6話「家族と仲直り」
さすがに徹夜はやりすぎた。あくびが止まらない。
「とりあえずご飯食べに行こうかな」
少しだるい身体を動かして食堂に向かう。
でも身体が若いからか、それとも頑丈なのか、疲れをあまり感じない。
これなら前世の時よりも楽に、二徹でも三徹でもできそうだ。
「ふぁ〜、でもやっぱり眠たい……あれ?ユアン?」
食堂に着くと、ドアの前にユアンが立っていた。
「おはよう、パメラ。大きなあくびだね」
昨日、話して何か心境の変化でもあったみたいだ。
くすくすとからかってくる。
「おはよう。ユアン、こんな所でなにしてんの?」
「朝食一緒に食べないか?」
珍しい食事の誘いに私は乗ることにした。
ユアンと朝食を食べ、自室の掃除をする時間だ。
掃除をする前に、月ごとに配られている孤児院の仕事の予定表を見る。
「えーと、今日は洗濯係か。……いっぱい溜まってそう……」
孤児院では色々な年齢の子がいる。
遊び盛りのチビに、オムツをしている赤ん坊までだ。
とにかく子供は汚しまくる。洗濯物は毎日大量に出ている。
清掃魔法で綺麗にはなるけど、魔法を使うにも魔力の限度がある。
だからこの世界にもある便利な魔道具、洗濯機を使っている。
けど……量が量なだけにいつも時間がかかるのだ。
それに昨日、あれから仕事どころではなくなったので、いつもより溜まっているはずだ。
「今日は魔法使おうかな……」
院長はわざと魔法を使わなくても生活できるようにと、手動でお手伝いさせているけど……
今日くらいは使っても許してもらえそうだ。
(洗濯以外にも溜まっている仕事は多いだろうし……)
考えごとをしているうちに自室の掃除が終わった。
私の部屋は、土足禁止にしてある。
それに日頃綺麗にしているから、それほど時間は掛からない。
「さて、洗濯場に行こうかな……っっ!?」
ドアを開けると同時に、目の前に人が立っているのに気づいて肩が跳ねる。
「あ、えーと、手伝いにきたんだ」
ユアンはノックをしようとしていた手を下ろして、気まずそうに微笑んだ。
来るのはいいけど、タイミングが悪すぎる。驚きすぎて声すらでなかった。
「パメラ?大丈夫か?」
ユアンは目を見開いて中々動かない私に、心配そうな表情を向けている。
「はぁ……ごめん。それで手伝いにきたって……?」
「昨日怪我したばかりだろう?回復魔法はかけてたけど、どこか様子もおかしかったし……」
(あぁ……これは――昨日のこと引きずってる……!!)
実はあの後、血だらけのままユアンと一緒に棚を戻した。
言い訳するなら、考えごとに夢中でただ無意識で動いてた。
……それが余計に心配させていたみたいだ。
今考えたら「パメラ、回復魔法使ってくれ!俺が棚直すから!」みたいなことを言っていた気がする。
「あっ、でもパメラの魔法を信じてないわけじゃないんだ!得意なのは知っているし……」
「ユアン、私は大丈夫だからチビたちの掃除手伝ってあげて。溜まってるだろうし、私、洗濯物片してくるから。」
「え、俺もてつだっ……」
「時間もったいないから。ほら、行った行った。あ、終わったらユアンの部屋いくから!じゃあ、また後で!」
忙しいから有無は言わさない。
チビたちの部屋の方向に、肩を押して逃げるように走った。
何か叫んでいたけど、諦めたみたいだ。追ってくる足音は聞こえなかった。
◇◇◇
「ユアン、いるー?」
ノックをして声をかけると、返事の代わりにドアが少し開いた。
肩を落として暗い顔をしたユアンが、隙間から顔を覗かせている。
「ごめんパメラ……俺、もしかして迷惑だったか?」
「迷惑じゃないけど、なんでそうなったの……?とりあえず入れてよ」
「あ、ああ……」
(この数時間で捨てられた犬みたいになってる……)
いつまでも立ったままのユアンの手を引いて、一緒にベッドに腰掛ける。
「それで?なんでそんなに落ち込んでるの?」
「……パメラは大丈夫って言っていただろう?
……もしかしたら、迷惑だったんじゃないかって思ったんだ」
「んー、さっきも言ったけど迷惑じゃないよ。
チビたちの世話を頼んだのも、仕事が溜まってたから。もしかして言い方が悪かった?」
「そこはわかってるから大丈夫だよ。言い方も気にしてない。」
それきりユアンは口を閉じてしまった。
一瞬、手伝いを断ったのが悪かったのかと少し考えたけど、これはないかな。
そんなことくらいでユアンは怒らないと思う。
ということは理由はそれ以外ってことか。
(待つしかないかな……)
「ゆっくりでいいよ。私たち授業もないから時間はあるしね」
にこりと微笑んで、ユアンの頭を撫でる。
これでなるべく安心してくれたらいいと思ったけど、そこまでの信頼度があるのかは……ちょっと微妙かも。
「パメラ……俺、昨日パメラと話せて嬉しかったんだ。」
「うん」
おお、成功したみたいだ。
散々やらかした気がするけど、ユアンの信頼は裏切ってなかった。
「ずっと話したいと思っていた。
あの時……兄さんたちがいなくなってから、パメラに冷たい態度をとっただろう?」
あぁ……ユアンの言いたいことが何となくわかった気がする。
「それから話さなくなって、今までズルズル続いて。
パメラは慰めてくれてたのに、俺は……ずっと」
「私、ユアンのこと怒ってもないし嫌ってもないよ」
「え……」
あの日のことはよく覚えている。
孤児院にいた姉と兄が出先で亡くなった。
ユアンは初めて大切な人をなくして、塞ぎ込んでしまった。
私も落ち込んでいたけど、前世の影響があったのか受け入れられた。
だから当時は仲の良かったユアンを慰めようと、人形を使って「元気だして」とおちゃらけたのだ。
でも、それが癪に触ったみたいで「パメラは悲しくないのか!?こんな時にまでふざけるな!」って怒ってしまった。
私はてっきり、それ以来話さなかったのは、思春期に入ったのかと思ってた。
ちょうど男女で別れたがるような時期だったし。
(気にしてたのか。なら……)
「私も話せて嬉しかった。
……それに、家族は喧嘩するものでしょ?
だから今回は仲直りする番ね」
ニヤリと笑ってユアンに小指を差し出す。
今のは慰めたい訳じゃなくて、全部本心だ。
孤児院のみんなは天涯孤独だった私を幸せにしてくれた家族だ。
せっかく前世の知識を得たんだ。
これを利用して、孤児院のみんなが幸せになればいいと思っている。
これも、今世を満喫するための私の目標に増やすことにする。




