやつめ!
「その方がいいんじゃねえの。何もしてねえ女に手出すクソ野郎は。それも無惨に負けたけどな」
「おまっ!!」
何も言い返せねえ。
これもあれもそれも全部この性悪女のせいだ。
くっそ……覚えてろよ……。
「アンちゃんこれ美味しいよ。あーん」
「んっ、本当……美味しいわね」
「甘い味付けだから気にいると思った」
復讐に燃えていると、呑気に食ってる小娘と目が合った。
ニヤリと笑ったかと思うと「ごちそうさまでーす」と頭を下げられる。
こめかみに力が入る。
やっぱこいつは気に入らねえ。
◇◇◇
「じゃあな。気をつけて帰れよ」
店を出て、弟子共を見送る。
みんないい笑顔で帰って行きやがった。
おかげで財布は空になったが、あんないい笑顔されちゃ文句を言う気にもならねえ……。
「はぁ……仕方ねえ。ジェイにでもたかりに行くか」
この時間なら、領主の仕事も終わってるだろ。
久しぶりに会いに行くかと、家から領主の屋敷へと方向転換すると——
「あ?なんだ魔物女か……」
忌々しい小娘がいた。
「話しようよ」
(話ねえ……)
俺としてはこいつとは話したくねえ。
けど……目の前の曇りのない青い瞳を見ていると根負けした。
仕方ねえ。これも弟子たちのためか……。
「悪党どもを殺す覚悟が決まってねえ話か」
「そう。やっぱり気づいてたんだ」
あれだけ震えて、怯えた顔をしていたら誰でもわかる。
あいつらは武者震いだと思ってただろうけどな。
◇◇◇
広間に行きベンチに座る。
片手に持った酒瓶をぐっと煽る。
「どうするつもりだお前」
「……どうしたらいいんだろうね」
聞き返してくる言葉にため息を吐く。
攻撃を受けた身としては、こいつの力はすげえとは思う。それは認める。
でも、危険だ。
それだけじゃなく回復魔法まで使える。
教会と貴族どもだけじゃねえ。悪党どもも喉から手が出るほど欲しいだろうよ。
「人前では隠せ。で、危ねえなら遠慮なく出せ」
「うん、そのつもり」
「でも、模擬戦の時みたいに怯えた顔して、いざとなった時に使えねえなら意味ねえだろ」
「使えないわけでは……いや、色々考えてはいるんだけど……」
煮え切らない言葉にまた頭に血が上る。
別に人だけじゃねえ。冒険者は危険の連続だ。
俺の弟子の命もかかってるってことも、こいつならわかってんだろうが。
お前がしっかり……
(チッ……俺はこんな小娘に何をこんなイラついてんだ?)
小娘が悪いわけでも、こいつ1人に背負わせるものじゃないってこともわかってる。
でも、こいつが大人びているからか、大人を相手しているみたいで妙にイラつく。
(……なんだこれ。酔いが回ったか?)
頭を振って、余計な考えを吹き飛ばす。
「……そもそも何をそんなに考える必要がある。
犯罪者だぞ、切り捨てても誰も文句言わねえよ」
「それも気に食わない。なんでもかんでも殺せばいいって思考が嫌だ」
「……」
俺たちも初めはお前みたいな考え方だったよ。
嫌な記憶を思い出して、酒をまた煽る。
ちらっと横目で小娘を見ると、どこか遠くを見つめている。
何考えてんのか全然わかんねえ。
もしかしてこいつ……大層なことでも考えてるんじゃねえだろうな?
「……改革でもするつもりか?ただ変わったことを考えて、力があるだけの孤児の嬢ちゃんが」
「やめてよ。そんなこと私ができると思ってないから」
さすがにそこまで馬鹿ではねえか。
「ま、俺は気に食わねえが。
唯一お前のいい点は、聖女らしいって点だな」
「また聖女……」
嫌な顔をしても、現実を受け入れろ。
冒険者でも回復役としてやっていくつもりなんだろうが。
「さっき飯の時に言ってた通り、聖女らしくあいつらに任せろ。
力を使えないお前がいても邪魔なだけだ」
本来の回復役が担う、回復とサポート役に回るって言ってたからちょうどいいだろ。
殺す機会なんて来ねえよ。
あいつらはとっくにお前を庇うために覚悟はできてる。弱虫の嬢ちゃんは奥に引っ込んでろ。
それがお前の望みでもあるんじゃねえのか?
わざわざ嫌われてるってわかってる俺に近づくなんざ、これを言わせたくて来たんだろう。
やっぱ気に食わねえ。
そう思ってたが——
「嫌だ。あの子たちが心痛めてるのに、見てるだけなんて出来ない」
帰ってきた言葉に目を見開く。
「たしかに後ろに引っ込むから、機会は少ないかもしれないけど……」
「お前……弱虫のくせに強気でよくわかんねえ女だな。ウザってえ」
矛盾だらけだなこの小娘。
さっぱりわからん。だからこいつ見てるとイライラすんのか?
いや、口だけなところも嫌いだな。嫌だとかいってあいつらに任せるに決まってる。
「……なんだよ」
こっちをジロリと見つめている小娘にギョッとする。
こいつ……またなにかするつもりか?
「……ギルマスがモテない理由がよくわかった」
「あ?関係ねーだろうが!!」
「あはは!ギルマスやっぱいい反応するね」
ディランのやつ、こいつに嫌な情報与えやがって…………
ムカついて、おもちゃを見つけた子供みたいな顔で、見てくる小娘の頭にげんこつをお見舞いする。
「ぐっ……」
透明な壁にぶち当たって俺の拳が痛んだ。
(チッ、本当こいつの障壁は厄介だな)
「それでししょー、提案があるんだけど」
傷んだ手を小娘に取られる。
「師匠って呼ぶんじゃねえ!お前みたいな弟子はいらねえ!」
何抜かしてんだこの女。
絶対お前みたいな師匠はいらねえ!!!
「師匠、元Sランクでしょ?ていうことは強いよね?
だからたまに技、試させてくれない?」
「あ?」
技って……昼間の謎の木の蔓のことか……?
「奴隷って響きは嫌いだけど、ちゃんと更生する制度もあるんだから、私は殺しはしたくない」
「……」
言い分もわかる。魔法の天才ってこともわかる。
でも……そんなもん、いつか決壊する。
自分よりも強い者、頭が切れる者。
ちょっとした油断で壊れるかもしれねえ。
俺たちだってそうだった。
それに……壊れた時に真っ先に狙われるのも、殺られる可能性があるのもお前だろ。
厄介な回復役は1番狙われる。
それをわかってんのか……?
「あの子たちのことは、私が絶対に守る。
そのためにパーティーに引き入れたし、もし……必要があるなら殺しだってする」
そう、反論しようと思ったがやめた。
ベンチに座ってた小娘が地べたに座って、土下座をする。
「だから……それまでは殺さないで済むように、手を貸してください。お願いします。
仕事が忙しいってことも、私を嫌ってるのもわかってます。たまにでいいんです」
小娘の安い土下座だな。
「お前……あの技はいつ考えたんだ」
「冒険者になるって決めてからです」
「あいつらに付きっきりで教えてるんじゃなかったのか?練習する暇あったのか」
「そんなもの寝る間も惜しんでやるしかないですよ。嫌ですけどね」
心底嫌そうにしながらも当たり前だろと言いたげな小娘に笑みが零れる。
悪くねえ。その根性気に入った。
それに……怪我をした俺たちを助けてくれた、こいつの保護者を思い浮かべる。
この馬鹿みたいに人を守ろうとするところ、そっくりだな……。
「……たくっ、頭上げろ。……つき合ってやる」
「本当ですか!?」
小娘が顔をあげる。
「その敬語やめろ。気色悪い」
「ありがとう!ししょー!!!!」
立ち上がったと思ったら突進してくる、小娘を嫌々受け止める。
「何やってんだお前」
「みんなモテないって言ってるけど、このマッチョ私は好きだよ!!!」
こいつ絶対バカにしてんだろ……!!やっぱり腹の立つ小娘だ。
ていうか——
「師匠はやめろ!!お前なんかの師匠になるかあああああ!!!!」
やっぱこいつは気に入らねえ性悪女だ。




