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58話「ゴリマッチョの襲撃」

 みんなで記入したあと、受付に並ぶと2階のギルマスの執務室へと回された。


 どうやら、ユアンとディランの師匠が手続きしてくれるらしい。


「ユアンたちの師匠ってどんな人?」


 弟子視点での印象を聞いてみたくて尋ねる。


「ゴリラ」

「ゴリラ?ユアンよりも?」

「力じゃなくて見た目がな」


 しかし返ってきた言葉は見た目の印象で、その言葉通り頭の中にゴリラそのものを思い浮かべる。


 (一応……人間なんだよね……?)


 なんて冗談で失礼なことを少し前まで考えていた。


 でも今、目の前にいる人物を見て、ディランの言っていたことがわかった。


 ゴリラだ。


 いや、顔はゴリラじゃないんだけど、体の筋肉が凄まじいって意味で。

 しかも、元々の体も大きいから余計に迫力満点。


「おう、お前ら来たか」

「おはようございます!師匠!」

「……」


 でも意外と気さくな性格なのか、黙っているディランに「返事くらいしろ」と頭を小突いている。


「おめでとさん、ユアン。その子らがお前らの言ってた嬢ちゃんたちか?」


 厳しい顔つきをして、笑ってない目をしたギルマスと視線が合う。


 さっきの発言を撤回した方がいいかもしれない。

 身体はゴリラだけど、顔と中身は厳つい猛獣って感じ。


 気さくどころか敵意を感じる。


「師匠、紹介します……」

「挨拶はいい。ひとまず登録するぞ。話は後だ」

「はい……」


 紹介しようとして上げた手をユアンが下げる。


 ギスギスした空気が漂い始める。


 そんな中ギルマスは、特に気にした風もなくアンちゃんに手を伸ばした。


「登録書寄越せ」


 アンちゃんが紙を渡すと、ギルマスは紙に目を通していく。


「赤髪の嬢ちゃんが、アンゼリカで12歳。ソイル村のお嬢ちゃんだな。戦闘方法は魔法か……」


 紙を一通り見て不備がなかったのか、コピー機のような魔道具に飲み込ませる。

 少ししてから、読み込ませた紙の代わりに別口から青色のカードが出てきた。


「このカードは、ランクによって色が変わる。

 まぁFとEランクは、同じ色だけどな」


 どういう仕組みなんだろう。

 カードの色より、読み込ませた紙がどこに行ったのか気になる。


 この空気の中、聞いてもいいんだけど……

 流石にやめといた方がいいかな。大人しく座っておこう。


「これが、冒険者の印だ。通行書として、これを渡せばどこの町でも身元は保証される。

 それと金をここに入れて管理もできる。

 店でも現金代わりに使えるから、現金にこだわりがないならこれを使え。

 なくすなよ。一回しか発行しなおさねえぞ」


 キャッシュレスに、発行は一回。

 これだけでも結構助かる。


 これさえあれば、移動中でもお金が嵩張らないしお金を盗まれずに済む。

 色々な場所に移動する冒険者にとって嬉しい代物だ。


 まぁ、私は収納魔法があるから、嵩張るのは気にしないけど。


 それより私はあの行列で時間がかかる、めんどくさい検問をしなくていいのが素晴らしいと思う。


 何時間もアトラクションの待ち時間のように並ばされて、あれだけで疲れる。


 12年生きてきて、数回しか街の外に出たことないけど毎回辛かった。


 その後もギルマスはユアンのものを引き取って、黙々と魔道具に読み込んでいく。

 カードをユアンに渡し終えたら、ギルマスが私に手を伸ばしてきた。


 手のひらに置くと、ギルマスは登録書をぐしゃりと握りしめた。


「お前がパメラか……」


 登録書を流し見したギルマスの声が、少し苛立ちを含んでいる気がする。


(わかりやすい……)


 怒っている原因は私らしい。

 あからさますぎる言動に少し面白くなってきた。


 領主様が言っていた「ギルマスは素直すぎて手がかかる」という言葉を思い出す。


 それと同時に、ギルマスの情けない話や、やらかした話を思い出してしまった。


 思い出し笑いしそうになって、必死に笑みを隠す。


 今我慢する代わりに、今度領主様と一緒にお茶をする時のネタにしよう。


 だから耐えろ、私っ……。


「ほらよ」

「……どうもー」


 手渡される瞬間、一瞬手を強く握られる。


「ゴリラなんだから気をつけろよ」という言葉が口の中から出そうになった。危ない危ない。


「次はパーティー申請か……。パーティーのリーダーはユアンか……?」


 驚いた顔で、ギルマスに見られる。


 私がやるとでも思ってたんだろうか?そんなめんどくさい役割はやりたくない。


 それに人好きのするユアンの方が交渉にも便利だし、あの美形も顔だって使える。

 正義感もあるし、孤児院で子供たちをまとめていた実績もある。


 おまけに視野も広いし、リーダーに最適だろう。


「でも、やっぱりパムの方がいいと思うんだ」

「やだよ。多数決でユアンだったじゃん」

「そうよ。この子リーダーなら、好き勝手やりそうだしあんたがしなさい」

「そうそ……っ!!」


 話していると、急にドンッと机を叩く音が聞こえる。


 (びっくりした……)


 音の方向を見ると、ギルマスが机に両手をついている。


「師匠……?」

「とりあえず多数決ならお前にしとくぞ。変えたいなら後で変えれる」

「え、あ……はい」


 (うーん。さっきよりもご機嫌斜めみたい)


 今までで1番空気が悪くて、みんな黙る。

 今まで黙って座っていたディランがため息を吐いた瞬間——


「それで……?」


 視線があった。


 そう思った時にはもう——


「この小娘が俺の弟子を危険に巻き込んだわけだな!!」

「師匠!!!」

「お前!!!」


 ごつい大剣の切っ先が、目の前に向けられる。

 刺さる寸前の距離に息を呑む。 


「ほお、避けねえのか。見えてんだろ?目で追ってたもんなあ?」


 そんな細部を見る余裕があるなんてさすがSランクだ。


 アンちゃんに言ったからには、私も強化魔法を常に使うべきだと思って、維持したままだ。


 そのおかげで助かった。

 これから私も常時発動しておこう。


「……避けたほうがよかった?」

「度胸だけはあるみてえだな」


 目の前にあった剣を下ろしたと思ったら、頭の横スレスレを通過した剣がソファに突き刺さる。


「何してんだてめえ!!」

「師匠やめてください!!」

「黙ってろ!!お前らが危険に巻き込んだ女だ。

 お前らの師匠として、こいつが信用できるやつか見てやる」


 ギルマスの言う通り、信用ができるか、使えるやつかは確認すべきだ。

 でも、それは私にも言える。


 私はギルマスを巻き込もうと思って巻き込んだわけじゃないから。


「何をカッカしてんだか。その立派な筋肉が勿体無い。小物に見えるよ」

「あ?お前ふざけてんのか?」


 前世だったら明らかに堅気じゃない顔で凄まれる。


 それを見て、顔を手で隠して大きく息を吐いた。


「ふざけてるなんてひどいよぉ!おじさん!ぐすんっ……」

「は……」

「私だって頑張ってるのに、やりたくてやってるわけじゃないんだよ……!うわあああああん!!」


 手の隙間から、涙を流す。


「え、な……ちょっと待って!さっきの威勢はどうした!?嘘泣きか!?くそ、どっちだ!?」

「虚勢に決まってるじゃん!!ひどいよ!おじさん怖い!!」

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